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04 嫁入りをギブアップしたい

「私たち教会員の居住施設です。お茶お出ししますね。どうぞおかけください」

教会の地下を抜け、さらに教会を出て、ミネリに案内されて来た小屋で自分はお茶を出されていた。

ここは教会とは雰囲気の全く違う可愛らしい家屋といった感じ。

暖炉があり木製の大きなテーブルに果物が載せられたトレイ、刺繍の入ったクッションの乗った椅子が四つ並んでいる。

乾燥させたハーブ類が天井の梁から吊り下げられ、暖かみのある部屋だった。

「ここのシスターはあなただけ?」

「お恥ずかしながら」

聖堂があるのにいるのは兼任司祭と新人っぽいシスターだけとは。

ミネリは陶器のカップに湯気のたつハーブティーを自分の前に差し出してくる。

ほんのりと匂うハーブティーに思わずカップを手に取る。

「ハーブはお好きですか? こんなこと言うとなんですが、暇で教会裏の畑でいろいろ作ってるんです。」

「これもあなたが?」

「そうなんですよー。教会といってもやりくりが大変なので、こうしてできるだけ自給自足しているんです」

ミネリが上を見上げる。

確かにドライにすべく吊るされたハーブは種々多様だった。

「やりくりが大変とは?」

ミネリの顔が曇る。

「私がここにきてからまだ2年ほどですが、この国の方々は悪い人ではないし、ひどい扱いもされないんですけど、あまり教会には来てくれないですね。だから教会の収入も少なくって、中央教会からも活動が少ないからと支援金もそんなに多くないんです」

教会のくせにこの歩合制みたいな支給の仕方はどうなんだろう。

前の人生の知識が時々こうして邪魔するが、教会の仕事は肉体労働なので、どうしても働きに比例して給金も入る。

「あなたはこの国の出身ではないんですね?」

「はい、派遣されてきました。それまで教会にいた人も派遣された人だったんですけど、心労がたたって辞めてしまって」

教会員なのに心労って。

先ほどからいちいち気になる。

「教会が小さいのもそのせいなんですか?」

「いえ、外から見るとわかりやすいんですけど、先程見ていただいた通路の奥は、城内にもつながって城の中にも聖堂があるんです。」

私が見たときはそんなに離れた作りじゃなかったけれど、まだ感覚がつかめない。

「本当はそことつながっていたんだそうです。昔は教会を経由して城内に参拝に来る人も多かったんですが、でも今は、その聖堂も手つかずらしく、私も見たことがなくて、王城内との行き来も封鎖されています」

「あんな状態でほっとかれてるの?」

「なんでも聖堂の整備ができる人がいないとか」

建前な臭いがプンプンする。

「黒雪はこちらに派遣されてたのは、聖堂が関係しているんですか?」

「そんなとこです。その件に関しては司祭様にお話をしたいのですが、司祭様はいつこちらへ?」

「…すいません。私もあまりわからないんです。司祭様といってもどちらかというと官僚って感じなんです。司祭はなり手がいなかったので、本当に臨時というか…」

そんなのでいいんだ。

呆気に取られていると、それを察したのかミネリが続ける。

「いえ、本来はそうではないと思うんです。こちらの国は聖堂を授かってから日が浅いとはいえ、由緒正しい皇国です。まだまだ教会との関係も日が浅いとはいえ…」

「私は仕事ができればそれでいいので気にしないでください。指示に関しては司祭様にお話をしてからと思っています。とりあえず今日はこちらで泊めていただきたいんですけど、できます?」

今度はミネリがあっけにとられたように言う。

「はあ」

状況がよくわからないながらも一応うんと言ってくれる当たり、いい子なんだろう。




あれからお茶を飲み切ると、食事付きで宿舎の上に空ている部屋を借りることになった。

空き部屋に通される。

シンプルな部屋で、小さな窓が一つ、ベッドが一つに簡易な木製の勉強机のセットしかない。でも掃除も行き届いていて、疲れた自分には気持ちのいい部屋だった。

疲れてベッドに突っ伏す。どのくらい時間がたったかわからない。窓からこんこんと軽くたたく音がする。

顔をあげれば弟がいた。疲れた体を起こして窓を開けると、するりと弟が入ってくる。

音もなく動けるのはいつもすごいなと思う。

「何があった?」

単刀直入に聞いてくる弟に簡単に説明した。

聖堂が衝撃的に封じられていることがわかり、さらにこの教会自体にはあまり意味がないこと。さらには司祭が来るのを待つだけで、いったいいつになるのかもわからない。

「なんだそれ。」

楽観的な彼がそんなことを言うなんて珍しい。うーんと巨漢が腕組みして考え始める。

「でも聖堂が壊れたとは聞いていないし、このまま指示通り、修復をめざす、かな」

まあね。そうなるよね。

地理的な問題で連絡をなかなか入れづらいらしく、姉からもすぐに連絡取れることを期待するなといわれている。連絡取ったとしても指示を仰ぐころには終わってる。

「あれから、自分達が噂になったか確かめようと思って、街をふらふらしたけどそれどころじゃないね。汚染が濃すぎる。みんな疲れてるし、兵隊は多いしで、ぴりぴりしてる」

それもしょうがないと思う。

「この汚染のひどさはまれにみる状況だと思う。巨大な脈があるはずなのに、凪みたいに静かでしょ。目詰まりでもしてんじゃないのかな」

弟が冗談にならないことを言ってけらけら笑う。

ほんと他人事なんだが。

「…そもそもとして聖堂直すことしか言われてなくて、この状況を聞いていないのはどうなの」

ずっと気になってたことを蒼に言う。

「聖堂直すことよりこっちのほうがよっぽど面倒だ。なんか抱き合わせで解決させられそうでいやなんだけど。」

「そうなんじゃない?」

弟が軽く返してくる。

おかしいだろ。

別料金だよ。

「それか逆とか。聖堂を直すと解決するとか…」

二人して顔を見合わせた。

それは大いにありそうだった。

「まずは話を聞くのが一番だね」

弟の言葉にうなずく。

それができるかは別として。

そんな考えが浮かぶほど、嫌な予感しかしない。

「蒼はどこに泊まるの?」

「街が気になるからあっちで寝泊まりする。様子を見てくるよ」

「わかった。何かあったら、連絡ほしいんだけど」

「探すわ」

弟がさらっという。

前の世界みたいに携帯あったらいいなと思うのはこういうときだが、なければないで気楽だ。

じゃと片手をあげていなくなる弟の姿を見送ると、自分も何もしていないのに疲れた体をベッドに投げた。

色々、いっぱいいっぱいでもうギブアップしたい。

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