37話 戦場を統べる勇者
「今から俺が無能じゃないってことを証明してやるよ」
俺はフェンリィを後ろに庇い、四天王のロヴェッタと対峙した。
この町を現在恐怖に陥れた元凶。
そしておそらくルーナの兄を洗脳した張本人。
コイツを倒せば全ての方が付く。
『ふふっ、笑わせないで頂戴。たかが人間一人が四天王に敵うわけないでしょ。わたくしたち四天王は幹部の十倍以上強いのよ。ちょっと幹部を倒せたからって調子に乗らないことね』
不敵に笑うロヴェッタ。
それを見て俺も笑みを浮かべる。
「すぐにわかるさ」
俺には慢心も油断もない。
だが余裕ならある。
『あらそう。ならお望み通り殺してあげるわ!』
ロヴェッタの左腕がガシャンと変形して大砲のようになった。
砲口の暗闇が俺を見つめる。
『≪大虐殺砲≫』
一瞬にして超高密度のエネルギーが凝縮された。
そして一斉にぶっ放す──
『ぐああああああああ!!!』
──自分自身に。
ロヴェッタは撃つ瞬間に自分の方へ向けたのだ。
顔面が損傷し、煙が立ち上っている。
「どうだ? 自分で自分を撃つ気持ちは」
『くそ、何しやがった!!!』
鬼の形相で叫ぶと今度は右腕をドリルの形に変形させた。
俺に突っ込もうと足を踏み出す。
だが、
『え!?』
足を絡ませてその場に転倒した。
故障して誤作動を起こすロボットのように。
それもそのはず。
俺の能力、≪反転≫は全ての動きをあべこべにする。
前に進もうとすれば後ろに行き、敵に攻撃しようとすれば自分に攻撃してしまうのだ。
『……なるほど。こういうことでしょ!』
ロヴェッタが自分に向けて大砲を向けた。
そして躊躇なく撃つ。
ドン!
『がはっ、どういうこと……?』
もちろん自分に向けて攻撃すれば能力を解けばいい。
「お前意外と馬鹿だろ。それと案外人間らしい反応もできるんだな」
≪雷滅斬≫
雷を纏った刃で追撃する。
だが俺の一撃では傷がつく程度。
さすが体力と物理、魔法の防御力ともにSSランクのことはある。
フェンリィでは火力不足で押し切られてしまったのかもしれない。
『ぐっ……許さない。わたくしの体に、魔王様から頂いたこの体に傷をつけるなんて!!!』
思った以上に別の部分はダメージを負っていたらしい。
「感情もしっかりしてるのか。分解して中を覗いてみよう」
『こうなったらしょうがない。あんまり使いたくないけどやってやるわ』
ロヴェッタが魔力を体中に集めた。
だが俺は放っておく。
何をしてもどうせダメージを負うのはコイツだけだ。
『食らいなさい。あなたも、その後ろの小娘も。全部跡形もなく消し飛ばしてやるわ!! ≪超新星≫!』
思わず目を瞑ってしまうほどの眩しい光。
そして次の瞬間、
周辺の建物は轟音と共に消し飛んだ。
爆風と熱風が全てを飲み込んでいく。
当然ロヴェッタ自身と俺たちもその大爆発に巻き込まれた。
自分と相手を同時に攻撃する捨て身の作戦だ。
このあべこべの能力の攻略法と言えよう。
だがそれすらも俺の手のひらの上。
「≪反転≫」
俺は迫りくる爆風や熱風、残骸の全て跳ね返した。
迫りくる勢いそのままに向きを反転させたのだ。
今までは攻撃を跳ね返すことができなかった。
だが俺は能力の覚醒によってその不可能を可能にした。
この能力の欠点はベクトルを自由に変えれないこと。
言い換えれば来た方向にしか返すことができない。
それでも十分すぎるほど強力だ。
この能力を使えばいちいち威力を下げて躱すということもする必要がなくなる。
『あ、あなた何者!? 人間如きがなんでそんなに強いのよ!』
所々へこんだりねじ曲がったりしているがロヴェッタはピンピンしている。
相当タフなボディをしているな。
やはり機械だということを実感。
「俺がその辺の幹部より100倍強いだけの話だ。お前のCPUはそんなことも計算できないのか?」
『くぅぅぅぅ。こんなにコケにされたのは初めてだわ! わたくしも本気で行かせてもらう!!』
騒ぎ出したがほっといて後ろを振り向く。
「フェンリィ、無事か?」
「……はい。あの、どうやったんですか?」
口をポカンと開けて見上げてきた。
「説明は今度だ。手短に言うと、これからは俺が全部跳ね返す」
かつてフェンリィは魔法を跳ね返すための道具として扱われていた。
二度とあんな酷い思いはさせない。
『無視してんじゃないわよ! なに? あなたたちも愛とか感じちゃってるわけ? 虫唾が走るわ』
反撃の様子は見られない。
喋りながら時間を稼いで対策方法を模索しているのかもしれない。
乗ってやるか。俺も聞きたいことがあるしな。
──と思ったがフェンリィが口を開いた。
「そ、そんな愛だなんて」
頬に手を当てて恥ずかしそうにするフェンリィ。
今は能力上昇してるんだよな? と思わず疑ってしまう。
戦闘中だというのに顔の周りには花が咲いてるように見える。
面倒だったのでフェンリィの唇に人差し指を当てて黙ってろと合図した。
するとピタリと静かになった。
話を本題に戻そう。
「ルーナの兄……ルーイに何かしたのはお前か?」
『ハッ! なんであなたに教えないといけないのよ』
言えばあまり苦しまずに済むんだがな。
仕方ない。
少し大変だが吐かせるとしよう。
「そうか。お前に今から”死”という恐怖を教えてやるよ」
『それは楽しみね。でも残念、わたくしもたった今演算が終わった──ワッッッッ!?』
「≪反転≫」
ロヴェッタにかかる重力を反転させた。
ロヴェッタはひっくり返り天に昇っていく。
『ななななな、なんなの!?』
「大丈夫だ、宇宙に不法投棄するつもりはない」
俺は【森羅万象】に魔力を集中する。
この刀は空気中の魔素から魔力を生成するため、ほぼ無限に魔力を生み出すことができる。
それも一瞬でチャージ可能。
魔力ゼロの俺にとってこれほど理にかなった武器はない。
「この技は大変なんだ。加減が難しい」
まず初めにロヴェッタにかけた≪反転≫を解除。
次に刀を振るい、宙に浮いたロヴェッタへ魔力の斬撃を飛ばす。
この斬撃は俺の意思でしか消えない。
そしてこの斬撃はブーメランのように攻撃が当たろうが当たらまいが何度もロヴェッタを襲う。
攻撃を跳ね返す技──≪反転≫の応用だ。
ロヴェッタから一定の距離離れると軌道が真逆になり、再びロヴェッタを攻撃する。
攻撃がヒットして跳ね返ったとしても≪反転≫が発動して何度も襲う。
これをピンボールの如く永遠に繰り返す。
たった一つの斬撃なら躱すことも容易だろう。
そこでこの斬撃をいくつも飛ばす。
すると次第に数は増えていき、斬撃の檻に閉じ込められることになる。
数は増える一方。この武器の生成できる魔力はほぼ無限だからだ。
どんなに硬い敵でも徐々に徐々にダメージを負っていく。
逃げ場などどこにもない。
全てを壊すまで終わらない。
その技の名は──
≪無限牢獄≫
炎、水、氷、雷、風、光、闇。
七色の斬撃がロヴェッタを切り刻む。
その鮮やかな色はまるで打ち上げ花火のようだ。
ロヴェッタはすぐにネジやバネや歯車などのパーツ単位に全て別れた。
空から降ってきて音が鳴る。
カランコロン。
「よう、楽しめたか?」
転がってきた核の部分に話しかける。
まん丸い球体をしていて、いくつもの千切れた配線が繋がっている。
ここだけ上手く切り取るのは大変だった。
『くそ……なんでわたくしが!』
予想通り会話も可能なようだ。
これでただの喋る玩具になった。
「さあ、今から俺の質問に答えてもらおう」
俺は無抵抗で動くことすらできないボールの玩具に尋問を始めた。
反転(フリガナ無し)……ステータスを反転させる能力。
反転……治癒する能力。
反転……あべこべにする能力。
反転……攻撃を跳ね返す能力。
反転……重力を反転させる能力。





