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40話 ただいま、おかえり

 俺とフェンリィは急いでルーナの元へ向かった。


 敵はあと一体。

 町の真ん中にある王宮を地面から突き破って現れたロヴェッタの巨大ロボットだ。

 と言ってもロヴェッタがそのまま大きくなったわけではない。

 人型ではあるがロヴェッタの面影はどこにもない。

 モンスターで例えるとゴーレムに近く、全長はおよそ30mだろうか。

 二本の足で足踏みすると大地が揺れ、二本の手を振り回すと建物が崩壊する。


 見たところその動きに意志はなく、ただひたすらに破壊を行っている。

 動きが遅いためまだ放っておいても大丈夫そうだ。

 とりあえず急いでルーナと合流しよう。


「フェンリィ、戦況は?」


 この巨体を見れば当然町中がパニックになる。

 手を打っておく必要があるかもしれない。


「ほとんどの一般人は避難が完了しています。あのロボットにすぐ巻き込まれるような人はいません。冒険者の人たちは事態を飲み込めてないようです。ですが何人かは行動を開始していますね。想定外ですが先程の布石が効いているかもしれません」


「何か手を打っていたのか?」

「あとでまとめてお伝えします」

「そうか、じゃあ急ごう」


 作戦はフェンリィに全部任せた。

 俺も何が起きようとしているのかさっぱりわからん。



◇◆◇◆◇◆



 ルーナと別れた地点まで戻ってきた。

 建物が崩れていてさっき見た光景とは全然違う。

 だがすぐにルーナを見つけることができた。

 灰色の瓦礫の中では赤い髪がよく目立つ。


「ルーナ! 無事か?」


 駆け寄ると意識を失い横たわっているルーイが目に入った。

 ルーナは膝枕をして手を握っている。


「リクト! リクト!」


 ルーナはただ必死に俺の名を叫んだ。

 それだけで状況は伝わる。


「任せろすぐに助けてやる。≪反転(リカバリー)≫」


 俺はルーイの死に向かっている状況を反転させて回復へと向かわせた。

 手遅れにならなくてよかった。


「もう大丈夫だ。時間はかかるかもしれないが元気になる」

「うん……ありがと。よかった……よかった」


 若干枯れた声で噛みしめるように言った。

 そんなルーナをフェンリィが後ろから抱きしめる。


「よかったです。ルーナもちゃんと生きていてくれて」


 最後に別れたのはルーナが魔王軍の侵攻を見て一人で駆け出した時だ。

 ずっと心配していたに違いない。


「うん、(アタシ)フェンリィのおかげで今までずっと生きてこれたんだよ。ありがとう」


 鼻をすすり、涙が頬を伝うがその表情は心が折れかけて絶望に染まっていた頃とは違う。これは安心と喜びの涙だ。



「取り戻せたんだな。ホントにルーナはよく頑張った」

「うん!」


 小さな頭をわしゃわしゃと撫でるとルーナの顔にぱっと笑顔が咲いた。

 落ち着いたので話を進める。


「どうしてこうなったんだ? ルーナがやったわけじゃないよな?」

「えっと……(アタシ)もよくわからないんだけど、なんか──」

「ん……んん」


 ルーナが話し出すと聞き馴染みのない呻き声が聞こえた。

 だがその声の主は確認しなくてもわかる。


「兄さま? 聞こえますか!?」


 ルーナが顔を覗き込むようにして呼びかけた。

 小さな手で両肩を揺すって返事を待つとそれに答えるようにゆっくり目を開いた。


「ん……。ルー……ナ?」

「そうです! ルーナです!!」


 興奮が爆発するように声を上げ、本当に嬉しそうに泣くルーナ。

 大粒の涙がルーイの顔に落ちる。

 そのせいかルーイも泣いているように見えた。


「そうか、ルーナか……」


 力のない声。けれど優しさに満ち溢れた声。

 取り戻すように、確認するように言葉を紡ぐ。


「はぁ……、はぁ……」


 呼吸を整えるとほんのり口角を上げ、ルーナの頬に手を当てた。

 そして、


「ただいま。ありがとう。それからごめん」

「おかえりなさい。ルイ兄さま」


 ルーイの胸に飛び込み、顔をうずめた。

 こうしていると本当に小さな子供に見える。

 二人の間にあるのは純粋な愛。

 それはルーナが戦って取り戻した報酬だ。

 しばらく二人きりにしておいたのだが少し離れていても楽しそうな声が聞こえてきた。



◇◆◇◆◇◆



「よっと」


 ゆっくりとルーイが体を起こした。

 よろける様子もなくかなり回復しているようだ。

 ルーナもとってもご機嫌の様子。

 ツインテールがゆさゆさ揺れている。


「これからどうしようか」


 俺は作戦を考える提案をした。

 今から四人で固まって話し合いを始めるところだ。

 するとルーイが突然、


「みなさん、本当に申し訳ございませんでした」


 俺たち三人に向かって頭を下げた。

 下げるなんてものじゃない。額を地面に擦りつけた。


「に、兄さま何してるんですか!?」


 動揺するルーナ。

 わたわたして顔を上げるように促す。


「僕を気が済むまで殴って蹴ってくれ。言うことも何でも聞く」


 それでも構わず頭を下げ続けた。


「恥ずかしいですよ兄さま。そんなのもういいんです」

「いや、僕の気が済まない! 頼む僕を殴ってくれ!」


 ドMかと思ったがこの人はそうじゃない。

 真面目過ぎるんだ。話に聞いていた通り本当のルーイは優しくて誠実な人だった。


「ルーイさん、今はそんなことしてる暇は──」

「君はリクトくんだね。ルーナを助けてくれて本当にありがとう。感謝してもしきれないよ」


 俺の肩をガッと掴むと全力で感謝してきた。

 俺は「何もしていません」とありきたりなセリフを言っておく。


「フェンリィちゃんもありがとう。ルーナに友達ができる日がくるなんて思わなかったよ。これからも仲よくしてあげてください」

「いえ、私が仲良くしてもらってます」


 フェンリィ相手にも土下座の姿勢は忘れない。

 そしてもう一度ルーナの方を向いた。


「ルーナ、何回でも言うが本当にごめん。こんなに不甲斐ない兄ちゃんでごめん」


 何度も何度も謝った。

 言葉からも行動からも自分を責めているのがわかる。


「だからもういいですって。兄さまは悪くないです」

「いや、僕が全部悪い。守らなきゃいけないのにたくさん傷つけて剣も向けた。僕は最低だ」

「もういいじゃないですか。今は優しいルイ兄さまですよ」


 下を向くルーイに笑顔で返すルーナ。


「それでも僕のやったことは消えない。僕は大事な妹を殴って、蹴り飛ばして、斬りつけたんだ。酷いこともたくさん言った。自分が許せない」


 奥歯を噛みしめて拳を震わせている。


「なら(アタシ)が全部許します。確かに痛くて苦しかったですがその何倍も何倍も愛情を貰いましたから」


 ルーナはルーイの顔に手を添えてじっと見つめた。

 兄が妹を想っているように、妹も兄を想っているのだ。

 しかし兄は引かない。


「そのまま僕を殴れ」

「む、兄さまちょっとしつこいですよ。(アタシ)がいいって言ってるんですから」


 妹はそう言うが兄は聞かない。


「僕がやってくれって言ってるんだ」

「ですから! (アタシ)がいいって言ってるんです。妹の言うことが聞けないんですか?」


 首を傾げて見上げるルーナ。

 それでもルーイは動じない。


「いや、今回ばかりは引けない。許さないでくれ。僕は一生かけて償うつもりでいる。だから──」



 バチン!



 気持ちいいぐらいの平手打ちが完璧に決まった。

 見てるこっちまでじんじんと頬が痛んでくるような気がする。


「もういいって言ってるでしょ! そんなに殴られたいならこれでお終い!」

「ルーナ?」


 頬を抑えて目を丸くするルーイ。

 か弱かった妹にいきなりビンタされればそうなるだろう。

 自分でやれと言ったが相当驚いたに違いない。


「何でも言うこと聞くってんなら一つだけ命令してあげる。ずっと(アタシ)のルイ兄さまでいなさい!」


 ビシッと指をさしてそう言った。

 いつまでも兄の後ろにくっついているだけではない。

 もう守られるだけのルーナではないのだ。


「ど、どうして僕のことを……」

「決まってるでしょ。たった一人の兄さまなんだからっ」


 弾けるような無邪気な笑顔でそう言った。


「僕を許してくれるのか?」

「ずっとそう言ってたの。次謝ったら一生口きいてあげないから」

「わ、わかりました」


 すっかり兄さまに対しても強気になったルーナ。

 対照的にルーイは複雑な表情をしている。


「どうしたんですかルーイさん」

「許してくれてよかったけど、なんか妹が急に反抗的になってモヤモヤするんだ。あんなに可愛かったのに冷たくされると僕から離れて行っちゃうみたいで寂しくなる。いや、今も可愛いんだけどたまには兄さまって慕ってほしいな」


 うわマジか。ガチでへこんでんじゃん。

 さてはこの人めんどくさいシスコンだな?

 そうに違いない。


 落ち込むルーイにフェンリィが話しかける。


「大丈夫ですよルーイさん。あの子は久しぶりに会えて嬉しいけど素直になれない年ごろなんです。姉の私にもそうでした。今も兄さまにぎゅってしてもらいけど他の人もいるし恥ずかしいなって思ってる顔です。冷たくするのは好きの裏返しですから。ねっ?」


 ルーナは「別に違うんだから」と顔を赤くして否定する。

 なぜか俺にも「ねっ?」と向けてきたので無視してやった。


「そんなことはいいから早くあいつぶっ倒すわよ」


 ルーナが中央で暴れている巨大ロボットを見上げる。

 そうしたいところだが無策で挑んでもあの巨体は倒せないだろう。


「ルーイさん、何か知ってますか」


 ルーイは洗脳されていたとはいえロヴェッタと共に行動していた。

 なにか手がかりがあるかもしれない。


「そうだね。遊ぶのはあいつを倒してからだ」


 ルーイの雰囲気が変わった。

 警護団体団長の風格がある。


「ロヴェッタの本体はリクトくんが倒したんだよね。僕はバックアップ用のデータで動いてるロヴェッタを倒した。だからもうロヴェッタは滅んだ。今暴れてるあいつは地下で開発していた超巨大兵器だよ。本当はロヴェッタが操縦することで真価を発揮する殺戮マシーンだ。あれを使ってこの町を沈めるのがロヴェッタの目的だったらしい」


 その後も現状の説明が行われた。要約すると以下の通りだ。


-------------------------

 1.二足歩行のロボットで歩くだけでも町が平らになる。


 2.今はオートで動いていて、近くにあるものを破壊するようプログラムが暴走している。


 3.意志がないため動きが単調でわかりやすい。


 4.耐久力が高すぎる。装甲が硬くてその辺の武器では傷一つつかない。


 5.内部の核を破壊すれば停止させられる。


 6.体のいたるところに近づくものを撃退する兵器が備えられている。

-------------------------


 とりあえず強くて一人じゃどうすることもできないのは確かだ。

 動くだけで攻撃になるからむやみに動きを反転させることはできない。

 ステータスを反転させることもできない。

 俺の攻撃力ではまったく効果ないだろう。

 お手上げだ。


「フェンリィ、どうすればいい?」


 人には向き不向きがある。

 頭脳担当のフェンリィさんに任せるとしよう。


「そうですね……無理です」

「「え?」」


 俺とルーナが気の抜けた声を出す。

 フェンリィなら何でもできると思っていたからだ。


「私たちだけでは無理ということです。この作戦には人手がいります」


 なるほどな。


「ですが協力を求めるのが一番難しいかもしれませんね」


 少し自信なさそうに俯いた。


「ああ、みんな散らばってるもんな。確かに大変そうだ」


 町のいたるところで戦いが行われていた。

 一人ずつ協力を求めていたら町がぺしゃんこだ。


「いえ、それは大丈夫です。実は先程≪強襲雷降(アサルトライフル)≫で残党狩りをしたときに冒険者のみなさんには北と南の二か所に集まってもらうよう指示を出しておいたんです」


 俺は意味が分からず首をかしげる。


「矢文のようなものです。弾と一緒に丸めた紙も一緒に撃ちました。その紙には高ランクの冒険者は北、低ランクは南に集まるよう書いてあります。本当は行方不明者の捜索や崩れた建物の後始末をお願いするためにやったことです。この事態は想定していませんでしたが手を打っておいてよかったです」


 つまりフェンリィは全て終わった後のことも考えて行動していたのか。

 有能過ぎるな。


「ルーナ、ちょっといいですか」


 俺が感心しているとルーナとコソコソ話を始めた。

 これも作戦だろうか。もう全部任せよう。


「……そうね。でもやるしかないわ」

「お互い頑張りましょう。これは私たちにかかってます」


 意味深なことだけ言って俺たちには教えてくれなかった。

 これもガールズトークだろうか。


 その後、手短に今回の作戦を伝えられたので概要は把握。

 ルーイも特に異論無く作戦を承諾した。

 かなり厄介な任務にはなりそうだ。



「では、ここからは二手に別れましょう。私とリクト様が南、ルーナとルーイさんが北に行って指示を出してください」

「「「了解」」」


 俺たちはそれぞれの地へ別れた。

 これが最後の戦い。ファイナルフェイズだ。

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