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◇03◆ 残念。無理無理、ブッブー!(煽り)


◇◆◇◆◇◆◇




 プリマジョ特戦隊。

 比類無き魔力を持った少女、プリマジョからなる部隊の通称。

 度重なる訓練と厳重な審査を経て、攻撃魔法の発動を許可されている特殊部隊だ。



 彼女たちはムネン獣を退治できる唯一無二の存在である。

 核兵器の攻撃すら無効化するムネン獣をプリマジョは魔法一つで退治する。



 美しく、可愛らしく、清純に 聖なる歌劇、ときに過激に。

 見目麗しく愛嬌にも満ち溢れた、きらびやかなプリマジョ。

 人々から空前絶後の人気を博していた。



 そんなプリマジョ特戦隊を有している機関がある。



 魔法管理局だ。

 元々は魔法が発現されて以来、その超常の力を研究するための機関である。



 各国の行政や軍事組織とも密接な関係を築き上げているが、同時に秘匿性の高い組織でもあり、公にされていない機密情報だらけの機関だ。



 そのため、人々からは研究機関というよりもプリマジョ特戦隊を最大限にバックアップする組織として認知されている。



 そんな魔法管理局の、数少ない公になっている業務があった。

 プリマジョ特戦隊の人材の選出、つまりプリマジョの確保だ。



 年に一回、魔法管理局は、全国共通入局試験を実施する。

 小学校を卒業する女児のみを対象とした実質のプリマジョ選考試験だ。



 プリマジョを夢見る少女たちが、一様に己の才能を試される試練でもある。



 その日は、その年一回のプリマジョ選考試験の実施日だ。

 試験会場は地域一帯で最も大きい公民館を借りて行われていた。



 そんな広大な公民館の、しかしほんの小さな一室で。



 あるやり取りが繰り広げられてた――。



「残念ながら不合格です」



「はぇ?」



 とても気の抜けた返事が小学校六年生のココから飛び出た。

 咄嗟に出た脱力しきった声だった。



 面接官から放たれた簡素な言葉が、それだけココの意表を突いたのだ。



 六畳間ほどの小さな部屋。

 その狭い場所でココの不合格は告げられた。



「ど、どういうことでしょうか……?」



 面接に備えて練習した敬語が、しどろもどろになる。



 奇麗に伸ばした黒髪を後ろで纏めているココ。

 百を超える多数の同年代が集まっている試験会場においても目立つ存在だった。



 高身長でスラリとした背丈はもちろん、目鼻立ちがくっきりとしている。

 凛とした顔立ちは満ち足りた自信が現れ、それでいて嫌味がない。



 しかし、今、その表情はとにかく呆けてしまっていた。

 瞳の大きい目は見開き、愛らしい口も半開きのまま。

 発育の良い痩躯もワナワナと震えている。



 無理もない。

 目の前、無機質な灰色の机を挟んで対面する面接官の言葉を。

 何度頭の中で反芻しても理解できなかったからだ。



「どういうことも何も、あなたは不合格です」



 再び告げられた無慈悲な言葉。

 比較的若く、美人ともいえる顔立ちの面接官なだけに、余計冷酷さを帯びているように感じる。



「ど、どうして……」



 ココの顔が殊更に青ざめる。

 本来であればキリリとした顔のはずが、慌てふためく今はアワワな状態。



 正直、この部屋に連れられたときから嫌な予感はしていた。

 本来であれば、今頃は筆記試験を受けているはずだった。



 しかし受付に願書を提出し筆記試験の会場へと移動する際、別の係員に呼び止められて、この小さな部屋の前へと連れられた。



 そしていきなりの不合格通知。



「試験すら受けられないなんて……お、おかしくないですかっ?」



 もちろんとっくに筆記試験の開始時刻は過ぎている。

 既にあちこちの広い部屋から鉛筆の擦る音が聞こえてきた。



 訳がわからなかった。

 まるで受ける資格そのものが無いような扱いだ。



 そんなおかしな話があるか。

 資格ならある。だって――と、いわんばかりにココは口を開く。



「じ、自慢に聞こえちゃいますけどっ、私の血中含魔量はA評価ですっ。それだけじゃなくて……! 魔法塾での成績もずっとトップですし――たた、大変手前味噌ではありますがっ、プリマジョになるために日々努力してきまひはっ!!」



 最後はちょっと嚙んだ。が、熱意が伝わればそれでいい。



 豊富な血中含魔量、魔法塾トップの成績。

 ココが優秀な受験生であることはその二つの事実だけ見ても、火を見るよりも明らかだった。



 だが面接官は動じない。

 願書に書かれたココの情報と、ココ本人を交互に見続けている。



「じゃ、じゃあ、態度ですかっ? お、お言葉ですが、態度は悪くなかったかとっ。だって受付で筆記用具を忘れて困ってた子に鉛筆を貸してあげたし……いやっ、良い子アピールでもポイント稼ぎってわけでもなくて、私は一日一善をモットーとしているからで――」



「――お静かに」



 机に手を置き前のめりに必死の訴えを続けるココとは対照的に、姿勢を正したままの面接官は制止のために手のひらを向ける。



「品性に問題が無いことはこの目で確認済みです。人間性は素晴らしいと判断しています。それに血中含魔量も豊富で、この数値は正直見たことがありません」



「え……」



 突然の肯定の嵐。

 今までの冷ややかな言葉が噓のように、自分をほめちぎる言葉にココは唖然とする。



「学内での成績も優秀。その端麗な容姿は、現役のプリマジョの中にいても異彩を放つでしょうし、抜群の運動神経も期待されます。尤も、外見は考査に影響を及ぼしませんが……。何にしても、受験生の中でも群を抜いて期待できる逸材。今までのあなたの努力に疑いはありません」



 ただ――、とそこまで言って初めて面接官の表情が歪む。

 眉間にできた皺を抑えながらこちらを一瞥。



「――魔法の才能が無いんです。あなたには」



「は……? 才能?」



 オウム返し。

 ココができたのはそれだけだった。

 それでも会話を続けようと言葉をひねり出す。



「魔法の才能って……血中含魔量のこと――」



「血中含魔量とは全く別の話です。魔法を唱えられるか否かの才能です。ゲームで例えるならば、貴女はMPだけ多いドラクエ3の戦士といったところです」



「え、す、すみません。あんまりゲームはやらなくて……。やっていたほうが良かったですか……?」



「……失礼。もっとわかりやすい例を」



 と、面接官が机の下からあるものを取り出す。



 車。

 ブリキ製の車のおもちゃだ。

 タイヤが動くシンプルな構造。ちなみに車種はワゴン車。



 ガーガーと車のおもちゃを、机の上で前後に走らせる面接官。



「わかりやすい例え話をするのなら車のエンジンです」



「え、エンジン……」



 ココが聞き返すと同時。

 面接官が机の上を走らせていたブリキの車を急停止させた。



「あなたを車で例えた場合、動力源であるエンジンが壊れています。エンジンが壊れている車は走りません。詳細は書類にて追って説明しますが」



 面接官は一息いれて。



「あなたには魔法の才能が無いんです」



 繰り返された面接官の言葉。

 ココの双眸は、動力源を失ったおもちゃの車から離せない。



 冷や汗がうなじを伝う。おろし立てのブラウスに染み込んでいく。

 浮ついた焦燥感がココの肝を、全身をまるごと冷やしていった。



 才能が無い。

 そんな重みの無い言葉一つ。

 不可視で実態も実感も湧かない。湧くわけが無い。



 才能が無い。

 はい、そうですか、と。

 それならば仕方ないですね、と、納得できる余裕はココには無かった。



 幼いころから夢見ていたのだ。プリマジョとなって、フリフリのドレスに身を着込み、箒を使って空を舞い、魔法によってムネン獣を倒す。



 そんな夢を、才能という不確かに感じる言葉で諦めるわけにはいかなかった。



「才能って、でも私は――」



「残念ですが不合格です」



 冷たい言葉がココを真っ向から否定する。

 しかしココの熱は下がらない。



「わた、私は今日のために……プリマジョになるために――」



 プリマジョは若い少女にしかなれない。

 加齢とともに衰えていく魔力の根本的な性質があるからだ。


 この機会を逃せばプリマジョになることは永遠に無い。

 小学校低学年のときに誰もが覚える常識だ。



 その常識があるからこそ、この日のために、たゆまぬ努力を重ねたのだ。



「お気持ちはわかります。ですが無理です。なれません」



 突き放すような、刺々しさすら感じる否定の言葉。

 その刺々しい言葉を避けるように、ココはかぶりを振る。



「いや、でも――」



「無理です、なれません。エンジンが壊れている車は走れません」



「で、でもっ――」



「無理です。残念でした。なれないですね」



「いや――」



「才能無いです、微塵もありません、諦めてください。無理ですから。才能無いですから。皆無。残念。無理無理、ブッブー!」



 終始冷ややかな態度から一転。 

 急に煽るように矢継ぎ早に繰り返される否定の言葉。

 しかも最後のブッブーは腕で×印を作り始めた。



 そんな面接官に、



「なによこの面接官っ!!!」



 ココはシンプルにキレた。



◇◆◇◆◇◆◇




 どれだけキレても、結果は変わらなかった。

 ココは己に出された不合格通知を、揺るぎの無いものとして受け入れるしか無かった。



 プリマジョには、なれなかった。



 納得がいなかったココも、何人もの試験管に見送られながら会場を後にすれば現実が見えてくる。見えてきてしまう。



 その後の記憶は曖昧だ。

 いつの間にか天気が崩れたのか、降りしきる雨が妙に冷たく、火照った体を否応なしに冷ましていったことだけは覚えている。



 こうして、ココの夢は齢十一年で潰えた。

 幼いころから見ていた、華やかな夢は半ばにしてボッキリ折れたのだった。



 そしてココはその傷を引き摺り続けて、高校生まで成長した。



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