45話 順風満帆
何とか無事に巨大ロヴェッタの肩に乗ることができた。
視界の奥には核と思わしきものが怪奇的で邪悪なオーラを放っている。
俺は高所恐怖症ではないがさすがにこの高さで下を向くのは勇気が必要だ。
巨体だけあって幅があるため、動き回っても落ちる心配はないだろう。
ただ、当然本体が動けばバランスを崩して危険だ。
早めに終わらせるに越したことはない。
「っし、作戦通り順調だな。この調子ですぐに終わらせよう」
おんぶしていたフェンリィをそっと降ろす。
高いから怖いと言い出すかと思ったがそんなことはなかった。
それどころか、
「伏せてください」
その冷静沈着な声に反応し、俺は頭を下げる。
するとフェンリィが銃を構え、発砲した。
「歓迎されてないみたいだな」
振り返ると飛行型ロボットが俺たちを出迎えた。
数はざっと10体ほど。
機械相手にはステータスを反転させることができないため少々厄介だ。
「まずは様子を見てみましょうか」
そう言ってフェンリィは【可変式弾丸銃】を変形させた。
両手に一丁ずつサブマシンガンを構え、流れるようにガチャッと弾を装填して連射する。
「ダメです。避けられますね」
弾は一発も当たらなかった。
この飛行型ロボットは機動力に優れたモデルらしい。
縦横無尽に空を飛び、俺たちの上を旋回している。
まるで鷹が獲物を狙う様だ。
「そうみたいだな」
俺も試しに斬撃を飛ばしてみたが軽々躱されてしまった。
「きっと攻撃を演算して躱してるんでしょうね。私の戦い方と近いです。普通の攻撃では当たりません」
「なるほどね」
敵の目的は俺たちの排除。
当然手を休めて隙を見せれば攻撃してくる。
案の定、四方八方から銃弾を飛ばしてきた。
「≪反転≫」
その攻撃を全て跳ね返す。
だがこれも当たらず、お互いに攻撃を与えることができない状態が続く。
するとウィーンと床(正確には装甲)が開いて下から大砲やら四本足の犬型ロボットやらが出てきた。
これはルーイが言っていた近づいた敵を排除するというプログラムだ。
こんな感じで近づく敵を全力で排除してこようとするため、人手を使い撹乱する必要があった。
他の場所で戦っている冒険者がいなければこんなものでは済まなかっただろう。
そう言えばさっきから中で操縦しているアストレシア家の当主、ジークの反応が無い。
おそらくルーイとルーナの侵入が上手くいって対応に追われているはずだ。
「結構増えたな。まあ地上の敵なら接近すればいいか」
「そうですね。私は援護するので近接は任せます」
「とりあえず浮いてる奴らは無視でいいか。そういえば二人で連携して戦うのって初めて?」
思えば全員一人で戦うことが多かった気がする。
大体みんな一人でやっつけちゃうんだよな。
「初めての共同作業ですねっ! 緊張してしまいます」
「ちょっと違うけどまあいいや。なんかあったら命令してくれ」
俺は剣を握りしめて走り出した。
現在、俺への攻撃は全て跳ね返すようになっているため何も考えずに突っ込めばいい。
襲ってきた敵を一方的にリンチにできる。
と思ったのだが、
「うお、なんだ!?」
敵に近づこうとしたら進めなかった。
見えない何かに弾かれたような感覚だ。
再度前に進もうとするがそれ以上進むことができなかった。
「私に任せてください。ミーちゃん、お願いします」
フェンリィが銃弾を撃つ。
しかしその銃弾も俺が進めなかった場所まで差し掛かると運動エネルギーがすべて失われ、すとんと下に落ちた。
「どうなってるんだ?」
敵は自由に動けるのに俺たちは向こう側に行くことができない。
何が起きてるのかさっぱりだ。
「んー、薄っすらとセンサーの壁みたいなものが見えますね。登録されてない異物が入り込むとはじき出されるんだと思います」
目を凝らしたフェンリィがそう告げる。
攻撃も全て跳ね返す結界か。これは厄介だ。
「どうしたらいい?」
「ちょっと考えますね。おんぶしてください」
「は?」
「だって狙われちゃうじゃないですか」
「……ならしょうがないか。ほら」
こんなに甘えてくる子だったか?
いや、さすがに戦闘中だ。
まじめにやってるに違いない。多分……。
しばらくは敵の攻撃を跳ね返したり動きをあべこべにさせて応戦する。
敵も若干減らせたが学習能力があるのか、あまり襲ってこなくなった。
俺たちの目標は核の破壊だがこいつらはそれをさせなければいいだけだ。
時間稼ぎをされているのかもしれない。
「なんかそのセンサーの壁ってやつだんだん近づいてきてないか?」
しばらくしてそんな予感がした。
さっきより手前にいるのに前に進めない。
「そのようです。このままだと押し出されてしまいますね」
重力操作で下に落ちることは無いがこのままでは埒が明かない。
この結界を何とかしなければ核を破壊することができず、この巨体を停止させることができない。
「んー」
耳元でフェンリィの声がした。
俺のすぐ真横にフェンリィの顔があり、髪が頬に当たっている状況だ。
身を乗り出すように前かがみになった姿勢でなんだかゴソゴソしている。
「何してるんだ?」
「もーちょっとです」
よく見ると手元で銃弾をいじっていた。
俺のお腹を作業台にして何やら工作しているようだ。
「できました! これでやっつけちゃいます」
遊んでいたわけではないらしい。
それにしても密着度がやばい。
「流石だな。じゃあよろしく頼む」
俺はそっと降ろそうとする。
だがこの子は、
「嫌ですこのままがいいです」
子供みたいに駄々をこね始めた。
「ふざけてる暇はないぞ」
「え、もしかして重いですか!? ショックです……」
しょんぼりしてしまったのか俺のうなじにおでこをゴツンと当ててきた。
「いや、フェンリィは軽いよ」
「や、やだリクト様ったら。そんなに褒めないでくださいよ~」
今度は俺の肩を掴み、前後に揺するようにして暴れ始める。
感情の起伏が激しいな。それにうるさい。
「褒めてはないけど」
「もう相変わらず照屋さんですねっ。別に私も甘えてるわけではありませんよ。こっちの方が集中でき──ああもうっ!」
俺は構わず降ろす。
あまり甘やかしてはいけない。
「で、本当に何とかなるのか?」
俺たちに残された足場はもうほとんどない。
あと数歩下がればそこには天空が広がっている。
「教えてあげません」
プイッとそっぽを向くフェンリィ。
拗ねてしまったようだが俺は悪くない。
「嘘です。さっき作ったのはステルス弾です。これを使えばレーダーに映らないので結界内でも真っすぐ飛んでいきます」
原理はわからないがフェンリィが出来るというなら信じれる。
馬鹿と天才は紙一重なのかもしれない。
「科学のお勉強ですね。さあ、終わらせましょう」
【可変式弾丸銃】が狙撃銃へと姿を変えた。
片目を瞑り、首を傾げるフェンリィ。
「結界を張ってるbotが三体ほどいますね。あの子たちを落とせばいけます」
スコープを覗き込み、レティクルを合わせる。
トリガーを引くと銃弾が発射され、落ちることなく一直線に目標へ飛んでいった。
≪完全飛行弾≫
撃ちだされた弾は見事命中。
それらのbotは破壊され、結界は消滅した。
「っし、速攻で潰すぞ」
「はい!」
俺たちが敵陣地へ侵入したことにより再び攻撃が開始された。
それを全て跳ね返しながら確実に敵を沈めていく。
『ワウッ!』
犬型ロボットが飛び掛かってきた。
それらをまとめて薙ぎ払うと水しぶきのようにパーツが飛散。
≪水滅刃≫
機械は水に弱いんじゃないかっていう安易な考えだったが上手く倒せた。
隣を見るとフェンリィが二丁拳銃を構え、軽い身のこなしで敵を停止させている。
踊っているように見えるほど見事な体運びだ。
「フェンリィ、大丈夫か?」
「余裕です」
互いに背中を合わせて互いの死角をカバー。
敵はまだ多い。倒してもまた新たに敵が導入される。
一体ずつ倒していては時間がかかりすぎるな。
飛んでる奴らも鬱陶しい。
「全員まとめて倒してしまいましょう」
背中越しにフェンリィが提案してきた。
「何をすればいい」
どうやって? と聞く必要はない。
俺は指示を聞くだけでいい。
「私たち以外全員空中に浮かせてください」
一斉射撃で葬るつもりだろうか。
だが中には攻撃が当たらない敵もいる。
考えるだけ無駄か。
「了解。≪反転≫」
敵を適当な位置で停止させておく。
するとフェンリィが魔法を唱え始めた。
「≪火炎≫ ≪水冷≫ ≪氷結≫ ≪雷電≫」
俺にはどれも使えないが初級魔法だ。
一体何をしようと言うのか。
「リクト様、思いっきり上に風を吹かせてください」
「わかった」
【森羅万象】に風属性を付与し、扇のように上に仰ぐ。
フェンリィも微力ながら初級魔法で風を送った。
「準備はできました。あとは待つだけです」
空中には30体ほどのロボットが滞空している。
遠距離攻撃をしてくるが全て俺がはじき返した。
「あ、来ますよ」
フェンリィが言うと俺たちは影に覆われた。
青空は黒空へと変わり果てる。
「なんだこれは?」
「積乱雲です」
俺は意味が分からず沈黙を貫く。
「作りました。大気を不安定にさせて上昇気流を発生させたんです。初級でも魔法を使えば簡単に作れてしまいます」
説明されてもわからなかった。
とりあえずフェンリィが凄いってことはわかる。
「この攻撃なら躱せません。自然の力に機械が敵うはずないですからね。みんなまとめてさよならです」
みるみるうちに真っ黒な雲が形成され、ゴロゴロと音を立て始めた。
ピカッと光った次の瞬間、轟音と共に雷が落ちる。
無差別な落雷はたった一体に命中しただけ。
しかしそれは伝染し、感電する。
【合技】:≪閉鎖電圧≫
「ロボットのみなさん自身が導線であり電圧の役割をしてますからね。直列つなぎでビリビリさせました」
今も空中で青白い電流が円状に駆け回っている。
ロボットは全て停止してもなお、そこから抜け出すことはできない。
「初めての共同作業は成功ですねっ!」
「言い方は気になるが成功だな」
フェンリィがハイタッチを求めてきたのでそれに応じる。
あとは核を破壊するだけだ。
「もっと褒めてもいいんです──きゃああああっ!」
突如足場が60度ほど傾いた。
この巨体が動いたせいだ。
それによりフェンリィは滑り落ちようとしている。
どうやら下で戦ってる冒険者たちが一つ目の核を破壊したらしい。
「ったく、油断してるからだぞ」
俺は右手で巨体につかまり、左手でフェンリィの手首をつかんだ。
「はっ、すみません。ありがとうございます」
こういう時素直にお礼を言えるのはこの子の良いところだ。
すぐに傾斜は元に戻ったため立ち上がる。
「俺たちも仕事しようか」
「はい!」
核に近づくと薄紫色の禍々しいオーラを感じた。
これは魔素の塊である。そのため俺の武器の養分になる。
俺は【森羅万象】で魔素を吸収し、莫大に膨れ上がったエネルギーをそのまま振り下ろした。
バリンッッッ!!!
核は完全に破壊され、エネルギーの供給は断たれる。
一か所破壊しただけでもかなり弱体化できたはずだ。
「次は反対側ですね」
「顔面吹き飛ばしたから真っすぐ進めば着くな」
こうして俺たちは同様にもう一つの核を破壊。
地上で戦っている冒険者たちも最後の核を破壊した。
後は事後処理をするだけ。
この戦いの決着は二人の兄妹に託された。





