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真実


 ここは、王宮の中庭だ。二年前、ここで開催されたお茶会にメルは、参加したことがある。ぴーちゃんとの出会いの場でもある。円テーブルを囲うように椅子があり、既に、王、王妃、レオナードの弟のテラード王子と妹のアンナ王女が座っている。


 (なぜ、王までいるの? 聞いてないわよ、レオ!) 

メルは、心の中で抗議する。王の家族勢ぞろいだ。ドキドキ緊張する。手足が震えてる。耳元でレオナードが、「大丈夫だ」と声をかけてきた。

 王と王妃の前で顔を隠すわけにはいかない。どうかばれませんように……。とメルは、願う。


 メルは、背筋を伸ばし顔を上げ、カーテシーをした。久しぶりだ。きちんとできたかしら。一瞬、王と王妃の目が見開いたような気がした。


 メルの席は、レオナードと王妃の隣だった。テーブルには、お茶と色とりどりの美味しそうなお菓子が置かれていた。

「メルと言ったな。レオから聞いた。君の作った薬で一命をとりとめた。酷い苦痛から解放された。感謝する。ありがとう。それだけでなく、騎士達に薬を提供してもらったと聞いている。ありがとう」

 王が頭を下げ、微笑んだ。


「あなたが、レオナードの寵姫になるのね」

「母上!」

「だってそうでしょう。いくら思い人でも貴族出でなければ、寵姫どまりだもの」

 レオが真っ赤な顔をして、王妃に抗議の声をあげる。

 メルは「?」という表情で首を傾けて、レオナードを見る。

「気にしないでくれ」

 赤い顔をしたレオナードがメルから恥ずかしそうに視線をそらした。


「ねぇ、ねぇ、メル、メルは、あの毒蛇が住んでる森に住んでるって本当?」

 テラード王子が目を輝かせながら聞いてきた。

「えぇ、そうですよ」

 と微笑んで答えた。まだ幼い王子相手ならそれほど緊張しない。

「すごーい。どうやって暮らしてるの?」

 目を大きく開けて、聞いてくる。

「私も聞きたい」

 とアンナ王女も身を乗り出して聞いてきた。

 メルは、毒蛇の住む森の生活について話した。毒蛇の苦手なハート型の葉のこと、ぴーちゃんとクゥーと暮らしていること、洞窟に暮らしてること、森の恵みで生活していること、動物を治療していること、ホープの演奏を動物達が聴きにくること等……。


 テラード王子とアンナ王女は、メルのて森での生活に興味があるようで、目を大きく開け、身を乗り出しながら話を聞いてくれた。「わぁー、メルの家に行ってみたいな」と言ってくれた。「ぜひ」とメルは、微笑んだ。


「そうだ。メル、ホープの演奏を聴かせてくれるか。街で有名だと聞いた。心が癒され、心が穏やかになると。なんでもけんかが減り、街の治安も良くなったと聞いている」

 王が言う。テラード王子とアンナ王女と話したことで少し緊張がほぐれてきた。

「もちろんです」


 今日の目的は、ホープの演奏だった。演奏するのは当然だ。メルは、持参したホープを王宮侍女に預けていたのを受け取る。立ち上がり、椅子を後ろに引き、礼をし、座り直し、深呼吸をすると、演奏をはじめた。


 ポロン、ポロン、ポロポロポロン……

 ポロポロ……


 メルは、孤児院の子供たちが好きな曲を演奏した。母を思って作った曲と夜の星空を見ながら作った曲だ。


 きれいで、透き通るような、心地いい音色。メロディーに合わせて暖かい優しい風が吹いている。その風に合わせて、中庭に咲く花や木の葉は静かに揺れている。


 弾き終わると、王と王妃、レオナードにテラード王子、アンナ王女が立ち上がって拍手をしてくれた。近くにある木の枝には、りすや鳥たちが沢山いる。演奏を聴いてくれていたようだ。王、王妃、テラード王子とアンナ王女はびっくりして目を丸くしていた。レオナードはもう慣れたものだ。笑顔だけ。


「感動したわ。とても素晴らしかったわ」

 王妃は、ハンカチで、涙を拭いていた。

「あぁ、想像以上だった。心が癒される綺麗な音色と曲だった。ありがとう」

 王は笑顔で言った。

「お星さまが見えるようだったわ」

「流れ星が目に浮かんだよ」

 アンナ王女とテラード王子が笑顔で言う。

(これは、夜空の星を見ながら作った曲のことね。 良かったわ。喜んでもらえて、うふふ、嬉しいわ)

メルは、安堵し、立ち上がって深々と頭を下げた。


(さぁ、これで帰れるわ。早く緊張から解放されたいわ)


***


 なぜ、まだ帰れないのかしらとメルは思う。

 テラード王子とアンナ王女は、「またお話と演奏を聞かせてね」と言って、侍女に連れられて、部屋に戻っていった。メルは、笑顔で、手を振って見送った。 今、中庭には、王と王妃とレオナードとメルの四人だ。


「メルさんは、平民なのよね。とても立ち振る舞いがきれいね」

 と王妃が聞いてきた。

メルは、ドキッとする。王と王妃に嘘ついてることに罪悪感がわく。自然と顔を下に向け答えた。

「メルは、貴族に憧れてて、『公爵夫人の日常』の本を熟読しているだ。そのせいだろう」

 レオがフォローを入れてくれた。レオ、ありがとうと心の中でメルは感謝する。


「そうなのね。そういえば、公爵夫人で思いだしたけど、メルローズ公爵が病に臥せているらしいって噂があるわよね。どうなの、陛下」

 メルは、自然と顔が上に向く。

「あぁ、そうなんだよ。優秀なメルローズ公爵が倒られて、公務は大変だよ。メルローズ領といえば、この国で一番栄えてる領地だからな」

「父上、本当ですか。なぜ、メルローズ公爵が?」

「なんでも、愛娘のアマリリス嬢が行方不明らしいんだ。家を出て行ってしまったらしい。捜してるようなんだが、見つからないそうだ。夫人も病気で亡くなって、落ち込んでいたところに愛娘もだろう。辛いだろう。とても仲の良い家族だったし、公爵は、夫人と娘を溺愛していたからな」


レオナードは、目を見開いて尋ねた。


「どうして、アマリリス嬢は、家を出てしまったのですか? どうりで学園に来ていないはずです」

「公爵の妹のクレオナ元侯爵夫人が離縁して、公爵家に娘デージー嬢を連れて戻ってきたのは知ってるか?」

レオナードは頷く。

「どうも、その二人が、アマリリス嬢を屋根裏部屋へ追いやって、部屋に閉じ込めていたらしいのだ。外に出すこともさせず、支給していたお金は二人がすべて使っていて、ドレスや贅沢品を買い、アマリリス嬢には何も買い与えてなかったそうだ。王立貴族学園にも行かすつもりはなかったらしい。病気のため行けないと学園側に連絡していたらしい。実際は、入学前にアマリリス嬢は、もう公爵家を出て行ってしまっていたらしいが……。妹のクレオナはアマリリス嬢を捜しもせず、兄の公爵にいなくなったことを連絡すらしてなかった」


 (えっ、私、捜されていなかったの。 あんなに見つからないように気を付けていたのに……)

 メルは驚く。


「公爵が頻繁にアマリリス嬢に出していた手紙やプレゼントも本人には手渡されていなかったそうだ。多分、アマリリス嬢は、閉じ込められて外にも出れず、父親の愛情も感じられず、悲観して家を出たのではないだろうか? 公爵は、多忙だから、妹や従妹が側にいてくれたら、アマリリス嬢はさみしい思いをすることがないだろうと思っていたらしいのだが。公爵は、妹に大激怒して、二人を公爵家から追い出したよ。必死になってアマリリス嬢を捜していたが、つい先日倒れてしまったんだ。娘に悪いことをしたともう一度会いたい、無事でいてくれ。と言ってたそうだ」

「ひどい話ね。アマリリス嬢が不憫だわ。公爵も。なにをクレオナは考えてるのかしら、きっと嫉妬よね。公爵家は家族仲が良いし、アマリリス嬢は素直で綺麗なお嬢さまだからね。夫婦仲が悪く離縁して困っているクレオナを兄の公爵が受け入れてくれたのに。まったく公爵の恩をあだで返して。公爵が娘を大切に思っていることを知っているでしょうに」

王妃は、怒っている。

「では、私がアマリリス嬢に送った手紙や花も本人には渡ってないのでしょうか?」

「そうだろうな」

レオナードは、肩を落とした。

話は、メルの存在、そっちのけで、王と王妃とレオナードがしている。メルは、ただその話を聞いていることしかできなかった。


 (お父様は、昔のように私に手紙やプレゼントを送ってくれていたのね。私を変わらず大切に思っていてくれてたのね。

 そして、お父様は、いなくなった私を必死に捜していてくれていたのね。なんてことなの、私は、お父様の思いも知らず、見つかってまた閉じ込めらないように逃げ回っていたわ。ごめんなさい。お父様……)


「メル?」

「メルさん?」

 レオと王妃の声で、メルは、ハッとなる。


 メルの頬は、冷たい。ツーと涙が目から流れていたようだ。流れ出したら、止まらない。目から涙が次々出てくる。

「うっ」

 メルは、ハンカチを出し、涙をぬぐう。しかし、止まらない。その後のことはメルは、よく覚えていない。


「憧れていた貴族の醜聞を聞かせてしまってごめんなさいね」

 王妃が言ってくださって、お開きになったような気がするとメルは思う。


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