クール&わがまま姫の専属騎士になりましたが、なぜか毎日頭なでなでを要求されます
こちらは、約2年前に書いた「初恋のあの人に会いたいワガママ姫、そのお相手は騎士団長のオレでした。(しかしその事実を二人は知らない)」の別バージョンです。
流れは同じですが、姫の行動・言動は別物となっておりますので、これ単体で別作品となっています。
「喜べ。この試合に勝ったほうを、モニカの専属護衛騎士としてやる」
王宮のはずれにある闘技場。
そこで見事決勝へと駒を進めた騎士団長のオレと副団長のガッツは、玉座に座る陛下の言葉に顔を見合わせた。
「せ、専属?」
「どういうことだ、ランス?」
ガッツに聞かれてもわからなかった。
単純に「騎士の試合が見たい」というモニカ姫の意向で始まった剣術試合。
多くの参加者はいたものの、半分遊びのようなもので、誰も本気で戦ってはいなかった。
「モニカは強い男が好きでな。この試合の優勝者こそモニカの専属騎士に相応しい」
陛下の言葉が言い終わらぬうちに、バルコニーからモニカ姫が姿を現した。
ウェーブがかった金色の髪に大きな瞳。
絶世の美女と世界中から噂される美しい女性だ。
オレとガッツは互いに顔を見合わせたまま、コクッと頷いた。
(これはなんとしても負けなければ!)
絶世の美女とはいえ、こんなわがままな姫の専属騎士など、死んでも嫌だ。
それはガッツも同じだったようで、「死ぬ気で勝ちに来い」と言っていた。
「はじめ!」
審判役の騎士の掛け声とともに、つばぜり合いを始める。
しかしお互い負ける気でいるため、手にした木刀の乾いた音だけが響き渡る。
勝ちたくはない。
けれども負けようとしてるのに気づかれてもいけない。
なかなか高度な技術だったが、相手が熟練のガッツだったこともあり、意外といい勝負に持って行けた。
「おお、すごい戦いだ!」
「両者引けを取らないぞ!」
「モニカ姫の専属騎士という名誉がかかってるんだ、何が何でも勝ちたいんだろう!」
モニカ姫の素を知らない末端の騎士たちが声をあげる。
残念だが逆だ。
何が何でも負けたいのだ。
でもただ負けるんじゃなく、精いっぱいやって負けたという形に持って行きたい。
でないと疑われる。
オレは緩やかなガッツの剣戟を捌きながらチラリとバルコニーにいるモニカ姫に目を向けた。
ああ、見ている。
めっちゃ見ている。
なんかすごく不審そうに見ている。
「おい、ガッツ」
オレはガッツの剣を捌きながら小声で声をかけた。
「なんだ」
ガッツも小声で応じる。
「バルコニーを見てみろ。姫がちょっと不審がってるぞ」
「なに?」
ガッツも悟られないようにバルコニーに目を向けた。
そして瞬時に顔を青くする。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」
「どうするガッツ?」
「どうするって、お前が勝ったらいいんだよ」
「嫌に決まってるだろう。お前が勝てよ」
「あんなワガママ姫の専属騎士なんてマジ勘弁!」
埒が明かないので、オレは咄嗟に「わあ!」と叫んで後ろに飛びのいた。
「……?」
不思議そうな顔をするガッツに言ってやる。
「くっ、さすがはガッツだ。風の魔法を使ってオレを吹き飛ばすとは……!」
そう言ってゼェゼェと肩で息をしながら膝をつく。
「風の魔法だって!?」
「すげえ、ガッツ様、魔法使えたんだ!」
オレの迫真の演技に盛り上がる会場。
オレは内心ふふんと笑っていた。
もちろんガッツに魔法など使えない。
けれどもこのチャンスを逃したら絶対に怪しまれるのがガッツの方だ。
さあ、来い!
完膚なきまでにオレを打ち倒せ!
そう思っていると、あろうことか今度はガッツが両目をギュッとつむった。
「………」
な、なにしてるんだこいつ。
「くっ、ランスめ! オレに暗闇の魔法をかけやがって! どこ行きやがった!」
ええー……。
こいつ、暗闇の魔法かかったフリしてるよ……。
「これじゃあどこにいるかわからん!」
そう言ってやたらめったら剣を振り回している。
もちろん、オレに背を向けながら。
「す、すげえ! ランス様まで魔法が使えるなんて!」
「暗闇の魔法なんて無敵じゃないか!」
さらに盛り上がる会場。
まずい。
目をつむった相手にやられたとなっては、騎士団長の沽券にかかわる。
それ以前に、負ける要素が見当たらない。
あんな状態のヤツからどうやって負ければいいんだ。
オレはしばらく膝をつきながらゼーハーゼーハー言っていたが、さすがに限界が来たので立ち上がった。
「これは勝負ありかな」
「暗闇の魔法を使われちゃあな」
「やっぱ優勝者はランス様か」
こらこら。
勝手に優勝者に決めつけるな。
負けるのはオレだ。
オレはなんとかこの状況を打開しようと懸命に考えた。
その間、ガッツはオレに背を向けたまま「どこだ、どこにいる!」と叫んでいる。
ここはガッツの自作自演の暗闇魔法が解除されるのを待つべきか。
しかしオレが自分でかけといて(ということになっていて)何もしないわけにもいくまい。
オレは剣を握り締めながらそっとガッツの正面に移動した。
あれだけブンブン振り回してるんだ。
運悪く当たって負けたことにできるかもしれない。
けれどもオレが正面に移動するたびにガッツはクルッと身体を反転させて背中を向けてくる。
こ、こいつ、絶対オレの方向わかってるだろ……。
そうこうするうちにバルコニーにいるモニカ姫が陛下にそっと耳打ちした。
な、なにをしゃべってるんだ?
と思った瞬間、陛下の口から恐ろしい言葉が飛び出した。
「あー、戦ってるところ申し訳ない。モニカから少し進言があってな。この試合に負けた方を専属騎士にしてほしいそうだ」
瞬間、ガッツのすさまじい剣戟がオレを襲った。
「ぐおおおおおっ!」
今までののらりくらりはなんだったのかというほどの凄まじい攻撃。
反射的に剣で防がなかったら完全に一本取られていただろう。
「ガッツ! おま、暗闇の魔法はどうした!?」
「今、治った」
「ウソつけ! いや、もともとウソだったけど!」
「悪いがランス、この勝負、オレがいただく!」
「させるか!」
今度はさっきとは打って変わって剣と剣がぶつかり合う激戦となった。
「うおおおおお! なんだこのつばぜり合い!」
「激しすぎる!」
「さっきと全然動きが違うじゃないか!」
会場もボルテージが上がりまくっている。
これは負けるわけにはいかない。
オレはガッツの剣戟をすべてはじき返し、そのまま懐深く飛び込んで行く。
こいつも強いほうだがまだまだオレの敵ではない。
一気に飛び込んで腹に一閃しようとした瞬間、また陛下から声が飛んできた。
「あ、やっぱり強い方が好きだから、勝ったほうが専属騎士ね。だって」
へ?
と思った時にはすでに手遅れだった。
オレの繰り出した剣は、ガッツの身体を見事に吹っ飛ばしていた。
「げふう!」
ものすごい勢いで転がっていくガッツ。
あれ、絶対演技も入ってるだろうという転がり方。
そして腹をおさえながら「さすがはランス。まいりました」と嬉しそうに言ったのだった。
※
「ランス、優勝おめでとう」
剣術試合で優勝を決めたオレは、そのまま謁見の間に通され、モニカ姫と対峙していた。
「あ、ありがたきお言葉……」
嬉しくない。
全然嬉しくない。
「あなたの強さ、見てて惚れ惚れしました」
「恐縮です……」
「最初はなんだか気合が入ってなかったようですけど?」
「め、滅相もございません! 相手はあのガッツです。間合いを計っていたのです」
「間合いをねえ……」
言いながらツカツカとオレの近くに寄ってきた。
そして口と口がくっつきそうなほどの距離までやってきてこう言った。
「どう? 今のわたくしの間合いは?」
「ち、近いです……、姫」
「わたくしの専属騎士となる方ですもの。これくらいの距離は当然ですわ」
ひえええ。
近すぎて怖い。
「それとも、こんなに近くまで寄られるのは嫌?」
「い、いえ。美しさのあまり崩れ落ちそうです」
「まあ嬉しい」
本当に嬉しがってるのだろうか。
目が全然笑ってない。
「それよりもランス」
「は、はい?」
「あなたにお願いがあるの」
とたんに静かな声になるモニカ姫。
「な、なんでございましょう?」
自然とオレの声も小さくなる。
モニカ姫は周囲の目を気にしながらモジモジしていた。
「ええと、その……」
「なんでございましょう?」
「あの……」
「………」
「………」
「………」
な、なんだろう。
言ってくれないと逆に怖いのだが。
やがてモニカ姫は「うん!」と何かを決意したかのように拳を握り締めて言った。
「わたくしの……わたくしの頭をなでてくださいませ!」
「………」
は?
思わずポカンとしてしまった。
頭をなでる?
なんだそれは。
「あ、頭をですか?」
「ええ、頭をです」
言っている意味がわからなかった。
頭をなでることになんの意味があるのだろう。
モニカ姫の意図がまるでわからなかったが、オレはためらいながらもモニカ姫の頭に手を置いた。
そして言われた通りなでなでする。
とたんにモニカ姫は「えへへ」と少女のような顔をした。
いつもクールでワガママなモニカ姫のあどけない顔にドキッとする。
しかしオレがモニカ姫の頭に手を置いたことで、まわりの臣下たちがざわついた。
「こ、これ! なんと不敬な!」
「姫のお身体に触れるとは何事か!」
「騎士団長といえども極刑に値しますぞ!」
ヤバい。
確かに出過ぎた真似をしてしまった。
騎士の身分で王族の身体に触れるなど通常はあってはならないことだ。
だが、そんな彼らの声をモニカ姫は一喝して黙らせた。
「お黙りなさい! ランスはわたくしの専属騎士。これくらいのスキンシップは当たり前です」
とたんに静まり返る臣下たち。
す、すごい。
さすがはクールビューティー&ワガママ世界一のお姫様。
彼女の言葉には誰も逆らえない。
「ではランス」
「は、はい」
「これから毎日わたくしの頭をなでてください」
そう言って顔を赤らめながら元の場所に戻って行ったのだった。
※
それからというもの、オレはモニカ姫と会うたびに頭に手を置くようになった。
正直、意味が解らなかったが、頭をポンポンするたびにモニカ姫が顔を赤くして満足するのだから、きっとオレの知らない何かがあるのだろう。
そうこうするうちに、モニカ姫がまた無理難題をオレにふっかけてきた。
「ランス」
「はい」
「わたくし、城下町に行きたいですわ」
「かしこまりました。では護衛の騎士を数名見繕って……」
「いいえ、護衛はいりません。ランスと二人きりで行きたいのです」
「……は?」
ちょっと待て。
城下町といえど王族が外出するには少なくとも護衛は3人必要だ。
なんでオレだけなんだ? 何かあっても守れる自信なんてないぞ?
「で、ですが姫。オレ……いや、わたし一人では姫を守る自信は……」
「どうして? ランスは剣術試合の優勝者でしょう?」
ああーーーーーーーそういうことかーーー!!!!
やっぱりガッツに勝つんじゃなかったーーーーー!!!!
要は強い護衛を伴って気兼ねなく外に出たかったわけね。
まさかこんな展開になるとは。
「それとも、わたくしと二人きりでお出かけするのは嫌?」
出た。
モニカ姫の有無を言わさぬこの迫力。
これで「嫌」と言える者がいるなら見てみたい。
「め、滅相もございません。姫と二人きりなど恐悦至極に存じます」
「うふふ、嬉しい。それでは明朝、城下町へのエスコート頼みますわね」
「ぎ、御意」
その言葉にオレは頭を下げたのだった。
※
「モニカ姫、お迎えに上がりました」
翌朝。
モニカ姫の部屋の前でかしこまっていると、扉がスッと開いた。
現れた彼女の姿にギョッとする。
それはそれは綺麗なドレスに着飾っていたからだ。
赤と基調としたド派手なドレスだった。
高そうなネックレスにダイヤが散りばめられた指輪までしている。
「…………」
目を奪われたのではない。
むしろ逆だ。
ちょっと引く。
「あ、あのー、姫。この姿で外に行くおつもりで?」
「もちろん。せっかくのデート……ごほん、お出かけですもの。どうかしら? 情熱の赤いドレスですわ」
「え、ええ。お似合いでございます」
できればもっと普通の格好をして欲しいのだが。
この姿で街に出たら大騒ぎになるんじゃないか?
下手したら命を狙われる危険性もある。
「ですが姫、城下町はいろんな人間がおります。それこそ金品を奪おうとする悪党も。あまり目立つ格好は控えていただきたいのですが……」
「その悪党から守ってもらうために剣術試合の優勝者を選んだのです」
ですよねー。
昨日もそう言ってましたよねー。
騎士団長とはいえ、大勢の敵に囲まれたら勝ち目はないのだけれども……。
しかしモニカ姫の目はオレがいればどうにかなると信じて疑ってないようだった。
「でもそうですね。ランスが言うのであればもう少し地味にしましょうか」
そう言って指輪をいくつか外した。
地味の定義とはこれいかに。
「おおモニカよ。そんなに着飾ってどこへ行くのだ?」
そこへ国王陛下がやってきた。
慌ててオレは膝をつく。
モニカ姫は国王陛下の顔を見るなり嬉しそうに言った。
「このランスが城下町を案内してくれるそうです」
「じ、城下町? しかしモニカよ、城から出るのは少々危険が伴うぞ?」
「大丈夫ですわ、お父様。このランスはなんといっても剣術試合の優勝者ですから」
ギロッと国王陛下がオレを睨みつける。
ヤバい、おしっこちびりそう。
「まあ、あの試合の優勝者で、しかも暗闇の魔法も使える貴殿が護衛につくのであれば安心か」
全然安心してなさそうな顔で言われた。
ってか、オレ暗闇の魔法使えないんですけど。
「モニカよ、くれぐれも気を付けるのだぞ」
「はい、お父様」
「そしてランスよ」
「はっ!」
「娘を頼むぞ。万が一キズでもつけたら……わかっておるな?」
「は、はっ!」
全然わからないけど、姫に何かあったら自分の身がヤバいことだけはわかった。
オレは何があってもモニカ姫を守ろうと心に誓った。
※
城下町は今日もにぎやかだった。
いたるところに出店が立ち並び、店主たちが声を張り上げている。
その中をモニカ姫が歩き、その後ろをオレがついていく。
ド派手なドレスで颯爽と歩くものだから、みんな何事だと目を丸くしていた。
「なんだありゃ、ものすごいべっぴんさんじゃねえか」
「どこの令嬢だ?」
「この辺りじゃ見かけない子だねぇ」
そんな会話が耳に入って来る。
そりゃそうだ。
モニカ姫はあまり人前には出ず(というよりも国王陛下が溺愛しすぎてほとんど外に出さなかったため)その顔はあまり認知されていないのだ。
だから(性格はなんであれ)絶世の美女であるモニカ姫の姿に街の人々はポへーッとなりながら見つめていた。
「ランス」
そんな中、モニカ姫は立ち止まってオレに声をかけてきた。
「はっ!」
慌てて返事をする。
やだなー。
なんか無理難題言ってきそうで怖いなー。
モニカ姫はコホンとひとつ咳ばらいをして言った。
「わたくし、急に小腹が空いてきました」
「こ、小腹?」
どうしたんだろう、朝食でも抜いてきたのだろうか。
「あちらのお店でケーキと紅茶なんてどうかしら?」
「ケーキですか?」
モニカ姫が指さす先には、一軒のオシャレな喫茶店があった。
時刻は早いが、もう営業しているようだ。
「あの喫茶店のケーキは絶品らしいですわ」
「そうなのですか?」
「ランスとデート……ゴホン、おでかけするならどこがいいかお城のメイドに聞いてみたところ、あの喫茶店がいいと教えてくれました」
「はあ」
お城のメイドたちは情報通だからな。
さぞかし美味しいケーキなのだろう。
「ということでランス。あちらでケーキをいただきましょう」
「御意」
モニカ姫に連れられてオシャレな喫茶店に入ると、これまたオシャレな店員が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
「おすすめのケーキセットをふたつ」
有無を言わさず注文するモニカ姫。
くうう、手慣れていらっしゃる。
それともこれもメイドたちの受け売りなのだろうか。
店員は「かしこまりましたー」と言いながら奥へと引っ込んでいった。
ケーキセットが来るまでの間、モニカ姫は楽しそうにニコニコとオレを見つめていた。
「え、えーと、姫」
「なあに?」
「なにか良い事でもございましたか?」
「どうして?」
「なんだかいつもより機嫌が良さそうですから」
「そうですわね。機嫌はかなりいいですわ」
久しぶりの外出で開放的になってるのだろうか。
どうもお城の中にいる時と雰囲気が変わっている。
「それもこれもランスと二人きりだからかもしれません」
「は?」
「ああああ! いえいえ、なんでもございません!」
慌てふためくモニカ姫を見て、もしかしてこれが素の彼女なのではないかと思い始めてきた。
そうこうするうちに、噂のケーキセットがやってきた。
「お待たせいたしました、おすすめのケーキセットです」
トレーにはショートケーキとチョコケーキとチーズケーキとモンブランとシフォンケーキが混ぜ合わせたバラエティに富んだケーキが乗っていた。
「一度で5度美味しい、当店自慢のケーキを混ぜ合わせたケーキでございます」
「わあ!」とモニカ姫が目を輝かせる。
「ランス、見てください! わたくしの大好きなケーキが5種類も!」
「よかったですね」
「なんですの、その連れない反応」
「も、申し訳ございません」
他になんて言えばいいんだ。
一緒になって「わあ、すごーい」とでも言えばいいのか?
モニカ姫は「まあいいですわ」と言ってなぜか自分のフォークを差し出してきた。
「な、なんですか?」
「その代わり、わたくしにあーんして食べさせてください」
「あ、あーん?」
あーんって、あのあーん?
カップルたちの定番イチャコラメニューの、あのあーん?
困惑しているとモニカ姫が口をパカッと開けた。
出たーーーー!
カップルたちの定番イチャコラメニュー出たーーーーー!
「ほらランス、はやく。あーん」
もうほんと、何がしたいのこの人。
オレは急いでケーキを切り分けると、それをモニカ姫の口の中に入れた。
周りからはクスクスという笑い声とともに
「仲のいいカップルね」
なんて言われる始末。
ほんとすいません!
実際はこの国の王女と一介の騎士です!
そんなモニカ姫は口に入ったケーキを堪能しながら「最高に美味しいですわ」と満足そうに頷いた。
さすがは王族。
食べる姿も品がある。
あーんは別にして。
「それでは今度はわたくしの番ですわね」
「へ?」
「ほらランス、あーん」
「い、いえいえいえいえ! けっこうです! 自分で食べられます!」
「あーん」
「姫! ご勘弁を!」
「あーん」
「あ、あーん」
断り切れなかった。
モニカ姫からあーんされて、さらに周りの客から冷やかされたのは言うまでもない。
※
その日はモニカ姫に連れまわされて何軒も店をはしごした。
その間、ドレスや靴、帽子、宝石にブレスレットなど、ありとあらゆるものを爆買いしてはその買い物袋をオレに手渡していった。
これ、単なる荷物持ちでオレが選ばれたんじゃないだろうな。
すでに両手いっぱいの荷物で腕がパンパンだ。
「ランス」
「はっ!」
「今日はありがとう。いい気晴らしになりました」
「それはようございました」
その時である。
「うひょー、見ろよ。金づるが宝石まみれで歩いてやがるぜ」
「おお! いい女じゃねえか。こりゃ女だけでも相当の値がつくな」
「全部売ったらいくらになるか見当もつかねえぜ」
まずい。
何も気にせずモニカ姫の後ろを歩いていたが、気づけばここは悪党通りではないか。
城下町の端にある薄暗い裏通り。
多くの悪党がはびこるこの通りは、我々騎士団でも手を焼いている。
まさかこんな場所に迷い込んでしまっていたなんて。
「おい、男。お前は逃がしてやってもいいぜ。女を置いていってくれたらな」
げひひ、と下卑た笑いが巻き起こる。
悪党だけあって品がない。
「ランス」
モニカ姫は怯えた表情でオレの後ろに隠れた。
無理もない。
街の治安も守る騎士団にとってはこういう輩を相手にするのは日常茶飯事だが、モニカ姫からしたらこんなガラの悪い連中に声をかけられるなんて初めての経験だろう。手が震えている。
しかし相手は見たところ十人前後。
これくらいならオレ一人で切り抜けられる。
オレは両手に抱えた買い物袋を地べたに置いて安心させるようにニッコリとほほ笑んだ。
「姫、ご安心ください。姫には指一本触れさせませんから」
そう言って剣を抜き放つ。
モニカ姫に危害を加えようとするならばここから先は騎士団長としての仕事を全うするだけだ。
オレは怒気をはらんだ声で悪党どもに言った。
「失せろ、死にたくなければな」
剣を向けるオレに、悪党どもは一瞬ひるんだ。
このままおとなしく帰ってくれればいいのだが。
しかし彼らはすぐに気を取り直し「ケッ」と唾を吐いてナイフを取り出した。
「女の前だからっていい気になりやがって。ならてめえを殺して女を奪ってやるまでよ」
いかにも三流のザコキャラが言いそうなセリフだ。
目の前にいるのがモニカ姫と知ったら腰を抜かすんじゃないか?
「姫。自分の後ろから離れないでくださいね」
「死にやがれ!」
悪党はそう言って襲いかかってきた。
オレはその動きを瞬時に見極めてナイフを弾き飛ばし、剣の柄でその頬を殴り飛ばした。
「げふう!」
頬を殴られた悪党はゴロゴロと転がって気絶した。
本来なら王族に刃を向けた輩はその場で斬り殺してもいいのだが、モニカ姫の目の前でそんな血生臭いことはしたくなかった。
「こ、このやろう!」
次々に襲いかかってくる悪党。
しかしオレは片っ端から彼らのナイフを弾き飛ばし、剣の柄で打ち倒して行った。
「な、なんだこいつ!」
「強えぞ!」
オレが一歩も動かず返り討ちにするものだから、残りの悪党どもがざわつき始める。
その間にもひとり、ふたりと打ち倒していく。
そしてここぞとばかりに言ってやった。
「お前ら、ここにおわすお方をどなたと心得る! この方は我がマクシミリアン王国の第一王女モニカ姫であらせられるぞ!」
ちょっと芝居がかったセリフだが、場がさらにざわついた。
「モ、モニカ姫だって!?」
「ま、まさか王女様!?」
「なんだって王女様がこんなところに!」
よしよし、いい感じで及び腰になっている。
王族に刃を向けたとあっては、この国では生きていけないからな。
「知らなかったとはいえ、王族に刃を向ける罪は重い。死にたくなるような拷問以上の苦痛を味わうことになるが?」
「ううう……」
「それとも今ここで死にたいか」
「ひいいいい! ご勘弁をー!」
案の定、悪党どもは情けない声をあげながら気絶した仲間を抱えて一目散に逃げて行った。
やれやれ。
騎士団長といえどもすべての騎士を動かすには王の命令が必要なのだが、ハッタリが通じたようで安心した。
悪党どもがいなくなり、二人きりになったところでオレは振り返った。
「姫、お怪我はございませんか」
「………」
モニカ姫は顔を真っ赤にしながらオレを見つめていた。
「ひ、姫?」
どうしたんだろう、熱気にでも当てられたのだろうか。
あんなに怖い思いをしたのだから、当然かもしれないが。
「どうされました? もしかして弾き飛ばしたナイフでも当たりましたか?」
まずい。
モニカ姫の方向には飛ばないようにナイフを弾いたつもりだったが、もしかして軌道がそれてしまったか。
しかしオレの心配をよそにモニカ姫はコホンと咳をして「大丈夫です、怪我はありません」と答えた。
ホッと胸をなでおろす。
「ありがとう、ランス。おかげで助かりましたわ」
「あんな連中、どうってことはありません。姫の身体に傷がつくほうが怖いです」
「……!!!!」
国王陛下の言葉もあるし。
っていうか、今思ったのだが襲われた時の心の傷は含まれるのだろうか。
「万が一キズでもつけたら」という国王陛下の言葉に身震いする。
ってか、大丈夫だよね?
心の傷は含まれてないよね?
あの場合、不可抗力だし。
しかしモニカ姫は死んだ魚のような目からなぜか今朝のようなイキイキとした目へと変わっていた。
「ランス!」
「はっ!」
「わたくし決めました!」
「何をですか?」
「あなたをわたくしの正式な夫にします!」
「……………………………は?」
は?
「……………………………は?」
思わず「は?」を連発してしまった。
「姫、それはいったいどういう……」
「よくよく考えたら、わたくしが申し出た剣術試合ですものね。その優勝者であるランスを夫にしないなど王家の恥というもの。当面ランスはわたくしの婚約者ということにしておきます」
ち、ちょっと待って。
話が違うじゃないか。
「そういうことで、ランスは仕事以外はわたくしの側にいるように」
「い、いえ、姫。できれば自分は……」
「それとも、わたくしの夫となるのは嫌?」
出たーーーーーー!!!!
絶対断れないやつーーーーー!!!!
「い、いえ、滅相もございません。恐悦至極に存じます……」
「うふふ、嬉しい」
ああ、このやりとり、昨日もしたな。
地べたに置いた買い物袋を拾い上げると、なぜかモニカ姫はオレの腕にがっしりとしがみついてきた。
「ひ、姫。そう密着されると動きづらいのですが……」
「うふふ、いいのです。なんといってもランスはわたくしの夫なのですから」
「………」
どんな心境の変化だろうと思いながら、オレは大量の買い物袋とモニカ姫わ抱えてお城へと帰還したのだった。
その後、正式にモニカ姫と結婚し、彼女のワガママに振り回されながらも周りから「仲睦まじい夫婦」と呼ばれるようになるのは5年後の話。
お読みいただきありがとうございました。
「あれ? 読んだことあるかも」と思われたらアレなので、無粋ではありましたが前書きに補足説明を入れさせていただきました。
最後まで読んでくださってありがとうございました。




