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自称平民①

 

「ここに寝かせてください」

 無事洞窟に着く。洞窟の中に赤毛の男性と馬をねかせた。赤毛の男性は、真っ青で、息も粗い。体も小刻みに震えている。だいぶ毒が体にまわっているようだ。メルは、帽子をとり、焦りながら、急いで、『命の葉』を使って飲み薬を作った。(目の前で命を失わせたくないわ、必ずクゥーのように助けるわ!)


「アレル、しっかりしろ」

 金髪の男性は、容態が悪くなってきている赤毛の男性の手を握りながら、何度も声を掛ける。不安と焦りで動揺している。時折、治療はまだかというようにメルの方を見ている。メルが、急いで薬を持ってくると、安堵した様子を金髪の男性は見せた。


 メルは、赤毛の男性に飲み薬を飲ませた。その後、すぐ、横で倒れている馬にも飲ませる。薬が効くまでの間、メルは、塗り薬を作る。金髪の男性は、不安そうに赤毛の男性の様子を見ている。赤毛の男性は、少しずつ、息が整ってきたようだ。顔色も少しずつ明るくなってきた。金髪の男性は、安堵し、後ろにある洞窟の壁に寄り掛かる。彼女の作った薬の効果は凄いな。と思いながら、メルの後姿と洞窟の中を見回す。この狭い洞窟の奥の片隅で、メルは薬を作っている。メルの側には、ランプや薬草、ヤシの葉、湧き水が入った瓶や空瓶、ヤシの実の器が重ねられ置かれている。洞窟の岩の壁には、文字が書かれている。メルが、薬の研究内容を石で壁に書いていたのだ。「すごいな」金髪の男性は、驚き、呟いた。


「ふー、これで大丈夫ね」

 メルは、赤毛の男性と馬の噛まれた痕に塗り薬を塗った。これでクゥーも森の動物たちも元気になったから大丈夫なはずだわとメルは思い、息をつく。



 しばらくすると、馬が立ち上がり、洞窟の外へ出て行った。「ヒヒ―ン」ともう一頭の馬とたわむれている。治ったようだ。大きく、スマートな体形で、手入れが行き届いている赤褐色の毛並みのきれいな馬たちだった。高貴な方を乗せているように感じられる馬たちだ。メルは、安堵し、馬たちに微笑む。


 赤毛の男性も目を開け、起き上がり、体を動かす。顔色も良くなっていた。

「あっ、苦しくない。いつも通りだ」

 こんなにすぐ回復するなんてすごい薬だなと金髪の男性と赤毛の男性は思い、驚愕する。

「うふふ、治ったみたいで良かったです」

 メルは、安堵し、微笑んだ。


 ***



 洞窟の外の草の上、メルは、ここを庭と呼ぶ。その庭に三人で座る。


 三人の前には,洞窟の前の庭でとれたベリーの盛り合わせと水が、ヤシの実の殻の器に入れてあり、ひとりずつ置かれている。二頭の馬の前には、庭で取れたニンジンと水の入った器をおく。美味しそうに食べ、飲んでくれている。


 ささやかなおもてなし。



「私の名前は、レオナードです。レオと呼んでください。私の大切な親友を助けていただきありがとうございます。あなたのお名前は?」

 金髪の男性が微笑みながら、言う。金髪の男性がレオナード。レオナードは、メルがアマリリス嬢にやはり似ている容姿だと思い、期待して聞く。

「レオさまで……。レオさんですね。私の名前は、メルです」

(メル? 人違いか? いやそれにしても似ている)

 レオナードは、別人かもしれない可能性もあり、少し落ち込む。


(あぶないわ。街で八百屋のハナさんをハナ様と最初読んでしまって、貴族様かい? って言われたんだわ。平民です、貴族に憧れて真似しただけです。とごまかしたんだったわ。この方たち、容姿に服装、立ち振る舞いからして高貴な方に見えるからうっかりしてしまったわ。私は、平民よ、平民。言葉遣いを気を付けないといけないわ。公爵家に連れ戻されたら快適生活を失ってしまうもの)

 アマリリスは、慌てる。


 八百屋のハナさんは、メルが街で薬を売る場所を提供してくれている中年の女性だ。八百屋のテントの中で、アマリリスは薬を売っている。この庭と森で採れた野菜や果物、きのこなどは、ハルさんが買ってくれている。ハルさんは、長い赤毛の髪をひとつに束ね、茶色の瞳にそばかすのある体格のいい女性。とても気前が良く、優しい。


「私は、アレルです。命を助けていただいてありがとうございます」

 赤毛の男性も微笑みながら、言う。メルを可愛い少女だと思う。

「アレルさんですね。元気になられて良かったわ」

「それにしても、メル嬢、ここは不思議な場所ですね」

 気持ちを切り替え、レオナードは、周りを見回しながら言う。この国では、見たことがない植物が生えているなと思う。


「えっ、メル嬢……。嬢なんて……私、この洞窟に住んでる平民ですよ。メルとお呼びください」

(嬢なんて、まさか、貴族だとばれたのかしら。まさかね、こんな粗末な服装に洞窟に住んでる貴族なんていないものね)

 メルは思い、また慌てる。


 メルは、思い出す。平民の八百屋のハナさんも肉屋のボブさんもメルのことを「メル」と呼ぶことを……。知人にも呼び捨てだ。

 肉屋のボブさんは、八百屋のハナさんのテントの隣のテントで肉を売っている黒い髪で短髪の背が高く、筋肉質の体格のいい中年の男性。ハルさん同様、気前が良く、優しい。


 レオナードとアレルは目を見開いてアマリリスを見る。何か変な事言ったかしらとメルは思い、不安になる。レオナードとアレルは、少女を嬢と付けて呼ぶことが普通だったため、メルの反応に驚いていた。


「あはは……。すまないな。では、メルと呼ばせてもらおう。では、私のこともレオと呼んでくれるかな」

「はい、レオさん」

「メル、レオだ」

 レオナードは、呼び方を断られないように、メルの目をじっと見る。

「レオ……」


 レオナードは、満足したように頷き、にっこり微笑んだ。メルは、苦笑し、冷汗がでる。

(こんな高貴そうな方を呼び捨てにするなんていいのかしら。この雰囲気は明らかに貴族よ。それもかなり高位の。……でも、今、私は、平民よ)

 メルもにっこり微笑み返す。本当に呼び捨てでいいのかと心の中は、ドキドキしている。


「では、私もアレルと呼んでください」

「アレル……」


 アレルもにっこり微笑む。メルはまた冷汗がでるが、にっこり微笑み返す。呼び方ひとつで疲れるわ。早く帰ってくれないかしら。とメルは思う。


 メルは、レオナードとアレルが、この洞窟生活で初めての人間のお客様で、つい嬉しく、ささやかなおもてなしをしてしまった。おもてなしをメルは、後悔した。レオナードとアレルへの対応に苦慮しているからだ。


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