29話 天罰
※ジェフィー視点
ウチの名前はジェフィー。
アストレシア家の長女でルーイ様の右腕だ。
近頃歴史が大きく動こうとしている。
アストレシア家が他の町を攻撃し、天下を取るのだ。
どうやら父様は魔王軍と手を組んだらしい。
こんなことがバレれば追放なんてぬるい罰じゃ済まされない。
でも問題はない。これまで全ての準備がうまく運んでいる。
あれだけ正義感の強かったルーイ様も協力的になった。
今ではすっかりこの計画の中心人物だ。
あの邪魔だったルーナも追放して縁を切ったらしい。
最近はウチにも優しくしてくれる。幸せだ。
天下を取ったら毎日ルーイ様のお世話してあげよっ♡
そのためには少しでも確立を上げる。
少しでもマイナスに働くかもしれない要素は排除するのだ。
一番邪魔になりうる存在。それはルーナだ。
今でこそ追放されたが、なぜルーイ様も父様も奴を殺さないのか。
まだ使い道があるっての?
いいや、そんなはずない。いるだけ邪魔だ。
もしかしたらルーイ様が心変わりしてしまうかもしれない。
それはウチのためにもアストレシア家のためにもよくない。
だったらウチが殺してあげよう。
そう思って今回の作戦を実行した。
任務中の事故と見せかけて殺す。これなら証拠も残らない。
あいつは本当に無能のゴミだ。
きっと今頃胃袋の中でぐちゃぐちゃになってるはず。
「楽しそうですね姉さま」
弟のディナードが話しかけてきた。
脳内での思考を切り上げ、現実に戻る。
「当然だろ。ずっと殺したかった」
「ま、僕もですけど。昔は殺さないように加減して攻撃するの大変でした」
「エミリーも嬉しい」
この二人はウチを慕ってくれているしウチもこいつらのことは信頼してる。
基本的に実力が優れていればルーナのようにいじめられることもない。
ルーナのような標的を作って他が高め合うというのがアストレシア家の育成方針だ。とても合理的だと思う。
「さて、さっさと任務も終わらせて帰るぞ」
狂暴化したモンスターが暴れているとの情報が今朝一気に入った。
この現象は魔王軍の仕業なのだが、どうして手を組んでいるミスウェンの近くで起こすのだろう。
父様が手を組んだ四天王とは別の奴がやってるのだろうか。
確か前に、この町だけ襲われないのはおかしいから~ とか言ってたな。
まあいい、すぐに終わらせよう。ウチらなら余裕だ。
ドスーン!!!
「な、なんだ!?」
いきなり空から黒い物体が降ってきた。
その物体は黒いマントに身を包んでいて大きな杖を持っている。
『どこだここ? 森じゃねえか、ミスったな。やっぱ≪無作為瞬間移動≫は使うもんじゃないか。お?』
体が震えを感じたのはいつぶりだろうか。
ウチは今ビビっている。
やらなければやられる。
ダン!
地面を蹴って切りかかる。
が、
『おいおい、いきなり殺しにくんのかよ』
「なに!?」
確かに剣は体を貫いた。
なのに全く感触が無い。
「姉さま!」
振り返ると炎の弾が目の前に迫っていた。
それをギリギリで躱す。
『『おっと避けるか。面倒な相手だな』』
目の前にいたはずの敵がなぜか後ろにいた。
いや、違う。二人いるんだ。
全く同じ姿形をしたやつが二人いる。
ウチの前と後ろを挟まれた。
魔法か?
『急がねえとロヴェッタ様に怒られるんだよな』
ロヴェッタ。四天王の名か。
つーかこいつがそうじゃねえのかよ。
「おい、ロヴェッタってのはこの町と手組んでるぞ。てことはお前とウチらは仲間だ」
こんなにやべぇ奴が仲間なら心強い。
他の町なんてすぐ滅ぼせるだろう。
だがその考えは甘かった。
『ふっふっふ、あははははは! お前たち本気で魔王軍が手貸すと思ってんのか?』
「は?」
『騙されてんだよ。じきにここへ千体以上の悪魔が押し寄せてくる。この町は終わりだ!』
「な、何言って……」
『死ぬ奴に説明する必要なんてねえよ。お前らはこの俺、幹部ごときにも負けるんだからな!』
くそ、裏切りやがったか。
まあいい。こっちだっていずれ裏切るつもりだったからな。
「はっ、幹部ごときで図に乗ってんじゃねえよ。何体も倒したことあるわ」
『いーや、俺はその辺の幹部とは違うぞ。最恐の魔導士、レヴァト様だ』
──────────
名称:レヴァト
体力:S
物攻:A
物防:S
魔攻:SS
魔防:S
魔力:S
俊敏:A
ユニークスキル:?
──────────
確かにステータスは高い。
だがこれぐらいの敵なら倒したことがある。
だからといって油断はしない。
この敵からは他とは違うおぞましいオーラを感じる。
ウチらで勝てるか?
いや、何弱気になってんだ。
ウチはアストレシア家の長女だ。
──────────────
名前:ジェフィー
体力:A
物攻:S
物防:S
魔攻:A
魔防:A
魔力:A
俊敏:A
ユニークスキル:≪加速剣≫
──────────────
戦闘においてステータスが全てではない。
これぐらいの差、埋めて見せる。
「いくぞエミリー、ディナード!」
この三人なら勝てない敵などそうそういない。
いける!
「うわあああああああああ!」
ウチが合図をした瞬間、ディナードが叫び声を上げた。
こんな情けない声を上げるのはらしくない。
「どうした、ディナー……ド」
そこにいたのはもうディナードではなかった。
関節がねじ曲がり人の形を保っていない。
『まずは一人』
「てめぇ!」
『おいおい、なんでお前らが準備できるまで待ってねえといけないんだよ』
まだ今なら間に合うかもしれない。
すぐにコイツを倒して──
「エミリー!!!」
ウチは妹の名を叫んだ。
「へ? やだやだエミリーは悪くない。何もしてない。痛い、痛いよ!」
全身が腐敗を始め、可愛い顔が台無しになっていた。
『これであと一人だな。少し時間に余裕ができた。お前が一番強そうだから遊んでやるか』
「くそ! 殺す!」
怒りに任せ、ひたすらに剣を振るう。
さっきから何度もコイツの体は貫いている。
でも素振りでもしてるみたいに手ごたえが無い。
『はあ、お前はつまらんな。≪雷撃弾≫』
逃げに徹していた敵は急に攻撃を始めた。
ウチは一方的にボコボコにされる。
「ぐあああああああああ!」
ステータスが全てではない。
ランクはあくまで目安でしかない。
とは言ったが、ステータスでほぼ決まる。
一段階違うだけで明確に差が生まれるのだ。
同じランク帯であっても大きな差がある。
実際にどれだけ差があるのかは戦ってみないとわからない。
けど、ここまで差があったとは……。
その差を埋めるのが、経験やユニークスキル。
やるしかない。
「まだ見せてなかったな。≪加速剣≫!」
ウチのユニークスキル、≪加速剣≫は剣速をSSランクにも通用するスピードまで昇華させるもの。
この技で数々の敵を葬ってきた。
ルーナにも何度もお見舞いしてやった。
あいつの泣く顔は堪らなかったな。
ルーイ様に近づきやがって。
できればウチの手で殺したかったがまあいいだろう。
今はもうウチだけのルーイ様になったからな。
たくさんお世話して可愛がってもらおう。
あれ、なんで今こんなこと考えてんだ?
今ウチ、攻撃してんだよな?
『やはりつまらん』
その声と共にウチの視界は180度回転した。
ウチの記憶はそこまでしかない。





