7話 20人 VS 50匹
「こういうことはよくあるんですか?」
俺は村長に状況を聞くことにした。
「月に一度ぐらいは襲ってきます。その度に村は崩壊し、死人も出ます」
月一か。おそらくこの村の人や食料を奪って生きているモンスターがいるのだろう。そういうことはよくある。敵を完全に駆逐するまで終わらない闘いだ。
「敵の数は? こちらは何人いるんです?」
「敵は50に対し、我々は20足らずです。小さな村でして子供も武器を持っております」
倍以上か。
しかも子供にまで頼らないといけないとはな。
「任せてください。今日で終わらせます」
俺はそう言って前線にいる男たちのもとへ向かった。
「指揮は俺に任せてください」
「あ!? 誰だテメェ、これは遊びじゃねえんだよ。よそ者がしゃしゃり出てくんじゃねえ!」
村長の態度とは真逆で全く歓迎してもらえなかった。まあ、見ず知らずの奴に任せろなんて言われても信じられないか。
「ちょっと! リクト様に向かってなんてこと言うんですか! あなたたちは黙って言うこと聞けばいいんですよ!」
フェンリィが怒った。
自分より大きい男にも動じない。
「なんだテメェもか? ボロ雑巾纏った女とパッとしねえガキが偉そ──」
バチン!
「取り消してください! 私のことは何言ってもいいですがリクト様のことを悪く言うなら許しません! リクト様は凄いんです!」
フェンリィがブチ切れた。
今度はいきなりビンタしたのだ。気持ちは嬉しいけどやりすぎですよフェンリィさん。
「それに、これもボロ雑巾なんかじゃありません! 初めて私にプレゼントしてくれた大切なローブです! ほら、こうやって嗅ぐとすっごく気分がよくなるんれふよ。すー、はー。わぁ~リクトしゃまの匂いだ~。えへへっ」
フェンリィが酔った。
それは俺の匂いじゃないぞ! 酒の匂いだ!
「チッ。このアマ! まずはテメェで肩慣らしだ!」
男が拳を振り上げ、鉄槌を下そうとする。フェンリィは一回ぐらい頭を打った方がいいかもしれないが今はこんなことで揉めている場合ではない。
「まあまあ落ち着いてください。俺も出過ぎた真似をしました。ですがお手伝いはさせてください。きっと力になれますよ。あとこの子も悪気はないんです。な、フェンリィ。ごめんなさいは?」
「あ! やだ私ったらまた。ごめんなさい、やりすぎました!」
フェンリィは素直に謝った。
この人たちにも村を守るプライドがあるはずだ。俺はバックアップに徹するとしよう。今までもそうしてきたからな。
「くそが。テメェらの力なんて借りなくてもオレたちでなんとかする。目障りだ、失せろ」
敵に向けるようなギラついた目で睨むと、男は行ってしまった。
「なんですかあの人は! せっかくリクト様が助けてあげるって言ってるのに!」
「俺は気にしてないよ。フェンリィも危ないから隠れてて」
「はいっ」
何故か腕に絡みついてきた。
いや隠れててって言ったんだけどな。
興奮したフェンリィをなだめていると、
「敵襲だー!!!!!」
別の男が叫びながらこちらに走ってきた。
そのすぐ後ろには大量の魔物がいる。
「くっそ、この村は俺が守る! お前ら、邪魔だけはするなよ!」
「女、子どもは家の中に避難しろ! 闘える者は何としても食い止めるんだ!」
男たちは「うおおおおおおおお!」と雄たけびを上げてモンスターの群れへ向かっていく。その中には見るからに戦闘には不向きな体つきの者もいた。
『コボオオオオオオオオ!』
敵も気合十分。
こちらの戦士たちは弓を放ったり盾や剣を駆使したりしてなんとか対処しているがジリ貧だ。いずれ押し込まれて村にも被害が出るだろう。
「俺たちもいくか」
「はい!」
敵の数は倍以上。だが見た感じ普通のコボルトだ。いくら村人とはいえ、そんなに苦戦する相手なのだろうか。そう思って指輪を通し、ステータスを確認する。
──────────
名称:ハイ・コボルト
体力:B
物攻:A
物防:A
魔攻:B
魔防:B
魔力:B
俊敏:A
──────────
「な、なんだこいつ」
俺の知っているコボルトではない。見た目は同じなのにステータスが桁違いに高かった。こんな奴が50体も襲ってきたら一般人に対処なんてできるわけがない。
「リクト様、最近モンスターが突然変異で強くなることがあるみたいですよ。もしかしたらこのコボルトたちも元は普通の低いステータスだったのかもしれません」
突然変異? ここではそんな風に言われているのか。
まさかこんなところでも……。
「うわああああ!」
「大丈夫か!?」
「お、俺にかまうな! 死んでも守るぞ!」
一人が剣を奪われて敵に囲まれた。
尻もちをついて後退する。
「やっぱり怖え! こ、来ないでくれええ!!!!」
「リクト様!」
「ああ、わかってる」
≪反転≫
──────────────
名称:ハイ・コボルト(×50)
体力:B → D
物攻:A → E
物防:A → E
魔攻:B → D
魔防:B → D
魔力:B → D
俊敏:A → E
──────────────
俺は全てのコボルトのステータスを反転させた。
これでようやく低級モンスターらしくなったな。
ズババッッッ!!!
木の棒で、薙ぎ払うようにして5体のコボルトを駆逐。
気色悪い断末魔とともに絶命した。
「大丈夫ですか?」
「あ、ありがとうございます!」
「いえ、ここからが反撃ですよ」
倒れた男に手を差し伸べて引き起こす。
敵はまだまだ多いため休んでいる暇はない。
次だ。
「す、すげえなお前! いや、凄いですね勇者様! どうやってやっつけたのですか!?」
俺たちを邪魔者扱いしていた男がお手本のような手のひら返しで褒めてきた。
鬱陶しいな。喋ってないで戦えよ。この村はオレが守るんだろ?
「そんなの後ですよ」
「はい! あなたについていきます! おいお前らああああ! 勇者様に続けえええええ!!!」
まあ士気が高まったみたいでなによりだ。
これなら十分村人でも対処できるな。
「死ね!」
「なんだこいつら、滅茶苦茶弱いな!」
瞬く間にコボルトのみが倒れていく。
「これでラストおおおお!」
最後の一匹を倒し、無傷で殲滅を達成した。
「すげえや勇者様! 弟子にして下せぇ!」
俺は弟子も取らんし勇者でもねえ。
ええいくっつくな。馴れ馴れしいぞ。
男たちが勝利の喜びを分かち合っていると村の方から悲鳴が聞こえた。
「きゃーーーーーー!!!!」
「見ろ! コボルトの生き残りがいるぞ!」
一人が指をさすと全員がその方角を向いた。
コボルトが村に入っていたのだ。
「くそ、油断した。回り込んでたのか」
50匹すべてを数えながら倒していたわけではない。死角を突かれたとはいえ侵入を許してしまった。なかなか賢い奴だ。
いや、冷静に分析している場合ではない。この距離だと俺は間に合わない。俺が救えるのは手の届く範囲だけだ。いくら敵を弱めたところで攻撃が届かないなら意味はない。戦うことができない女性や子どもだけの村ではただのコボルト一匹でも壊滅できてしまう。
どうする。どうしたら助けられる。
一人でも怪我をしたら、一人でも死んだら俺の負けだ。
「た、助けて! いやだ! 死にたくないよー!」
小さな女の子が泣き叫んだ。コボルトはその女の子に襲い掛かる。他の女性たちは石を投げているが全くダメージはない。
ごめん。
もう間に合わない。
救ってあげられなくて……ごめん。
俺は下を向き、現実から目を逸らした。
「リクト様!!!」
すると目の覚めるような声が耳元で響いた。
「リクト様! 私に任せてください! 私が倒します!」
顔を上げると見たことない表情のフェンリィがいた。
何を言っているんだ? お前に何が出来るんだ?
「急いでください!」
真剣な眼差しで俺を見つめている。
この子はまだ助けることを諦めていないんだ。
そうか、俺が勝手に諦めてただけか。
「悪いフェンリィ。手伝ってくれ」
「はい!」
俺は全てをフェンリィに託すことにした。





