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長雨

 

「あれ、メルは?」

「帰ったよ」

 と子供たちが言う。


 レオナードは、先ほど、偶然、孤児院で、メアリー侯爵令嬢と会ってしまった。メアリー侯爵令嬢が話しかけてきたため、無下にすることもできず、得意の笑顔を浮かべながら話に相槌をうっていた。頭の中は、メルは、何をしてるんだろう。どこにいるんだろう。とメルのことで頭がいっぱいで、メアリー侯爵令嬢と何を話したかは覚えていない。


「いつだ?」

「少し前」

 レオナードは、アレルと馬で森の入り口に急いでむかった。


 (少し前なら追いつくだろう。……しかし、追いつかなかった。追い越したか? いや、そんなはずはない。愛しいメルを見過ごすなんてことはないはずだ)

 レオナードの気持ちは、落ち着かない。嫌な予感がする。


「メルに会いませんでしたね。どこかお店に寄っていたのですかね?」

「そうかもしれないな。少し待ってみよう」

 レオナードは、アレルと待つが、メルは来ない。


 既に何台もの馬車が前を通り過ぎている。薄暗くなり、雨がポツポツ降り始めてきた。


「しょうがない。もう遅い。帰ろう。リサがメルを護衛していたはずだ。後で聞いてみる」

「そうですね」


 (今日は、ついていない。メアリー侯爵令嬢には会うわ。メルには会えないわ。 その上、雨まで降ってきた。

 最悪だ……。 そういえば、メルと出会ってから森の入り口まで送らなかったのは初めてかもしれない)


 レオナードは、悲しげな表情で、空を見上げた。雨が、顔に当たる。

 なぜか、もう、メルに会えないような気がしてレオナードは、不安になった。


 ***


「メル様は、街から、森に続く小道を通って森に入っていかれました」

 リサが言う。なんとメルの家に行く、別ルートがあったのだ。

「そうか」

 レオナードは、外を見る。雨がザーザー降っている。



 今日は、メルが街に行く日だ。メルと会えなかった夜から、昨日、今日と雨が降り続けていた。雨が降ってると、気分も暗くなる。


 レオナードは、学園が終わり、孤児院へ行く。

「今日は、メルちゃん来てないよ」

 とマリーが寂し気に言う。

「孤児院に一日おきに来るようになってから、来ないの、初めてだな。雨だからかな。今までメルが来る日は、いつも天気が良かったもんな」

 とダルも寂しげに言う。

「確かにそうだな」

 トムも寂しげに頷く。

「メルちゃんが来てた日は、いつもいいお天気だった。じゃ、今日は来ないのね」

 マリーは、下を向き、残念そうに言った。


「そうか」

 レオナードは、悲し気に笑い、子供たちに字の読み書き、計算を教えた後、八百屋のハルさんのテントにむかった。


「今日は、メルは、来てないよ。お客が、並んで待ってたんだけどね。初めてだね。メルが休むなんて。客は、残念がってもう帰って行ったよ。考えてみると、今までメルが来てた日はいつも天気が晴れてたんだよ。きっと、雨の日は来れないんだろうな」

「そうか」

 レオナードは、俯き、悲し気な表情を浮かべる。アレルと森の入り口までむかう。


 どうしたのだろうか。レオナードは、心配だった。雨で来れないだけならいい。何か、また攫われたりしてないだろうか。しかし、確認する術がない。この森を駆け巡ってもメルの洞窟の家には着けないのだから……。メルもぴーちゃんやクゥーが一緒でないと家には帰れない。


 メルが街に来なかった日から二日後、今日はメルが街に来る日だ。しかし、まだ雨が降り続けている。五日も降り続けているのだ。この国では、めったにない長雨だ。


「今日も雨か。メルは街に来ているだろうか」

 レオナードは寂しげに呟く。レオナードとアレルは、孤児院と八百屋のハルさんのテントに行ったが、やはりメルは来てなかった。


 孤児院の子供たちは、拉致事件もあった後のため、メルのことを心配していた。マリーは、雨を見ながら、

「メルちゃんが泣いているみたい」

 とぽつりと言い、下を向いて泣きだした。 メルに一番懐いているマリーは、メルに会えないことが不安のようだ。レオナードもどうしようもないほど不安で、メルのことが心配だった。


 今、森の入り口にいる。雨は変わらず降っている。レオナードとアレルは、レインコートを着て馬に乗っている。

「アレル、メルの家に行こう。行けるかわからないが、じっともしてられない」

「レオナード様、もちろんです」

 レオナードとアレルは、顔を見合わせ、笑顔で頷き合い、森の中に入っていった。もちろん、蛇除け草は、持っている。


 森の中を駆け巡ってもやはり、馬車道に戻ってしまう。それでも、また森の中に入る。それを何回も繰り返す。すると、遠くから、ホープの音色が聞こえてきた。雨の音の中、かすかに聞こえる。初めて聞く曲だ。切なく悲し気な曲だった。


「レオナード様、この音。メルの……」

「この音に向かうぞ」

 レオナードは、メルのところへ行ける希望が見え心が弾む。音の聞こえる方に向かう。しかし、


「くそ、音は聞こえるのに。なぜ、着かない。メル、クゥー」

 と声を上げる。

「そうだ、動物は、聴覚に優れてるときく。アレル、クゥーを呼ぶぞ」

 レオナードは思いつき、期待を込めて呼ぶ。


「「クゥー」」

「「クゥー」」

「「クゥー」」


 アレルと大声でクゥーを呼ぶ。ぴーちゃんは、この雨の中飛ぶのは難しいだろう。そのため、クゥーを頼る。

 (クゥー、頼む。気付いてくれ)


 すると、がさがさと茂みの中からクゥーが顔を出してきた。

 (クゥー、よく来てくれた。またご褒美に肉をごちそうしよう)


 レオナードは、安堵した。

 レオナードとアレルは、クゥーの後を追って進むと、メルの住む洞窟のある開けた場所に着いた。


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