表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/37

分裂

 

 今、アマリリスは、教会の前の大きな広場でホープの演奏を終えたところだ。今日も大勢の人に聴いてもらえた。

 (うふふ、喜んでもらえて、良かったわ)


「アマリリス様」

 アマリリスが、ホープを持ち、教会へ入ろうとすると後ろから声を掛けられた。

「はい」

 アマリリスは振り返った。


「やはり、アマリリス様が平民メルだったのですね」

 にこっと笑ったカトレア侯爵令嬢がいた。ドレスではなく、シンプルな薄いピンクのワンピースを着ていた。アマリリスは、はっとした。

(今、私は、自称平民メルよ。なのに、アマリリス様で返事を知ってしまったわ)

 アマリリスの顔は、真っ青になる。

(しまったわ。どうしましょう)

アマリリスは焦る。


「何の事ですか?」

 アマリリスは、必死にごまかしてみる。カトレアは、アマリリスの耳元で小さな声で言う。


「貴族の間では、公爵令嬢アマリリスは、平民メルだってお噂ですわよ。今度、私のお茶会で、是非、ホープの演奏会していただけないかしら。お願いいたしますわね」

 (なんてこと。貴族には、バレていたの)


 アマリリスは、目を大きく開けて、カトレアを見る。笑顔でアマリリスに手をふって、スキップして去って行った。その様子を隠れて、レオナードとアレルとマーガレットが見ていた。レオナードがアマリリスのところに来て小さな声で言う。


「リリー、リリーの時もメルの時もクゥーとぴーちゃんを連れて歩いていたろう。目撃されてたんだ」

「うっかりしてたわ。クゥーとぴーちゃんも変装させるべきだったわ」

 アマリリスは、肩を落とす。

「それは、止めてやれ。クゥーとぴーちゃんが可哀そうだ」

 レオナードは苦笑する。


「でも、これで、着替えたりせず、貴族の前で演奏できて良かったではないですか。平民には、バレてはいません。平民は、アマリリス嬢の顔を知りませんからね」

 アレルが笑顔で、小さな声で言う。アマリリスは、元気なく頷く。

(今まで頑張ってバレないようにしてたのに、それも結構楽しかったのよ……)


「リリー、元気出して。ねぇ、それより、今日の最後の曲、音が変だったわよ。どうしたの?」

 マーガレットが小さな声で言う。

「そうなの。最後の曲弾いてる途中に弦が切れてしまって」

 アマリリスは、切れてしまった弦を見せた。

(今日は、私の正体はバレるし、弦は切れるし、ついてないわ)


元気のないアマリリスの頭をレオナードが撫でながら、

「ほら、元気出して、帰ろう」

 アマリリス達が、帰ろうとすると、ホープの演奏を聴いてた人達が、ざわざわしだす。

「何かあったのかしら?」

 アマリリスが不思議がると、アレルが、近くにいた男性に声を掛ける。

「何かあったのですか?」

「あぁ、何でも毒蛇の住む森が火事らしいんだよ」

  アマリリスとレオナードは顔を見合わせ、急いでレオナードの馬チェリーに乗って森に向かう。アレルとリサとクゥーも一緒だ。


***

 

 アマリリスたちは、今、馬に乗り、森の入り口にいる。 森が燃えている。街に住む男達が水をかけている。


 (この森には、沢山の毒蛇や動物達がいるのよ。なぜ、燃えてるの。これは、自然な火事ではないわ。油の匂いがする。きっと故意よ。何でこんなことするの)

 森は、燃えてて入ることができない。アマリリスは、レオナードの胸に顔を埋めながら、怒りと悲しみで泣き崩れる。


「うぅ、うぅ……」

 レオナードがアマリリスを抱きしめながら、

「大丈夫だ。今、消火活動している」


 アマリリスの心は、悲しみと怒りで一杯。すると、空が急に暗くなりザーっと雨が降り出した。雨は、凄い勢いで降っている。急いで森の火を消さなくてはと思っているかのように……。それだけではなく、雷もなり始めた。雷が「ドン」「ドン」「ドン」と大きな音をし、どこかに落ちたようだ。地面も大きく揺れた。


「大丈夫だ。落ち着け」

 レオナードがアマリリスを抱きしめる力を強める。

「ほら、雨も降ってきた。直に、火も消える」


 アマリリスは、レオナードの腕の中は、とても温かく安心すると思う。

(レオ、ありがとう、大好きよ)

アマリリスは、頷き、顔をあげレオナードを見る。レオナードは、微笑み、アマリリスのおでこにキスをする。アマリリスの顔は真っ赤。そして、レオナードは、自分のおでこをアマリリスのおでこにぶつけてきて、微笑む。


「ほら、消えてきただろう」

 アマリリスは、森を見回した。もう、火は、ほぼ消えていた。初期消火で済んだせいか、草木が少し焦げているぐらいで済んだ。アマリリスは、ほっとした。


「あぁ、すぐ消えてよかったわ」

 安堵したら、雨の勢いが少しづづ減り、次第に雨は止み、太陽が出てきた。空が明るくなった。アマリリスもレオナードも頭から足のつま先まで、びしょびしょだ。もちろん、アレルもリサもクゥーも消火活動していた男達もだ。

(リリーが怒り悲しむと雨や雷が鳴った。気持ち晴れやかになると、雨がやみ、太陽がでる。リリーの感情で天候が変わってるように感じる)

レオナードは、アマリリスを見る。


「火が消えて良かったわ。さぁ、レオ、早く帰って着替えましょう。風邪ひくわ」

アマリリスは、上機嫌。レオナードは、偶然だろうと思い、苦笑する。

レオナードの馬で急いで、王宮に戻った。




 王宮に戻ると騒がしい。


 アマリリスは、気になったが、今は、びしょびしょだ。レオナードと手を繋ぎ、まず、部屋に向かう。レオナードの部屋の隣がアマリリスの部屋だ。婚約を公表して、アマリリスは、王宮に部屋が与えられていた。この部屋で王太子妃教育も受けている。アマリリスは、王宮侍女に手伝ってもらい、湯あみと着替えをする。しばらくすると、レオナードが部屋をノックする。侍女が扉を開け、レオナードが入ってくる。レオナードも湯あみをし、着替えていた。侍女にお茶の用意をしてもらい、ソファに二人で並んで座る。


「ねぇ、レオ。帰ってきた時、王宮内が騒がしかったわよね。何かあったのかしら。森の火は、もう消えてるのに」

「それがだな。リリーの部屋に来る前に文官から報告を受けたんだ。イベリス領とエビスシア国との国境で大陸の分裂が起きたようなんだ」

「えっ、どういうこと?」

 アマリリスは意味が分からず不思議そうな顔をする。

「元々、先の地震でイベリス領とエビスシア国との国境に地割れが起きていただろう。リリーも父上から聞いていただろう。その地割れの割れ目の幅が、日に日に広がってたんだ。それが、さっきの雷が地割れのところに落ちたようで、その衝撃かわからないが、大陸が分裂してしまったようなんだ。つまり、エビスシア国がこの大陸から離れたんだ。別大陸になったんだ」

 レオナードが苦笑して言う。アマリリスは、驚いて、目を大きく開ける。アマリリスの心には衝撃的な内容でドキドキする。


「そんなことあるの?」

「なぁ、あるんだな。私も驚いたよ。詳しい事は、もう少し時間が経たないと分からないがな」

 アマリリスたちは、心を落ち着かせるように、静かに同じタイミングでお茶を飲んだ。


(リリーは、この国の聖女に違いない。リリーの感情と天候は偶然ではないだろう。リリーが、怒り悲しんでる時、雷がなった。この国を攻めてこようとしたエビスシア国をこの大陸から切り離した。この国を守った。リリーの作る薬は万能薬で民の身体を癒す。ホープの演奏は、民の心を癒している。まさに聖女)

レオナードは、崇める眼差しで、アマリリスを見た。




 翌日、

 サンパチェンス国内は、大騒ぎ。この国は、内陸にあり、海がなかった。それが大陸の分裂により、エビスシア国はこの大陸から離れ、別の大陸になった。そして、エビスシア国の分裂により、イベリス領は、領地は若干狭くなったが、海を得ることができた。海の恵みを受けることができる。そして、心配していた大陸の分裂時の領民への被害は、なかったそうだ。

(皆、無事で良かったわ)

アマリリスは、安堵する。


 (そう言えば、エビスシア国は、大陸を制覇したいと言っていたわ。私たちの国とは別大陸になったわ。もう、この国に攻めてくることはないわよね。

 だって、大陸を制覇するという野望を成し遂げたじゃない。ここから離れた大陸はエビスシア国だけだもの)



 正確に言うと、離れた大陸には、元々、エビスシア国を含め三か国あった。しかし、その内の二か国は、既にエビスシア国の領土になっている。そのため、離れた大陸は、エビスシア国だけ。


 (エビスシア現国王さん、大陸を制覇するという野望を成し遂げられて、良かったわね)

アマリリスは、心の中で呟く。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ