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76話 終

 敵は倒しても倒してもキリがない。

 まるで意図的に足止めをされているような気さえする。そして今新たに現れたのは、幹部の中でも頭一つ抜けた強い反応が五つ。もちろん雑魚敵も際限なく湧いてくる。一見すると多勢に無勢といった状況か。


「殺しても構わんのじゃろ? わらわ一人で十分じゃ」


 幹部の中の一人が言う。

 上半身が人間で下半身が蜘蛛の女。


「油断はするなよ。お前、死相が見えてるぞ」

「わらわが? くっ、あり得ぬな。つまらぬ小僧と思ったがそなたも冗談が言えるようになったか」

「忠告はしたからな。それと、お前たちもしっかり働けよ」


 リーダーらしい男が他の仲間に指示を出す。

 フードを被り、だぼっとしたローブに身を包んでいて、手には数珠をジャラジャラと巻いている。


「指図すんなや。口には気をつけろ」

「ウチもえらそーな男って無理。マジうぜー」

「……ゴ……ゴゴ」


 やはり仲間意識というのはないようだ。

 他には肩から黒翼を生やしている鳥男。

 サキュバスにミノタウロスと、異色の五人組(クインテット)だ。


「メメ、手を貸してくれ」

「うん。任せて!」


 俺は【森羅万象(コスモス)】を、メメは【希望の源(マザー・ホープ)】に手をかける。


「はぁ……まあ働いてくれるなら何でもいい。おれは集中してるから暴れて来い」


 そう言ってローブの男は地べたに座り、カードをめくったり水晶玉を眺めたりと奇怪な行動を始めた。よくわからんがこの男は放っておいて良さそうだ。他の奴らから片付けよう。


 さて、どいつから消そうか。


「テメェの相手はワシだ。ぶっ殺してやるよ」

「……ゴゴゴゴ」


 狂暴化薬を使い、俺に接近してきたのは二体。

 鳥男とミノタウロスで、どちらも全ステータスがSSランクある。ドーピングのおかげかミノタウロスはパワーだけでなくスピードも手に入れ、鳥男も弱点をカバーしたのだろう。


「メメ、いけるか?」

「こっちは問題ないよ。すぐに加勢してあげる!」


 メメの相手は蜘蛛女とサキュバス。

 ≪瞬間移動(テレポート)≫で俺と距離を取って俺が戦いやすいようにしてくれた。

 メメの心配はいらなそうだな。俺が先に加勢してあげられるよう頑張ろう。


「よし」


 敵に注目すると、既に眼前に迫っていた。

 鳥男は滑空しながら爪を突き出す攻撃。ミノタウロスは片手斧を振りかざしている……ような気がする。速すぎて影でしか捉えられないのだが、問題ない。


「≪反転(リフレクション)≫」

「「!?」」


 まずは跳ね返して隙を作る。

 それから刀の能力を解放。

 流れるような動作で魔力をチャージ。

 属性は付与せず、純粋な超範囲攻撃で攻めてみる。


「邪魔な奴らが多いな。喰らえ」



龍華散音(リューゲ・サンネ)



 人々を護り、救済する力。

 龍の如き咆哮が轟き、残響した。


「んー、難しいな。巻き込めなかったか」


 幹部以外の敵は一掃できた。

 しかし鳥男とミノタウロスは消えていない。

 傷だらけになって息を荒くしている程度。


「……く、確かに油断できねぇな。本気出すか」

「ゴゴゴ!」


 雰囲気が変わった。

 おそらく俺を試していたのだろう。

 そんなことをするから死ぬんだ。

 あ……もう死んでるのか。


「ゴォォォォォ!」


 ミノタウロスが突進してきた。

 正に怪物。こんなのが野放しにされていたら脅威となるだろう。しかし俺は恐れず正面から射殺すことにした。


「何言ってるか分かんねえよ。ずっと寝てろ」


 チャージした魔素を氷属性に変換。

 すると周囲は冷気に包まれた。


 全てを眠らす永久凍土のように。

 炎をも凍らせる極夜のように。

 純白に染まった刀身は生命すら止める絶対零度。



寒花晩雪(カンカ・バンセツ)



 角ごと脳天を貫くと、氷塊だけを残してミノタウロスは消滅した。

 地面に落ちた雪のように呆気なく雲散霧消し、立花が舞う。


「あとはお前だな」

「ぃ、いい気になるなよ。雑魚が」

「声震えてるぞ。寒いのか?」


 正直俺は寒い。こういう技は攻撃する瞬間にだけ属性を付与した方がよさそうだ。


「うるせえ。ワシはその雑魚とは違うぞ!」


 鳥男は獲物を狙うように上空を旋回すると、


「≪鎌痛血(カマイタチ)≫!」


 刃物のように鋭い風の斬撃を飛ばしてきた。

 近づけばやられるという判断だろう。

 遠距離攻撃は相手なりに考えた戦法か。


「そんなの効かないぞ。学習しろよ」


 全て跳ね返す……が、鳥男は俺が跳ね返した攻撃をさらに跳ね返してきた。

 風を自由に操るユニークスキルだろうか。

 俺がもう一度返したところでラリーは終了した。


「どうした。ワシには手も足もでんか?」


 手でちょいちょいと俺を煽ってくる。

 1ダメージも与えてないくせに偉そうだ。


「お前こそ俺を殺すんじゃなかったのか? かかって来いよ」

「悔しかったらここまで来て見やがれ。雑魚が」


 セリフと行動が合っていない。

 もしかしてコイツらの目的は時間稼ぎか何かなのか? 確かに時間を稼がれるのはまずいかもしれない。


「お前がこっち来いよ。いや、来させればいいのか ── ≪反転(グラビティ)≫」

「ぐあっ!?」


 地面に落ちた鳥男。

 飛べない鳥は鳥じゃない。


「くそ、でもこれでどうだ雑魚!」


 翼を忙しなくばたつかせる鳥男。

 すると竜巻が発生して俺との間に壁を作った。

 なるほど……攻撃ではなく、自然発生した竜巻なら跳ね返せないと思ったのだろう。意外と頭使って戦ってるじゃないか。でもな、そんなの無意味だ。


「もうこれでワシには近づけ──」

「うるさいな。ピヨピヨ鳴いてろ」


 防御しようが近づけまいが関係ない。

 今度は【森羅万象(コスモス)】に風属性を付与。

 そのまま竜巻に向かって魔力を放つ。



災華嵐発(サイカ・ランパツ)



 竜巻は重なり、一つの嵐となった。

 災害レベルの一撃は鳥男にも扱えなかったのか、嵐が過ぎ去った後には静けさだけが残った。


 討伐完了。

 武器の扱いにも慣れてきていい感じだ。


「よし、急いでメメの加勢に……って」


 行く必要はなかった。


「なんだよメメ」

「にひ、リっくんも終わったんだね」


 肩をポンポンと叩かれたから振り返ると、メメに頬っぺたを突かれた。成功して嬉しかったのか楽しそうに笑っている。まったく、瞬間移動を無駄遣いしちゃいけません。


「まあな。でも一人残ってる」


 リーダーっぽい奴だ。フードを取って立ち上がると俺たちの方にゆっくり歩いてきた。容姿は蒼い髪の凛とした青年。


「あれほど油断するなと言ったのに使えない奴らだ……まあいい。あとはおれが働くとするか。少しはあいつらも役に立っただろう」


 つまらなそうに腕組をしてブツブツ呟く。

 次の瞬間──


「死ね」


 メメの喉元にナイフが迫った。

 俺は咄嗟にメメの手を引いて抱き寄せる。

 追撃を警戒したが、相手の方から一旦離れてくれた。


「やはり反応してくるか。修正しよう」


 危なかった。

 目で追えるスピードだが動きが独特で読みにくい。

 ゆらゆらした歩き方で距離感が掴みにくかった。


「大丈夫か、メメ」

「うん、ありがと」


 戦場での咄嗟の勘やスピード感はまだまだメメに備わっていない。

 こちらが体勢を立て直す間に敵も動く。


「ああそうか。こっちのルートだったか。なら次はどうだ?」


 敵は水晶玉を覗くと再び攻撃を仕掛けてきた。

 ゆったりとした動き。でも速い。

 これは能力ではなく技術だろう。やりづらい。


「メメ、離れるなよ」

「ぅ、うん」


 俺の側にいる限り攻撃は受けないだろう。

 メメは俺の腕にぎゅっと抱き着いた。

 すると敵はピタリと足を止める。

 攻撃する意思を感じない。


「イチャイチャするなよな……まあその方が好都合だが」


 好都合? どういう意味だ。


「予言しよう。お前たちが負ける確率は100%だ」

「100? ありえないな」

「いや、お前には死相が見える。もうそのルートに入ってるからな。運命は変えられない」


 敵は俺を指差し、口角を吊り上げた。


「下らんな。運命信じるなんてロマンチストか」

「これは絶対だ。おれの能力は≪未来予想(シミュレート)≫。無限に広がる分岐点を辿ってその結末を見ることができるものだ。断言しよう。お前にトゥルーエンドは訪れない」


 カードめくったり水晶覗いたりしてると思ったらそんな占いみたいなことしてたのか。


「忠告どうも。じゃあ俺も断言するよ。その未来はひっくり返す」


 こんな胡散臭いデタラメに付き合ってられるか。

 力の差を証明してやる。


「そうか。じゃあやってみるんだな」

「ああ。消えるのはお前だ」


 敵が受け身になったため俺から攻める。

 能力は解放せず、ただ魔力の斬撃を飛ばしていく。

 メメが近くにいるからだ。


「そんな攻撃当たらないぞ。おれの予言と違ってな」

「つまらんこと言ってんじゃねえよ」


 実際、攻撃は当たらない。

 これも能力で俺の行動や斬撃の軌道を先読みしているからだろうか。なら、


「メメ、頼む」

「うん! ≪裁きの雨(ジャッジメントレイン)≫」


 防御不可の無数の雨が降り注ぐ。

 別に俺が攻撃する必要は無いのだ。


「おっと、そう来るか。だが無意味だぜ?」


 敵は手に巻いていた数珠をぶちっと千切ると上へ投げた。

 するとその数珠玉がメメの放った魔法を全て吸収してしまった。

 結果、丸焦げになった玉がパラパラと降って来ただけ。


「どうだ? 諦めるんだ──」

「ほらな? 終わるのはお前だ」


 敵の耳元で、俺は囁く。

 メメに≪瞬間移動(テレポート)≫で飛ばしてもらったのだ。


「──ふっ」


 一瞬、敵が笑ったような気がした。

 構わず俺は刀の能力を解放する。

 属性は、全てを穿つ閃光の雷。


「じゃあな」


 俺一人ではできない、メメとの合技。

 その攻撃は光をも凌駕する神速に達する。

 滅びゆく者に訪れるのは、



蕾終(バッドエンド)



 運命は自分で決める。

 不安の芽を摘み取り、悪の花は咲かせない。


「やった……よな?」


 敵は完全に消滅した。

 倒した手ごたえも確かにある。


「よかった。リっくんが負けるわけないもんね!」


 メメも笑顔を咲かせてくれている。

 なら俺の勝ちか。

 でもなんか呆気ないような……。


「ぐすっ……」

「メメ?」

「あ、あれ? なんでだろ。急に涙が……うぐっ。え、なんで?」


 メメの頬を雫が伝った。

 二滴、三滴。表情自体は泣いていないのに涙が止まらない。


「どうしたんだ? なんか嫌な事思い出し──!?」


 俺は勘違いをしていた。

 さっきの敵が言っていた意味をよく考えるべきだった。

 敵の目的を。俺たちの元にばかり戦力を集中させ、時間を稼いでいた意味を。


「リ、リっくん……。うぅぅぅ」


 メメが小さな子どもみたいに手を握ってきた。

 それもそのはず。

 なんせ目の前にいるのは過去のトラウマそのものだ。

 空間が軋み、現れた人物。

 見た瞬間、気温が急激に下がったような悪寒に襲われた。



「おや、全員倒したんですね。思ったよりやるじゃないですか。流石サタナ様のお眼鏡にかなう少年ですね」



 そいつは突然、ぬるっと現れた。

 なんだこの気持ちは。

 手と足が震えてる……?

 メメの恐怖が伝わって来たのか?

 いや違うな。これは俺のだ。


 さっきの奴が言っていたのはこの事だったらしい。運命なんて信じたくないが、初めて感じる恐怖と同時に湧き起こる憎悪。


 こいつを生かしておいてはいけない。

 殺さなければならない。

 でも、ここにいたら死ぬ。殺される。


 そんな邪悪な気配。

 立っているのが精一杯。

 以前倒したロヴェッタとは大違い。

 これが四天王最強であり、狂暴化現象の黒幕。


────────────

 名称:ヴァミア

 体力:SSS

 物攻:SSS

 物防:SSS

 魔攻:SSS

 魔防:SSS

 魔力:SSS

 俊敏:SSS

 ユニークスキル:?

────────────


 生物としての格が違う。

 でもビビるわけにはいかない。

 やれ。やらなきゃやられる。


「ちょ、ちょうどお前を探してたところだ」


 メメの手を強く握る。

 大丈夫だと。怖くないよと口で言う代わりに伝える。

 するとメメも爪が食い込むぐらい握り返してきた。


「フフ、奇遇ですね。ワタシもあなたたちがどんな終わりを見せてくれるか楽しみです」


 ぺろりと唇を舐める合間からは吸血鬼らしい牙が見えた。背丈はそうデカくない。むしろ病弱なくらい色白で細身だ。そして何年生きてるのかわからないが若く見える。二十代半ばくらいの男性だ。


 なのに、怖い。死を感じる。

 倒すイメージが全くわかない。

 それでも俺は、絶対に負けない。

 負けるわけにはいかないんだ。


「リっくん?」

「大丈夫だ。安心しろ」


 ふと、仲間の笑顔が浮かんだ。

 フェンリィ。ルーナ。メメ。

 その瞬間不安が消えた。

 代わりに勇気が湧いてくる。

 だから、ちゃんと言葉に出来た。


「ぶっ倒してやるよ」


 これが最後の戦い。

 運命をひっくり返してやろうじゃないか。

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