感謝
メルが、レオナードに、薬を渡してから、一週間が過ぎた頃、またレオナードとアレルがメルの前にいる。ここは、教会に併設してある孤児院。
メルが、薬を売っている時に、孤児院の女児マリーが高熱で苦しんでいるので助けてくれと孤児院の最年長のダルが助けを求めてきた。メルは、ダルと一緒にこの孤児院に来て、ここの子供達と出会った。
この孤児院には、五〇人ぐらいの子供がいる。孤児院には一五歳までいられる。 一六歳になると成人したとみなされて、孤児院を出て、自立しなければならない。
メルは、薬を売り終わると、ここで、子供達に文字の読み書き、計算を教えている。 それだけでなく、孤児院の運営が国からの寄付金だけでは厳しい現状を聞き、孤児院の裏にある荒地を耕し、メルの庭や森にある果物や野菜、花などの種をあげ、植え育てている。だいぶ収穫ができ、孤児院で食べたり、売ったりしている。
(私は、きっと、動物たちが側にいてくれても、人恋しかったんだわ)
メルは、孤児院に来ることがとても楽しかった。
「メルがここに居ると聞いてね。ありがとう。メルのおかげで、父は元気になったよ。感謝している。父からお礼をするよう言われてね」
レオナードは、照れながら言う。
「ありがとうございます。治ってよかったです。でも、お礼は大丈夫です。きちんと薬代はいただきましたので」
「いや、あれだけでは足りない。どうだろう、メルは貴族に憧れていると言っていただろう。その、ドレスや宝石、アクセサリーを贈りたいんだが……」
(今の私にドレスや宝石なんて、不必要よ。身に付ける場がないし、邪魔になるだけだわ。もともと公爵令嬢やってた時もドレスや宝石に興味なかったのよね。ドレスやアクセサリーなんて何であんな歩きにくい恰好しなくちゃいけないのかしらとか思っていたわ。 レオ、ごめんなさい。そもそも貴族に憧れているのは噓なのです)
メルは、心の中で謝る。
「とんでもありませんわ。今の私の生活では不必要です。お気持ちだけいただきます」
「それでは、困る」
レオナードは、引かない。そうだわ。メルは思いついたように言う。
「では、私のドレスではなく、この孤児院の子供たちに新しい服や美味しい食材を買ってあげてください。……あと、絵本や本も欲しいです。ペンや紙もです」
「そんなのでいいのか?」
「そんなのすら、ここにはないのです」
レオナードとアレルは、メルの言葉が心に突き刺さった。レオナードとアレルは、孤児院の中を見回す。子供たちは、着古した服を着ている。穴の開いた服を着ている子供もいる。痩せている子供たちが多い。古びた建物に床や壁も古びている。壁からは隙間風が入ってくる。遊び道具も絵本らしきものも見当たらないレオナードは、落ち込む。
(孤児院の現状を私は、よく知らなかった。国の寄付金を増やすよう再考しなくてはいけない。メルが来ているから初めて孤児院に来たが、こんなに孤児院の子供たちが貧しいとは知らなかった。私は、メルになんて恥ずかしいことを言ってしまったのだろう。嫌われないだろうか……。これからは、国をちゃんと見ていかないといけない)
レオナードは、前を見据え、意気込む。
すると、
「今日も収穫した野菜や果物、花、全部売れたぞ。それに、お前たちの作った帽子やバック、リース、すぐ売れちまったぞ。買えなかった親子が明日また買いに来るって言ってたぞ」
ダルは女児達にむかって言った。ダルは、茶色の短髪に、そばかすのある穏やかそうな雰囲気の背の高い少年だ。
「「やったー、嬉しい」」
女児達は、手を叩いて喜んでいた。
「メルちゃん教えてくれてありがとう。もっとたくさん作るね」
メルが、普段かぶっている帽子は、ヤシの木の葉で編んだ帽子だ。飾りで森に咲いていた花をつけている。この国でヤシの木が生えてるのはメルの庭だけだ。メルが、薬を売ってる時にお客さんから「かわいい帽子ね、売ってないの?」と何人にも聞かれたため、メルは、女児達に作り方を教えて、それを売っているのだ。 他にも森に咲いている花でリースや花とヤシの葉や藁と一緒に編んだバックやかごも作っている。他にはないとてもかわいく、おしゃれな仕上がりなのだ。材料は、メルが住んでいる森の中のものと孤児院で咲いたもの。材料費は無料だ。
(これで、女児達も仕事をし、お金を得られるわ。うふふ、良かったわ)
メルは、微笑んで、女児達の喜んでる様子を見ていた。
「メル、メルの薬の売り上げだ」
「あぁ、いらないわ。私の代わりに売ってくれたんだもの。労働の対価よ」
今日メルは、ダルに薬を売ってもらっていた。メルは、その間、孤児院で、女児達と帽子やバックを作っていた。メルは、現在、自分ひとりの生活には十分なお金があるため、孤児院で今日の薬の売り上げを寄付しようと思ったのだ。
「じゃ、これだけ労働の対価として、もらう。あとは、メルのだ」
(メルに甘えてばかりはいられない)
ダルは、売り上げから、銅貨を一枚取り、残りをメルに渡した。ダルにもプライドがあるようねとメルは、思い、頷いて微笑みながら受け取った。
「ダル、おつり間違えなかった?」
メルは気になっていたことを聞く。
「もう計算は、大丈夫だ。ハルさんからもお墨付きをもらったぞ」
とダルは笑いながら言う。ダルは、計算ができなく、メルが教えたのだ。
「良かったわ。ダル、がんばったわね」
メルは、微笑む。メルとダルはお互い顔を見合わせ、微笑みあっている。
(ハルさんから、お墨付きをもらったなら大丈夫ね。これで、孤児院で収穫した野菜や女児達が作ったバックや帽子をちゃんと売ることができるわ)
メルは、安堵する。
(あれ? レオがなんだかダルを睨んでるような気がする。どうしたんだろう)
メルは、レオナードの様子に首を傾ける。
レオナードは、メルとダルの様子が仲睦ましくて、不安と苛立ちを感じていた。
(メルは、ダルを慕っているのではないだろうか? あんなに仲が良いなんて……)
アレルは、メルの孤児院が自立できるよう補助している様子に感心していた。
(メルは、レオナード様が惚れるだけあって素晴らしいな。慈悲深い。やはり、聖女のような人だ……)
***
今、店舗が立ち並ぶメイン通りを、メルとレオナードとアレルと歩いてる。
「神官から聞いたよ。孤児院では、子供達に無料で薬やクリームを提供したり、子供たちに読み書き、計算、畑作り、帽子やバック等の作り方を教えたりしているのだな。読み書きができるようになれば、貴族のお屋敷で働くこともできる。子供たちが少しでも学力をつけて、将来の仕事の幅が広がるようにと……。神官が、感心して、感謝していたよ。私も鼻が高い。感謝している。ありがとう」
レオナードは笑顔だ。
(なぜ、レオが鼻が高いの? なぜ、レオが感謝しているの? にこにこ微笑んでる。 顔もなんか赤いわ。 日焼けしたのかしら、大丈夫かしら)
メルは、アレルを見る。
「メルは心優しいんですね。誰でもできることではありませんよ」
アレルも笑顔だ。
「そんなことはないです。たまたま、私は、森に住まいもあり、森の恵みで飲食に困りません。本の知識もあり薬を作ることもできます。恵まれてます。
ですから、困っている方を助けたいだけです。それに、薬の材料は、森にあるものです。飲み薬で使う瓶だけ、材料費がかかってるだけです。ですから、薬代も安くできるのです」
「メルのそういう謙虚なところもいいところだね」
レオが微笑む。
(私を聖女のような目で見ないでください。 私は普通の平民です)