家出
改稿しました。
大幅な加筆、修正をしました。
【タイトル・あらすじ、”聖女”→“聖女”】 ここは、サンパチェンス国。このビギニン大陸のちょうど真ん中にある内陸の海のない温暖な気候の国。
メルローズ公爵家の屋敷は、広い敷地に石造りの重厚な小さな城のような建物。庭には、色とりどりの花が咲き、噴水もあり、植栽は丁寧に整えられている。
アマリリス・メルローズは、このメルローズ公爵家の長女。艶のないぱさぱさの金色のロングヘアに綺麗なエメラルド色の大きな瞳をしている。小柄な痩せた体に二年も着続けているよれよれの粗末な服を着ている。粗末な服を着ていても、公爵令嬢らしい凛とした品のある雰囲気は持ち合わせている。
アマリリスは、一三歳の時に母親を病気で亡くし、父親は遠方の領地をおさめるために、ほとんど家にいない。一緒に暮らしているのは、叔母と、その娘である同い年の従妹。侯爵家と離縁して行き場をなくし、父親は、アマリリスが一人で寂しい思いをするのではと心配して叔母たちを家に受け入れた。
しかし、そこから、アマリリスの生活は変わった。今は一五才だが、アマリリスの待遇は、公爵家令嬢と呼べたものではない。父親が家にいないことをいいことに叔母のクレオナは、アマリリスを家の外へ出さないようにしていた。
そして、アマリリスが持っていたドレス、宝石、アクセサリーはすべて奪われ、従妹のデージーが身に付けるようになった。父親から送られてくるお金は、すべてクレオナとデージーのドレスや装飾品、豪華な食事に使われていた。気に入らない使用人はすぐクビにし、アマリリスの侍女もいつの間にかいなくなっていた。アマリリスの部屋は、デージーが使い、アマリリスは、屋根裏部屋に移された。
屋根裏部屋は、薄汚れた小窓と所狭しと置かれているベットと小さなタンスがあるだけだった。蜘蛛の巣やほこりが酷かったが、今は、掃除をし、だいぶきれいにはなっている。時折、ねずみたちや蜘蛛やムカデなどの虫が遊びに来るような場所だった。
自分の部屋から持ち出し、この屋根裏部屋のタンスにしまってある本ももう何度も繰り返し読んでいる。暗唱できてしまうのではないかというほど。小窓に遊びに来る小鳥達と戯れたり、遊びに来るねずみや虫たちの様子を眺めてる日々だった。
でも、大丈夫。もうすぐ、学園に通うことになり、外に出られるわと希望を持ちながら、生活するアマリリスだった。
一五歳になると、貴族は、王立貴族学園に通うことが決まっている。アマリリスは、これを楽しみにしていた。やっと外に出られるからだ。
今、小窓の縁には、ぴーちゃんが、ちょこんと立っている。ぴーちゃんは、クレオナたちが来る前に王宮で開催されたお茶会の時、アマリリスが、怪我して倒れていたところを助けた小鳥。青と白が混ざったような優しい青い色をしている。
アマリリスの食事は、パンとスープといった質素なものだった。ドレスも買ってもらえず、服は、メイドの服のお下がりだった。
「お食事です」
部屋の鍵をクレオナが持っているため、クレオナの侍女がいつも食事を持ってくる。すると、廊下からクレオナとデージーの声が聞こえてきた。
クレオナは、艶のある茶色のストレートヘアに目尻が吊り上がった細い青い瞳をしている。体は、細く、夫人たちの中では背が高い。デージーは、母親と同じ髪の色に巻き毛、目尻が吊り上がった大きな青い瞳をしている。少し母親より、背が低く、少しふっくらしている。二人とも煌びやかな派手な装いが好きだ。
「デージー、これから学園に通う制服を仕立てに行くわよ」
「二か月後には、学園に通うのね。楽しみ。お母さま、アマリリスはどうするの?」
不安気な様子で、クレオナに確認するデージー。クレオナは、面倒くさそうに言う。
「あの子は、通わないわよ」
アマリリスは、聞き耳を立てている。
(えっ、どういうこと。私、楽しみにしているのよ。貴族は、学園に通わないといけないはずだわ)
アマリリスは、学園に行けないのではないかと不安になる。
「でも、叔父さまからアマリリスの支度金と入学の手続きがされてるのでしょう?」
「そんなのどうにでもなるわ。病気で臥せていて通えないと学園側に伝えるわ」
(私は、病気で臥せてなんていないわ。あなたたちが、私をここに閉じ込めてるのよ!)
アマリリスは、理不尽な理由に酷く落胆する。
「そうね……。良かった。あの子がいたら私、なんか肩身がせまいもの。見た目だけは、あの子きれいだから」
「そうでしょう。ここは、私の生まれた家よ。そもそも私が格下の侯爵家に嫁いだのが失敗だったのよ。アマリリスの母親は伯爵家の出身。この公爵家に相応しいのは私よ。だから、この公爵家の令嬢はあなただけよ」
クレオナは、口角を上げ、笑い、デージーの頭を撫でる。デージーの父親は侯爵。デージーは、父親が侯爵であるため、公爵家の令嬢になることはできない。クレオナとデージーの自分勝手な解釈にアマリリスは、憤りを感じる。アマリリスの母親の伯爵家は、この国では、歴史があり、由緒ある家柄で、母親は、先々代の王の孫だった。クレオナとデージーの母親への侮辱に近い言葉にやりきれない思いをアマリリスは感じた。
「ええ、お母さま。レオナード殿下も入学されるのよね。お会いできるのが楽しみだわ」
デージーは、目を輝かせ、うっとりした様子で言う。レオナード殿下は、この国、サンパチェンス国の第一王子。
「そうよ。デージー、まだ殿下には婚約者はいないわ。この学園生活中に決められるらしいわ。いいこと。婚約者になれるよう振舞うのよ。あなたは、私の娘、きっと見初められるわ」
「はい。殿下の妻になれたら幸せよね。見目麗しく、お優しい方ですからね。お母さま、間違ってもアマリリスを学園に来させないでくださいね。殿下には会わせたくはないわ」
「もちろんよ。今まで通り、部屋の鍵は私がしっかり管理するわ」
クレオナの侍女が、部屋から出て行った。アマリリスは、絶望を感じた。
「まだ、私を閉じ込めてるつもりなのね。楽しみにしていた学園に通えないなんて……。まだこの狭い屋根裏部屋で過ごさないといけないの? もしかして、一生、ここに閉じ込められているのかしら……。学園に通える望みがあったからこそ、この生活を我慢できたのに……。もうここにいても希望もないわ。この家を出ていくべきだわ」
アマリリスは、希望を失い、絶望の淵に立たされ、家を出ることを決意する。小窓の縁にいるぴーちゃんを見た。
「ぴーちゃん、私、この家から出ようと思うの。どう? 一緒に来てくれる?」
「チュン、チュン」
ぴーちゃんは、鳴きながら、小窓を口ばしでつっついた。まるで、外に行こうと言っているよう。
アマリリスは、ベッドのシーツをビリビリと破り、紐状にし、破ったシーツ同士を結び、長い紐をつくった。紐をベッドにくくり、結び。残りを小窓から外にたらし、地面近くまで下す。
「そういえば、冒険小説でこんなシーンがあったわね。うふふ、わくわくしちゃう。いやだめよ。気を緩めたら、見つかっちゃうわ」
アマリリスは、大きく深呼吸をし、小窓から身を乗り出し、シーツの紐をしっかりつかまりながら下へ下へとゆっくりと降りて行った。地面に着くと、そっーと裏庭の門にむかった。
***
アマリリスは、屋敷の外に出た。
「はー、緊張した。脱出成功ね。裏門、開いてて良かったわ!」
「チュン!」
「うん、気持ちいい! 二年ぶりの外だわ。さて、ぴーちゃん、街に行くわよ」
アマリリスは、振り返り公爵家を見る。アマリリスは、母親が生きていた時の思い出を懐かしむ。寂しく、悲しくなる。アマリリスは、俯き、悲しみを振り払うように顔を横に振る。
(さようなら。メルローズ公爵家)
アマリリスは、街に向けて歩き始めた。