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不思議な森

 

 屋敷から街まで行く間には、緑豊かな大きな森の脇を通る必要がある。ここは、ひとりで歩くには、明るいうちに通らないと怖い。緑豊かな森だが、毒蛇が生息しているため、森の中に入る人はいない。

 森に入り、行方不明になった人が何人もいるらしい。毒蛇に噛まれたのだろうと言われていた。


「チュン、チュン」

「かわいい葉ね。これは何の葉かしら」

 ぴーちゃんがハート型をした可愛い葉を口ばしに挟んでいた。アマリリスは、葉をぴーちゃんからもらい、眺める。可愛らしい形の葉に自然と頬が緩む。


 アマリリスは、今、森の脇を通っている。自然と早歩きになる。早く、早く、森の側を抜けなくては。毒蛇が出てきたら怖いわと思いながらアマリリスは、歩く。すると、目の前を飛んでいたぴーちゃんが、森の中に入っていった。


「えっ、ぴーちゃん。そっちはだめよ。危ないわよ。こっちにおいで」

 毒蛇に襲われたら大変だとアマリリスは思い、慌てる。


 ぴーちゃんは、止まり、アマリリスを見るが、また森の中へ飛んでいく。

「チュン、チュン」


 また、止まり、アマリリスを見るぴーちゃん。こっちにおいでと言っているようにアマリリスは、感じた。


「どうしましょう。毒蛇がいるかもしれないのよ。でも、ぴーちゃんがいないのは心細いわ」

 アマリリスは、悩みながらもぴーちゃんの後を追って、森の中に入っていった。


 森に入ってから、馬車の音が聞こえてきた。アマリリスは、振り返り、木々の間から道を見ると、公爵家の紋章がついた馬車が通っていた。

「きっと叔母とデージーね。見つからなくてよかったわ」

 そう安堵しながら、ぴーちゃんを先頭に森の奥へ進んでいった。


 ***


「ここは何?」


 高い木のない開けた場所に出た。そして開けた場所の先には、アマリリスの背丈の二倍の高さがある大きな岩らしきものがあった。岩の上からつるが伸び、つるには緑の葉と小さな白い花がさいており、岩全体をおおっている。


「きれい」

 つるについてる花をアマリリスは、触る。

「うん?」

 花を触っていると偶然裏に空洞があることにアマリリスは、気づいた。つるの葉と花をどかすと、裏は洞窟になっていた。

「誰かいますか?」


 洞窟の中は、ひんやりとし、人が五人ほど寝れるぐらいのせまい空間だった。アマリリスは、つるを束ねて外の光で洞窟の中を見る。何もなく、人も動物もいた気配がない。

「ここ、住めそうね。つるをたらしておけば、中にだれがいるかわからないし防犯になるわ!」

 ぴーちゃんが口ばしに種を加えていた。アマリリスは、それを受け取る。今度は、口ばしで土を叩く、ここに埋めてと言っているようだ。アマリリスは、そこに種を植えた。


「何の種だったのかしら。楽しみね」


 と言いながらぴーちゃんの頭をなでる。すると、またぴーちゃんは、飛び立ちまた種を持ってくる。土を叩く、アマリリスは、植える。これを、五回ほど繰り返した。


 その後、アマリリスは、ぴーちゃんと洞窟のまわりを探索した。くるみの木をはじめ、沢山の木の実が生えていた。きのこや薬草、食べられる野草や花が生えてあった。素敵だわ。なんて豊かな森なのだろう。とアマリリスは、思いながら、今度は、洞窟の岩に沿って歩いてみる。周りにある茂みを歩くと岩から湧き水が出ている場所を見つけた。透明感があり、陽の光があたり、水がきらきらしている。


「なんてきれいな場所なの。この水は、この岩から染み出ているのね」


 足元に水が垂れているところがあり、そこに両手を置き水を溜め、アマリリスは、飲んでみた。


「美味しい。これは飲める水ね。ぴーちゃんにもあげるわ。ここに器をおいて水を貯めないといけないわね!」

「チュン!」

「あら、この植物、私がずっと探していた幻の『命の葉』ではないかしら。古文書にのっていたものと同じだわ。こんなところにあったなんて」

「チュン……?」


 命の葉は、水が湧き出ている岩の側に生えていた。とげとげとした葉は分厚く透明の果肉が入っている。この果肉は、万能薬になるのだ。


「何かこの湧き水には、特別な何かを感じるわ」

「チュン!」

「ああ、これがお母様が生きている間に見つかれば……。助けることができたのかしら。でも、これがあれば、これからどんな病気の人も治してあげることができるはずだわ」


 そう思うと、アマリリスは、体の中から力が沸いてくる気がした。優しかったお母様。いつも微笑んでいたお母様。助けられなかったお母様……。もう、目の前で誰かを失うのは、いやだ。とアママリスは思った。

 気が付くともう日がくれていた。洞窟の中に入り、くるみを食べながら、これから、どうするか。水もある。食べる物もある。住むところ(ここの洞窟)もある。お金がなくても生きてはいけそうだ。でも、少しはやはり必要だ。とアマリリスは、今後のことを考える。


「そうね。私は、お母様の病気を治すために沢山の本を読んだじゃない。その知識を使って薬草から薬をつくり、売ればいいわよね。『命の葉』も見つけたことだし。そうよ。そうしましょう!」


 外からザーザー、ポツポツと音が聞こえる。

「雨が降っているようね」

 アマリリスは、ぴーちゃんの頭をなで、眠りについた。洞窟の中は、寒くはなく、心地よい暖かい空間だった。


 ***


 昨夜の雨はやみ、今日は、晴天だ。

「まぁ、なんてことなの!」

 朝になり、洞窟から出ると、昨日、ぴーちゃんがもってきた種を植えたところに植物が生えていた。


「この大きな木はヤシの木よね。持ってきた植物の本と冒険小説に書いてあったわ。この国では見たことはないけれど、暖かく海の側で育つ植物だわ。この国は、温暖だけれど海はないのに、どうしてかしら」

「チュチュン!」

「これは、バナナよね。こっちは、さつまいも」

 ひっこぬいてみる。沢山のさつまいもが根についている。隣には人参の葉がある。こちらも引っこ抜く。立派な人参ができていた。

「すごいわ」

 他にもバナナの木やヤシの木の下にはいちご等のベリー、ハーブが生えていた。

「昨日植えた種からもう植物が育つなんて不思議な場所だわ。さつまいもが一日で育つなんて考えられない。……この環境、土や水に何か特別な何かを感じるわ」


 木の上にある大きなヤシの実をぴーちゃん率いる小鳥たちが口ばしでつっつく。下に落ちてきた。

「ありがとう」

 アマリリスは、小鳥たちに手を振る。

「固い実ねえ……」

 近くにある石で叩き、二つに割る。

「わあ、本で読んだ通りだわ。この外皮で紐が作れそうだわ。この殻の部分は器になるわね。白い果肉は食べられるわ。たしか、オイルにもなるのよね。中にあるこの液体は飲めるのよね。薄い砂糖水のようね。美味しいわ!」


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