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49話 打ち上げ花火

 俺たちはジークを倒した。

 しかしまだ終わっていなかった。

 あと一分もしないうちにこの巨体が爆発するらしい。

 ジークが取り込んでいた核が破壊されたため自爆装置が発動したのかもしれないな。

 いや、こんな考察をしている暇はない。


「落ち着こう。大丈夫、俺が何とかして見せる」


 ルーイと、珍しくフェンリィも慌てふためいていた。

 こういう時こそ誰かが冷静にならなければならない。

 俺の声に反応してみんな冷静さを取り戻してくれた。


「ルーイさん、爆弾の場所は?」

「すまない。僕にもわからない」


「フェンリィ、見つけられるか?」

「えーっと……見つかりましたが、数が多すぎます。連鎖的に爆発するので全部解除しなければ意味ありません」

「そんな時間はないか……」


 爆発は免れない。

 この巨体が大爆発すればこの町は消し飛ぶだろう。

 もしかしたらこれがロヴェッタの狙いだったのかもしれない。

 ならこれしかないな──


「空中で爆破させよう」


 俺は3秒で作戦を考えて伝えた。

 今は1秒が惜しい。


「わかりました。それで行きましょう」

「君に任せるよ。この町を救ってくれ」


 話が速くて助かる。

 ルーイもフェンリィも俺に託してくれた。


(アタシ)は? ごめん、もう体動かないや」

「ルーナはもう十分やってくれたからゆっくり休んでくれ。絶対に怪我はさせない」

「うん」


 微笑むルーナをおんぶして俺も準備を整える。


「時間がありませんね。ルーイさん、私たちは行きましょう」


 ここからはまた別行動だ。

 二人にも二人にしかできない重要な仕事がある。

 振り返ってフェンリィが、


「リクト様、ルーナも絶対帰ってきてくださいね」

「ああ、約束する」


 ルーイも片手を挙げて、


「ルーナ、また後でね」

「はい!」


 ルーイとフェンリィは俺がぶち破って侵入した場所から外に出て行った。

 あとのことはあの二人が何とかしてくれる。

 何も心配はいらない。


「なんか幸せ」


 俺の肩に顎を乗せたルーナが耳元で呟いた。

 この状況にはそぐわないセリフに楽観的な声だ。


「絶体絶命みたいな感じなのに全然怖くないの。むしろ安心する」


 吐息混じりにそう言うとぎゅっと力を込めてもっと俺にしがみついてきた。

 隙間が無いほど密着しているため背中にルーナの熱が伝わってくる。


「それはよかった。けどまだ早いって。終わってないぞ」

「何回でも言うからいいの」


 若干眠そうな甘えるような声でそう言った。

 喋るたびに顎が肩に食い込んで気持ちいい。


「そうだったな。じゃあホントに全部ぶっ壊そう」


 上手くいく保証はないが確証はある。

 根拠のない自信が俺にはあった。


「≪反転(グラビティ)≫」


 俺はこの巨大ロヴェッタ自体に能力をかけ、全てを浮かせた。

 一瞬大地が振動したがすぐに収まる。

 ゆっくりと持ち上がった機体は空に向けて上昇を始めた。


『15、14、13、……』


 カウントは止まらずに刻まれる。

 それを焦らずに聞いて待つ。

 ラスト一秒まで激闘を繰り広げる──なんて劇的な終幕ではないかもしれない。

 でもそれでいいじゃないか。

 これはルーナが戦って戦って戦い抜いた結果だ。

 いっぱい苦しみそれを乗り越えた。

 もうルーナが泣くことはない。


「ちゃんと捕まってろよ」


 俺は機体から飛び出し、空中に停滞する。

 巨体は上昇を続け、俺たちはあっという間に影に覆われた。


「こんなにおっきかったのね」

「ルーナから見たらそうかもな」

「こ、子ども扱いしないでよ」

「ふふっ、ごめんて。そんな暴れないで」


 何度も心が折れかけたはずなのに今この子は笑っている。

 その表情を確認できないのが勿体ない。

 まあいいか、この先何度も笑ってくれるだろう。


『3、2、1、……』


 そのカウントは終焉を意味する。

 これで全部終わり。

 ゼロ。



 ドガアアアアアンッッッ!!!



 光。爆音。爆風。

 すべては一瞬の出来事だった。

 生涯こんな場面は二度とみられないだろう。

 想像より何百倍ものスケールの爆裂(エクスプロージョン)だ。

 ほっとけばこの町どころか近隣の村や森も消し飛んだだろう。


「≪反転(リフレクション)≫」


 だがそうなる未来は来ない。

 そんなバッドエンドはハッピーエンドにすればいい。


 巨体は木っ端みじんになり、流星のように地上へ降り注ぐ。

 それはまるで打ち上げ花火のようだ。


 俺たちも花火と一緒にゆっくり下降。

 町に落ちていく燃えた残骸はルーイとフェンリィがさらに粉砕して被害が出ないようにしてくれる。

 俺たちの役目はもう終わりだ。


「きれい……」


 ルーナが声を漏らした。


「外ってこんなに凄かったんだね。ホントにきれい!」


 はしゃぎだすルーナ。

 俺の肩を両手で抑えるようにして身を乗り出している。


「ちょ、ちょっと暴れすぎだぞ。落ちたら──」

「きゃっっっ!!!」


 バランスを崩して転倒──はしなかった。


「やっぱり子供だな」


 その小さな手を掴んで向き合うような形で落下する。

 両手を繋いで目が合うとルーナの顔にもパッと花が咲いた。


「ふふっ、ありがと」

「何笑ってんだよ」

「ありがと!」

「ああ、どういたしまして」


(アタシ)をちゃんと見てくれてありがとう。(アタシ)を助けてくれてありがとう。(アタシ)の世界をひっくり返してくれてありがとう」


 するとルーナは俺の腕を引き寄せた。

 悪戯っぽく笑うルーナに突然引っ張られて驚く俺。

 次の瞬間、俺はルーナの腕に包まれた。

 細くて小さい体なのにぎゅっとされて体温が上昇するのを感じる。


「これからもよろしくね」


 そう言って俺のほっぺにキスをした。


「……顔真っ赤っかだよ?」


 抱き着いたまま俺を見上げるルーナ。

 キョトン顔にプルンとした唇。

 思わず目をそらしてしまう。


「お、お前だって赤いじゃないか。いきなりだったからびっくりしただけだ」

「じゃあもう一回する?」


 言いながら反対側のほっぺにもキスをした。

 思わずルーナの湿った唇に目が行ってしまう。


「おまっ……」

「ふふっ、照れすぎでしょ。可愛いから今はこれで許してあげる」


 赤髪の女の子は顔を真っ赤にして俺をからかってくる。

 俺は振り回されてばっかりだ。


「てっ!」


 衝動的に右手でその額にデコピンをしていた。

 ルーナは左手でおでこを抑える。


「もう着くぞ」


 気づけばアリのように小さかった人々の顔が鮮明に見える。

 みんなが手を振って俺たちを迎えていた。


「あ、ホントだ! おーいフェンリィ~! 兄さま~!」


 小さな子供みたいに元気に手を振るルーナ。

 フェンリィとルーイも上手くやってくれたようだ。


「お帰りなさい、ルーナ」

「ただいま、フェンリィ」


 地上に着地するや否やフェンリィはルーナに駆け寄り、ルーナはフェンリィに飛びついた。

 抱き合って成功を喜び合っている。

 その様子は姉妹のようであり親友のようでもある。

 言葉の概念では表せない関係だ。


「リクト様」「リクト」


 落ち着くと二人は俺の方を向いた。

 四つの目が俺を見つめる。


「ありがとうございます!」「ありがと!」


 そう言って二人は笑うのだった。

 俺もつられて笑みがこぼれる。


「フェンリィとルーナのおかげだよ」


 二人の頭にぽんと手を置いて髪を撫でる。

 サラサラしていていい匂いが鼻孔に広がった。


「はい!」「うん!」


 不覚にもその無邪気な笑顔は可愛いと思ってしまう。

 俺もこの二人を守ることができてよかったと心から思う。


 こうして魔王軍の襲来、並びにアストレシア家の野望は阻止することに成功した。




◇◆◇◆◇◆




 それから三日が過ぎた。

 魔王軍が暴れたことにより建物が崩れたり中央の王宮が崩壊したりしたが復興に向かっている。

 ルーイとフェンリィの指揮の下、冒険者が一丸となって復興作業に取り組んだのだ。

 魔法やスキルを駆使することで通常では何日もかかることも一瞬で済ますことができる。

 全部元通りとまではいかないがこの三日間で支障なく生活できるレベルまでは修復された。


 アストレシア家の生き残りは第一級犯罪者として刑務所にぶち込まれた。

 国外追放だと恨みで何を起こすかわからないためこの処置を取ったらしい。

 もう二度と太陽の下を歩くことはできないだろう。


 アストレシア家が無くなったことでこの町を治める者がいなくなった。

 俺はルーイが長になるのかと思ったが本人は断固拒否。

 ルーナがやれと命令しても首を縦に振らなかったほどだ。

 自分に負い目を感じていたのだろう。

 しかし町民と冒険者のほぼ全員にやってくれと頼みこまれたことにより迷いが晴れた。

 今は若き国王としてこの国を再建していくそうだ。



「本当に行っちゃうの? 寂しくない?」

「大丈夫ですよ。(アタシ)は二人と一緒に旅立ちます」


 俺とフェンリィが次の地を目指そうと話していたらルーナも行きたいと言い出した。

 止める理由もないため快くパーティに加入してもらったのだ。

 ルーイだけが寂しそうにしている。


「リクトくん、フェンリィちゃん、妹をよろしくね」

「「任せてください」」

「もう、兄さまは心配し過ぎですよ。兄さまの方こそちゃんとみんなをまとめてくださいね」

「ああ……ぐすっ、頑張るよ」

「え、泣いてるんですか!?」


 ルーイはガチでへこんでるようだ。

 ホントにシスコンだな。


「いや、もう大丈夫。何かあったらすぐ戻ってくるんだよ。その時は盛大にお祝いしよう」


 今はバタバタしているためおばちゃんの店で簡単に打ち上げを行ったのみ。

 それでも確かに充実感のある時間を過ごすことができた。

 俺がそんな感傷に浸っていると、


「それはいいですね。ではウエディングドレスも用意しておいてください」

「「「ん?」」」


 ルーナの言葉に俺を含め全員が疑問を浮かべる。

 何を言ってるのかわからなかったからだ。

 ルーナの言葉を待つ。


「戻ってきたら(アタシ)、リクトと結婚するの!」


「「「ええええええええ!?」」」


 俺を含め、全員が絶叫した。


「けけけ、結婚!? 本気で言ってるのかいルーナ!」

「そ、そうですよ! ルーナ、自分が何を言ってるかわかってるんですか? リクト様は私のものなんです!」


 取り乱すルーイとフェンリィ。

 俺はついていけずに黙り込む。


「そんなの知らないわよ。リクトが夫でルイ兄さまがお兄ちゃん。フェンリィはペットかお姉ちゃんね。最高じゃない」

「な、何言ってるんですかこのロリっ子は! リクト様はこういう子が好きなんですか!? 私は用済みでさよならですか!? いらない子ですか!!!」

「ロリっ子じゃないし! ねぇ、リクトはこんなあざとい女より(アタシ)を選んでくれるよね?」


 俺の腕を引っ張り合うルーナとフェンリィ。

 右の腕には柔らかい感触があり左にはない。

 そして俺の首筋には寒気がする。

 なぜかというと、


「ねえ、リクトくん。どういうことかな?」


 俺は剣を向けられてルーイに脅された。

 いつの間に背後を取られていたんだ。

 全く気付かなかった。


「べ、別に俺は……。どっちともそういう気はありません」

「だよね、よかった。妹はあげないから」


 殺気駄々洩れの冷たい声。

 普段の温厚な優しいイメージとはかけ離れている。


「なんて嘘だよ。リクトくんなら任せられる。その代わり……泣かせたら何をするか僕にもわからない」


 目だけが笑っていない。

 この人はマジだ。


「ふ、二人ともそろそろ行くぞ。喧嘩するな」


 俺が言うとようやく二人は手を放してくれた。

 だが互いに火花を散らしている。

 最初に会った時もこんな感じだったな。


「考えれば私がこんな子供に負けるはずありませんもんね。おこちゃまの戯言と受け取っておきます」

「ふん! (アタシ)はこれからだもんね。絶対(アタシ)のものにしてやるわ!」


 今はこれだがすぐに機嫌を直して仲よくするだろう。


「じゃあルーイさん俺たちはこれで」

「ああ、何かあったらこの町を頼ってくれ。必ず力になるよ」


 パーティメンバーが一人増え、町の後ろ盾もできた。

 俺の追放ライフは順調に進んでいる。


「リクト様、次はどこに行くんですか?」

「妖精の森だ。冒険者からの情報だが最近狂暴化現象が多発しているらしい。多分四天王がいる」

「妖精!? (アタシ)見てみたい!」

「私も楽しみです! 早く行きましょう!」


 二人は遠足気分だが大丈夫だろうか。

 まあどっちもいざとなったら俺の力になってくれるよな。


「みんな気を付けて。行ってらっしゃい」


 ルーイに手を振って俺たちは歩き出した。

 目標は妖精の森。

 ここからは少し歩くが焦らず行こう。


「そう言えばパーティ名はどうする?」


 ギルドがぶっ壊れてしまって大変なことになっていたがパーティ結成の手続きは済ませておいた。

 三人からパーティを組めるため丁度規定人数に達したところ。

 あとは名前を決めておくだけだ。

 二人に判断をゆだねると二人は口をそろえて、



「「≪無能≫!」」



 元気よくそう答えた。

 意味は無限の可能性。

 俺たち無能にふさわしい名だ。

ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。

この章は行き当たりばったりで書いていましたが、何とか書き終えることができました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  仕事などが落ち着き,余裕ができたときによろしければ続きを書いてくださると嬉しいです。  私は気になりすぎて、ブックマークに入れさせていただいております。  これからも体調に気を付けて仕事や…
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