69話 二人の戦い
※フェンリィ視点
<数分前:フェンリィ&ルーナside>
私とルーナはリクト様をメメちゃんの所へ向かわせました。
今頃リクト様はメメちゃんを救っているはずです。私やルーナと同じようにメメちゃんも前を向けると思います。いえ、絶対に大丈夫です。心配ありません。
なので私たちは目の前のことに集中しましょう。リクト様の期待には応えたいですからね。今回はポンコツさんのフェンリィにはお寝んねしててもらいます。早く倒していっぱい褒めてもらいましょう!
さて、現在の広場は戦場と化しています。
私の強化された聴覚では悲鳴ばかり聞こえてきますし、周囲は魔王軍に囲まれています。次から次へ悪魔が召喚されるので、倒しても倒してもキリがありません。
そして何より、
「キャハハ! いつまで持つんだ? もっと楽しませてくれよな!」
「フフ、ワタシも早く虫取りしたい」
厄介なのがこのお二人です。
見た目はそっくりな顔の少女。姉妹……双子でしょうか。
一方は気が強くてもう一方は穏やかな印象。ドラゴンの血が混じっているのか可愛い尻尾と小さな角が生えています。
どちらもお人形さんみたいな顔立ちですが幹部です。しかもこれまで倒してきたどの幹部よりも強敵です。正直、苦戦しています。
「オラオラどうした! 避けてばっかりか!?」
黒髪、つり目の女の子。ソレアちゃんと呼ばれてました。
この子はとにかく気性が荒くて、両手に持ったハンマーを振り回す近接攻撃のスタイルです。私はなんとか躱すので精一杯で、リクト様に視力や空間認識力を高めてもらえなかったら30回は頭が潰れていたと思います。
「すばしっこいネズミ。でもそっちは行き止まりだから」
こちらは白髪、たれ目のクレアちゃんです。
この子は遠距離からソレアちゃんの補助をしています。
魔法攻撃でこちらの動きを制限してくるのが厄介です。
どっちがお姉ちゃんなのかな? 好みも同じなのかな?
……などと分析しているうちに、
「考え事か? 随分余裕そうだなぁ!」
回避した先。眼前にはハンマー。
お二人は会話せずとも意思疎通ができているみたいです。私の首を取るのに躊躇いが無く、逃げ場を封じた上でチェックをかけに来ました。
このままだと私のお顔がペシャンコでしょう。とっても痛そうです。
ですが怖くはありません。時間がゆっくりに感じるのは走馬灯なんかじゃありません。それだけ余裕があるって事です。
だって、連携だったら私たちも自信がありますから。
ね? ルーナ。
「ふぅ……。ったく、危ないわねフェンリィ」
ガチン! という金属音が響いて間一髪私は攻撃を受けませんでした。
ルーナが【紅月】でハンマーを弾き返してくれたのです。
私はその隙に【可変式弾丸銃】のミーちゃんで牽制しつつ一旦距離を取ります。
「助かりました、ルーナ。ありがとうございます」
「いいわよそんなの。それより策はあるの? このままだと先にアンタの頭がカチ割られるわよ」
「そうですよね……」
次もルーナに助けてもらえる保証はありません。
なぜなら私たちはこの場にいる逃げ遅れた人たちを守りながら戦っているからです。先程までお祭りの真っ最中でしたから、ここにはお年寄りから子どもまで大勢います。敵はこの双子の幹部以外にもたくさんいますので、私たちはお互いを庇っている余裕がありません。
今は死人を出さないようにするのがやっとの状態です。
せめてこの幹部だけに集中できればいいのですが……。
「ここは任せるニャン!」
突然、後方から気の抜けた語尾が聞こえてきました。
振り返ると総勢10……匹? の武装した獣人の集団がいました。
猫、犬、牛、狐……魚? とにかくたくさんです。
「自分たちの森ぐらい守るニャ。この100年間、ずっと鍛えてきたニャんよ!」
「そうだワン! MASENほどの実力は無いが役に立って見せるケン!」
「ウッシッシ!」「コーン!」
雄叫びと共に10匹は散らばって、それぞれ悪魔と戦い始めました。低級の悪魔程度なら心配しなくて済みそうです。お祭りで警備の方々を見かけたので戦闘員もいると思っていましたが、想像以上に心強いですね。
「うちらだって負けないよ!」
さらに妖精の皆さんも駆けつけてくれました。
エルフや羽の生えたピクシー。魔法を使って食い止めてくれています。流石、最強と言われていた種族ですね。自力が違います。
「大丈夫そうね。これで私たちも思う存分戦える」
「はい。助かりました」
これで2対2です。
勝負はこれからですね。
「オイオイ、まさか勝った気か? アタシらまだ本気出してねえぜ?」
「ねぇねぇソレア。動物がたくさん来たよ。お腹の中見比べたい」
「いいぜ、見せてやるよ。ホントにクレアはままごとが好きだな」
このお二人からは嫌な空気を感じます。
ですが、私たちは絶対に負けるわけにはいきません。
「ルーナ、わかってますよね。リクト様が私たちに託してくれた意味」
「もちろんよ。むしろフェンリィの方こそ理解してるのか心配だったわ」
「ふふっ、心配無用ですよ。今はふわふわ遊んでる場合じゃありませんからね。終わったらたくさん可愛がってもらいます」
「そうね。アンタがしっかりしてると逆に調子狂うけど、頼りにはしてるわ」
「ありがとうございます。私もルーナのことは信じてますよ」
お互いの背中をくっつける形で半身に構えます。
ルーナは鎌を握りしめて、私は引き金に指をかけました。
「では私たちの友情を見せてあげましょうか」
「ええ。敗北なんて、リクトが許してくれても私が許さないから──!」
ルーナが姿勢を低く構えたかと思うと、声を置き去りにするように突っ込みました。私でも目でやっと追えるぐらいのスピードです。
ルーナの攻撃は当たれば一撃で落とせるだけの火力がありますから、並みの強さの敵なら動くことすらできずに命を落とすでしょう。
≪辻疾風≫
最速の先制攻撃。しかし、今回はそう簡単にはいかないみたいです。
「ヘヘッ、いいねぇ。ちっこいのにやるじゃねえか」
「小さくないし!」
追撃。追撃。追撃。
ルーナは手をゆるめません。猛攻です。
ですが正面から斬りつけても、背後を取っても防がれてしまいました。
どうやら一筋縄ではいかないみたいですね。
─────────
名称:ソレア
体力:S
物攻:SS
物防:S
魔攻:B
魔防:S
魔力:B
俊敏:SS
ユニークスキル:?
─────────
ランクの最高値はSSです。四天王クラスはその上のSSSらしいですが、それはもう生物の概念を超えた存在なので私たちには到達できない領域です。私たちは知恵と工夫と連携で、狂暴化したルーナのお父さんやロヴェッタさんを沈めてきました。
なのでそれ以外だとSSランクが最強です。そして、同ランクでも上と下とでは明確に差があります。一見同じに見えても、どこかでほころびが生じます。
そのほころびは些細なものかもしれません。
でもその差は、大きな結果となって現れます。
「グ……クゥ……」
「どうしたの? 疲れてるみたいだけど!」
キーン──
手から抜けるように一つのハンマーが宙を舞いました。
「クソガキが」
「そのガキにやられんのよ」
ルーナは冷静に、淡々と躍るように鎌を振ります。
長い付き合いですがその背中はずっと大きく見えました。
その成長が私も嬉しいです。
「ハァ……ゼェ、ゼェ……」
黒髪の少女は威勢を失い、喋る余裕もないくらい追い詰められています。ルーナの攻撃を後手に回ってガードしているだけになりました。
ルーナはその防御を着実に、的確に、削り取るように、
≪月華乱舞≫
ただ崩すだけ。
黒髪は武器を失い、無防備になりました。
「キ……まだ終わってねえぜ? 死ねやおらぁ!」
自棄になったのか小さな角を向けて突進。
そんな姿を、白髪の少女は見ているだけ。
「そっちが来るなら私はただ刈り取るだけよ。いいわ、楽に逝かせてあげる」
ルーナも引かずに真っ向から衝突。
二人が交差したその瞬間──ズバン! と黒髪少女だけが横真っ二つに両断されました。そして頭部が地面に衝突すると同時に、血も何もかもが消滅しました。
「消えた……? ってことは今の敵も元から死んでたってことね」
「はい。多分そうだと思います」
私の予想ではそれで間違いありません。きっと無理やり現世に留まらせた魂や肉体が死と同時に拒絶して消えるのだと思います。ただの召喚魔法なら実体化したまま死にますからね。
「じゃあもう一人もいるべき世界に送ってあげればいいわけね。どうするのアンタ。相方いなくなったみたいだけど抵抗するなら容赦しないわよ」
ルーナは白髪の少女に問いかけながらも警戒は解かずゆっくり近づきます。
「フフ」
その少女が微かに笑う声が、私の耳には確かに聞こえました。
ルーナには聞こえないくらいの小さな違和感が。
「もしかして泣いちゃった? でもアンタ達の方から仕掛けてきたんだから覚悟はできて──」
「ルーナ! 伏せてください!!!」
私がすぐに発砲し、ルーナが咄嗟にしゃがんだことで何とかその攻撃は防ぐことができました。
ですが第二撃は反応が遅れてしまいます。
その不意打ちを食らって、ルーナは吹き飛ばされてしまいました。
「ぐあ……ッ!」
「ルーナ! 大丈夫ですか!?」
「へ……平気よ。フェンリィが呼ばなかったら死んでたかも」
私たちはリクト様のおかげで魔王軍とも戦える力を手に入れました。
ですがそれは局所的なものにすぎません。
ルーナの場合、攻撃力はあっても耐久力が無い諸刃の剣です。
「ぎ、りぎりガード間に合った。受け身もちゃんと取ったしそんなに痛くない」
「よかったです。気を付けましょう」
油断はしていませんでした。
与えられているだけの私たちが慢心などできるはずありません。
なのでどうやら、相手の方が少し上手だったみたいです。
「キャハハ! 勝ったつもりだったか? 残念! 第二ラウンドと行こうぜ!」
ルーナが倒したはずの黒髪少女。
突然現れてルーナを襲いました。
私の想定外です。考えても……まだわかりませんね。
ユニークスキルでしょうか。
「フフ……」
また聞こえました。
この子も怪しいです。
大人しそうなのに本当に厄介なのはこちらかもしれません。
─────────
名称:クレア
体力:A
物攻:A
物防:A
魔攻:A
魔防:A
魔力:A
俊敏:A
ユニークスキル:?
─────────
人のこと言えませんがステータスは冴えませんね。
きっと特殊な能力があるのでしょう。
この子は私が相手をした方がよさそうです。
「おいクレア! 祭りだぜ? お前も好きに暴れろよ」
「フフ、ソレアがそう言うなら私も遊ぼうかな」
白髪は微笑むと、私たちに手をかざしました。
その小さな口を開いて、
「≪燃えちゃえ≫」
瞬間──火の豪雨が降りました。
灰になりそうなくらいの灼熱です。
「ミーちゃん! 全部やっつけてください!」
私は対抗するようにマシンガンに切り替えて連射しました。一発も撃ち漏らさず空中で爆散させます。
「フフ、やるね。ちょっと楽しいかも」
「私は全然です。仲良くは出来なさそうですね」
魔力量的にはありえない攻撃でした。
威力を上昇させる能力でしょうか……。
「ルーナ、そっちは任せていいですか? 危なくなったら援護はします」
「それはこっちのセリフよ。何回起き上がってこようがこの真っ黒頭は私が刈ってやるわ。さっきやり返されたし」
「キャハ。もしかしてアタシ舐められてる? 次もそう上手くいくとは思うなよ」
「フフ。どうやって殺そうかな」
ここまで時間がかかるのは誤算でした。この先何があるかわかりませんしさっさと片付けたいところですね。
今はリクト様がいません。助けてくれる人はいないのです。
あの優しさにも強さにも頼ることはできません。
ですが、逆にリクト様はこんな私たちを頼ってくださいました。
ならば託してくれた想いに応えなければなりません。
横に立ちたいのなら、この程度倒せないといけません。
もう昔の泣き虫フェンリィじゃないんです。
いつまでも甘えてるわけにはいかないんです。
だから証明します。私の存在意義を。
守ります。私が居てもいい場所を。
この大好きな毎日を続けるために。
笑いに溢れた楽しい今を生きるために。
戦って、結果で示します。
ルーナと二人で。





