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54話【追放サイド】復讐に取り憑かれた者の末路

「どこだここは」


 俺たちは気が付くと何もないまっさらな荒野で寝ていた。

 ハウザーとルキシアも目を覚ます。


「ったた、やっぱり武器とかも全部奪われましたか」

「もう最悪……。これが噂に聞く転移魔法ね」

「チッ、まいったな」


 さすがの俺も余裕がなくなった。

 魔剣【大災害(カタストロフィ)】や金銭などをはじめ、身ぐるみを全部はがされた挙句、転移魔法で知らない場所に飛ばされた。

 転移魔法は王のユニークスキルではなく魔道具の一種だ。どの国でも王が一つ所有していて、国の秩序を乱す者を追放するために使う。

 直接手を下さない死刑のようなもので島流しとも言う。


「わあああああん! もうやだあああ! おうち帰りたい!」


 突然ルキシアが泣き喚いた。

 まあ気持ちはわかる。今はそっとしておいてやろう。


「アーノルドさん、どうしますか? このままだと俺たち……」

「落ち着け! まずは情報収集だ」


 こんなところで死んでたまるか。

 まだ俺は何も成し遂げていない。


「くそ、こんなはずじゃなかったんだ」


 一体どこから狂った?

 決まってる。全部あの男のせいで俺がこんな目に……。


「行くぞ。ルキシアを担げ」

「行くってどこですか!?」

「そんなもん知るか! 俺に従え!」

「わ、わかりましたよ」


 とは言ったが俺も不安だ。

 この荒野がどこまで広がっているのかわからない。

 人間が目視で見える範囲は約5キロと言われている。その範囲には建物どころか草木の一つも生えてやしない。

 地図も無く、水も食料も無い俺たちが終わりの見えない旅路をゆくのは肉体的にも精神的にもキツイ。


「ルキシアさん。行きますよ」

「うううぅぅっぅぅぅ~~~」


 ルキシアの精神的ストレスが限界に達したらしい。

 こんな子どもみたいに怯えた顔を見たのは初めてだ。


「引きずってけ。とりあえずこっちに進んでみるぞ」


 俺は直観に頼り、一歩踏み出した。




◇◆◇◆◇◆




「ハァ……ハァ……」

「ゼェ……ゼェ……」

「……………………」


 歩き始めて三時間。

 景色が全く変わらない。


「どうなってるんですか! ホントにこっちであってるんですか!?」

「知らねえよ! だったらテメェはわかんのかよ!」


 俺たちのストレスも限界を超えた。

 頬を伝う汗にすら苛立ちを覚える。


「あっ! ああああああ!」

「っせえな! 今度はなんだ!」

「ここさっきも通りましたよ!」

「は? なんだって!?」


 ハウザーの指差す場所を見ると地面にバツ印がはっきりと彫られていた。

 自然の力では絶対につかない印だ。


「本当にお前がやったのか?」

「間違いないです」

「何分前に付けた?」

「三分前ぐらいです」

「まじか」

「まじです」


 俺たちは何も言わず頷き合うと検証することにした。

 ハウザーが寝てしまったルキシアを地面に置き、俺たちは背中合わせになる。

 そして反対方向に走り出した。

 十秒ほど走ったところで、


「「え!?」」


 真っ直ぐ走っていたはずなのにハウザー、ルキシアと遭遇した。

 どうなってやがる。


「結界に閉じ込められてるんですかね?」

「それしかないだろうな。だがなぜだ」


 こんな奇妙な結界を施す意味が分からん。

 それ以前にここはおそらく地図にも載っていないような辺境の地。

 超遠距離で魔法を維持させるなど人間に出来る技ではない。


「なあ、さっきから疑問に思ってたんだけどよ」

「はい、オレも思ってたことあります」

「ここ、何もないがモンスターもいないよな」

「ですね」


 いない方がいいに決まっているがいないのも不自然だ。

 この空間は存在していたものが無くなったような、そんな気がする。

 俺たちが罪を犯したのは認めるがこんな地に飛ばすほどの大罪を犯したわけではない。

 人を殺したことも無いしな。

 そこから導き出される答え。

 それは、


「見えない敵がいるな」

『正解』

「誰だ……!?」


 俺がそう口にした刹那。

 空間がねじれた。

 具体的には空と大地が反転し、俺たちは宙に浮いた。

 足元に澄んだ青空が広がり、頭上に地べたが広がっている。


「…………!?」


 声が出ない。

 息ができない。

 目が見えない。

 耳が聞こえない。

 なのに感じる。脳に全ての情報が流れ込んでくる。


 同じように宙に浮くハウザーとルキシア。

 そしてもう一つの黒い影。

 そいつを認識した瞬間、俺の体は硬直した。


 怖い。ここにいたくない。今すぐ逃げ出したい。

 なのに体が動かない。

 こんな感情になったのは初めてだ。

 俺の本能がヤバいと言っている。

 圧倒的な力を前にして俺は無意識に懺悔を始めた。



 認めます。

 俺は弱者です。

 俺こそが無能です。

 全部俺が悪いです。

 だから許してください。

 殺さないでください。

 俺はまだ死にたくないです。

 次はもっと真っ当に生きます。

 人のためにこの身を使います。

 約束します。

 なのでどうか、助けてください。



 俺はなぜか見えない敵にみっともないくらい命乞いをした。

 そうしないと殺されると思ったのだ。


『やっぱり面白いね』


 話しかけてきた。

 なんなんだコイツは。

 こんなバケモノがこの世に存在しているのか。


『ボクは魔王だよ。サタナっていうの。仲良くしようね』


 魔王!?

 シルエットは幼い子供のようだがその姿はモヤがかかっていて顔まではわからない。

 本当に魔王なんて存在するのか疑問に思っていたがコイツは間違いなく魔王だ。

 初めて会うのにこの異様なプレッシャーがそうだと言っている。


『キミたちに力を上げるよ。目的があるんでしょ?』


 目的。

 いや、もうそんなのどうでもいい。

 俺たちを解放してくれ。してください。


『ダメだよ。もうキミたちはボクのオモチャだから壊れるまで遊んであげる』


 ふ、ふざけんな!

 俺たちで一体何を──ぐっ、ぐああああああああ!


『口答えはダメだよ。ボクの言うことは絶対』


 右手が左手になって右足が左足になった。

 人形のパーツを付け替えたみたいだ。

 痛みはないが脳がパニックを起こして悲鳴を上げてしまう。


『言うこと聞かないとあの女の子みたいにするよ?』


 瞬間、ルキシア()()()姿が脳に焼き付いた。

 首が逆側に回っていて口をぱくぱくしている。

 あの性格だから反抗的な態度を取ったのかもしれない。


『死んでないから安心して。そんなに怖がられるとボクも悲しくなっちゃうよ』


 サタナとかいう魔王は淡々と語る。

 口調は柔らかいのに恐怖しか感じない。

 俺は抜け殻みたいに抵抗する意思が無くなった。


『キミたちは力が欲しいでしょ? 望む力を与えてあげるよ』


 ちから?


『そうだよ。全てを壊す力だ。気に入らない物は全て排除すればいい。キミも同じでしょ?』


 全て、コワス。ハイジョ、する?


『うん。キミたちをここまで追い詰めた男がいるよね? そいつのことをもう一度よく思い出してみて。そいつをどうしたい?』


 つ、ツイホウしたい。


『なら自分の気持ちを大事にしなきゃ。キミは悪くない。悪いのは全部その男だよ』


 俺はワルクナイ。

 そうか……。そうだ、俺はタダシイ。


『さあ、願いを言ってごらん。ボクが叶えてあげる』


 チカラヲヨコセ。オレガサイキョウダ。


『よし、契約完了だ。人間やめさせてあげるね』


 サタナがにやりと笑みを浮かべた。

 俺が人間だった記憶はそこまでしかない。


















 そして俺は生まれ変わった。


『気分はどう?』

「最高だ。今の俺ならお前も殺せる気がする」

『威勢がいいのはいいことだ。実験成功だね』

「ああ、感謝するぜ」


 体中に力がみなぎってくるようだ。

 早くこの力を試してぇ。


『ボクを楽しませてよ、三人とも。じゃあまたね』


 サタナの声が木霊すると再び天地がひっくり返り、元の世界に戻った。

 永遠にも一瞬にも感じられる出来事が終わりを告げる。

 何事もなかったように時が動き出した。


「お前たちもこっち側に来たか」


 すぐ近くに強大な魔力を感じる。

 もうここに人間はいない。


「キャハハハハハハ! もうさいっっっこう! 私が最強よ!!!」


 発狂するルキシア。

 容姿は変わっていないが纏うオーラは桁違いだ。

 さっきまで子どもみたいに怯えていた奴とは思えない。


「早く壊しに行きましょう。この生まれ変わった手に、人の死を感じさせたいです」


 人間だった頃より好戦的なハウザー。

 この力が俺たちに自信を与えてくれる。

 俺たちはもう弱者でも負け犬でもないのだ。


「よし、行くか。ここがどこか知らんがまずは俺たちを追放した国を滅ぼしに行くぞ」


 体が軽く、背中に翼が生えたみたいだ。

 いや、みたいではない。魔力を具現化させて飛ぶことができる。

 試しに手元に魔力を集中すると剣を生成することもできた。


「ふっ、ふふふ。フハハハハハハハハハハハ!!!」


 思わず笑いが込み上げてくる。

 俺たちは自由と、世界を闇に引きずり込むほどの力を手に入れた。




◇◆◇◆◇◆




 何もない空間。

 文字通り無機質な空間。

 真っ白な世界が無限に広がっている空間。


 異世界か。夢か。幻か。

 それは誰にもわからない。

 そんな空間に存在する二つの影。

 サタナとヴァンパイアだ。


「サタナ様、上手くいったんですね」

「うん、面白くなりそうだよ。人間改造するの楽しいね」

「それは良かったです。ではワタシも余興に一発打ち上げさせていただきますね」

「ん? ああそうか、妖精たち殺すんだっけ。頼んだよ」

「はい、では失礼します」


 ヴァンパイアは丁寧にお辞儀すると姿を消した。

 残されたサタナは無邪気に笑う。


「やっぱフィナーレは盛り上げないとねっ」


 その瞳が見据える者は、サタナだけが知っている。

2.5章完結です。

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