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拉致①

 

 今日は、メルが街に行く日。授業が終わったら、王宮に戻り着替え、メルのいる孤児院に行く予定だ。何やら教室の外が騒がしい。犬が吠えている。


「何かあったのか?」

 レオナードは、隣に座るアレルに聞く。

「そうですね」

 教師が外の様子を見るために教室のドアを開けると、ものすごい勢いで犬が入ってきた。「わぁ」 と教師が声を上げる。


 アレルがレオナードの前に立つ。令嬢達の悲鳴が上がる。

「クゥー?」

 アレルが、不思議そうに言う。レオナードもアレルの後ろから犬を見る。クゥーだ。クゥーがアレルのところに来る。危険だと思ったのか剣を持った護衛達が犬を切ろうとする。


「待て。この犬は、知人の犬だ。危険ではない」

 レオナードは言う。アレルがクゥーを撫でている。クゥーは、しっぽを振って静かにしているが、落ち着きがない。


「どうした。クゥー。お前の主はどうした?」

「クゥー」

 小さく鳴くと、寂しそうに頭を下に向けた。


 廊下から「こら待て」と男の声がする。教室に少年が入ってきた。ダルだ。


「はぁ、はぁ、クゥ、速いよ。あっいた。良かった。大変なんだよ。メルが、攫われたんだよ」

 ダルの後ろから学園の警備のものが走ってきて、ダルを捕まえる。


「なんだって、どういうことだ。あっ、彼を放せ。知人だ」

 レオナードは動揺する。ダルの話を聞くため、アレルとクゥーと急いで外に出た。


 メルが攫われた経緯をダルから聞く。

「クゥーは、メルを助けるために、男たちに飛び掛かったんだ。でも、何処からか、毒のついた矢が放たれて、刺さって倒れたんだよ。あと、女の騎士もメルを助けようと剣を振りあげたところで、矢が刺さって倒れたんだ。今は、メルの薬を飲んで、女の騎士も無事だ」

 (女の騎士は、リサのことだろう。どうりでクゥーが落ち込んでるはずだ。)

 レオナードの表情は硬くなる。


「クゥーは、薬を飲んで、元気になると、すぐメルの乗った馬車を追おうとしたんだ。でも、神官が、クゥーだけでは、またやられてしまうかもしれない。お前らに知らせて、クゥーと助けに行った方がいいって言われてきたんだ。

 俺たちでは、この学園には入れないから、孤児院の連中皆で来て、騒ぎを起こして、そのすきに俺とクゥーでお前たちに会いに来た。すまない。メルを助けてくれ。俺たちの力じゃ無理なんだ」


 今のレオナードは、顔が真っ青だろう。恐れていたことがおこった。心臓の鼓動が早く、どきどきする。

(あぁ、愛しいメル。どうか無事でいてくれ)


 メルの薬は、効果抜群だ。それに癒しのホープの演奏も人気だ。そして、綺麗で優しい。攫ってでも欲しがる人間がいてもおかしくはない。


「もちろんだ。知らせてくれてありがとう。大丈夫だ。俺たちが必ず助ける。 クゥーも手伝ってくれ」

 レオナードは、元気のないクゥーを撫でると「ワン」と勇ましく吠えた。ダルは、ほっとした。


 アレルと顔を見合わせ、うなづくと、学園の馬と剣を借り、神官とリサから話を聞くため、クゥーと共に急いで孤児院にむかった。


 学園の門には、門番ともめている孤児院の子供たちが大勢いた。

 ダルが、子供たちに「帰るぞ」と声をかけた。

 子供たちは、何事もなかったように門番に手を振ってダルと共に帰った。


 ***



「殿下、申し訳ございません。メル様をお守りできませんでした」

 リサは深々と頭を下げた。


「いや、状況は聞いている。無事で良かった。で、メルを攫った奴に心当たりはあるか?」

「はい、以前ご報告しましたメル様の薬を毎回買いに来る深緑のフードをかぶった男です。メル様の乗る馬車にその男が見えました。持っていた剣に紋章がついてました。あれは、エビスシア国の王族の紋章でした。これは、計画的な犯行だと思われます。子供達を捕まえたり、矢を放ったのは従者でしょう」

 エビスシア国という名を聞いてレオナードとアレルは驚く。

「なんだって」

「レオナード様、まずいですね。国境を越えられてしまったら、こちらからは動きにくくなります。この国にいる間にメルを助けないと」

 レオナードは、考え込む。

「あぁ、リサ、王宮に戻って、陛下に報告をしてくれ。そして、国境にむけて、騎士の応援を頼む。私とアレルは先に追いかける。馬車なら、すぐ追いつくだろう。国境のイベリス領に連絡も一応頼む。検問を強化するよう。多分、目的はメルの薬だろう」


「承知しました。殿下、敵は矢を放ちます。戦いに慣れている国の者です。 十分にお気を付けください」

 レオナードとアレルは頷く。


「殿下、メルの薬です。お持ちください。メルは、常に子供たちのために薬をきらさないよう置いておいてくれてるのです」


 神官がメルの飲み薬と塗り薬を持ってきてくれた。それを受け取ると、クゥーを先頭にメルが乗った馬車をレオナードとアレルは、追った。


 どの国も他国の者が潜入しているが、まさか、隣国のエビスシア国が絡んでいるとはレオナードは、思ってもみなかった。



 メルの薬は効果抜群で、魅力的だ。騎士達に渡したいだろう。毎回、メルの薬を買いに来ていたのはその効果を確認するためかもしれない。メルの薬が目的であれば、メルの命は無事であろう。 そう手荒な真似はされないであろう。


 ***


 (クゥーと女性騎士は大丈夫かしら。薬があるから、大丈夫よね)

 無事であるようメルは、心の中で祈る。


 そして、メルは、目の前に座っている深緑のフードをかぶった男を睨みつける。この男、見覚えがある。毎回、薬を買ってくれてた男だ。


 男は、フードを取る。短髪の黒髪にすっきりとした細い目にルビーのような赤い瞳をした顔の整った男だった。


「手荒な真似をしてすまなかった。私は、エビスシア国の第二王子コーリキュラ・エビスシアだ。君を私の妻にしたい」

「はぁ?」

 メルは、びっくりする。 (まさかの拉致犯は、隣国の王子。さらに妻ですか?)


「すまない、君の後をつけさせてもらった。君は、毒蛇の住む森に住む平民だ。それが、一国の王族の妻になれる。私は、君の売る薬だけでなく、君の容姿、優しさに惚れてしまった。平民のままでは、私の妻にはできない。まず、我が国の貴族の養子になり、淑女教育を受けた上で、さらに高位貴族の養子になる。その後、私と結婚し、妻となるのだ」

 口角を上げ、男は私を見ながら言う。


(えっ、私を貴族に戻らせるの? そして、また母が生きていた時に学んだ淑女教育を受けるの? そして、妻?)

 メルは、拉致して勝手に人を妻にするという考えに驚愕する。


「それに、我が国は、いずれこの大陸を制覇する大国となる。この国も、いずれ我が国の領土になる」

「なんですって」


 メルは、目をまるくする。この国には、お父様、レオ、アレル、ハルさん、ボブさん、神官、孤児院の子供達、沢山の知人がいる。メルローズ領の領民だって。森の動物達もいる。怒りがわいてきた。


「降ろしてください。私は、この国を愛しています。私は、あなたの妻にはなりません」

 メルは、馬車のドアを開けようとした。

 すると、目の前を剣が通り過ぎた。剣がメルとドアの間にあった。


「静かにしろ。お前は、我が国に連れて帰る。そして、街で売っていた薬を騎士の為につくり、私の妻となるのだ」

「なんて勝手な」

 メルは、また男を睨みつける。男は、ニヤッと笑う。


 すると、馬車が急に止まった。馬車の馬がヒヒ―と鳴いている。暴れている。馬車が上下左右に揺れる。メルは、体制を崩し、あちらこちら馬車の壁に身体が当たる。男もだ。すると、馬車の揺れた衝撃から、ドアが開いた。

(チャンスだわ!)

 メルは、体制を崩しながらもドアから外に転げ落ちた。男のあっと言う声が後ろから聞こえた。


 地面に落ちると、倒れたまま、周りを見回す。ここは、毒蛇の住む森の側だ。

 馬車の周りにいたエビスシア国の従者の前には、森に住む毒蛇が何十匹も道に出ていて、道を塞ぎ攻撃態勢で威嚇している。その後ろには森に住む熊やいのしし、鹿や小鳥など沢山の動物たちがいて、威嚇しながら、道を塞いでいた。熊の頭の上には、ぴーちゃんがいた。

(ぴーちゃんが森の動物達に助けを求めてくれたのね。ありがとう)


 すると、動物達がいる逆側から

「ワンワン」

 クゥーが駆けつけてきた。倒れているメルの前に立ち、従者に威嚇しながらメルを隠す。

 (クゥー、無事だったのね。良かったわ)


「メル」

 クゥーの後から、馬に乗ったレオナードとアレルが向かってきている姿が目に入る。

 メルは、それらの光景を見て、涙が出てきた。


 (みんな、助けに来てくれたのね、ありがとう)


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