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王太子

 薬を大きな麻袋に入れ、アレルが、馬に乗せた時、ミャウと共にライトお爺さんが現れた。

「メル、元気か? 長雨が続いていたから、心配で来てみた。街にも来てなかったようだったからな」

「ライトお爺さん! ミャウ!」


 メルは、嬉しくなる。レオナードとアレルは、初めて会う。メルは、二人をライトお爺さんに紹介する。ライトお爺さんは、メルとレオナードの様子を見ている。レオナードがメルに向ける眼差しを見て、「ほぉー」と意味ありげに呟いた。


「メル、ミャウにまた、ヤシの実のジュースをくれるか。あれが大好きでな」

メルは、頷き、ぴーちゃんを呼び準備している。ミャウは、メルの側に向かった。ライトお爺さんは、メルの様子を確認すると、レオナードに小さな声で、話しかけた。


「君は、メルを慕っているのではないか?」

レオナードは、目を大きく開け、頷くが、なぜ知っているのか訝しむ。


「メルは、まるで聖女のようだな。方法はいくらでもある。時期を誤るな。そう言えば、遥か昔、この森に様々な災いからこの国を守り、人と動物の身体と心を癒す聖女がいたな。聖女は、王子に見初められて、伯爵家に養子に入り、国母になったという記録があったな……」


 ライトお爺さんは、空を見上げ微笑みながら呟く。レオナードは、はっとして、ライトお爺さんを見る。レオナードの心の中にあった身分の差を解決できるような気がして、ほっとする。レオナードは、ライトお爺さんに礼を言おうとしたが、ライトお爺さんは、メルの洞窟の中に入ってしまった。レオナードは、メルへの思いにライトお爺さんから背中を押されたように感じた。覚悟を決める。

(メルがアマリリス嬢でなくても、方法はある。もう私には時間がない。悩んでいる場合ではない。まずは、アマリリス嬢か確認しよう)


 レオナードが帰る時、

「メル、すまない。私の母が、メルに会いたがっているのだ。会ってもらえないだろうか? クリームの礼とホープの演奏の評判を聞いて、聴きたいと言っているのだ。だめだろうか?」

 レオナードは、懇願する。

「頼む」


 (レオは、私を大切に思ってくれているし、会ってあげたいけど……。でも、見るからに高位貴族よね。私の身元ばれないかしら。でも、もう平民生活になってだいぶ時間も経ったわ。平民に馴染んでいるから、きっとわからないわよね。孤児院にきた貴族令嬢も私のことわからなかったものね。私も知らない令嬢だったけど……)


「わかりました」

 メルは微笑み、頷いた。



***



「えっ。ここって、王宮よね」

 ぼーっと目の前に建つ王宮を見ている。一歩後ずさる。レオナードとアレルに連れられてきた。今日は、レオナードと約束したレオナードの母に会う日だ。


「あの、レオ、あなたって、もしかして……」

 メルは、冷汗がでてくる。顔の色は真っ青だ。


「メル、実は、私は、この国の第一王子、レオナード・サンパチェンスなのだ。身分は、その、聞かれなかったからな……」

 視線をそらしながらレオナードは言う。


 レオナードは、高位貴族どころではなかった。まさかの王子様だったのだ。それも第一王子。王太子だ。いずれ次期国王になる人だ。


 メルは、身分は、確かに聞かなかった。聞いて自分の身分がばれるのが怖かったからだ。メルは、レオナードが王太子とわかって、今までの言動が、しっくりきた。

(レオが、私に感謝しているって何度か言っていたのは、この国の王太子だったからなのね。なんで、私、気付かなかったのかしら)


「レオナード殿下、名を呼び捨てるなど数々のご無礼大変申し訳ありませんでした」

 メルは、殿下を呼び捨てしていた。失敬にあたる。深々と頭をさげメルは、謝罪した。


「やめてくれ。私が許したのだ。今まで通りに接してくれないか」

 レオナードは、寂しそうな顔をする。メルは、それは無理だ。高貴すぎる。恐れ多いとメルは思う。


「それは、申し訳ありません」

「すまない。今まで通り接してほしい。命令とさせてくれないか」

 レオナードは、申し訳なさそうに言う。殿下の命令なら、聞かないわけにいかないわとメルは思い、


「承知しました。レオ」

 と微笑む。レオは、ほっとしたように笑顔になった。


「良かったですね。レオナード様。メル、私は、レオナード様の親友であり、側近のアレル・サイネリアです。私とも今まで通りに接していただきたい」

 レオナードとアレルの間には、主従関係があることにはメルは、気づいていた。

(サイネリアって、サイネリア侯爵家のことよね。アレルは、サイネリア侯爵家のご子息なのね。やはり、私の見立て通り高位貴族だったのね)


「承知しました。アレル」

 メルは、微笑む。アレルも、ほっとしたように笑顔になった。


(ちょっと待って。レオが王子だったら、今から会う予定のレオの母って……)


 メルの顔から、血の気が引き、また真っ青になる。

 (王妃……)


「レオ、これから会うのって……」

「大丈夫だ。心配しないでくれ」

 レオナードは微笑んだ。


 レオナードとアレルに王宮の一室に案内された。ぴーちゃんとクゥーは、門番に預けている。


 中には、王宮侍女が三名いた。三名の侍女たちがメルの身支度を整えてくれた。

 (そうよね、今から王妃様にお会いするのだもの。普段の恰好では失礼よね)

 湯あみをすませ、マッサージをしてもらった後、

「レオナード殿下からです」

と飾りがなく、裾が少し広がっているシンプルな白いドレスを着せられた。 シンプルではあるが光沢があり、上質な生地と仕立てがされているのはよくわかる品だった。そこに深い青の上質なサファイアのついたシンプルなネックレスとイヤリングをつけ、髪をゆるくアップにされた。軽くお化粧をしてもらい、鏡を見た。


「大変お綺麗です」

 と侍女からうっとりとした顔で声がかけられた。メルも自分を見てびっくりした。自分の姿を鏡でちゃんと見るのは久しぶりだった。孤児院にある曇った鏡や街にある店の窓や森の小川に映る自分の姿しか見ていなかった。


 (これ、わたし? お母さま?)

 その鏡に映っているのは、艶のある金髪に透明感のある白い肌、エメラルド色の大きな瞳、薄い唇に形の整った顔をした美少女だった。よく見ると母親に似ていた。母親は、サンパチェンス国一番の美女と言われていた。社交界の華、妖精と言われるほど、可憐できれいな人だった。


「メル、準備できたか?」

 ドアのノックの音とともにレオナードの声が聞こえた。侍女がドアを開け、レオナードが部屋に入ってきた。レオナードも街で会うラフな恰好から王族らしい恰好に着替えていた。


 レオナードはメルを見ると、青い瞳をした目を大きく開け、口を手で押さえながら、

「なんと、すごく、きれいだ。メルは、妖精のようだな。いや、天使か?」

 感嘆の声をあげる。少し顔も赤い。

(いやいや、レオ。私は普通の平民よ。天使なんて……。レオなりにきっと褒めてくれてるのよね)


「うふふ、ありがとうございます。似合っていますか? 素敵なドレスとアクセサリーご準備いただき、ありがとうございます」

 メルが微笑むと、

「もちろんだ。さぁ」

 とレオナードは恥ずかしそうに言い、手を出してきた。メルは、レオナードのエスコートのもと、王妃に会いにむかった。


 王宮内ですれ違う文官や騎士、使用人たちがメルたちの方をちらちら見ている。メルは、身元がバレないかドキドキする。鏡を見たメルの姿は、母親に似ていたからだ。母親は公爵夫人だった。知っている人も多くいるだろう。


 メルは、淑女らしからず、隠れるように顔を下に向け歩いていた。


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