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48話 狂気消滅

 目の前には狂気に満ちたジーク。

 それに立ち向かう(アタシ)、兄さま、リクト、フェンリィ。

 一人では無理でも四人なら戦える。

 三つの脚で(アタシ)を支えてくれる。

 それはどんな凸凹な道でも安定する。


「死ねええええええ!」


 手加減の一切ない殺意ある攻撃。

 今までよりもスピードが増している。

 でもそれが(アタシ)に届くことはない。


「≪反転(インヴァース)≫」


 リクトが呟くとジークは自分の顔面を殴った。

 首がねじ曲がるがすぐに再生する。

 でもその隙は大きい。畳みかける。


月華乱舞(げっからんぶ)


 一撃で仕留められないなら回復するスピードを上回ればいい。

 何度も何度も斬り付ける。

 返り血が付着した鎌は紅い満月を描く。


「そんな攻撃通用せんわ!」


 腕を振り回して薙ぎ払う動作。

 (アタシ)は見向きもせずに攻撃を続ける。


「ルーナには触らせないって言ってるだろ」


 兄さまが両手に持った剣をクロスさせて守ってくれた。

 四人の中で一番火力が高い(アタシ)をみんながカバーするというのが作戦。

 だから恐れず立ち向かえる。


「くそ、こざかしい真似を! なら全員同時に潰すまでだ! ≪超新星(スーパーノヴァ)≫」


 一瞬にして圧縮されたエネルギーが爆散した。

 これは兄さまを瀕死に追い込んだ技。

 自分ごと周囲を吹き飛ばすこの技はジークの≪超回復(ハイレンヒール)≫と相性がいい。


「ぐ、ぐおおおおおおお!!!」


 呻き声を上げたのはジークだけ。

 でもそれは別にこちら側が全員音もなく滅んだわけではない。


「はぁ……、な、なぜ生きて、おる……」


 再生能力はあれど痛覚はしっかりしているのかだいぶ疲労しているみたい。

 右腕は消し飛び、左腕は辛うじて繋がっている。

 無論、(アタシ)が生きているのはリクトとフェンリィのおかげ。

 予備動作のほとんどない攻撃をフェンリィが見切り、リクトがそれを感じ取ると(アタシ)とフェンリィの前に出て攻撃を跳ね返してくれたのだ。それは正に神業だった。

 兄さまは爆発のタイミングで瞬間移動を行い回避。

 二倍の威力に膨れ上がった≪超新星(スーパーノヴァ)≫ならもしかしてと思ったけどまだジークは生きてる。

 でも修復が間に合っていない。今なら()れる!


「だああああああ!」


 ジークに迫る四人の影。

 (アタシ)は鎌を走らせ、リクトと兄さまは斬りかかり、フェンリィは発砲する。

 全員が本気で仕留めに行く渾身の一撃。

 こんな好機はもう作れないだろう。


 あと数ミリ。

 刃が届きそうというところでジークと目が合った。


「くっくっく……」


 なぜか楽しそうに笑っている。

 次の瞬間──



「ガアアアアアアアアア!!!!!」



 気が狂ったように咆哮した。

 こんなに耳を塞ぎたくなる音を聞いたのは初めて。

 その咆哮を受け、ジークを中心に(アタシ)たち四人は壁際に吹き飛ばされた。

 全員すぐさま立ち上がって攻撃に転じる。


「な、なにこれ……」


 そう思ったけど足がすくんだ。

 煙が立ち上り、シルエットだけが浮かび上がる。


「ウオオオオオオオン!!!」


 雄たけびと共に霧が晴れる。

 そこにいたのはこの世のものとは思えないおぞましい魔物。

 もう人間の面影は全くない。

 角に牙にたてがみに尻尾。

 四本の脚で体を支えたその魔物は百獣の王を連想させる。

 それはまるで欲望が顕在化したような姿。


「「ルーナ!!!」」


 ガチンッッッ!!!


「え……?」


 金属音が鳴り響いた。

 思わず声が漏れる。


「間に合ってよかった」

「ボーっとしてんな。死ぬぞ」


 いつの間にか目の前で兄さまとリクトがいた。

 そこで事態を把握。

 ジークの大きな鋭い爪による攻撃を剣で防いでいる。

 そうか、死ぬとこだったんだ。


「≪反転(リフレクション)≫」


 リクトが攻撃を跳ね返すとジークは壁に突っ込んだ。


「ありがとう」

「そんなの後だ。しっかりしてくれよ」

「うん」


「みんな、なぜか俺のあべこべにする能力が効かなくなった。注意してくれ」

「自我が無いからだと思いますよ。意志と関係なしに暴れている状態です」

「ただの殺戮しか脳のない獣ってことか」

「スピードはギリギリついていけるね。でもやっぱり僕たちの攻撃は通じないっぽい」


 三人ともこんな状況なのに普通に話せている。

 無理だと思っている人間は誰もいない。

 そんな人たちが(アタシ)を呼ぶ。


「「「ルーナ」」」


 守られてばかりの(アタシ)を同じように見てくれる。

 だから(アタシ)は何度でも立ち上がれる。

 下を向いている暇はない。


(アタシ)に任せなさい」


 もう一度武器を握りなおす。

 (アタシ)も証明しよう。

 もう誰かの後ろについていくだけじゃないってことを。


「ガァァァァァァァァ!」


 ジークが暴走し、部屋を破壊。

 瓦礫を掴んで投げてきた。

 けどそんな攻撃、誰にも当たらない。


「ルーナ、自分のタイミングを信じてください。私が合わせます」

「ほんと今だけは頼もしいわね、フェンリィ」


 フェンリィが銃弾を連射。

 逃げ場のない攻撃のはずなのに防がれたり躱されたりした。

 何とか防御を掻い潜ってあたった弾は一瞬で癒える。


「ブラインド弾を混ぜたりしてるのですがやはり私ではだめですね。二人ともお願いします」


 (アタシ)と兄さまが前衛でジークと殴り合い、

 リクトとフェンリィが後衛で支援する。


「リクトくん、頼む!」

「了解です」


 兄さまが姿を消して死角から斬りかかる。

 しかしジークは容易く反応。

 人間の域を超えた超感覚によってどんな攻撃にもついてくる。

 でも、ついてこれるだけ。


「≪反転(グラビティ)≫」


 リクトが重力を反転させてジークを浮かす。

 その先には兄さまがすでに待ち構えていた。


「これでどうだ!」


 剣をジークの眼球に突き刺す。

 ジークは苦しそうに呻き声を上げて頭から地面に落ちた。


「これなら再生とか関係ないよね、ルーナ!」

「はい!」


 思いっきり鎌を振り下ろす。

 でもやっぱり一撃では倒せない。

 それでもこの隙に何度も攻撃する。

 血しぶきが雨のように舞う。


「ギャオオオオオオオ!」


 ジークは剣を引き抜き、再び暴れ出す。

 するとフェンリィが銃を構え、何かを飛ばした。

 網だ。大きな網に絡まり、ジークは身動きが取れなくなる。

 (アタシ)はまた何度も攻撃を続ける。

 兄さまとリクトも斬撃を加えて少しでも回復を遅延させた。

 でもやっぱり死なない。


「ごめんみんな。もうちょっと待って」


 拘束を解いたジークの攻撃を避けながら言う。


「気にすんなルーナ。俺たちはお前を信じてる」

「ルーナは何も心配しなくてもいいよ。僕たちが守る」

「ルーナはもっと甘えてください」


 この声が(アタシ)の活力になる。

 戦えば戦うほど、倒れれば倒れるほど強くなる。


「そろそろアンタの顔も見飽きたわ。小さい時からあんまり見たことないけどね」


 ジークの攻撃を完全に躱し、二本の前脚を切り落とした。


「フェンリィ! 今!!!」


 (アタシ)は叫び、ジャンプして上を取る。

 ジークは(アタシ)に反応して上を見た。

 既に再生した両手で無防備で華奢な体を引き裂きにくる。

 私は構わず体を大きく反り、力を溜める。

 それと同時に目を瞑った。


 その瞬間、ピカーンと白い光が部屋を包む。

 目を開けていれば焼けきれてしまいそうな強い光。

 光源はフェンリィの銃口。

 ジークだけがその光を直に浴びる。



閃光穴(フラッシュホール)



 目を開けると目を塞いで動けなくなっているジークがいた。

 それは仕方がないこと。いくら強くなっても生物の本能には逆らえない。


「意味もなく(アタシ)が武器を振り回してたと思った?」


 一撃で倒せないのに何度も何度も攻撃を続けた。

 それには理由がある。


「これをやるには条件と時間が必要だったから。みんなに感謝ね」


 みんな。それは兄さま、リクト、フェンリィ。

 それと(アタシ)の手により死んでいったモンスターたち。


「神器解放」


 神器、【紅月(こうげつ)】の持つ唯一の機能。

 それは──吸った血の分だけ大きくなり、威力を増す。

 何体もの敵を葬ってきた。その積み上げてきた血と汗が(アタシ)の力となる。


【紅月:≪満月(フルムーン)モード≫】


 この技は隙が大きい。けど当たれば一撃必殺の最終奥義。

 みんなで作り出したこの状況で全ては整った。

 あとは振り下ろすだけ。


「だああああああああああ!」


 蓄積した力を一気に解き放つ。

 のけぞった体の反動を利用し、【紅月】を走らせる。


 これでやっと終わる。

 長かった、本当に。

 永遠に続くように思えたこの悪夢もようやく覚める。

 やっと、やっとだ……。

 あれ、なんだろう。

 まだ終わってないよね?

 なのに何でこんなこと考えてるんだろう。


「あ……」


 手から鎌が離れた。

 汗で滑ったのか力が抜けたのかわからない。

 思えば今日の朝からたくさん動いたな。

 死にそうな目にあって助けられて幹部を倒して兄さまに斬られて助けられて兄さまを助けて……。

 十分頑張ったよ。

 みんな許してくれるかな。

 最後の最後でやっぱり上手くいかなかった。

 みんな、ごめん……。



「ルーナ、僕がついてる」



 諦めかけた心に再び火が灯った。

 本当にあったかい、大好きな声。


「兄さま?」


 兄さまは体を密着させ、手を添えて一緒に握ってくれた。


「一人で背負わせてごめん。一緒に終わらせよう」


 (アタシ)の体にもう一度力がみなぎった。

 しっかりと【紅月】を握りしめる。


「はい!」


 それは全てを無に帰す終焉の鎌。

 あるいは狂気を炙り出す満月の月光。

 正義の名のもとに(あく)を断つ。



狂気(ルナティック)消滅(・デマイズ)



 振り下ろした鎌は轟音と共に触れたもの全てを破壊した。

 ジークはもう、再起しない。

 魔王軍もアストレシア家も、狂気は全て消滅した。




◇◆◇◆◇◆




「終わったの……?」


 そんな気の抜けた声が喉から出た。

 全身の力が抜けてその場にぐでっと倒れてしまう。


「終わったよ。よく頑張ったね」


 (アタシ)を受け止めた兄さまがにっこり笑う。

 ああ、本当にやり切ったんだ。

 これで全部──


『爆破まであと60秒。59、58、……』


「「「「!?」」」」


 突如鳴り響いた緊急アラートと爆破カウント。


『55、54、……』


「みんな逃げよう!」

「で、でも逃げても爆発するんですよね? そしたら町が……」


 どうしてこうなるの。

 全部終わったのに。

 でも心配はいらない。


「そ、そうか。じゃあどうしよう」

「えーっと、えーっと……」


 兄さまとそれにフェンリィまでもが慌てて冷静さを失う。

 こんな時に頼れるのは、


「大丈夫、一回落ち着こう。俺が何とかする」


 私の世界を変えてくれた人が何とかしてくれる。

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