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56話 動き出す歯車

 仲間との絆を深めて森の中を彷徨うこと早1時間。

 俺たちは絶賛迷子中である。


「どうしましょうリクト様! このままだと死んでしまいます!」

「落ち着けフェンリィ。大丈夫だ……多分」

(アタシ)もそう信じてるけどだいぶ暗くなってきたわね」

「そうなんだよな。どうしようか……」


 俺の能力はあくまで敵を葬るためのものだ。

 サバイバル環境下では獲物を仕留めるぐらいしか役に立たない。

 我ながら無能である。


「外に出るの初めてだから(アタシ)は楽しいけどね。きっと何とかなるわよ」


 ルーナはずっと家の中で一人だったらしい。

 そのため今日はずっと目をキラキラさせて子どもみたいにはしゃいでいた。


「はぁ、これだから素人さんはダメなんですよ。いいですか、ルーナ。夜の森はとっても危険なんです。ルーナなんて一口で食べられちゃいますからね。こう……バクって!」

「ゃんっ! うふっ、あはははっ! や、やめてよぉ~」


 フェンリィは『ガオー』のポーズをしてルーナに忍び寄るとぎゅっと抱きしめてくすぐり始めた。二人がじゃれ合っているのを見ると平和を感じるな。


「これでわかりましたか? 襲われるかもしれないから注意してください」

「はぁ、はぁ……。わ、わかったわ。気を付ける」

「はい。それでリクト様、これからどうしますか?」

「んーそうだな……」


 さっきからずっと考えているが打開策が見当たらない。

 いくら進んでも景色はずっと森、森、森。

 そこら中に怪しげなキノコやキモい虫がいて樹海のようなイメージだ。

 もう薄暗くなってきたし今日は諦めてそろそろ夜に備えた方がいいかもしれないな。


「外で寝ることになるけど平気?」

「問題ないです! 一緒に寝ましょう!」

「お泊り!? やった、楽しみ!」


 方向性は違うが二人とも了承してくれた。

 フェンリィがまた変なこと言ってるがもういちいちツッコまない。

 放っておこう。


「よし、となると最初の問題は食料だな」

「ちょっとぐらいなら私のこと食べてもいいですよ。やんっ」

「……」

「あれ? リクト様?」

「ルーナ。食料は二人分だけでいい。一緒に食べれそうなものを探そう」

「うん! 探す!」

「ごめんなさい冗談ですよぉ。置いてかないでくださいぃぃぃ~~~」


 その場に座り込み、わんわん噓泣きを始めるフェンリィ。

 そのせいかモンスターを引き付けることになる。


 ガサッと──いや、ザワッと森が揺れた。

 と思った次の瞬間、周囲からその正体が現れる。


────────────

 名称:ビーストモンキー(×10)

 体力:C

 物攻:A

 物防:D

 魔攻:D

 魔防:D

 魔力:D

 俊敏:A

────────────


 野生感あふれる毛に覆われたサルが10匹。

 そのターゲットに選ばれたのは、


「きゃああああ! リクト様! 襲われちゃいますぅぅぅぅ!!!」


 フェンリィだ。

 野獣の如くその豊満な体に飛び掛かかる。


『ウキイイイィィィィィッ!』


 真っ赤な顔をして群がるサルたちはまるで発情しているようだ。

 対するフェンリィは、


「わぁーおサルさんがいっぱいだぁー」


 動物園と勘違いしているのか他人事である。

 しかし、急にアホになったからといって狂ったわけではない。

 ただ能力を使っただけだ。この子には敵に遭遇したらすぐアホになれと言ってある。常時発動していると疲れてしまうからだ。


「くそ、≪反転≫」


 俺は咄嗟にルーナとフェンリィに能力をかけた。

 あれだけ油断するなと言い聞かせていた俺が出遅れてしまったのは情けないがもう大丈夫だろう。俺の役目はここまでだ。


(アタシ)が潰す」


 能力を≪反転≫させたルーナのスピードは世界最強クラス。

 この距離なら十分対処可能だ。


 ──にもかかわらず、ルーナは間に合わなかった。

 なぜなら必要が無かったから。


「うるさいおサルさんですね。私たちのお夕飯にしてさしあげます」


 この場の誰よりも早く攻撃に転じたのはまさに襲われようとしている本人。【可変式弾丸銃(バリアブルガン)】を構えると流れるような動作で連射式の銃に変形させ、両手に持って踊るように回り始めた。


「行きますよミーちゃん。血祭りにしましょう」


 乱射された弾が四方八方から迫る獣の体を確実に貫いていく。

 鳴りやまない銃声。

 一つ、また一つと消える声。

 ミンチになった肉片と血潮が嵐のように吹き荒れる。



露血嵐(ロケラン)



 屍の中心にはその場に似つかわしくない少女が一人。

 原形をとどめていない(こま)切れにされた血肉はやがて土に還った。


「ふぅー、私を襲っていいのはリクト様だけなのです。さよなら」


 銃口に一息かけると嗜虐的な笑みを浮かべてみせた。

 嵐の前の静けさと一緒に現実が戻る。

 ・

 ・

 ・

「ハッ! 見てましたか!? 私がやっつけたんです!」


 すっと表情に色が宿っていつものフェンリィに戻った。

 やるときは()ってくれる子だ。


「ああ見てたよ。怪我しなくてよかった」

「えへへ~。心配されちゃいました~」

「まあフェンリィと違ってフェンリィさんの方は心配してないんだけどね」

「きゃあああ! 褒められちゃいました~」

「落ち着こっか。倒したのは偉いけどこれじゃ食べられないでしょ。暴れすぎだ」


 体をくねくねさせてピョンピョン跳ねるから動きがうるさい。

 なんとなくムカついたのでほっぺをつねってみた。

 ぷにぷにしてて気持ちいい。


「やいふいはいあひあ。えへっ」

「……」


 幸せそうな顔をされたから手を放す。

 褒めても注意しても喜ばれるからこの子は病気なのかもしれない。

 変なキノコでも食べちゃったのだろうか。


「まあいっか。よく考えたらそいつも食べれたかわかんないしね」


 大抵のものは火を通せばいけるだろうが絶対はない。

 俺たちは普通の人間のため食中毒でも起こしたら大変だ。

 このパーティの弱点かもしれない。


「じゃあどうすんの? 今日はご飯抜き?」


 俺たちは昼から何も食べていない。

 ずっと歩きっぱなしだったためお腹は空くし疲労も蓄積している。


「知ってる木の実とかあると思ったけど見た感じ怪しいやつしかないからな。一晩我慢できる?」

「まあ(アタシ)はそういうの慣れてるからいいけどさ。ちょっと残念かな」


 そうか。ルーナは外に出て初めての夜だもんな。

 夕食無しは可哀想だ。


「私はお腹ペコペコです。歩けないのでおんぶしてください」

「やめろ寄りかかるなって。ルーナが頑張ってるんだからフェンリィも自分で歩きなさい」

「むぅー。私はルーナより栄養が必要なんです!」

「ねえ、もしかして喧嘩売ってんの?」


 また二人が喧嘩しそうになったため間に入って止める。

 今日のフェンリィはやけに甘えん坊な気がするが何かあったのだろうか。ちょっと聞いてみよう。


「頭打った? それとも体調悪い? いつも以上に鬱陶しいんだけど」

「ひどいです! そんな風に思ってたんですか!?」

「そうだよ。元気そうだね」

「ガーン。ま、まあリクト様はツンデレさんなのでいいでしょう」


 この子にはあまり話が通じると思わない方がいい。


「で、どうしたの? 遠慮せずに言ってごらん」

「だってぇ、女の子が一人増えたんですよ。私の愛も二倍にしなきゃいけないじゃないですかぁ」

「なんだよその理論。十分すぎるくらい伝わってるから今のままでいいよ」

「そうですか? 私はまだ足りないと思ってましたけど」

「大丈夫。お願いだから普通にしててくれ」

「その方が好みって事ですね! じゃあそうします!」


 とりあえずわかってくれたみたいでよかった。

 本当はもっと距離を置いて欲しいけどまあいいか。


「ご飯は後回しにするとして、寝る場所を優先しよう。こんな森の真ん中じゃぐっすり眠れないからな」

「そうね、虫いないところがいい」

「わかりました。それぐらいなら私が見つけてみます!」


 再びフェンリィが自分の能力を下げ、俺が≪反転≫させて能力を高める。

 ・

 ・

 ・

「申し訳ございません。そろそろ役に立ちますね」


 フェンリィさんモードは知能が高いためエキセントリックな行動はとらないが、俺の心音を聞くという変態だ。性格が変わっても中身がフェンリィに変わりない。


「あら?」

「どうかした? もしかして今度こそ妖精の森を見つけた?」

「いえ、違います。でも聞いたことない音が聞こえます」

「敵?」

「でもなさそうですね。聞き取りにくいですがこっちの方です」

「よし行ってみよう。案内頼む」


 草木をかき分けて進むと少し開けた場所に出た。


「あの子です」


 そこにいたのは一人の少女。

 足をロープで縛られた状態で木に吊るされていた。

 逆さまになっているためスカートが全部下にめくれてパンツが丸見えになっている。ちなみに色は真っ白だ。


「ニン、ゲン?」


 その少女は警戒した様子で俺たちを一人一人見回す。

 フェンリィ、ルーナ。

 最後に俺と目が合った瞬間、


「うっ、うぐっ、うえええええん」


 泣かれた。

 叫ばれた方がまだましだった。


「遊んでるわけじゃなさそうね。助けてあげるわ」


 ルーナが宙ぶらりんになっている少女のロープを斬ると俺のところに落ちてきたため優しくキャッチ。遠目にもわかったが近くで見るとより美少女だった。


 軽くて折れてしまいそうな体躯。

 背中まで伸びた蜂蜜みたいに透き通った金色の髪。

 宝石みたいに輝く碧眼。

 人間にしては尖り過ぎた耳。

 森の妖精を連想させる黄緑色のローブ。

 それはエルフの少女だった。


「ぐすんっ」

「ご、ごめん泣かないで。許してください」


 乙女の秘密を勝手に知るのはよくないことだ。

 たとえ非が無くても謝るのが筋である。


「あ、ちょっと暴れないで」


 エルフの少女は俺の腕から逃げるように降りると木の陰に隠れてしまった。

 しかし耳と一緒に金髪を揺らしながらチラチラ見てくる。


「敵じゃないよ。怖がらな──」

「……っ!?」


 一歩近づくと顔を引っ込めて隠れてしまった(耳は隠せていない)。

 完全に避けられてるな。俺のコミュ力は決して高くないし女の子の扱いも上手いわけではない。どうしたもんか……。


「もしかしてエルフさんですか? 可愛いですね!」

「え? 本物!? すごいすごい!」

「うぅ……えっ……その……」


 興味津々に近づくフェンリィとルーナ。

 女の子同士だからだろうか。少女は困惑している様子だが拒絶はしていない。

 その証拠に木の影からほんの少しだけ出てきてくれた。


「お名前はなんて言うんですか?」

「……め、メメ」

「メメちゃんですね! お友達になりましょう!」

(アタシ)もなりたい!」


 テンションに押されたのかメメという少女は目をまん丸くして小さく頷く。

 まるで初めて見る生き物に向ける目だ。視線を上え下へと動かしている。


「俺もなりたいです」

「ひっ」

「……」


 何故か俺は声をかけただけで顔を背けられた。

 若干ショックだ……。

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