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78話 真魔

「メメ!?」


 メメがふらついてもたれかかってきた。

 これだけ大規模な魔法だ。ぶっ倒れてもおかしくない。


「ちょ、ちょっと疲れただけだよ。まだ戦える」

「そっか、よかった。随分派手にやったもんな」

「うん。でもまだ終わってないよ」


 再びステッキを握り直すメメ。

 真っ暗な闇の底に目を向ける。


「あいつまだ生きてるよ」

「ああ、そうだな」


 他の妖精たちは消滅した。だがこれだけの攻撃をしても吸血鬼は倒せていないという確信があった。確認したわけではないがまだ生きている。


「降りよ」

「わかった。≪反転(グラビティ)≫」


 地下100メートル。一気に下降して重力操作で着地。

 するとそいつは瓦礫の山から這い出てきた。


「ガ、ガハッ……! ハァ……、アァ……油断しましたね。まさかこんな技を隠し持っていたなんて」


 頭部は半分潰れ、両手と右足が無くなっていた。

 しかし、それらは怪物にとって些細なことらしい。


「フフッ、言いましたでしょ? あなたたちは負けが決まっているんですよ。ワタシが、あなた方のような下等生物に負けるなどありえないのですから」


 一瞬で再生して全て元通りになった。

 でもきっと相当なダメージを負ったはずだ。


「言いたいことは終わり? 次で消してあげるね」


 メメは構えて詠唱を始める。

 一方、


「フハハハハハハハハ!」


 吸血鬼は笑む。


「まさか追い詰めたつもりですか? 状況は何も変わってないですよ?」

「負け惜しみ? 本当によく喋るね」

「いえ、あなたこそ強がりですね。ククク、いいですねぇその自信に満ちた顔。今から恐怖に染め上げてあげます!!!」


 パチン、と指を弾く音が響いた。

 異界から新たに召喚されたのはたった一人。

 金色に靡く髪。ぱっちりとした大きな目。

 特徴的な尖った耳。

 どこかで見た、というより見慣れた風貌。


「最後に、これで完成です」


 その女性の首にかぶりつく吸血鬼。

 血を吸って、赤く汚れた口元を拭った。


「ケヒッ、やはりエルフの血は絶品ですね。さすがワタシのコレクションで一番優秀な傀儡です。さあ! 存分に暴れてください!」


 吸血鬼の声に反応し、女性はゆっくり目を開ける。

 その視線がメメを捉えた。そして、


「久しぶりね、メメ。そんなに大きくなって嬉しいわ」

「……」


 メメは黙ったまま動かない。

 女性はメメを温かい眼差しで見つめている。

 感動の再会……ではない。

 そんなはずがない。

 女性はの表情は一変した。


「とでも言うと思ったの? なんでメメがのうのうと生きてるの? ママ死にたくなかったな。代わりにメメが死ねばよかったのに。ねぇ、死んでよ。死んでくれる? ママとその場所代わってよ」

「……」


 真なる魔。悪魔の所業。

 そこにはもう、親子の絆なんてない。


────────────

 名称:ママ(狂)

 体力:SS

 物攻:C

 物防:SS

 魔攻:SSS

 魔防:SS

 魔力: ∞

 俊敏:SS

 ユニークスキル:≪底なしの魔力(エターナルフォース)

────────────


「おやおや? 声も出ないですか? せっかく会わせてあげましたのに。嬉しくないんですかぁ? アハハハハハ!」

「……」


 嘲笑う吸血鬼。

 メメの起爆剤になるには十分だった。


「……う」

「ハィィィ?」

「ちがう! ちがうちがうちがう! お前誰だよ。こんなのでメメを騙せると思った? メメがこんなので挫けると思った? 信じると思ったの!?」


 とっくに限界を超えてもおかしくない。

 それだけの材料が揃い過ぎている。


「何回もそんなの夢の中で聞いてるんだよ。何回も何回も言われたんだよ。だから今更……っ、こんな偽物に言われたってなにも思わない! メメのママはこんなんじゃない。ママの真似しないでよ。本当に……お前だけは許さない゛!」


 メメの小さな体が神々しい光に包まれた。

 尽きかけた魔力が、精霊の力がメメに宿るようだった。


「リっくん」


 静かに、俺を呼んだ。

 自然と背筋が伸びてしまう。


「この女はメメがやるから。そいつ殺しておいてね」

「……メメ」

「大丈夫だよ。こうなることは何となく分かってたから……煮えくり返りそうだけど、ちゃんとメメだから。リっくんは気にせずそいつ殺して。リっくんなら殺せるよね?」


 それ以上は語らない。

 ステッキを握る手は小さく振動していた。

 それがどんな感情なのかは確かめるまでもない。


「……ああ、任せろ! そっちも、頼んだぞ」

「うん。またあとでね」


 それだけ残して、メメは母と共に姿を消した。

 俺と吸血鬼だけが取り残される


「ヒヒヒッ! いい画が見られましたね。それで? 残ったのはあなただけですか」


 状況は何ら好転していない。

 俺と吸血鬼。戦力差は……。


「約束したんだ……みんなで笑うって。決めたんだよ……俺は最強でなくちゃいけないって」


 そう。

 こんなのは初めてだ。

 勝てるかどうかわからない。

 でも純粋に、俺はコイツをぶん殴りたい。

 そして、


「お前、どうやって死にたい?」


 今からコイツに死を憶えさせてやりたい。

 ただそれだけだ。


「どうやって死にたいかですって? フフフッ、冗談がお上手ですね」


 吸血鬼とさしでの勝負。

 俺の能力は一切コイツに効かないらしい。敵に笑われた挙句、終いには心配までされる始末だ。本当に情けない。


「おひとりで大丈夫ですか? 怖くないですか? アハハッ!」

「お前こそ、メメの攻撃が効いたんじゃないか? 強がってんじゃねえよ」


 あれだけの損傷を再生したとなれば少なからず弱体化しているはずだ。


「クッ、ハッハッハッハ!」

「何がおかしい。とち狂ったか」

「いや失礼。絶望させてしまうかもしれませんが何ら影響ありませんよ」


 本当になんでもなさそうにヘラヘラ言う。


「先程の攻撃は凄まじかったですね。13回ほど死にました」

「あ゛?」

「比喩じゃありませんよ。本当にあの少女のおかげで死にました。ですがワタシは残機がいくつもあります。殺してワタシの手中に収めた命の数だけです。なのであと1000回ほど殺さないとワタシは死にませーんよっ」


 ……1000。

 それが本当だとしたら、メメの魔法を何十回と当てないといけない計算だ。


「戦意失っちゃいました? あなたではワタシをたったの一回殺すことだってできないでしょうからねぇ」

「……いや。千回も殺せるってことだろ? 一遍殺すぐらいじゃ足りないと思ってたところだ」

「口だけですね。一体あなたに何が──」


 神器、全開放。

 ここにはもう巻き込むものは何もない。

 ただ目の前の敵を葬ることだけに全神経を研ぎ澄ませる。

 思う存分戦えるのだ。


「初めて顔が引きつったな」

「フフ、遊び相手にはなってくれそうですね」


 俺は【森羅万象(コスモス)】に魔力を吸わせ続けた。

 解放した状態を保ち続ければ、常時高火力の一撃を与えることが可能。そこに上限は無い。吸収すればするほど刀は巨大化し、全てを喰い尽くす魔獣となる。


「これで決める」


 魔力のない俺でも周囲の魔素が枯れていくのを感じた。

 瓦礫が浮かび上がり、大地が揺れる。


 俺のスピードでは到底コイツに敵わない。

 近づいてフィジカル勝負に持ち込んだら負けだ。

 だから、多少無様でも勝ち筋のある戦法で挑む。


「くたばれ!」


 魔力の斬撃を飛ばしていく。

 魔素を吸収し、魔力に還元して飛ばすという工程。

 少しでも発動時間を短縮するために、属性を付与する過程は省略した。


「ハハッ! いいですねぇ! 楽しくなってきましたよ!」


 俺の放った斬撃を躱していく吸血鬼。

 だが確実にその動きを封じていく。

 右へ左へ誘導してハメる。……ここ!


「やっと当てられて嬉しいですか? ですがね、そんなの防御すればいいだけの話ですよ。所詮あの少女には到底及ばな──」

「逃がすわけないだろ」


 一撃で仕留められるとは思わない。

 一回でダメなら二回。それでもダメなら倒れるまで。

 完成した魔力の檻は四方八方からランダムに襲い掛かる刃。百回だろうが血潮の花が咲き乱れるまで止まらない。



百花繚乱(ヒャッカ・リョーラン)



 俺は我武者羅に剣を振った。

 立ち上る煙が周囲に充満し、視界が悪くなる。

 その中で、何かが光り輝くのを確認した。


「…………フフフフ。いいですねぇ。少し嫉妬してしまいますよ」


 やはりこのまま押し切れるほど甘くはないか。


「ハァ!」


 吸血鬼は羽をばたつかせて煙を吹き消した。

 しかし、そこに現れたのは別の姿だった。

 より悍ましく、邪悪な気配。

 その額には第三の目が顕現していた。

 これが、悪魔の真の姿か……。


「さぁ、次はこちらの番ですよ」


────────────

 名称:ヴァミア(狂)

 体力:SSS

 物攻:SSS

 物防:SSS

 魔攻:SSS

 魔防:SSS

 魔力:SSS

 俊敏:SSS

────────────


 力の差は歴然だった。狂暴化した吸血鬼は間違いなく俺の知っている中で最強の生物だった。そう納得せざるを得ないだけの絶望と恐怖を植え付けてくる。それほどまでに個として圧倒的な強さを誇っていた。



 俺は一体どうやってコイツに勝てばいいんだ?

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