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32話 少女は笑い、悪魔が笑う

 アタシは走った。

 全力で王宮に向かっている最中だ。


 このままだと関係ない人も巻き込まれる。

 あの家のせいで全部壊れる。

 それだけは絶対ダメ。

 許せないし許さない。


「アタシが止めなきゃ」


 きっと大丈夫。

 今の体ならなんだってできる気がするの。

 弱かった私や強がってたアタシとも全然違う。


 風は感じるものだって初めて知った。

 体を自由に操れるだけで凄く嬉しかった。

 こんなに走ってるのに呼吸は乱れないし体が軽い。


 今ならまだ間に合うはず。

 きっとあの時のメイド服を着た四天王が黒幕だ。

 アイツを止めれば片が付く。

 多分今も王宮にいるはずだ。

 急がなきゃ。



『グガアアアア!』



「ちっ、邪魔すんな!」


 ズバッ!


 途中、襲ってくる敵をスピード落とさず一撃で殺していく。

 時間はほぼロスしていない。


 この体のおかげですぐに町に戻ってこられた。

 そしていつも通りの賑やかな町を抜けると王宮に着く。

 ほんの少し前まで住んでいたアタシの牢屋(いえ)だ。


 バゴンッ!!!


 勢いよく扉をぶち破って中に入るがやけに静かだった。

 王室が怪しいと思い、再び走り出す。


 今朝からアストレシア家を始め冒険者たちは任務に駆り出されているらしい。

 なんで誰も気づかなかったんだろう。

 これは戦力を分散させてその隙にこの町を落とす作戦だったんだ。


「誰かいる!?」


 アタシが怒鳴っても返事はなかった。

 が、話し声は聞こえてきた。

 聞こえてきたというか目の前で話している。


『き、貴様裏切ったのか!?』


 中にいたのはあの日も見た二つの影。

 馬鹿な王様(アタシの父)、ジークの動揺しきった声が無駄に広い王室に響いた。


『悪魔と契約なんてするからそうなるのよ。その顔、やっぱ何度見てもそそるわねぇ』


 四天王のロヴェッタが不気味に笑う。


『おのれロヴェッタあああああああ!!!』


 ジークは絶叫し、剣を握って切りかかる。

 この男は現アストレシア家のトップ。

 それは弱い者に務まる席ではない。

 こんなにクズでどうしようもないが腕は確か。


『うふっ、ちょっと考えればわかるでしょ。自分が狩る側だと思ってるから足元すくわれるのよ。この国が一番兵力あるんだから潰すに決まってるじゃない。それ!』


『ぐおおお!』


 ロヴェッタは剣を素手で受け止めると投げ技を決めた。

 それによりジークは地面にたたきつけられる。


『こ、これが四天王の力……。欲しい! なあ、われと組まんか? 国でも何でも好きなものを与えてやる!』


 膝をもって立ち上がると両手を広げて高らかに笑った。

 正気の沙汰とは思えない。


『ここまでくると滑稽ね。そういうの嫌いじゃないんだけどあなたは退屈だわ。わたくしにはふさわしくない』


 その申し出をロヴェッタは断る。

 すると、


『頼む! この家の者が邪魔なら好きなだけ殺せ! 町も全部破壊しろ! そうすればお前らの目的は達成するのだろ?』


 (こうべ)を垂れて何を懇願するのかと思ったら全てを売った。

 あの日から一番のクズだと思っていたがここまでだったなんて。


『いらないわ。今から面白いことするから黙って見てなさい』


『がはっ!』


 小石でも蹴ったかのようにジークが吹っ飛んだ。

 ジークはこの町でおそらく兄さまの次に強い。

 それだけこのロヴェッタが化け物ということだ。


『く、くそ! 誰かいないのか! そうだ、ルーイ! ルーイはいないのか!!!』


 惨めったらしく叫び散らかす。

 するとアタシの真横で声がした。


『ここですよ』


 声の主はジークの元へ静かに歩いてゆく。

 アタシは後ろから来たその気配に全く気付かなかった。


 その正体はよく知っている人物。

 何度も見た横顔に何度も見た背中。


 なのに、それが誰なのかジークが名前を呼ぶまでわからなかった。


『ルーイか!? どこへ行っていた! コイツを殺せ! 裏切り者だ!』


 これが、兄さま……?


 見た目は兄さまだ。

 けどそれ以外の何もかもが違って見える。


『はぁ、おいジーク。そんなに恥を晒すなよ』


 アタシはその声を聞いて鳥肌が立った。

 そして目をそらした。

 この現実も、兄さまの顔も、何も見たくなかった。


『ぐああああああああああああああああ!!!』


 耳を塞ぎたくなるほどの喚き声が響く。

 兄さまは持っていた剣をジークの足に刺したのだ。

 ジークの足が真っ赤に染まっていく。


『おいおいみっともないぞ、そんぐらいじゃ死なないだろ。息子である僕の前で恥ずかしくないのかい、父さま』


『お、おおおお前どうして!』


『僕はね、父さまが大っ嫌いなんだよ。この家も嫌いだ。全部ぶっ壊してやるよ』


『な、何を言って……』


 ジークの顔から血の気が引いていく。


『んふっ! まぁだわからないのぉ~? ルーイ君はわたくしが貰ったのよっ♡』


 ロヴェッタの気色悪い声が響く。

 そして兄さまの後ろから被さるようにして手を回した。


『ルーイ! 貴様にプライドはないのか!!!』


『は? どの口が言ってんだよ』


 ブスッ。


『がああああああああああ!!!』


『お前は全部終わってから殺してやるよ。しばらくそこで寝てろ』


 ジークは気を失ったのか死んだように動かなくなった。

 両足からたくさん血を流している。


『それじゃあ始めようかしら。わかってるわね、わたくしの言うことは絶対よ』

『わかってます、ロヴェッタ様』


 そう言って兄さまは膝をつき、胸に手を当てて忠誠を誓うポーズをとった。


 いや。

 こんなの兄さまじゃない。

 戻ってきて。


 違う。

 戻すんだ、アタシが。

 目の前にいる。

 手が届く。


「ルイ兄さま!!!」


 声が凄く震えた。

 わからないけど凄く怖い。


 でも言えた。

 しっかり声を届けられたんだ。


 でも、心には届いていなかった。


『またお前かよ。殺すぞ』

「え……」


 そのたった数文字の言葉に絶望した。

 苦しくて吐きそうな気分になる。

 体は動かないし息が詰まりそう。


 え……。ころす?

 なんで?

 どうしてそんなこと言うの?


 違うよ。

 やめてよ。

 そんなこと言わないでよ。

 そんな目で見ないでよ。


 アタシが、私が、崩れちゃう。


『ルーイ君、あの子邪魔だわ』

『わかりました』



 ボゴッ。



「おえっ……」


 見えなかった。


 なんでなの、

 ステータスは上がってるはずなのに、

 さっきからずっとぼやけててよく見えない。


「……ぃさま、もどって……きて」


『は? 勝手に喋るな』


「……ぐっ、ルーナです! 私は兄さまの妹、ルーナです!」


 私は兄さまの足にしがみついて叫びました。

 顔をくしゃくしゃにして必死に叫びます。


『お前を見てるとイライラするんだよ。僕はお前みたいな出来損ないの世話を十年以上もやらされてうんざりだったんだ。毎日毎日嫌でしょうがなかった』


「お願いじます! 私を置いでがないでぐださい!」


『チッ。触るなきたねえ!』


「うっ……!」


 蹴られました。

 とても痛いです。

 このままずっと眠っていたいです。


 でも諦めちゃダメです。

 怖くても目を瞑っちゃダメなんです。


「兄さま!」


 私は何度も何度も叫びます。

 もう声が枯れて上手く音がでません。

 でもきっと心には届いてくれるはずです。

 そう信じて何度も叫びます。


『んふふ。素晴らしい愛ね、美しいわ。でもごめんね飽きちゃった。だからルーイ君、この子を殺しなさい』

『わかりました。直ちに』


「……え?」


 私は目の前の光景が信じられませんでした。

 私に向かって兄さまが剣を抜いたのです。


 ルイ兄さまはかつて言っていました。

 僕が剣を向けるのはモンスターだけだと。

 どんな悪人でも人には決して向けられないと。


 じゃあ、私はなんなんですか……?


 兄さまが私に向かってきました。

 すごくゆっくりに見えます。

 何人にも重なって見えます。


 兄さまのお顔が目の前に来た時、私は笑顔で今の気持ちを伝えました。


「兄さま、大好きです」

『そうか、僕は大っ嫌いだ』



 ジャキッ。



 ……熱いです。

 体の外は熱いのに中はとっても冷たいです。

 だんだん世界が真っ暗になっていきます。


『終わりました』

『よくやったわ。じゃあ行きましょうか、この町を終わらせに。んっふっふっふっふっ』

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3巻書影
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