60話 到着!
次の日の朝。
鳥のさえずりと太陽の日差しに起こされた俺は1つあくびをして伸びをする。
木の上で寝ていたため若干体が痛いがこんなに気持ちのいい朝は久しぶりだ。
まだ少し頭がボーっとしているせいか昨晩の出来事が夢だったのではないかという気分になる。
今日はメメに森を案内してもらうためそろそろ下に降りて準備をしよう。
改めて下を見ると結構高い。
夜より朝の方が恐怖を感じるがあんまり関係ないか。
俺はぴょんと飛び降りて全身に風を感じた。
「≪反転≫」
衝突する直前に重力加速度を反転させてピタリと止まる。
自分に使うのは初めてだったがうまくいってよかった。
上から下への移動なら苦労しなさそうだな。
ドアをノックすると中から返事が聞こえた。
うっかり着替え中なんてイベントは発生しない。
出迎えてくれえたのは金髪の少女。
「あ、おはようリっくん」
リっくん。
俺のことをそう呼ぶのは一人だけ。
どうやら昨日の出来事は夢ではなさそうだ。
「おはようメメ」
「ご飯できてるよ。みんなで食べよ」
「ありがと。楽しみだ」
「うん」
朝から仮面を着けてはいるが俺とも普通に会話してくれるようになった。
若干恥ずかしそうな感じは抜けていないのがメメらしい。
中に入ると赤髪と銀髪の少女も起床済みで席に着いていた。
「お、おはよ、リクト」
「おはよルーナ。フェンリィが風船の真似してるけどどうかしたのか?」
「あー、それは……」
フェンリィなら真っ先に飛びついてきそうだったが俺から顔を背けて頬を膨らませている。
あとルーナも少し挙動がおかしい。
お腹が空いて待ちきれないのだろうか。
「ふんっ、リクト様なんて知りません」
「そうか。俺もお前なんて知らないな」
「うわあぁぁん嘘です! 今日も大好きです!」
怒ってるかと思ったら急に引っ付いてきた。
情緒が不安定過ぎるだろ。
「えっと、今日はどうしたんだ? お行儀よく座ってなさい」
「はぃ」
とりあえず引き離して座らせる。
黙ってればいい子なんだけどな。
「だって、浮気するから……」
しょんぼりするフェンリィ。
俺は誰とも特別な関係ではないため何をしようが浮気ではない。
が、そんな事実はこの子に関係ないようだ。
朝っぱらから騒ぎ出す。
「メメちゃんと急に新婚ごっこ始めないでくださいよ! なんでそんな仲良しになったんですか! もしかして昨日の夜見てないところで手出したんですか!?」
今日もフェンリィはフルスロットルだ。
女の子がまた一人増えたから愛が三倍になって頭がおかしくなったのかもしれない。
「落ち着いてくれ。ただ少し話しただけだから」
「うぅ。本当ですか? メメちゃん、何もされてないですか?」
何故か俺の言うことは信じてくれない。
仮面の少女に問い詰める。
「うん。抱っこされて優しくしてもらっただけだよ」
「「やっぱり!」」
今まで黙っていたルーナまで声を上げた。
二人ともどんな妄想をしているのか知らないが顔を真っ赤にしてわたわたしている。
「待て待て。なんでそんな意味深なこと言うんだよメメ」
わざとやってるのか二人をからかって楽しんでいるようだ。
鼻歌交じりに朝食をよそって運んでくれる。
「はいどうぞ。早く食べよ」
「「はぐっ」」
ポカンと空いていた口にパンを突っ込むとメメはくすくす笑った。
年上の余裕というやつだろうか。
三人も昨日の夜だけで随分仲良くなったと思う。
「やっぱりメメちゃんのごはんは美味しいです!」
「これ初めて食べたわ。おかわりある?」
食べたら忘れたのかフェンリィとルーナは食事に夢中。
俺も他のことは一旦忘れて仲間と談笑した。
◇◆◇◆◇◆
「じゃあ行くね。忘れ物無い?」
朝食を終えていよいよ妖精の森に向かうことになった。
メメが案内をしてくれる。
「大丈夫だ。頼む」
「近くにあるの? どれくらい歩く?」
もう歩くのはウンザリなのかルーナが尋ねる。
「町までは少し歩くけど妖精の森にはもう着いてるよ」
「え、どういうこと?」
「見た方が早いと思う。こっち」
手招きされてメメの後を追う。
昨日見ていた背中よりずっと生き生きとしている。
「ここ」
連れてこられた……というほどの距離も歩いていない。
木の裏に回っただけだ。
そこにはちょうど俺がしゃがまなくても通れるぐらいの穴ができていた。
意図的にくりぬかれたような空間が広がっていて洞穴のようになっている。
「メメちゃんはかくれんぼしたいんですか?」
フェンリィがそう言いたいのもわかる。
俺たちは妖精の『森』を探しているのだ。
「ここであってるよ。中入って」
言われた通り入るとやはり空洞だった。
暗くて周りもよく見えない。
「ちょっと気を付けてね。どこか掴まってた方がいいかも」
薄っすらとだがメメが両手を組んで祈るようなポーズをした。
その瞬間、
「「きゃあああああああああ!!!」」
絶叫を置き去りにするほどのスピードで下に落ちた。
床が抜けたように空間ごと移動する。
「なんだ!? 何が起きてる!?」
「楽しいでしょ。妖精の森行のエレベーターだよ」
「エレベーター?」
エレベーターというよりアトラクションだ。
「ごめんね。黙ってた方が面白いかなって」
「意外とメメって悪戯好き? わっ──!」
さらに加速し、心臓が浮くような感覚に襲われる。
「「きゃああああああああああ!!!」」
フェンリィとルーナは泣いてるのか怖がってるのか楽しんでるのかよくわからないが叫びっぱなしだ。
メメも一緒になって叫んでいる。
やがて微かに光が差した。
視界が晴れてその現実が一面に広がる。
「着いたよ。ようこそ、妖精の森へ」
「ここが……?」
「ええええ! なんですかここ!?」
「あれ? 私たち下に降りたわよね?」
そうだ。落下していたのだからここは地下のはず。
それなのに、
「なんで太陽が出てるんだ? いや、それだけじゃない。空も青いぞ」
目の前には地上と何ら変わらない世界が広がっていたのだ。
「あれは本物じゃないよ。森の膨大な養分を魔力に変えて地上とそっくりの世界を再現してるの」
「私にはよくわかりませんが凄いです!」
「なんだか絵本の中みたいね」
そりゃ地上でいくら探してもないわけだ。
妖精は希少だと言われているがその多くは地下に住んでいたらしい。
「メメみたいに地上にいる人もいるよ。でもみんなここで生きてる」
「そ、そうなのか。入り口はここしかないの?」
「ううん、他にも何個かあるよ。普通の人には見つけられないしメメみたいな妖精と一緒じゃないと来れないようになってるの」
「なるほど。俺たちは入って大丈夫なのか?」
「うん。本当は審査みたいなのもあるんだけどみんなは平気。メメが許可したから」
「よくわからんが助かる。で、町はどこにあるんだ?」
辺り一面どこを見ても森、森、森。
幻でも見せられているようだ。
「あ、そうだったね。こっち……」
メメの案内に従う。
さっきまでより僅かに足取りが重い。
「楽しみね。他にはどんな人たちが住んでるの?」
厳密には『人』ではないが意味は通じる。
「えっと……、人魚、獣人、小人、とかたくさんいるよ」
「人魚さんもいるんですか! 会ってみたいです!」
俺も見たことないな。
目的を忘れてはいけないが浮かれるのも無理はないだろう。
「あ、そうだメメ。もう一つ聞きたかったんだけど狂暴化現象って知って──」
ここに来た理由。
それは魔王の仕業と思われる狂暴化現象が多発しているという噂を聞いたからだ。その噂は本当なのかもしれないが、事態はそれ以上に厄介かもしれない。
「なに、これ……。なんで、ここに……?」
メメは座り込んで耳をふさいだ。
ガタガタと震え、言葉ではない何かをぶつぶつ呟いている。
────────────
名称:ヘル・ケルベロス
体力:A
物攻:SS
物防:A
魔攻:B
魔防:A
魔力:B
俊敏:A
────────────
冥府の番犬、ケルベロス。
三つの頭を持つバケモノでその辺にいていいモンスターではない。
メメの様子を見るに異常事態なのは確かだろう。
こいつは狂暴化ではなく、単純に凶悪なモンスターだ。
「≪反転≫」
俺の能力は相手が格上であればあるほど真価を発揮する。
ケルベロスも俺の前では子犬以下だ。
そのはずなのに、
「効いてない?」
なぜかステータスが変わらなかった。
以前ロヴェッタに効かなかったこともあるが、それはあいつが機械だったから。
でもこいつはそうじゃない。そういうユニークスキルか?
「リクト! 任せて!」
「あ、ああ。わかった」
まあいいか。少し気がかりだが俺の力は四天王にも通用するものだった。
あとでゆっくり考えるとして、今は仲間に任せておこう。
単身で突っ込んでいたルーナにも能力をかけるとしっかり作用してルーナが加速。
どうやら能力が使えないわけではないらしい。
「メメが怖がってるでしょ。友達をいじめるやつは許さない」
ルーナが【紅月】を走らせ、風を斬る。
対するケルベロスは三つの口を開き、その鋭く尖った牙を文字通り燃やした。
それは火力に特化したケルベロスの使う──≪獄炎牙≫。
地獄の炎を纏った牙と少女の鎌の真っ向勝負。
力の差は歴然だった。
『ギュヨオオオオオオン!』
ケルベロスの牙だけが砕け散る。
するとルーナがジャンプし、宙に浮く。
ケルベロスは六つの目をもってしてもその姿を追えずにいた。
ようやく気づくがもう遅い。
「そのままキャンキャン泣いてなさい。楽に逝かせてあげるから」
生き物は失わなければ気づかない。
失って初めて己の過ちに気づき、反省するからだ。
だが、戦場では反省など不要。
失っても気づけない命だから……。
≪月黄泉≫
切断された三つの首。
それらを上から見つめ、ルーナは付着した血を払う。
その姿はさながら黄泉へと送る処刑人のようだった。
「ふぅー。やっぱり外って危ないのね。確かに気抜いてたらこっちが殺されるわ」
「ああ、よくやったルーナ」
「へへ、ありがと」
この程度の敵なら弱体化させなくても余裕そうだな。
相性などもあるだろうが、フェンリィとルーナの実力は幹部以上四天王未満といったところか。
「メメ、もう大丈夫よ」
「ほ、ほんと? 凄いねルナちゃん」
「倒したのは私だけどリクトのおかげよ。お礼はいいわ。友達だもの」
「ありがと、みんな」
震えが収まったようでよかった。
手を貸して引き起こすと土を払う。
気を取り直して町を目指すか。
「あれええええ!?」
「ん? どうしたフェンリィ。せっかく大人しかったのに……って、どういうことだ」
ルーナが倒したはずのケルベロスが消滅していた。
三つの首も、飛散した血液も一滴残らずだ。
「誰かの能力だったってこと? じゃないと消えないわよね?」
「なるほど。その可能性はあるな」
俺の能力が効かなかったことと関係ありそうだ。
「メメ、最近こういうことって多いのか?」
「わ、わかんない。でも、昨日のドラゴンも、あんなの知らない。森がうるさいの。ざわざわする」
やっぱりか。ここにきて正解だったな。
「俺たちはこういう事件を何とかするために案内を頼んだんだ。誰か詳しい人とかいるかな?」
「いると思うよ。メメより大人で物知りな人たくさんいる」
「そっか。メメは俺たちが守るから引き続き案内頼む。怖い思いさせてごめんね」
「いいの。メメもちょうど用事あったから。メメだけだったら今も昨日も死んでたよ」
「安心してくれ。絶対死なせない」
仮面の下にある見えない目を見つめて強調する。
「……うん」
こうして俺たちはメメを護衛しながら妖精たちが住む町にたどり着いた。





