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50話【追放サイド】変わらない愚者

 俺の名はアーノルド。

 かつてリクトという無能を追放したリーダーだ。

 あいつを追放したことにより俺たちは一度落ちぶれた。

 あいつは無能の仮面をかぶった化け物だったのだ。


 許せない。

 俺たちを見下して楽しんでいたあいつに復讐するため、俺たちは再び立ち上がった。

 かつてSランクまで上り詰めたパーティ『勝者の集い(ウィナーズ)』は消滅し、今は新たなパーティ『追放(バニッシュメント)』を結成した。


 今はパーティのランク上げに専念している。

 冒険者で生計を立てている者はランクがものを言うため高いに越したことはない。

 低いとナメられるし設備の利用なんかにも制限がかかるのだ。

 俺たちは現在Cランク。まだ以前のような生活はできていない。

 俺たちを落ちぶれた『弱者の集い(ルーザーズ)』と呼ぶ声もまだある。

 そいつらも全員見返してやるつもりだ。


「もー疲れたわ。早く帰ってシャワー浴びたい」

「ルキシアちゃん、さっきからそればっかりですね。もう少しの辛抱ですよ」


 クエストから帰還する途中。

 パーティメンバーであるルキシアとハウザーの会話に耳を傾ける。


「こんなチマチマやってられないわよ。だいたいなんで移動手段が徒歩なわけ!?」

「お金ないんだから馬車とか借りてる余裕はないんですよ」


 まだせいぜい中級程度のクエストしか受けることができず、生活は厳しい。


「だったら私の分だけでいいから払いなさいよ。それか特別におぶらせてあげてもいいわ」

「はぁ、今更オレたちに色目使っても意味ないですよ。ダイエットになっていいじゃないですか」

「あ? 殺すぞ」


 俺たちは一度パーティを解散した間柄。

 当然仲良しこよしで組んでいるわけではない。

 リクトに復讐するという利害の一致の下に手を組んでいるのだ。


「ていうか、そもそも報酬が少なすぎなのよ。こんなんじゃ今日のご飯も食べられないじゃない」

「それに関してはオレも同感です」

「あーあ、最近は金づるになってくれる男もいないしどうしようかしら」

「はっ、ルキシアちゃんは鏡持ってないんですか?」

「おい。テメェまじで死にてえのか?」


 こんな調子で俺たちの関係はギスギスしている。

 まあ無理もない。俺はコイツらを駒としか思ってないし、コイツらもお互いを見殺しにして自分だけ生き延びようとしていたからな。

 だがその感情はぶつける相手が違う。


「落ち着けお前ら。俺たちが言い争っても意味ないだろ」

「だったらこの状況何とかしなさいよ。アンタに全部任せてるけど上手くいくわけ?」

「オレもこんな生活はもうウンザリです」


 二人の言いたいことはわかる。

 俺も今の生活に満足なんてしてるはずない。

 このアーノルド様がここまでコケにされて何も感じないわけないだろう。


「俺に任せておけ」


 自信満々に言い切るが二人の目には疑心が宿る。

 俺は続けた。


「まずは金が必要なんだろ? 金ならいくらでもあるじゃないか」

「どこにあんのよ」

「そうですよ」


 かつて俺を慕っていたルキシアとハウザーはもういない。

 投げやりに言葉を返される。


「簡単だ。奪えばいい」


 答えだけ簡潔に、率直に言う。

 二人は顔を見合わせ、何度か目を瞬かせると口を開いた。


「その手があった……」

「アーノルドさん、あんた天才ですよ」


 俺たちは腐っても冒険者。

 盗賊がいたら刈る側の人間だ。

 バレればこの国から追放される可能性もあるだろう。

 ならバレないようにやればいい。


「決まりだな。行くぞ!」

「はい! オレはあなたについていきます!」

「頭まで筋肉でできてるわけではなかったみたいね。いいわ、私も乗ってあげる」


 こうして俺たちは団結し、町に戻った。

 俺は人の上に立つ人間だ。その辺の雑魚とは違う。

 弱者は強者に搾取されればいい。それがこの世界の真理だからな。



◇◆◇◆



「アイツなんていいんじゃない?」

「見るからにカモですね」


 町で買い物するふりをしながら標的を探していると、一人きりの冒険者を見つけた。

 ヒョロヒョロしていて小枝のような少年だ。

 今晩はコイツの金で食うとしよう。人の金で食う飯は格別にうまい。


「見ねえ顔だな。新人か? ならこの世界の厳しさを教えてやらねえとなぁ」

「そうね。じゃあ私に任せて」


 ルキシアはぺろりと唇を舐めてその冒険者に近づいた。

 俺たちは近くの路地裏で待機する。


「あの……、すみません。冒険者様ですか?」


 目を疑いたくなるがルキシアだ。

 頬を赤く染めた上目遣いで甘ったるい声を出す。

 すかさず手を握って目を潤ませるところまでがワンセット。

 本性を知らない男なら効果は抜群だ。


「そ、そそ、そうですけど。僕に何か用ですか?」

「私、今ちょっと困ったさんなんですよぉ。力になってくれませんか?」

「ぼ、僕でよかったら全然。えっと、どうしたんですか?」

「ここじゃ恥ずかしいです。なので……」


 髪をくるくると指に巻き付けながら身をよじった。


「こっちの誰も見てないところで二人きりになりたいです。……嫌、ですか?」

「行きましょう」


 即答する冒険者。エサにかかった雑魚。

 そいつの希望と夢は絶望と悪夢に侵食される。


「よお新人」


 俺は胸倉をつかんで壁に叩きつけた。


「ど、どういうことですか!?」

「ばーか。私がアンタみたいなガキの相手すると思った?」


 あっかんべーをして中指を立てるルキシア。

 少年は浜に打ち上げられた深海魚のような目になる。


「騒いだらどうなるかわかってますよね? オレたちも出来るだけ手は汚したくないんです」


 ハウザーが壁を足で蹴って逃げ道を塞ぎ、三人で囲む。

 少年はちびりそうなほどガタガタと震えだした。


「さぁ、金を出せ」

「こ、こんなダサい真似して恥ずかしくないんですか!」


 意外と度胸があるみたいだな。

 こういう奴の顔が恐怖に染まっていく様は最高に眺めがいい。


「どうやら立場が良くわかってないみたいだ、な!」

「おぅえ……ッ!」


 鳩尾に叩き込む。少年は腹をおさえて転げ回った。

 やはり人を殴る感触は心地いい。

 自分の強さを実感できる。


「おら、さっさと金を出せ」

「うぅ……うぐ、…………がはっ、ごほっ」

「ったく、こいつ根性なさすぎでしょ。≪治癒(サナーレ)≫」


 ルキシアが回復魔法をかけて手当てした。

 ハウザーが襟首をつかんで立たせる。

 声の出るサンドバックの完成だ。


「さぁ、次はもっと強めに行くぞ」

「ご、ごめんなさい調子に乗りました! これで許してください!」


 拳を振り上げたところで少年は泣いて謝ってきた。

 俺たちは暴力が目的じゃないからここで引く。


「最初からそうしろよ雑魚が。上にチクったら殺すからな」

「わかってます絶対言いません!」


 少年は有り金を全部置いて逃げるようにこの場を去った。

 ミッションコンプリートだ。


「おっ、結構入ってるじゃねえか」

「これなら今日は久しぶりに飲めますね」

「今日はいい夢見れそうだわ」



 こうして俺たちは吐きそうになるまで食って飲んで寝た。

 これが最後の晩餐になるとも知らずに──

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