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身体を癒す薬

 

 王宮に戻ると、なにやら騒がしい。

「なにかあったのか?」

 通りかかった文官にレオナードは、聞く。

「レオナード殿下、陛下がお倒れになられました。何でも、酷い頭痛のようで、頭を抱えながら、倒れ現在、私室で治療を受けられてます」

「なんだって!」


 レオナードの父エルテード・サンパチェンス王は、時折、苦痛な声を出しながら、私室のベッドに寝ている。もう四日も目を覚まさない。日々、弱っていく父親にレオナードは、落胆と苛立ちを感じていた。

 王宮の医者は、手のほどこしようがないと肩を落とす。王宮薬師の薬も効かない。レオナードは、国内の優秀な医者を探すが、見つからなかった。

「レオナード殿下、陛下は、もってあと三日の命だと思われます」

 悲痛な表情で、レオナードに告げる医者。レオナードは、絶望する。レオナードは、どうしたものかと執務室で頭を抱えている。アレルは、心配した様子で、机にお茶を置く。レオナードは、アレルの顔を見て、思い出したように言う。

「メルの薬があるではないか!」



 レオナードは、アレルと共にメルに会いに、森に行った。 蛇除け草を持っていったため、毒蛇には襲われない。 しかし、何度も森の中を駆け巡っても、最初の馬車道に戻ってしまう。 メルの洞窟の家にたどり着けない。 メルの洞窟の家から帰るとき、レオナードは、メルにまた会いに行けるよう通り道の木に剣で印をつけていた。 それをたどっているのに着けない。レオナードは、苛立つ。アレルは、レオナードの苛立ちに、何もしてあげれない無力さを感じ、悲しくなった。


(なぜ、たどり着けない。メル、会いたい!)

 レオナードは、どうしようもないもどかしさと苛立ちを感じる。

「どうしますか。レオナード様」

 悲痛な表情をアレルは、浮かべる。

「しょうがない。街に行こう。メルが薬や野菜を売ってるかもしれない」

(頼む。メル、いてくれ!)


 ***


 街で、薬や野菜を売っている少女を知らないかレオナードたちは、聞いて歩いた。驚くことにメルは、街で有名だった。


「メルちゃんのことかい。彼女の飲み薬は良く効くよ。うちでは、死にそうだった母が治ったよ。隣のじいちゃんは、腰が痛くて歩けなかったのが、メルちゃんの薬で、歩けるようになったって喜んでたよ。メルちゃんは、あの八百屋のハルさんのテントの中で売ってるよ」

 レオナードたちは、八百屋のテントにむかった。メルの薬は、大好評のようだ。


 途中、「ぴーちゃん」と呼ぶ声がして、メルかと思いレオナードは、声の方を振り返る。小さな女の子が母親と緑色の小鳥に声をかけていた。

(メルの小鳥と同じ名前。まさか本当にぴーちゃんという名は小鳥の定番なのか? 偶然だろう)

 レオナードは、偶然だと思いたかった。


「メルの薬を買いに来たのかい。メルは、一日おきに来るんだよ。今日は休み。明日は来るはずだよ。買いたいなら、早めに来たほうがいいよ。すぐ売れてしまうんだ。メルの持ってくる果物やきのこや野菜はうちが買って、売ってるんだけど、それもすぐ売れてしまうよ。私もメルのクリームのおかげで、肌荒れしなくなったんだ。ほらどうだい、きれいで、しっとりとしてるだろう。効き目はばつぐんだよ」


 八百屋のハルは、手や顔の肌をレオナードたちに見せてきた。

(確かに私もメルにもらったクリームを肌に塗ってから、肌が荒れることなく、いつもしっとりとしている。今まであったかゆみもまったくない。すごい効き目だ!) 

 レオナードは、感心する。


 メルがアマリリス嬢であるならば……、多分そうだろう。とレオナードは思う。

 二年前に塗ってもらったクリームより断然効果があがっている。研究したのだろうな。洞窟の中にはそんな形跡があった。壁に描かれていた文字や図が思い浮かばれた。そんなメルをレオナードは、愛おしく思った。

 今日は、レオナードたちは、メルに会えなかった。明日出直すことにした。


 ***


 メルは、八百屋のハルのテントでクリームや薬を売っている。

 メルのクリームや薬は、人気があり、売る前から、お客が列を作っている。一人、一つしか買うことができない。メルは、平民には、パン一つが買える手軽な金額で、貴族らしき裕福な者には、その数倍の金額で売っている。お金がなく、薬が買えず、困っている者には、隠れて、無料で薬を渡している。メルも日用品を買ったり、飲み薬を入れる瓶を買ったりしなければならない。無料で渡している分、裕福な者からは、多くもらい、調整をとっている。裕福な者から多くとるようにしたのは、レオナードが安そうに薬代を払ったからだ。

 お客の中には、毎日買いに来る者もいる。深緑のフードをかぶった男性だ。フードで顔がはっきり見えず、表情が見えない。無言でいつも受け取る。不審に思っていたが、買いに来ているため、売らないわけにはいかない。メルは、苦笑しながら、今日も売る。メルも自分の顔が見られないように帽子を深くかぶっているので、人のことは言えない。

 メルは、売りながら、並んでいるお客たちの会話に耳を傾ける。


「エビスシア国が、戦いに勝利し、隣接しているレジスタ国を領土にしたようだ」

「そうか、またか。これで隣接している二か国を領土にしたのか。この国も隣接しているからな。いつか領土にされてしまわないだろうか? 不安だな」

 ため息が聞こえてくる。

「あぁ。なんでも、エビスシア国の者が、既にこの国に潜入しているって噂もあるぞ」

「本当か。それは、恐ろしいな」

 二人の男性がひそひそと話していた。


 エビスシア国は、軍事国家だ。このビギニン大陸には、六つの国がある。二年前に就任した現エビスシア国の国王は、野心家で、この大陸を制覇しようと考えている。今の話で二か国をエビスシア国が領土にしたのなら、この大陸は、四つの国になったことになる。メルは、不穏な会話に不安になる。この国もエビスシア国に隣接しているだけに近いうちに戦いになるのではないか心配なのだ。メルは、戦いのない平和な国を望んでいる。



 今日も大盛況だった。もうクリームに飲み薬、塗り薬も完売だ。みんな、元気になってちょうだいね。とメルは、思いながら、片付けをしていると。


「メル」

 と声がかかる。聞き覚えがある声にメルは、振り返る。

「レオ、アレル」

 レオナードとアレルが目の前にいた。二人ともなんか深刻そうな顔をしている。


「メルの薬は、人気なんだな。良く効くって評判になってたよ。命の危なかった人も治ったって」

 レオナードの表情は、固く、悲しそうだ。

「ありがとうございます。ところで、どうしたのですか?」

「薬を買いたくてね。父が倒れて、命が危ないんだ」

 とレオナードが苦笑する。


「まぁ、大変。あぁ、ごめんなさい。今日はもうすべて売れてしまって」

「そっか、……」


 がっくりしたように、悲しそうな笑顔を見せるレオナード。

(命が危ないなんて、心配よね。一刻を争うのよね)

 メルは、いたたまれなくなり、


「今から時間ありますか?あの洞窟の家まで来てくれれば、作りますよ」

「いいのか? ありがとう。助かる」


 レオナードの顔がパッと明るくなった。アレルは、安堵している。レオナードとアレルは、馬を連れていた。


「もしよかったら、馬に乗らないか? その方が早く家に帰れると思うんだが……」

 レオナードが照れくさそうに言う。

(そうね、命が危ないのよね。急いでいるんだわ)

 メルは頷き、

「ありがとうございます。馬に乗ったことがないのですが、お願いします」


 メルは、レオナードに手伝ってもらいながら、レオナードの馬チェリーに乗った。その後ろにレオナードが座る。

(なんか恥ずかしいわ。手綱を持っているレオの胸板があたり、なんか後ろから抱きしめられてるような感じ)

 メルは、恥ずかしくなる。

(メルは、小さいな。メルの体が少し触れている……。柔らかく、温かい。なんか照れるな……)

 レオナードも恥ずかしくなる。


 メルが、後ろを振り返るとレオナードと目があう。レオナードも恥ずかしそうに微笑む。メルもレオナードも少し顔が赤いように感じる。


「怖かったり、つらかったらいってくれ」


 メルは頷き、前を向く。

(やっぱりレオは、美男子ね。王子様みたい。きっと令嬢達に人気なはずだわ)


 ぴーちゃんとクゥーを先頭に走って、メルたちは、洞窟の家へ帰った。


 洞窟に着くと、さっそく『命の葉』の果肉を使って、飲み薬を作った。街でも売っている身体を癒す薬だ。レオナードに飲み薬の入った瓶をメルは、渡す。


「この薬は、身体を癒す薬です。早くお父さまに飲ませてあげてください」

「身体を癒す薬?」

「はい、体調の悪いところを治してくれる薬です。これできっと良くなると思います」

 レオナードは、メルのきっと良くなるという言葉に安堵した。メルが言うことは、信頼できると思ったからだ。側にいるアレルも安堵した。

「あぁ、助かったよ。ありがとう。メル」


 二人は、急いで帰って行った。レオのお父様、お元気になりますようにと願いながらアマリリスは、見送った。ぴーちゃんが馬車道まで送っていった。



 ***



 王宮内、王の私室には、王妃がいた。王妃は、王の手を握りながら、 涙を出しながら声をかけていた。


「母上、街で評判の薬を買ってきました。これを父上に飲ませましょう」


(最後の頼みの綱だ。どうか、効いてくれ。父上の命を助けてくれ)

 レオナードは、心の中で祈る。レオナードは、父の体を起こし、口を開けさせ、メルの薬を口に流し込んだ。父が、飲み込んだのを確認し、また寝かせた。それから数分後、父が目を覚ました。


「あっ、頭痛がない。苦しくないぞ。今までの苦しみが嘘のようだ」


 王は、体を起こし、信じられないような表情で、レオナードを見た。王妃は、安堵し、嬉し涙を流している。

「これはどういうことだ。レオナード」


 レオナードも安堵した。レオナードの目からも嬉し涙がこぼれた。

(やはり、メルの薬は凄いな。メルは、聖女のようだ)

 レナードの心は、メルへの感謝の気持ちで一杯だった。


 レオナードは、父と母にメルの薬で治ったことを話した。また、メルについて、出会いから知っていることも話した。もちろん、メルがアマリリス・メルローズ公爵令嬢ではないかということ、メルを愛していて、妻にしたいと思っているということも伝えた。ただ、片思いだが……ということも伝えた。





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