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05 嫁ぎ先の人間関係は複雑らしい

次の日、朝になっても体のだるさはとれなかった。

そして寝床でうだうだしていてわかったことがある。

通常、朝になると教会には人が来るものだけれど、しばらく見ていても本当に人が来ない。さらにわかったことは教会は聖堂があるから、基本的にいるだけで汚染がとれるのにとにかくたまる。

髪の黒さもおかげで変わらない。

ミネリが寝かしておいてくれるのをいいことに、起きて下に行ったのはお昼を過ぎていた。

ミネリは大きな木のテーブルに昼ごはんをちょうど用意していてくれたところで、ゆげが上るスープに果物、パンが並んでる。

教会というと前世では質素なイメージがあったし、自分がいた教会もそうだった。しかしここはミネリが暇だというだけあって、ごはんが充実してる。

暇にもほどがあるのではないだろうか。

「味はいかがですか?」

「おいしい」

思うところはあるものの、パンをちぎり少しずつ咀嚼すると甘味がしみわたる。弱ってる自分にはとてもありがたい。

良かったですとミネリはご機嫌に答える。

忌みの印は嫌われがちなので、今日はフードをかぶって顔を隠している。

隠しさえすれば問題はない。

おそらく何か私の見た目に、見た目以上の何かがあるのだろう。自分のことなのに自分でもなんで人をそんなにおかしくさせるのかわからない。兄弟にも見てもらったけれど、結局のところ魔術の類ではないというのが結論だった。

ミネリに尋ねる。

「ところで司祭様はいつくるんですか?」

「すいません…。司祭様にご連絡してるんですけど」

ミネリがお茶を入れながら、申し訳なさそうに言う。

ミネリは教会員として汚染の扱いにたけているわけではないらしく、自分に汚染が溜まっているのに気づいていない。

「ちょっと不思議なんですけど、ミネリ」

「はい?」

ミネリがお茶をこちらに進めながら返事をする。

ハーブの良いにおいが広がる。

「朝は通常教会で祝詞を上げると思うんですが、そのような音も何もなかったんですけど、それは…?」

どんどんミネリの波長が緊張していくのがわかる。

フードをかぶっていて顔が見えない分、見えているのは波長のみだ。人にも昨日の虫と同じく、線がある。汚染の黒だけではなく、色も様々で、人によっても個性がある。ミネリの波長もだいぶ覚えた。

その波長が、小刻みに震えている

。人が緊張したり、重圧を感じている時によく見る。

「えっと、あの、祝詞は時々しか…」

「時々?」

不思議になって突っ込む。

祝詞は前世とはちょっと違うけれど、こちらでは歌みたいな感じで、祝詞をあげることで聖堂がより動き出す。機械的な動きというよりは、祝詞の波長に刺激されて、聖堂の働きが活性化する感じだ。

聖堂の働きを教会では加護を受けると呼んでいて、小さな教会でも祝詞を唱えることで、聖堂を動かしその波長で人々の汚染が除去されているから、とても大事な仕事の一つである。

私は音痴だし、この祝詞があまり得意ではないのでやらない。

「えっと、あの、その聖堂が閉じてから、実は誰も…」

「閉じてから、ずっとですか?」

誰も祝詞を上げていないとは。

ちょっと愕然としてしまう。

職務怠慢もいいところではないだろうか。

「えっと、あの、教会のその認可を受けてからは、更新とか試験とかなくて、でも書類出せばその引き継ぎができるとかで…」

なにその胡散臭い管理。

唖然としてしまう。

「シスターも司祭様がいれば司祭様の任意で雇えるとかで、あの私あんまり祝詞が得意じゃなくて…」

私も得意じゃないから人のこと言えないけど。

二人して気まずすぎて黙りこくってしまう。

「ミネリ、出身はどちらでしたっけ?」

「隣の隣にあります。母がこのアフィリアなんです。」

「なら教会に勤めるのは反対なんじゃない?」

「教会はあまりこの国では受け入れられていませんが、教会だからといって嫌われているというよりも外部の者に対して門戸が狭い、という感じなんです。だから逆にここを出ていった母からすると、アフィリアに外の知識をより入れてほしいからと歓迎されました」

「素敵なお母さまですね」

ミネリは嬉しそうににっこりと笑う。

「そういう意味では、上皇后様は初めてここに来た教会員だから、歓迎されなかったのでは?」

彼女が聖堂の維持をしていたというのは中央教会では残ってる。

だが情報が少なくてほぼわからない。

「私も詳しくはないですが、教会が国政に影響力を持つのを嫌って、国からは歓迎されなかったみたいです。だから上皇后様は王宮の出入りも制限されてたとか。いまだに教会関係者は許可がないと王宮に入っちゃいけないとか、結構厳しいんです。しかも上皇后様は皇后として迎え入れられたけれど、仕事以外で接点はあまり喜ばれなかったみたいで、当時の皇王様は側妃をめとられたようです。」

なるほどね。

言外に上皇后様と王の間に、その手の付き合いはなかったということを言ってるみたいだ。

実際はわからないけれど。

どの時代も権力争いというのはついて回るらしい。

色々と思うところはあるけれど、ミネリの話を聞く。

「でも上皇后様は人気があったそうですよ。城内の聖堂もそのころは開いていて、国民のみなさんがいつでも行くことができましたし」

「今はあの状態じゃね」

ミネリが残念そうな顔になる。

「はい、とても残念です。上皇后様が亡くなってからなんです。立ち入りが禁止されてしまったのは。」

「なるほど。」

まだまだ事情があるらしい

「わかりました。司祭様には私が書いた書面を渡してくれてますよね?」

「はい、直接ではないですが、王城の使いの人に確かにお渡しするようにと渡しています。司祭様からもいつもそのように手紙を届けてますので」

来て早々に一応、手紙だけ書いてミネリに渡したのだ。

臨時で司祭とはいえ、曲がりなりにも司祭なのだから嘘はついていないだろう。

「ではもうしばらく待ちましょうか。司祭様もお忙しそうですし」

ミネリの顔に安堵の様子が現われる。

「では黒雪。午後はケーキ焼きますからお茶しましょう」

お菓子教室でも開いたほうがいいんじゃないかと思う。

髪にジワリとたまりつつある汚染を隠しながら、ミネリが入れてくれたお茶に手を伸ばした。

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