52話【追放サイド】分岐点
「また会うことになるとは思わなかった」
目の前の男──リクトはそう言った。
デュアル・オーガの右腕を持って……。
「立てるか?」
剣に付着した血を払って右腕を捨てるとあろうことか俺に手を差し伸べてきやがった。くそが。下に見やがって。
「必要ねえ。失せろ」
俺はその手を薙ぎ払うようにして立ち上がる。
ハウザーとルキシアは腰を抜かしたままだった。
「なんですかあなたは! リクト様が助けてくれたんですよ! ありがとうも言えないんですか!!!」
リクトの取り巻きAが物凄い形相で俺に怒鳴り散らしてきた。
コイツは前にも会ったな。ルキシアが嫌ってた女か。
「そうよ! 雑魚のくせに何いきがってんのよ!!」
取り巻きBもそう言ってビシッと指をさしてくる。
コイツは見ねえ顔だ。しかしこの特徴的な赤髪には嫌な思い出がある。
アストレシア家の人間が持つ髪色にそっくりだ。昔を思い出す……。
「チッ、うるせえガキどもだな。お前らの助けなんざなくても俺たちだけでやれたんだ。なのに勝手に手出しやがって。俺たちの任務を横取りしようってか? この泥棒が!」
「そ、そうよ! 有り金全部置いてきなさいよこのメスガキ!」
「オレたちはお前らを一生許さないっす」
俺に続き、いつの間にか元気になっていたルキシアとハウザーも抗議する。
俺たちがパーティを再結成したのはコイツらをこの世から追放するためだ。
そいつらを前にして感情を抑えることなどできるはずない。
「おい、そこの赤髪の女。もしかしてアストレシア家ですか?」
いつもヘラヘラしてるハウザーが眉間にしわを寄せて取り巻きBに剣を向けた。
「そうだけど? だったらなによ」
「やっぱりっすか。気に食わねえっす」
ハウザーが怒るのも当然だ。
人間社会にはモンスターのランクなんかと同様に序列がある。
アストレシア家はその中でもトップ集団。人間社会を牛耳っていた糞野郎共だ。
一週間ほど前にアストレシア家が魔王軍と手を組み、半壊したと聞いたが何故か生き残りが目の前にいる。
「お前。名前はなんて言う」
「ルーナだけど。何よその態度、斬られたいの?」
確定だな。人間で名前に『ー』を冠するものはアストレシア家に関わりのある者がほとんどだ。髪の色が赤だとアストレシア家。モンスターを駆逐し、その返り血で染まったと言われている。
それ以外の俺やハウザーはアストレシア家の分家。家柄の勢力争いには微塵も興味は無いが、幼少期から本家と比べられてきたため多少恨みはある。何か個人的にされたわけではないが、俺の上に人がいることが許せない。
俺の野望の一つにアストレシア家の崩壊があったが、自分の手で叶えることができず残念に思っていたところだった。しかし目の前にその生き残りがいる。コイツも俺の復讐対象だ。
「女なら全員殺す」
今のセリフはルキシア。
ルキシアは特別な因縁があるわけではないが殺るきは十分。
これで俺たちは全員、目の前の三人が大嫌いだということは一致した。
殺す理由なんてそれだけで十分だ。
邪魔な奴は消せばいい。追放なんて生ぬるい。
俺とハウザーは剣を抜き、ルキシアは杖を構えた。
「待ってくれよ。なんで俺たちに武器を向けるんだ」
一番の宿敵、リクトがほざく。
その声は発するだけで耳障りだ。
「黙れ! 貴様は死ねぇ!」
魔剣【大災害】を振るって竜巻を発生させる。
ハウザーが雷魔法を重ね、ルキシアが補助魔法で攻撃を強化した。
不意打ち + 至近距離。
直撃は免れない。
確実に血肉を抉り取り、骨すら残さずこの世から追放する。
──その想いは、一瞬で消え去った。
「危ないだろ。いきなり何するんだよ」
リクトの野郎は武器すら抜かず、片手で威力を殺して上空に解き放った。
竜巻は突風となって遠くの空へ駆け抜けていく。
「なぜだ…………」
「なぜだは俺のセリフだ。なんでいきなり攻撃するんだよ」
傷一つ負っていないリクトが余裕の表情を浮かべている。
俺は口の中が渇くほど開いた口が塞がらない。
「くそおおお! なぜだ! なぜこの俺様が貴様一人屠れない!」
「いや、なんで俺が殺されないといけないんだよ。追放したのはそっちだろ?」
「えええいうるさい! 死ね! 死ね! 死ね!」
立て続けに三度竜巻を発生させて攻撃する。
しかしその攻撃もリクトには届かなかった。
「少々おいたが過ぎますよ」
「次やったらやり返すから」
取り巻きAとBごときにも俺の攻撃が通用しない。
どういうことだ。意味が分からない。
「なあ、アーノルド。俺が出てくときにも言ったけどお前は自分が思ってるより強くないよ。弱くはないけどもっと自分の実力を把握して自分に合ったクエストを受けた方がいい。お前はもっと冷静にやれば絶対強くなる。俺の元パーティメンバーだからな」
言いやがった。
この俺に向かって説教したあげく情けまでかけてきやがった。
俺をどこまで侮辱すれば気が済む。
「許さん。お前だけは許さん!!!!!」
沸き起こる感情を思いのまま発散する。
叫び。咆哮し。激高する。
「お前さっきからおかしいぞ。大きい声出すと魔物が寄ってきちゃうだろ」
気づけば魔物──と言ってもさっきのデュアル・オーガとは比にならないくらい小さくて軟弱なゴブリンが四体寄って来た。
どうやら走って逃げているうちに森を抜けていたらしい。
俺はそのうちの三体を一突きにしてゴブリンの串団子を完成させるとリクトに向かって投げ飛ばした。
三体の死滅したゴブリンは取り巻きによって防がれる。
俺の足掻きは嫌がらせ程度にしかならなかった。
「まだ抵抗してくるのか。もうやめないか?」
「うるせえ! 殺す!」
「完全に頭がおかしくなってやがる。んー、そうだな。少しは頭を冷やしてもらった方がいいかもしれない」
リクトは何やらブツブツ言うと指を弾いた。
すると取り巻きを連れてこの場を去ろうとする。
「待て! どこ行きやがる!」
「俺はもう行くよ。話も聞いてくれないみたいだから」
そう吐き捨てて俺の横を素通りしていく。
取り巻きたちはあっかんべーしてきやがった。
舐めやがって。
ハウザーとルキシアも怒りを爆発させる。
「に、逃げるんですか!!!」
「この糞女! 絶対許さない!」
しかし、残念ながら二人が吐くセリフは負け犬の遠吠えにしか聞こえなかった。
客観的に見ると俺も……。
いや、認めてなるものか。
「おい待ちやが──ぶえっほ!」
俺の顔面に拳がめり込み、三メートルほど吹っ飛ばされた。
なんだ!?
「アーノルド。流石に勝てると思うけど目は逸らさない方がいいよ」
俺が地べたに這いつくばって顔を上げると既にリクトの背中は小さくなっていた。俺たちをコケにしたまま勝ち逃げしやがったのだ。
「「ぐああああ!」」
俺の横にハウザーとルキシアも倒れこんだ。
上体を起こすと俺たちを攻撃してきた正体が分かった。
「ゴブリン、だと……?」
さっき俺が串刺しにしたゴブリンの生き残りだ。
一体だけ放置していたのはいてもいなくても変わらないから。
なのになんだ。この異様な空気は。
「こいつパワーは無いけど速いっすよ。意味わかんないっす」
「強くないけど普通のゴブリンじゃない。もしかして新種?」
なるほど。俺を殴ったのもコイツの仕業か。
「新種なら金になるな。生け捕りにして研究施設に持っていくとしよう。リクトの野郎は急ぐ必要ない。まずは金を貯めて勝ち組としての生活を整えるぞ!」
「「了解!」」
この借りは必ず返す。
そう決心して三人がかりでゴブリンと対峙した。
その後。一時間ほどかけてゴブリンを捕獲。
ウキウキ気分で町に戻った俺たちは地獄を見ることになる。
この時、自分の弱さを認めていればと後悔してももう遅い。
-----リクト視点-----
久しぶり、と言っても二週間ぶりぐらいに元パーティメンバーに会った。
俺は仲良くできればいいのにと思っていたが聞く耳を持ってくれないし俺を殺そうとしてきた。
だからその場にいたゴブリンを使って頭を冷やしてもらうことにした。
まだあいつらはやり直せると思ったからだ。
やったことは単純。
反転の能力でゴブリンのステータスを少々いじった。
ゴブリンに苦戦したら嫌でも自分たちの実力に気づくと思ったのだ。
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名称:ゴブリン
体力:F → S
物攻:F → F
物防:F → S
魔攻:F → F
魔防:F → S
魔力:F → F
俊敏:F → S
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こんな感じで特定のステータスだけ≪反転≫させて速くて硬いだけのゴブリンに改造した。
一時間ぐらいで自動的にステータスが戻るように設定してある。
また、俺の能力によるステータスの変動は俺にしか見えないため、あいつらが指輪を通して見てもただのゴブリンとして写っている。
あいつらを更生させるいい案だと思ったのだが、のちの俺はこのことを後悔することになる。
それはまた先の話だ。





