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妖狐のお庭〜妖怪小噺〜  作者: KUZUME
4/8

頭の先から爪先まで

 みーん、みーんと蝉の声が煩い8月。大学の長期休暇を利用して私は一人で田舎の祖母の家を訪れていた。

 山に囲まれた小さな集落の村。あるのは子供達の楽しそうな声がする清流と、恐ろしく不便なバス停、学校。あと畑。


 うーん…と伸びをして、ガラガラと庭に面している引き戸を開ける。


 「いい朝だぁ…」


 祖母の家に遊びに来る度に泊まっているこの子供部屋のすぐ前にある庭には立派な桜の木が生えており、他にも季節ごとに沢山の花を咲かせる花々が私の目を楽しませてくれる。

 また庭の中央には、ぽつんと大きめの池がある。

 とても澄んでいるように見えるのに、不思議な事に魚の一匹も泳いでいないのだ。


 そういえば子供の頃から不思議だったな…となんとはなしに池を見つめていると、ふいに水面に波紋が生じる。


 「あれ?やっぱ何か魚いるのか、な…っ!?」


 縁側へ一歩踏み出した足をぴたっと止める。

 みるみる内に増える波紋に、いつの間にか、その中心に寒々とした青い鱗の蛇が浮いている。


 ひゅっ、と息をのむ。

 さっと引く血の気。ひりつく喉を動かし──


 「っ蛇いいいいいいいい!!!!!ぎゃあああああ!!ばばばばあちゃん───!!蛇蛇蛇!蛇出た───!!!」


 恐怖に腰が抜ける。

 普段都会で暮らしいるとまず遭遇しない生き物であるが、子供の頃に祖母の家に遊びに来た際、近所の悪ガキにふざけて蛇を投げつけられて以来、どうしても蛇が苦手で仕方なくなってしまったのだ。


 「ばあちゃ───ん!!!たたた助け、」


 「うるせえ!!!」


 「っ!?」


 ぴしゃり、雷が落ちた様な厳しい一声に思わず口を閉ざす。

 祖父は既に他界しており、現在祖母の家には祖母と私しか居ない。

 どこから男性の声が聞こえてきたのか、と庭へ振り返り──間髪をいれずに固まる。


 先ほどまで蛇が鎮座していた池の中心、そこに長髪の着物の男性が居た。


 「?、??、???」


 「ぎゃーぎゃーとみっともなく喚くんじゃねえや、大体、蛇蛇と連呼しやがって」


 「え?はえ?あの?」


 「ふん、満足に話せもしねえのかい、見た目は童にゃ見えねえがな」


 「え?え?どちら様…ですか?」


 少し遠くからでも分かる、艶々とした黒い髪を軽くたなびかせ、左右の着物の袂にそれぞれ手先を入れた男性がゆっくりと滑るようにこちらへと近づいてくる。


 「俺ぁ、蛟だ、そこらへんの蛇と一緒にされちゃあ堪ったもんじゃねえぜ」


 「み、みずち?って、あの、ばあちゃん達がよく子供に話してる蛇の妖怪の…?」


 「ふん…まぁ、蛇の総大将とでも思ってくれてりゃいい」


 「は、はぁ…」


 すぐ目の前まで近づいてきていた男の顔を座り込んだまま見上げる。

 少し吊り気味な鋭い瞳に、すっと通った鼻筋、そして薄い唇が綺麗に弧を描いている。

 その整った顔だちを思わず見つめていると、背後でかたりと微かに音を立てて部屋の襖が開かれる。


 「鈴子ちゃん?叫んどったけ、何かあったん?」


 「っ、ばあちゃん!」


 ぐるっと勢い良く振り返れば、とてもびっくりしたような顔の祖母。

 庭にいるこの自称妖怪の男の事をなんと説明しようかと焦っていると、驚いて、でも嬉しそうな声で祖母が私を通り越し男へと声をかけた。


 「まぁ!まぁまぁ蛟じゃないかい!久しぶりやねぇ」


 「よう、まだ生きてたか珠代」


 「えっ!?たまっ、珠代!?ばあちゃん知り合いなの!?」


 「あら、鈴子ちゃんは知らんかったかい、蛟はうちの先祖とご縁があってねぇ、昔っからこうして偶に我が家の池に遊びに来てくれるんよ」


 「えっ、初耳…」


 「この前来たのは50年前だったか?」


 初めて見るきゃっきゃとはしゃぐ祖母の姿に脱力する。

 なんだかよく分からないが、どうやら我が家は妖怪と親交があったらしい。


 「鈴子ってのかい、お前」


 ぱちりと視線が合った蛟が興味深そうに言う。


 「ええ…」


 「ふうん、お前のおっかさんは早々にこの地を出ちまって会った事はないが…どうやらお前さんはよくこの家に帰ってきているようだな」


 「あ、うん…ばあちゃんもこの村も私は好きだし…」


 「じゃあ、これからはよく会うようになるかも知れねえな、よろしく頼むよ」と言って蛟がその白く美しい大きな手を差し出す。

 ああ、握手か、と私も手を出し握り返し──


 「っっ、いやあああああ!!!!蛇の感触がする───!!!!」




 それから田舎に帰る度にこの蛟と会い、偶に来る程度じゃなかったのか?と疑問に抱きつつ、ふと気付いた時には夫婦として祖母の家のあの縁側に並んで座る様になるのは、また別の話。

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