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出会い

 

 この洞窟に住み始めて三日がたったころの朝、洞窟から出ると、毛並みの柔らかい茶色の犬が倒れていた。体には噛まれたような痕もあり、毒蛇にかまれたようだ。


 アマリリスは、犬を洞窟の中に運んだ。犬は、呼吸が荒く、体は熱い。小刻みに震えている。辛そうだ。命の危険もある状態だ。早速、見つけたばかりの幻の『命の葉』の葉の果肉を使って急いで、飲み薬を作り、口の中に流し込んだ。体にある傷には、塗り薬を作り、塗った。体の内と外からの治療だ。もう、お母さまのように、もう、目の前で命を失うのは、いやだわ。お願い元気になって。とアマリリスは、願いながら、頭と体をさする。時折、苦しそうに唸りながら、眠っている。頑張って、きっと元気になれるはずよ。と思いながらアマリリスは、犬の体を撫でる。体は、熱い。湧き水の場所に何度も行き、水を汲んでは、水を飲ませたり、熱い体を冷やしたりしながら、側に居た。


 『命の葉』を使って薬を作るのが初めてだったアマリリスは、犬の状態を観察しながら、さらに薬の量を調整し、看病を行った。夜になると、熱も引き、呼吸も整い、アマリリスは、大丈夫そうねと安堵し、犬に寄り添うようにして眠りについた。次の日の朝、犬は、「クゥー」という声を発すると共に目を開け立ち上がった。


 大きな犬だ。耳がたれていて、目もたれ目で愛らしい犬だった。元気になったようだった。体にあった噛まれた痕もなくなっていた。昨日のぐったりした様子が嘘のように元気に尻尾を振りながら、目を輝かせ、舌でアマリリスの頬をなめた。感謝を表しているようだ。アマリリスは、安堵と自分の作った薬で、無事、命を助けることができた嬉しさで犬を抱きしめた。

「くすぐったいわ。なんて、可愛らしい犬なの。助かって、本当に良かったわ」

「ワン、ワン」



 それから、この犬は、ここに居座るようになった。この犬の名前を、初めてアマリリスに発した声が「クゥー」だったため、アマリリスは、クゥーと名付けた。アマリリスは、ぴーちゃん以外の仲間ができて嬉しかった。それからは、この洞窟に治した動物たちからの口コミなのか、ケガや病気をした動物たちが治療しにくるようになった。アマリリスは、動物たちを治療しながら、ぬり薬や飲み薬を研究していった。

 時々、ぴーちゃんとクゥーと一緒に街にとれた野菜や果物、きのこ、ハーブ、木の実、薬を売りに行った。お金も手に入り、ランプなどの日用品も買うことができた。



 アマリリスにとって、自由なここでの生活は快適だった。


 知人に見つかって屋敷に連れ戻され、また屋根裏部屋に戻ることがなにより怖く、ここでの生活を壊したくないとアマリリスは、思っていた。そのため、公爵令嬢だという身分だけは隠した。街に行く際は、知り合いに見つからないよう帽子を深くかぶっていた。帽子は、ヤシの実の葉で編み、森の中にある花を飾りにつけたとてもかわいらしい帽子だ。



 アマリリスは、父親をクレオナたちが来てから一度も見ていない。父親からの手紙ももらっていない。アマリリスの母親が生きているときは、父親は、とても母親とアマリリスを大切にしていた。父親は、仕事で、長く家に帰れないときは、手紙やプレゼントを送っていたのに、クレオナたちが来てから、一度も送ってもらっていない。母親が生きていた時の父親の愛情をアマリリスは今、感じることがなかった。


「まぁ、洞窟に住んでいるのだから、だれも公爵令嬢だとは思わないわよね。それにこの服装だもの。平民を装い、名前は、メルローズ家からとって、メルとしましょう。お母さまは、病死。お父さまは、家を出て行ってから帰ってこないとしましょう。嘘ではないものね」


 アマリリスは、クゥーを撫でながら、平民としての自分の境遇を考え、微笑んだ。屋根裏部屋の生活に戻りたくないアママリスは、平民で生きていこうと思ったのだ。これからの新しい生き方にアマリリスは、わくわくした。



 ここから、アマリリスは、平民のメルとなった。




 ***




 レオナード・サンパチェンスは、このサンパチェンス国の第一王子だ。金髪に深い海のようなきれいな青い瞳をもち、顔立ちは整い、穏やかな優しさ、品と聡明さの雰囲気が漂っている。令嬢達からの人気が高い。


「なぜ、来ていないんだ?」

 今日は、王立貴族学園の入学式だ。レオナードは、この日を楽しみにしていた。公爵令嬢のアマリリス・メルローズに会えると思っていたからだ。 王立貴族学園は、王族、貴族同士の社交の場。貴族としての道徳や領地経営などを学ぶ場だ。貴族は、一五歳になると王立貴族学園に通わなくてはならない。レオナードは、落胆する。


「メルローズ公爵令嬢のことですか。公爵夫人が亡くなられてから、病に臥せているという噂ですよ」

 レオナードの親友で側近のアレル・サイネリアが言う。この国のサイネリア侯爵家の次男だ。赤毛に薄茶色の瞳、整った顔、背が高く穏やかな雰囲気をもっているが、剣術には長けている。


「あぁ、でも学園には来ると思っていたよ」

「レオナード様。一度お見舞いに行ってみるのはどうですか?」

 アレルは、落胆しているレオナードを励ますように言う。

「今までも何度かお見舞いの手紙と花を送っているのだが、一度も返事が来たことがないのだ」

 もう、あきらめるべきなのかとレオナードは思い、悲痛な面持ちでため息をつく。アレルは、レオナードに何もしてあげることができず、悲しそうな笑顔を浮かべる。


 初日の学園が終わり、レオナードは、王宮からお忍びでアレルと馬に乗り街にむかう。レオナードとアレルは、仕立ての良いラフな白のシャツに黒のスラックスを着ている。その途中の毒蛇生息の森の脇を通っていると、帽子が風で吹き飛ばされ、拾っている金髪の少女が目に入った。


 一瞬振り返った彼女を見て、レオナードはドキッとした。あの二年前に会ったアマリリス・メルローズ嬢に容姿、雰囲気がそっくりだったからだ。彼女は、側にいた小鳥、犬と一緒に森の中に入っていった。レオナードの鼓動は、早くなる。もしかしたら、会いたかったアマリリス嬢かもしれないという思いで、レオナードの心は弾んだ。


「えっ、レオナード様、あそこにいた少女、毒蛇の森に入っていきましたよ」

 アレルは、驚いたように言う。

「ああ、アレル、追うぞ」

 レオナードたちも彼女を追って森に入っていった。



 ***



 アマリリスことメルは、街からの帰り道、森の中をぴーちゃんとクゥーと一緒に歩いていると、

「ヒヒ―ン」

 と後ろから馬の鳴き声が聞こえた。


 メルたちは、何かあったのではないかと心配になり、急いで馬の鳴き声のところへむかうと、二頭の馬の内、一頭が倒れていた。その倒れている馬の横には、赤毛の男性が倒れている。そして、赤毛の男性の側では、剣をもった金髪の男性が声をかけている。金髪の男性は、真っ青な顔をし、慌てたように必死に体をさすりながら、声を掛けている。周りを見る余裕もなさそうだ。赤毛の男性は、息が荒く、苦しそうで、辛そうな表情をして倒れている。命に関わる深刻な状態だと察したメルは、急いで金髪の男性に声を掛ける。


「大丈夫ですか?」

「毒蛇に襲われたのだ」

「もう少し先に私の家があります。そこで治療します。そこまで、頑張って来てください」


 倒れた馬の脚には噛まれた痕がある。メルは、急いで、鞄から紐をとりだし足を縛り、毒が体に回らないようにして、馬を立たせた。馬は、足をひきずりながら歩き出す。赤毛の男性は、太ももを噛まれたようだ。太ももの上を縄で縛り、立たせ、金髪の男性にもたれるようにして歩き出した。金髪の男性は、治療してもらえると聞いて気持ちが少し落ち着いてきたようだ。まだ、馬も赤毛の男性もどうにか歩くことができる。メルは、早く治療しなければと焦る気持ちが大きく、洞窟の家までの距離が遠く感じた。どうか、洞窟の家まで無事ついてちょうだいとメルは思いながら、歩いていた。


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