表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/125

夜の森

 闇夜の森を、奏羽は枝から枝へと跳躍を続けている。

 どれくらい走り続けているだろう。

 時間の感覚は次第に曖昧になっていくのに、それに反比例するように、五感のすべてが鋭く研ぎ澄まされていくのを感じている。まるで、自分が森の一部にでもなったかのように、夜行性の生物たちの気配を正確に捉えることができる。

  ときおり梢の向こうに現れる街道の位置を確認しながら、あらゆる音、匂い、そして方向感覚を頼りに、全力でフィービアへと向かう。


 上手くすれば、カシットを誘拐した者たちに追いつくことができるかもしれない。

 営利誘拐ならばカシットの命は無事だろう。しかし怖い思いをしていることは間違いない。彼はまだ無条件に護られるべき幼い子どもなのだ。


 フェーベ商館を単独で飛び出した理由の一つはカシットであるが、それ以上に、今回の任務のリーダーである真鳥に従うことが限界だったからだ、

 任務につく前から、八束真鳥という存在に良い印象はなかった。突然、不可解な状態で現れたかと思えば、矢杜衆の話題の的となり、実力ばかりか外見まで優秀で、男女を問わず多数の関心を集めていた。現実主義の奏羽にしてみれば胡散臭いことこの上なく、できれば関わりたくないと思っていた。

 ソムレラの首都ウルマスまでのキャラバンの護衛任務が入り、事前打ち合わせに集まってみれば、その胡散臭い当の本人が目の前でへらへらと笑っていた。

 どんな任務も熟せるという自負が崩れそうになるのを感じた。


 リーダーである真鳥の指示や戦略は、奏羽が知る限りの他のリーダーとはまるで違っており、理論を無視した指示など、信頼することができるはずもなかった。

 真鳥への不信感はキャラバンの進行と共に増すばかりで、精神的にも限界に近かったところへ、カシット誘拐に対する彼の判断が決定打となった。


 キャラバンを優先させるという判断を下したのはカシットの実の父親・マウリだ。しかし、子どもの命を選ばなかった商人にではなく、マウリを支持した真鳥にその憤りの矛先が向いた。


 端から信頼感などなかったくせに、裏切られたという感情に支配され、そのまま、商館を飛び出したのだった。


 誰もやらないなら、自分がやる。 

 彼を助けることができるのは、自分しかいない。


 その想いが奏羽を今も駆り立てている。


 夜の深まりとともに気温は下がり、剥き出しの頬や耳を冷たく刺す。けれど、気持ちの昂りが寒さなど感じさせない。


 ふいに奏羽の足が止まる。

 深い森の匂いに交じり、かすかに煙の気配を感じる。

 巨木の枝の上で、全身で辺りを窺う。

 山火事であれば、もっと動物たちが騒ぐだろう。森は静かなままだ。


 誰かが夜営をしている。

 そこにカシットがいるかもしれない。


 奏羽は逸る気持ちを抑えるように、一つ、深呼吸する。

 煙の流れてくる方向に進路を定める。


 奏羽の気配が、夜の闇に溶け込むように消えた。


大変長らくお待たせしました。

鴟梟堂の文字書き担当の所用でバタバタしておりました。

また更新を再開します。

次の更新は明日(12/14)を予定しています。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ