74話 希望の少女
<リクト&メメside>
(まだフェンリィとルーナが共闘してた時の話)
「≪瞬間移動≫」
「──っと。さんきゅうメメ。疲れてないか?」
「うん、全然平気だよ。どんどん倒そ」
俺とメメも魔王軍の侵攻を防ぐべく戦場に足を踏み入れた。メメの瞬間移動であちこちを転々として魔王軍から一般人を護っている。
それと、さっきメメの過去について話してくれたケットシーのお爺ちゃんにも会って、メメの無事を伝えることが出来た。メメは後ろめたさがあったみたいだが謝罪とそれ以上の感謝を伝えていた。今は避難所で市民の混乱を抑えるため奮闘してくれているだろう。
それでだ。
「ここも酷いね……」
「ああ、そうだな」
どこも悲惨な有様だ。家屋は崩壊して荒野となっている。
笑いで溢れていたお祭り騒ぎは悲鳴と恐怖に満ちた血祭に。数十分前まであった活気は淀んだ空気に塗り替わっている。メメも昔の記憶を思い出しているのか表情が暗い。
「大丈夫。メメがいなかったらもっと酷くなってるよ」
「そう、だよね。うん、頑張る」
幸い、今まで回った箇所では被害を最小限にとどめることができた。安全なところなんてないが、市民はほとんど避難させて妖精族の警備兵たちに任せてある。
俺たちはより強い反応の元に向かい、即刻討伐。
逃げ遅れた人を発見したら、助けながら魔王軍を殲滅するといった具合だ。
フェンリィとルーナには一度連絡しようとしたが上手く繋がらなかった。もしかしたら各地で起こる空間の歪みが障害になっているのかもしれない。あの二人に万が一はありえないが、この辺りが落ち着いたら一度合流しよう。
「うえーーーん。おかあさーん!」
ここにも逃げ遅れた子ども。ハーフエルフの少女だ。
崩れた建物の隙間に挟まって抜け出せないでいる。
妖精族の家はコンクリートではなく木や藁でできた簡易的な造りが多いため生き埋めになる可能性が低い。
「メメ」
「うん!」
俺が大木をどかし、その間にメメが救出。
外傷は無いが念のためメメが回復魔法をかけた。
「≪癒しの風≫」
心も安らぐ風。優しい魔法だ。
「よし。もう大丈夫だよ」
「ありがとうおねえちゃん!」
「うん。泣き止んで偉いね」
メメはしゃがんで目線を合わせると少女の頭を撫でてあげた。
少女はくすぐったそうな笑みを浮かべる。
しかし、再び涙目になってしまった。
「あ……。ぉ、おねえちゃあん」
「大丈夫大丈夫。離れないでね」
その小さな手をぎゅっと握るメメ。
見ると、空間が裂けて悪魔が召喚されていた。
目算20~25体。ガーゴイルやスケルトンやらケルベロスまで多種多様なモンスター。子どもからしたら恐怖以外の何物でもない。
「なんか不思議な気分。メメが守る側になるなんて」
メメは懐かしむように呟いて、すっとステッキを向けた。
それは使い手によって姿を変える妖精族の神器。
母の形見であり、メメの未来を煌々と照らす光。
その名も──【希望の源】。
「もうメメの視界に入らないで」
ステッキの先に魔力を集中。
天に掲げると、
「≪聖なる耀≫」
詠唱破棄で魔法を唱えた。
神々しい白い光に照らされたモンスターたちは何もできずに溶けていく。
これでトータル80匹は葬っただろうか。俺が何かするまでもなくメメが一人で倒してくれる。その小さな背中が心強い。
「おねえちゃんすっごい!」
「えへへ、ありがと」
無邪気に笑い合う二人。
実力も精神面も立派に成長してくれたが、メメもまだまだ女の子だ。
「様になってきたな、メメ。じゃあこの子届けてすぐ行こうか」
「うん、そうだね」
メメが少女の手を引いて移動する。
向かった先は地下シェルターのような場所。
地面を掘ってその中に避難するのだ。
100年前の大敗から学び、緊急時に備えて各地に設置されているらしい。無いよりは随分マシだろう。
「あ! ままだぁ!」
シェルターに到着すると少女は駆け出した。
とても嬉しそうに笑っている。
少女の母も顔をほころばせると力強く抱きしめて、
「ありがとうございました。本当に」
涙ぐんで俺に頭を下げた。聞くとお祭りの最中にはぐれてしまったらしい。再会できてよかったな。
「いいですよそんな。あ、でも助けたのはこっちの子ですよ」
「あ、そうでしたか。あなた……が」
お母さんの顔が固まる。
メメを見た瞬間にだ。
「あ、あんた!」
その声で周囲の人々からも視線を集めた。
仮面を取って顔を晒しているメメ。
その顔は一切崩れることが無かった……表面上は。
「リっくん。次行こ」
「え……あ、うん」
メメは一礼して回れ右。
その背中に浴びせられるのは感謝の真逆。
「またあんただよ! 全部あんたの仕業じゃないでしょうね! この疫病神が!」
「そうだ、あっち行け!」
「貴様の顔なんて見たくないわ!」
怒りをぶつける群衆。避難の大合唱。
メメはそれを背中で受け止め、重い足を一歩前へ。
何も悪くないのに。ただ生きているだけで疎まれる。
その横顔は悲しそうに、奥歯を噛みしめていた。
「うえええええん!」
突如響き渡る泣き声。
罵倒が止み、その主に視線が注がれた。
「あらあらどうしたの? もうママがいるから怖くないわよ?」
「やだああ!」
さっきメメが助けた少女だ。
抱きしめてきた母をポコポコ叩いて拒絶している。
その様子に母は目を丸くし、次の一言で全員言葉を失った。
「おねえちゃんやさしいもん! みんないじわるだよ!」
メメの耳がぴくりと動く。
「まって、おねえちゃん!」
少女は駆け出す。
メメが足を止めて振り返ると、迷わずその胸に飛び込んだ。
「ありがとうおねえちゃん! まけないでね!」
「え……?」
メメは困惑した様子で少女のつむじを見つめた。
多分、初めてだからわからないのだろう。
感謝された時にどんな顔をすればいいのか。
「みんなもいわなきゃダメだよ! ありがとうっていえないの?」
少女は頬っぺたを膨らませて大人たちを叱った。
その正論に、大人たちは誰一人として異を唱える者はいなかった。
「ご、ごめんね。ままが悪かったよ」
「ちがう! おねえちゃんにいうの!!!」
そっぽを向く少女。むすっとしたタコさんの顔だ。
「あ……う、えっと……その……」
少女の母は目を泳がせた。
それでも戻ってきた命を見て自分の過ちに気づく。
やがてメメを真っ直ぐ捉えると、勢いよく深々と頭を下げて、
「申し訳ございませんでした。それと、娘を救ってくれてありがとう。本当に、本当にごめんなさい……」
謝り続けた。
それに続くように次々と謝罪の言葉が生まれる。
自分たちがなぜ生きていられるか悟ったのだろう。
やがて全員の頭がメメの高さから一望できるほどになった。
じっと、首を垂れてメメの返事を待っている。
「別に……」
メメはその群衆の頭に話しかける。
この人たちがメメに植え付けた記憶は消えない。
謝ったって全然足りない。
それなのにメメは怒らなかった。
「別にいいよ。ママならこうするもん。否定されても貶されても、傷つけられても感謝されなくても助けるもん。自分じゃない誰かのために」
メメは「顔上げて」と言って謝罪を辞めさせてから少女に向き直った。
下から見上げるようにしゃがんで、髪を撫でてあげた。
「ありがとね。元気出たよ」
「うん!」
「まだ外は危ないから出てきちゃダメだよ? 約束ね」
「わかった! キィもおねえちゃんみたいになりたい!」
「メメみたいに?」
「おねえちゃんかっこいいもん!」
「……ふふ、そっか。じゃあいい子にしててね」
「はーい!」
最後に「行ってきます」と「いってらっしゃい」を言って手を振った後、俺たちは戦場に舞い戻った。
◇◆◇
「よかったな、メメ」
「えーなにがぁ?」
ご機嫌な様子のメメ。
感情が顔に滲み出ている。
「いや、なんでも」
「えへっ、へんなのぉ」
その顔は少女と同じ顔。
今までで一番の笑顔が綺麗にぱっと咲いていた。





