兄妹喧嘩は犬も食わず?雷落ちて円満??
「おい、ちび!昔は可愛げもあって、おにーちゃんとか後ろをうろちょろしてたくせしやがって、なんつー態度だ!」
「はぁ?ちょっとバカも、休み休み言ってもらえますか?チビってそんなチビでもねーし!むしろ、そのいつ洗ったかもしんない小汚いジャージ、いつまで後生大事に着てんの?捨てたら?何年目!!」
「はあぁあぁ!!!これはな、ビンテージつーんだよ!!」
「はぁああ??ビンテージを家にいる時も寝る時も外でそのまんま着ていくやつがいるの!!」
「うっ...二日にいっぺんは洗ってる」
「うわぁ!!!家で来て寝てそれで学校行って、きったなぁ!!折角の有名ブランドもかたなしだわ!ナエキに謝れ!!」
「あ、すみ...なんでだよ!!俺がバイトでセクセク貯めた金で買ったのをどう着こなそうが、カンケーねーだろ!!」
「ほら、ビンテージとかカンケーないじゃん」
「うっ...」
「...あぁ...でも、最近は古着屋さんで、ビンテージジャージを見つけて買うのが流行ってるってこの間、講義に行った先の大学の女の子が教えてくれたなぁ...」
「えっ...とーさん...女子大生が好みなの...」
龍子は顔を上げると、正義を見た。その顔は、少し悲しそうである。
実は正義を理想の男性と尊敬している龍子からすると、潔癖な父親というイメージがあったため、そんな些細なこともドン引きしてしまうのである。
「えぇ!!!いやいやいや......そ、そんな、僕は、サヨリさん一筋だよ。たまたま、質問しに来た子が気さくで、ジャージ着てたから話が弾んで話題が出ただけだよ」
ビクッと何も悪くないのに正義は肩が少し飛び跳ねてキョロキョロとサヨリがいないか探すが、台所で清子とアイナと談笑しているので全く聞こえるはずもない。が、念の為という所が小心者で、聞かれてないなと思うと胸を撫で下ろして、悪いことではないのに聞かれたくなくコソコソと話す。
「あぁ...そう...」
龍子は少し嬉しそうな顔をして、またうつ伏せになる。
「へぇ...ビンテージジャージなんてあるんですね...知らなかったな。まだまだ勉強不足だな...もっと、広い視野を持って勉強しないと」
「いや...正君はそれ以上、勉強しなくても充分勉強してるから...むしろ、もっと気楽に考えた方がいいんじゃないかな?」
「そうです?んーん...でも、何事も勉強だ!って、誰かが言っていたような」
「...とーさん、正は特に勉強が苦じゃないから、ほっといた方がいいよ。知識を入れて楽しいって、人種もいるのよ」
「あぁ...まぁ...そうだね」
正義は納得したように小さく頷き、残り少ない茶をまだちびちび飲む。
そして、飲み終わるとはぁ〜と満足顔。
そこで、正は東大も余裕合格判定が出ている秀才だと思い出す。ただ、坊ちゃん刈りなのは、女子が勉強の邪魔をして来て面倒なので、この頭なら敬遠してあまり寄って来ずいいとかサラッと言ってしまうので、将来男として不安を覚え、もっと人生楽しめばいいのにと思ったのである。だが、若い頃はよくよく考えれば自分も大差なく、今はこうして結婚して、可愛い娘もこうして隣にいる。
そう思えば、気苦労でしかないかと、きちんと納得して少し心配そうな顔もいつもの笑顔に戻る。
両手に握っていた湯呑みをコタツに置いて、ふと湯呑みと娘が目に入ると嬉しそうに思い出し笑いか、更にニコニコし出す。
それで三人は話しが途切れてまた、そこだけシーンと静寂が訪れた。
正は雑誌を捲りながら、カバンをゴソゴソとマイペースは変わらず。それを見ながら、正義は少し横になろうと龍子と同じにうつ伏せる。
「ほぉ〜ら、あるじゃんよ!」
「はぁ?あんた、あったんだって顔してたじゃん!!」
「うっ...」
「その、いちいち言葉が詰まるのなんとかしてくれない?あは!名前のマゴチと顔、そっくり!!」
「はぁあああ!!マゴチじゃね!コチだ!舐めんな!あんなぬめーっとした顔なわけねーだろう!それを言うなら、お前のそのウサギ、みんなには、小動物の兎が由来なのとか嘘つきやがって!お前だって、とーさんの釣り好きがこうじて、付けられた魚じゃねーか!おちょぼ口が!!」
「はぁああ!!誰が、おちょぼ口か!!兎に似てるからラビットフィッシュっていうんです!!モデルは兎、何も間違ってないから!」
「は!そーですかぁー!」
「だいたい、クソダサい名前で、私の名前をバカにしないでくれる!そもそも魚としても私の方が黄色くて、可愛いから!!」
「魚だって認めてるじゃねーか!ヒフキアナゴなんぞ、食えねーだろがい!俺は食ったら美味い魚だぞ!そっちの方が上に決まってんだろ!」
「はぁ?そんなんで上か下かっていうなら、たっちゃんが一番上です!龍子だもん!」
「...それは...あんまり、人をだしにしないでほしいんだけど。それに、私は、龍子という名は好きじゃないの」
「「あ、ごめん」」
ゆらり、顔を上げて軽く睨んでいる龍子の顔が怖くて、咄嗟に二人は慌てて謝る。
「いいけど...」
ふわぁっとあくびを漏らしてまた、うつ伏せる龍子。怒っているというよりは、眠いので静かにしてほしいという感じだが、二人は理解していない。
「それはそうと、いい加減、私に謝りなさいよね!!」
「はぁ?なんで俺が謝るんだよ!!お前が、たっちゃんに話振るからいけないんだろう!」
二人の言い合いは終わることもなく、いつもなら清子が仲裁に入って終わるのだが、なかなか向こうは向こうで話すが盛り上がってこちらへは来ない。
とっくに取っ組み合いにでもなりそうな勢いで睨み合い、小学生の喧嘩かというようなうりことばにかいことばの罵倒合戦に成り下がっていた。
そんな時に、一番奥の部屋から厳三と陽一が出て来た。
「いやー、お父さん、内緒ですよ。アイナには見つかると怒られるんで、こっそり買ったんですから」
「あーうん、心得ているよ。でもあのルアーは手彫りだけあって、塗料もキラキラ光って絶妙な色具合でいい味出してるしな。釣りに使うのも勿体無い、飾っときたいくらいだな」
「だ、ダメですよ!バレちゃいますから。出すのは、一緒に釣り行った時にしてください」
「あーあー、分かってるよ。いや〜、今度の休みの釣りが楽しみだなぁ〜。陽一君がいなくて、釣り行けなかったからなぁ」
「あー...それはすいません...そう言えば、商店街も奮発しましたよね。一週間、ハワイアンズのファミリー旅行宿泊券ですから」
「あぁ、なんかあれだ、五十周年記念の年だったらしく、大奮発したらしいぞ。まぁ、金の玉以外は、チンケなポケットティッシュしかなかったけどな。わはははは」
「そんなそんな、もらえるだけ助かりますよ。正なんて、鼻炎持ちなんで秋花粉でティッシュがいくつあっても助かります」
「あぁ...それも、そうだな...ん?」
二人は少しお高めのルアーをお互いゲットしたのでご満悦で、意気揚々と廊下を歩いて井間に差し掛かるところだった。
目の前でウサギに不意を突かれて足を引っ掛けられて転んだコチが、廊下にドターンと派手に尻餅をついたのである。
「な、な、なぁ!!」
あまりにも唐突だったせいで、厳三は言葉にならないが、ピンっと勘が働き、すぐに冷静になる。手を硬く握るとわなわなと震わせて、顔が真っ赤になっていく。
「でれすけ!!!」
源三の大声が響き渡り、少し家の窓がカタカタと揺れる。
「と、とーさん...あわわわわ!!ご、ごめんなさい」
コチは般若のような顔の厳三に見下ろされて、これはまずいとすぐにぴょんぴょん起き上がって正座して頭を深々と下げる。
「はぁ...全く...どうせ、お前がまた、バカなことを言ってウサギを怒らせたんだろ。お前はな、年上で兄なんだからもっと、広い心で接しなさい」
「....う...ううん...いや...あ...はい」
シーンと静まり返った部屋に気まづい雰囲気で、やっと話が途切れた所に大きな声が聞こえたので女三人は台所からどうしたものかと戻って、シーンとなっている部屋を見ると冷静で、とりあえず見守ろうと三人は無言で頷く。
大概、コチが悪いとみんな思っている節があり、このまま大人しくしてればいつも通り収まると知っていたからである。
「あぁあああ!!!」
「「えぇ!!」」
急に雑誌に耽っていて全く耳に入っていなかった正が、いつになく大声を出す。手にはカバンから出した、小さい厚紙のチケットのようなものを持っている。
正にしては唐突でほとんどあり得ないことだったので、他の面々は驚きを隠せず一斉に声に出てしまう。
「ど、どうしたの?」
そに反応なのに正は、何も言わない。
そんなものでドキドキが止まらず気になって思わず、アイナは聞いてしまう。
「え?.......あぁ」
そこでみんなの脅威的なギラギラした目が向けられているのに気付いて、自分が大声を出したのだと思い出す。
不思議そうな顔も、苦笑に変わる。
「えーと...旅行中に買った、ご当地宝くじの一頭が当たった?」
「「えぇ!!!」」
さらっと正がいうものだから、まさかのまさかと、驚いた面々は正にザザザっと寄って今か今かと顔を近づけてくる。
押し寿司みたいな状態になっているため、少しうざったいなと思いつつ、正は宝くじを出す。
コタツの上の、宝くじ。
それは、
ご当地で発行された、宝くじではあるが、お米券が当たる、というよくいう本物の宝くじ売り場で売ってる宝くじではなく、企画で宝くじ風のを町おこしで発券していて、それが当たっただけであった。
普通なら、宝くじといえば、一等一億円だの、安くても一千万という高配当金。
普通は、それを考える人の方が多い。
もちろん、家族の他の面々はそう思って驚いたのだ。
見たこともない変わった宝くじ券と、いつも正が使ってるタブレットが横にあって一等お米券!!バーンと画面が黄金に輝いている。
それを交互に見た瞬間の後の、意気消沈ときたらかなり喜んだ反動で、逆の反動が大きく、正以外のみんなは気力が抜けてよろよろと離れるとその場にダラーんと座り込んでしまう。
「え?何?...どうかしたの?お米券、ありがたいよね?」
それはそうなのだが、もしかしての一億からのお米券だ、普通に出していれば普通に喜んだはず。
気まずさからの静寂からの、宝くじ当選だ。
勘違いしても、致し方ない。
「えぇ??」
正のみ意味不明のまま納得いかず、他の家族はもう寝ようかとトボトボと散り散りになり、正だけ取り残された。
静かにふけて行った、夜のこと。
たまには早寝もいいかと、正によって井間の電気がカチっと消えた。
完