95話 ざまあみろ
四天王を全員撃破し、さらに上を目指す。
すると予想していた人物たちが待ち受けていた。
「やっと来たわね。殺されにくるなんて馬鹿な男。この私に与えた屈辱を思い知るといいわ」
立ちはだかったのはかつての仲間であり、パーティのマドンナでもあったルキシア。白く透き通っていたはずの肌は闇に浸食されたような黒に変わり果てて全身に文様が浮かび上がっている。
「ようやくこのクズを殺せるっすね。早くこの力を使いたくてうずうずしてたんすよ」
もう一人行く手を阻むのは参謀役であったハウザー。細身だったはずの肉体は屈強な体に変貌していて、ルキシアと同様今にも体の主導権を奪われそうになっている。力と引き換えに全てを捨ててしまったのだろう。
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名前:ルキシア、ハウザー
体力:SSS
物攻:SSS
物防:SSS
魔攻:SSS
魔防:SSS
魔力:SSS
俊敏:SSS
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「もうやめるんだ。どうしてそこまで俺にこだわるんだよ」
「は? 決まってるでしょ。お前のせいで私たちは落ちぶれたのよ。強者だったのに弱者に成り下がって搾取された。これほど不快なことはないわよねぇ!」
「その通り。これは復讐っすよ。まずはお前を殺して全ての生物をオレたちの配下にしてやる。誰が強者か分からせてやるんだ」
もう話が通じない。
殺戮マシーンと同じだ。
「ならやるしかないか」
殺さない程度に無力化する。
刀を抜いて二人に向けると俺は地面を蹴った。
「今は相手してる時間ねえんだよ。寝ててくれ」
刃の向きを逆にして峰内で仕留める。
そのつもりだし、向こうも俺を殺すつもりだから乗ってくると思った。
しかし、
「うあっ!? なんだ」
突如体が浮いた。
そのまま上の階へと引っ張られる。
念動力の類だろうか。ルキシアが俺に手をかざすと体の自由が利かなくなったのだ。
「さすがに私たちも馬鹿じゃないわ。三人を一気に相手するわけないでしょ。お前はうちのリーダーがやってくれるわ」
ルーナとメメは残ったまま。
俺たちを分断する作戦のようだ。
「ごみくずリクトの仲間ならあんたらも同罪よ。どっちも綺麗な顔しやがって、ぐちゃぐちゃにしてやるわ」
「すぐに殺して首を持ってってあげますよ。心も殺して、三人で死ぬほどいたぶってやる」
くそ。
俺はどうするべきだ……。
「気にせず先行って! メメと二人で大丈夫だから!」
「うん! すぐに追いかけるからリィちゃんのところに急いで!」
メメとルーナは戦いに移行した。
今の二人なら安心か。なら言葉通り俺は前に進もう。
「わかった! 頼むな!」
この場を任せて、俺は一人で上を目指した。
◇◆◇◆◇◆
さらに階段を駆け上がる。
すぐにその男とは相対した。
「この時を待ってたぜ」
「アーノルドか……」
──────────
名称:アーノルド
体力: -
物攻: -
物防: -
魔攻: -
魔防: -
魔力: -
俊敏: -
──────────
ステータスの表示が機能していない。
それほど強いのかぶっ壊れたのかは定かじゃないが、魔王に匹敵するほどの力を手にしていることは一目でわかった。
「このまま無視するわけにはいかないか」
「できるならしてみろよ。地獄の果てまで追いかけて絶望を与えてやるぜ」
「逆恨みだ。お前たちが俺を捨てたんだろ。そんなに粘着されても困る」
「ちっ、そういうとこだ気に食わねえのはよ。そうやってすかして俺たちの事見下してたんだろ。お前のせいで俺たちは恥をかいたんだ。お前も被害を被らないと割に合わねえよな」
「滅茶苦茶だろ。……でもいいよ。邪魔するなら相手になってやる」
「はっ、随分余裕そうだな。さすが魔王に造られた選ばれし勇者様だ。俺とは格が違うってか」
「別にそんな風に思ってねえよ。被害妄想が過ぎるだろ」
「持ってる奴に俺たち普通の人間の気持ちなんて分かりっこねえよな。いいぜ、分からせてやらあ!」
大剣を振りかぶったアーノルド。
一瞬で俺の目の前まで接近すると両断するように真っ直ぐ振り下ろした。
ガチン──
と刃のぶつかり合う音が響く。
なんとか受け太刀したが想像以上に速くて重い一撃だ。振動が手に伝わってピリピリする。
「おらおら! 切り刻んでやらあ!」
連撃するアーノルド。
”米”の字を描くように斬りかかってくる。
型にはまった人間の太刀筋はモンスターに比べて意外性はないが、その分シンプルに己の強さに直結する。その剣からは俺を倒すために相当研磨したことが分かった。
「おいおいそんなもんか!」
防御するのでいっぱいいっぱいだ。
どこかで反撃したいがその隙が無い。
豪快に振るっているように見えて動きは洗練されている。
「案外大したことないな。おらよ!」
「ぐ……っ」
俺の左側に深く斬りかかったところで一瞬、お互い体制を崩した。だがそれは計算された罠で、俺は反応が追い付かなかった。
脇腹にアーノルドの蹴りが入る。吹っ飛ばされはしたがしっかりと受け身を取った。ほとんどダメージはない。
「まだ終わんねえよな? お楽しみはこれからだぜ!」
「よく喋るな。構って欲しいのか?」
体勢を立て直して牽制し合う。
一瞬の隙を見逃さないよう、どう動くか探り合っている。
「はっ、しゃらくせえな。じゃあこんなのはどうだ?」
アーノルドが大剣を軽く一振り。
すると二つの竜巻が発生して暴風が吹き荒れた。
「神器解放──魔剣【大災害】」
ニヤリと笑みを浮かべるアーノルド。
武器に使われるのではなく、しっかりと使いこなしている。
「死ね。≪嵐の神≫」
全てを飲み込む暴風雨。
俺もすかさず【森羅万象】で迎撃。
魔力をギリギリまで溜めて解き放つと、俺の力も上乗せされた一振りは嵐をも相殺した。
「こざかしい。なら全力を見せてやろう!」
「乗ってやる。こいよ!」
込められるものは魔力だけじゃない。
アーノルドからは憎悪、嫉妬、殺意……。
負の感情をエネルギーに変換する。
ただ俺を殺したい。自分のために振るう剣だ。
でも、
「お前じゃ俺には勝てないよ」
俺には敗北が許されない。
みんなのために、フェンリィのために戦っている。
勝つために必要なのは力だ。
綺麗ごとだけじゃその差は埋まらない。
お互い全力で戦っているなら猶の事。
しかし力が拮抗した時、初めて感情という見えない力が働く。背負うものの大きさと気持ちが、勝負をほんの少しだけ有利にしてくれる。
「黙れ! ぶっ殺してやる!!!」
立っているのがやっと。
アーノルドの剣に凝縮された闇は全てを飲み込む台風の目。
暴風。落雷。豪雨……。
剣を中心に周囲を巻き込むほどの災害がいっぺんに引き起こされた。
≪風神雷神≫
「死ねえええええええ!!!」
上下左右。全方位から俺を襲う。
逃げ場はない。体も満足に動かせない。
それでも、俺は折れなかった。
倒れず、下を向くことすらせずに何度も技を放って攻撃を防いだ。
悪意すらも反転させる。
すべて受け入れたうえで否定する。
俺が全て悪いというなら構わない。
お前らの正義がそれなら俺も俺の正義を貫き通す。
俺がそうありたいから、俺は俺でいる。
だからごめん。負けてくれ──
≪光≫
嵐は過ぎ去り、炎天が覗く。
光は収束し、鈍い音が響き渡った。
「ちっ、バケモンが」
「今のお前には言われたくないよ。おかげで刀が折れちまった」
攻撃を掻い潜った俺は勝負を決めようと最後の一振りを下ろした。
しかしアーノルドに防がれて互いの剣が折れる。
今はもう武器を持たない丸腰の状態だ。
「へっ、じゃあこっからはタイマンと行こうぜ!」
アーノルドが殴り掛かってきた。
右手の大振り。そう認識すると、俺は冷静にしゃがんで回避し、顎にアッパーをお見舞いした。
「ぐあっ……!」
よろけて隙が生まれる。
すかさず俺は追撃した。
しかしボディブローを打ち込もうとしたところで一発顔面にもらう。
正確にはもらってやったという表現が正しいが……。
俺はひるまず鳩尾に拳をねじ込んだ。
「げほっ、うぉえぇ……。このくそ野郎が! バケモンが人間のふりしてんじゃねえよ!」
今度は口撃。
だがそんなもので今更何も思わない。
「なぁ、強いってどういう気分だよ。さぞ景色がいいんだろうな!」
蹴りと殴りを織り交ぜて多角的な攻撃を仕掛けてくる。
俺は避けることを放棄して攻撃だけに専念した。
どんなにぶたれようが気にも止めない。
心を折るように冷徹に拳をぶつけた。
「駄々こねてんじゃねえよ。ガキじゃないんだからそろそろ理解しろ。こんなことやってもなんも意味ないだろ。人生を無駄にするな。お前はただ自分の弱さを認めたくなかっただけだろ」
誰かに責任を擦り付けたい気持ちはわかる。
その方が楽だし生きやすい。何より自分を否定せずに済む。
「分かってんだよそんなのは! 俺が大したことないってことぐらいとっくに分かってんだ! でもな、それが嫌だからこそお前を否定したいんだよ!!!」
アーノルドは折れた歯を吐き出すと吠えながら向かってきた。
我武者羅に体を動かしているだけで隙だらけだ。
でも最後まで辞めなかった。
最後は認めて、それでも姿勢を曲げてこなかった。
思想は理解できないし間違っているが、自分を貫く姿と醜くも何度も立ち上がる姿はある意味人間らしいと言える。
だからコイツは本当の意味ではまだ死んでない。
レールから脱線してしまっただけだ。
「最初に、お前と仲間になろうと思ったのは間違いじゃなかったみたいだな」
一体どこからどこまでが俺の意志なのかは分からない。
全て魔王に仕組まれていたことなのかもしれない。
でも全部間違いだなんて思いたくなかった。
「悪いけど道を通してくれ」
「ぐあああああああああ!」
最後に一発殴り、アーノルドは地面を転がった。
もう立ち上がる体力は残っていないのか仰向けになったまま胸を上下させる。
「じゃあな」
視界の端に捉えて先に進む。
階段に足をかけたところで呼び止められた。
「……待てよ。なんで殺さねえんだ」
「質問の意味がわからないな。殺されたいのか?」
「俺たちはずっとお前を殺そうとしてたんだぞ。魔王なんかの力にも手を染めちまった……」
「でも生きてるし。お前も少しは気づけたみたいでよかったよ」
「よかねえだろ。俺は魔王軍に加担したんだぞ」
魔王軍を殲滅するための冒険者が人間側を裏切った。
罪の意識は自覚してるらしい。
「でもお前、誰も殺してないだろ」
「は?」
「お前はやることがしょぼいんだよ。どうせ俺が抜けた後もカツアゲとかしかしてねえだろ」
「……そうだが、でもこの力で人を傷つけた。確かに直接殺すような真似はしなかったが世界の状況見ただろ。俺も魔王と同罪だ。それにここまでして手に入れた力も大したことないみたいだしな。俺は何がしたかったんだか……もう生きてる意味がねえよ。もう人間でもねえしな。はっ」
自嘲気味に笑うアーノルド。
初めて見る姿に、俺は発した言葉が本心だと信じることにした。
「そこで寝てろ。魔王ぶっ倒して元に戻してやる」
「はぁ? 何言ってんだ普通放っておくだろ。俺だったらお前なんか絶対助けねえぞ」
「いいから大人しく頷いとけって。勝手に死んだりするなよ。というか死んで逃げようとするな。罪の意識があるなら死ぬまで役に立て。もう評価はマイナスに振り切っててひっくり返せないが限りなくゼロに近づける努力をしろ」
過去は決して無くならない。
どんな善人だろうが一度のミスで一生消えない十字架を背負うことになる。
時に生きることは死ぬより辛く苦しい。それでも死んでいい理由にはならないと俺は思う。
「はっ、俺が人のためにか。そいつはきついな」
「ざまあみろ。お前が招いたことだ」
「無事生きたらそうすっかな。お前、そんなボロボロで大丈夫なのか?」
刀は折れて顔や体には痣もできている。
万全な状態からは程遠い。
「やるしかねえだろ。ぶん殴んねえと気が済まん」
「はっ、魔王相手に丸腰か。女も人質に取られてるんだろ? お前こそ本当にざまあねえな。一度でもその面が見れてよかったぜ」
「うっせえ。もう黙って寝てろ」
そう言って今度こそ先に進む。
一段ずつ、着実に終わりへと向かうカウントダウンのようだ。
待ち受けるのは全ての元凶である”魔王”ただ一人。
ここからは未知の世界。本当に最後の戦いだ。
「絶対助ける」
もうずっと頭から離れない。
その子の顔を浮かべるだけで胸が締め付けられる。
こんな気持ち初めてだ。会いたくて会いたくて仕方ない。
だから最上階に足を踏み入れた瞬間、俺は真っ先に名前を呼んだ。
「フェンリィ!」
と。
いよいよクライマックス突入。
残り4話、最後までよろしくお願いします。





