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36話 洗脳と支配

 俺はルーナを残し、先を急いだ。

 心配が全くないと言えばウソになるが今のルーナなら安心して送り出すことができる。

 兄弟喧嘩に無関係の第三者がいても邪魔になるだけだろう。


 こっちも早くフェンリィと合流してロヴェッタを倒したい。

 ロヴェッタは魔王軍の四天王だ。

 問いただして魔王の所在を吐かせてやる。

 そして俺にかけられた呪いを一刻も早く解く。


(ザーザーザザ)


「ん?」


 指輪の通信機能から連絡があった。

 フェンリィからだ。


「どうしたフェンリィ。悪いもうすぐ着く」

(……げて……)

「なんだ?」

(だめ…………)

「大丈夫か!? おい! フェンリィ!!」

(ザザ、ザザー……)


 通信が途切れた。

 まずい予感がする。

 いや予感じゃないな、緊急事態だ。

 フェンリィがピンチになるほどの敵。

 それは四天王以外いないだろう。


「待ってろフェンリィ。すぐに助ける」


 俺は一人、全力で戦場を走った。

 町の惨状は悪化する一方で、数時間前までの風景とは一変している。

 俺たちの手が届かない場所で死人も出ているだろう。

 一秒も無駄にできない。





 待ち合わせ場所にはすぐ辿り着いた。

 この町で一番高い建物である時計塔だ。

 ごめん待った? なんて聞く余裕はもちろんない。


 そこには特に変わった様子のないフェンリィがただ一人。

 拘束されているわけでも傷を負っているわけでもない。

 だがさっきの通信は明らかに様子がおかしかった。

 何かあるはず。


「フェンリィ、大丈夫か?」

「リクト様……」


 言葉も通じる。

 けれど若干声が震えている。

 表情も少し暗い。


「一体何があっ──」



 バン!



 銃声が響く。

 俺は珍しく動揺してしまった。

 そのせいで反応が遅れたのだ。

 目の前の光景を見れば無理もない。


「来ないでって言ったじゃないですか!」


 泣き叫ぶフェンリィ。

 だが俺はその表情をうまく確認することができない。

 なぜならフェンリィの撃った銃弾が俺の額をかすめたからだ。

 それにより出血し、視界が奪われた。


「どういうつもりだフェンリィ」


 血を拭って睨みつける。

 俺に【可変式弾丸銃(バリアブルガン)】を構えているフェンリィを──


「ち、違うんです! 私がやったんじゃないんです!」

「銃を持って俺に構えてる奴が言うセリフじゃないな。アホになっちまったのか?」

「わ、私の言うことが信用できませんか!?」



 バン!



 なんの躊躇もなく撃ってきやがった。

 今度は準備していたため能力を使用してしっかり躱す。


「信用してほしい奴の行動とは思えんな。まさかお前、ずっと俺を騙してたのか?」

「ちがっ……。だから私じゃなくて」

「裏切ったてことでいいんだな。俺は容赦しないぞ」

「ぐすんっ……そ、そんな目で見ないでください!」



 バン!



 目に涙を浮かべて撃ってきた。

 今度は避けず、銃弾を素手で掴む。

 そしてここで確信した。

 フェンリィがどう操られているかを。


「はぁ……。フェンリィ、信用してほしいのは俺の方だよ」


 いつもの口調に戻して優しく語りかけると、フェンリィは訳がわからないといった表情を浮かべた。

 俺もついさっきまで何が起きてるかわからなかった。


「俺は大丈夫だから落ち着いて話してごらん。ね?」


 俺はフェンリィの状態を確かめるために一芝居打ったのだ。

 操られていることはわかっていたためどの程度操られているのか探っていた。

 精神だけ支配されているのか、それとも行動も全てなのか。


 今のフェンリィは動きだけ操られているのだろう。

 俺が殺気を向けた時の反応は本物だ。

 ならば会話は可能である。


 ちなみにフェンリィが裏切ったという選択肢は俺の中にない。

 本人には言わないが誰よりも信用している。

 まだ数日しか一緒に過ごしていないがこの子のことはよくわかっているつもりだ。


「本当ににごめんなさい。私、リクト様に迷惑かけたくなくて……。それにお怪我までさせてしまって……」

「大丈夫だよこんなかすり傷。ほら、もう治ってるでしょ。俺もあんな目を向けてごめん」


 俺は自分に≪反転(リカバリー)≫を使って治癒した。

 フェンリィは俺を傷つけたことにより冷静な判断ができなくなってしまったのだろう。


「いえ、最初から私がしっかりしてればよかっただけです」

「俺も心配させちゃったからお相子だよ。それで何があったんだ?」


 フェンリィを操っている奴がまだ見当たらない。

 だが仲間同士で戦わせようとしてくる奴だ。

 きっと近くで見ているはず。


「あんまり私に近づかないでくださいね」 バン!

「実はですね」 バン!

「私うっかり」 バン!

「四天王の」  バン!

「人に」    バン!

「体を操られ」 バン!

「てしまっ」  バン!

「たん」    バン!

「で」     バン!

「す」     バン!


 撃ちだされた十発の弾を全て受け止める。

 本当に体が言うことを聞かないらしい。


「さすがリクト様。カッコいいです」

「な、大丈夫って言ったろ。それで四天王はどこにいるんだ?」

「えーっと、それは私もよく──」


 魔物なら独特のオーラや臭いというものがある。

 だがそんな邪悪なものは感じない。


『ここよ』


「リクト様!!!」


 フェンリィが叫んだ。

 俺は咄嗟に反応して体を捻る。

 背後を取られ、攻撃されて名前を呼ばれるまでその存在に気づかなかった。


「っぶね。お前が大将首か」

『あら、今のも躱せちゃうの。噂通り強いのね』


 相対してなおコイツからは何も感じない。

 容姿は二十代後半の女性。一見戦えるようには見えない。


「噂?」

『んふっ。こっちの話よ』


 俺は前のパーティにいる時も目立たないようにコソコソしていた。

 どうせハッタリかなんかだろう。


 それより早くフェンリィの洗脳を解かなければ……。

 速攻で潰す。


「≪反転≫」


 俺は剣を抜き、攻撃に移った。

 ステータスを反転させて弱体化し、半殺しにする。

 そのはずだった──


────────────

 名称:ロヴェッタ

 体力:SS → SS

 物攻:S  → S

 物防:SS → SS

 魔攻:S  → S

 魔防:SS → SS

 魔力:S  → SS

 俊敏:S  → S

 ユニークスキル:?

────────────


『遅すぎじゃない?』

「は?」


 俺の剣は簡単に躱された。

 そしてカウンターが襲ってくる。


 腰の入ったいい(パンチ)だ。

 そのスピードと威力を下げて何とか回避。

 一旦距離を取る。


──────────

 名称:ロヴェッタ

 体力:SS

 物攻:S

 物防:SS

 魔攻:S

 魔防:SS

 魔力:SS

 俊敏:S

 ユニークスキル:?

──────────


 もう一度見るがステータスが変わっていない。

 ユニークスキルか?


『まさか本当にその能力を持ってる人間がいたのね。でも残念、その能力わたくしには効かないわ。それ生き物にしか効かないんでしょ? うふふっ』


 そう言ってロヴェッタは不気味に笑う。

 すると肌を覆っていた腕まで隠せるロング手袋を外した。

 そこに現れたのはメタリックなメカメカしい腕。


「そういうことか」


 確かに俺のステータスを反転させる能力は生物にしか効かない。

 例えば剣や斧などの武器にステータスは存在しない。

 存在しないものは変化もしないということだ。

 コイツは俺のような冒険者を惑わすためにステータスを表示できるようにプログラムされているのだろう。


『わたくし、この綺麗な顔も含めて全部機械だから関係ないのよ。残念でした、これじゃあなたはただのCランクの無能みたいね。あなたを殺したら魔王様喜んでくれるかしらっ』


 無能……ね。

 まあそう思われても仕方ないよな。

 フェンリィも顔には出していないがきっと心配してるだろう。

 それでも、


「関係ない。スクラップにしてやるよ」


 俺は刀に魔力を集中させて属性を付与する。

 この刀なら俺でも多少ダメージが通るはずだ。


『あらいいのかしら。あれが見えないの?』

「は? ……フェンリィ!!!」


 見るとフェンリィが自分の頭に銃口を向けていた。


「……リクト様」


 恐怖。絶望。不安。そんな感情が見て取れる。

 銃を握る手以外、全身が震えていた。


「待ってろ。すぐコイツを殺して……」

『ダーメ。動いたら引き金引かせるわよ』


 俺の耳元でそっと囁いてきた。

 背筋が凍るような冷たい声だ。


『わたくし、感情を知りたいのよね。ロボットだから全部作りものなのよ。悲しいでしょ。だから直接見て感じたいの。さあ、あなたたちの叫びを聞かせて頂戴』


 ロヴェッタはフェンリィに近づくと頬に触れる。


『可愛い顔ね。ねえ、お化粧ってどんな感じなの? わたくしやったことないのよね。そうだ、あなたのお顔で練習させて頂戴』


 するとロヴェッタの指が変形し、ナイフのような形状になった。


『ネイルもやってみましょうか。爪を全部剥がして』


 別の指がペンチに変わる。


『さあどこまで意識を持ってられるでしょうね。わたくし痛いって感覚もわかんないから痛くしちゃったらごめんね』


「…………」


『あら黙っちゃってどうしたの? 怖くなって声でなくなっちゃったかしら。どう? 殺される気持ちってのは。わたくしの部下たちもたくさん殺したそうじゃない。その分痛い思いしましょうねぇ』


 ロヴェッタがナイフを近づけた。

 俺が動けばフェンリィは自分で脳をぶちまける。

 何もしなければ真っ先に精神が死ぬ。

 究極の選択だ。


『ホントに喋れなくなっちゃった? ほら、最後に言い残すことはない? 惨めったらしく泣いて懇願してみなさいよ』


 フェンリィの髪を掴んで持ち上げた。

 俺は動くことができない。


「……です」


『なあに?』


「必要ないです。私には王子様がいるので。だから泣いて謝るのはあなたの方ですよ」


『アッハッハ、いい度胸してるわね! でも一歩でもあの坊やが動けばあなたは自分で自分を撃つのよ。怖くないの?』


「もう大丈夫です。リクト様の顔見たらそんなの無くなりました」


 フェンリィはそう言って微笑んだ。

 俺も覚悟を決める。


『あらそう。じゃあ始めるわね』


 ロヴェッタがナイフを振り上げた。

 その瞬間──


「≪反転(インヴァース)≫」


 能力の使用と同時に地面を蹴って走り出す。

 俺はフェンリィに銃を撃たせることを選択した。


『だから、動いたら殺すって言ったわよね!!!』


 バン!


 フェンリィが引き金を引いた。

 発砲音が鳴り響く。


『な!?』


 それと同時にロヴェッタも思わず声を漏らした。

 無理もない。撃たれたのは自分だったのだから──


「くらえ!」



炎滅斬(イグニスパーダ)



 俺はその一瞬の隙を突き、斬撃を放つ。

 攻撃は浅かったが確実にダメージは入った。

 ロヴェッタが戸惑っている間にフェンリィを救出。

 抱きかかえて距離を取る。


「大丈夫かフェンリィ?」

「もう、怖かったんですよ。でも絶対助けてくれるって信じてました」


 薄っすら涙を浮かべ、俺の腕の中でぽかぽか叩いてきた。


「ありがとう。フェンリィやルーナのおかげで俺も強くなれた」


 初めて使うため賭けだったが上手く機能してくれた。

 能力の覚醒。

 それは誰にでも起こりうる。

 俺の場合、ルーナを助けた時にその時が訪れた。



『何が起きたの!?』


 あれぐらいの攻撃じゃびくともしないか。

 まあこれは想定内。


「ロボットなのにわからないんですか? 私の方がよっぽど賢いですね。愛に決まってるじゃないですか」


 フェンリィさんがそんなポンコツなことを言ったので俺が変わる。


「お前、フェンリィの動きを操ってたんだよな。自分を撃てとでも命じたんだろう。俺はそれを反転させた。それによりお前自身が撃たれたんだよ」


 今の状況に当てはめればそういう説明になる。

 だがこの能力の凄さはこんなものではない。


「今の衝撃で洗脳も解けたんじゃないか?」

『くそ、まあいいわ。だったらもう一回使うまで!』


「させるわけねえだろ。≪反転(インヴァース)≫」


 今度はこの能力をロヴェッタに使う。

 これは生き物だとかそういうのは関係ない。


『さあもう一度わたくしの人形になってその男を撃ちなさい! ≪不正侵入(ハッキング)≫』


 フェンリィに能力をかけ、俺を撃たせる。

 そうしたつもりなんだろう。


『なんで効かないの!?』


 だがフェンリィに変化はない。


「そう慌てるなって。これからお前をじっくり解体してやるから」

『は? 無能のくせに何言ってんのよ。わたくしに勝てるわけないでしょ』


 さすが四天王といったところか。

 すでに落ち着きを取り戻している。

 俺を舐めている証拠かもしれないな。


「フェンリィ、少し休んでろ」

「あ、はい」


 さっと俺の後ろに隠れると服の端っこを掴んできた。


「フェンリィとルーナは自分が無能じゃないと証明した。俺の想像を超えた力で自分の道を切り開いた。そんな二人に俺が心配をかけるわけにはいかないんだ。俺も今から証明してやるよ。無能じゃないってことを」

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