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28話 ルーナの戦い方

 時は今朝に遡る。


 俺とフェンリィはルーナの助けになろうと思いギルドを訪れていた。

 昨日の今日で行くか迷ったのだが、フェンリィが行きましょうと提案してくれたので行動に移せたのだ。


 まずギルドに着くと驚いた。

 人が少ない。

 昨日は100人ほどいたが今は20人程度しかおらず静かだ。


 誰かに事情を聞こうと思ったら昨日俺がボコボコにしたフェンリィの元パーティメンバーを発見。


 フェンリィは後ろに隠れ、俺は睨みつける。

 すると勢いよく土下座してきた。


 それはもうお手本のような綺麗な土下座だ。

 余程昨日のが効いたのだろう。

 泣きながら何度も何度も額を地面に擦りつけた。

 フェンリィは優しいからすぐ許したが俺は許してない。


 どうやらコイツらが懲りずにここにいるのは、冒険者資格を剝奪されてその手続きをしていたかららしい。

 フェンリィの扱いが問題視されたり他にも弱い者をいたぶっていたという事実が一斉にバレたのだ。

 これからは心を入れ替えて人を助ける仕事をしますと言っていたが本当だろうか。


 まあかなり落ちぶれたみたいで、中には職を失ったことで家庭も失ったり借金をしたりとこれからも苦労が続くそうだ。

 多少はスカッとした。


 そいつらに事情を聞くと今朝から緊急の任務が立て込んだらしい。

 例の狂暴化現象だ。

 町の周辺やさらには町中でもモンスターが暴れ出したらしい。

 それを止めるために冒険者がたくさん借りだされたと言う。

 ルーナもアストレシア家に連れられて任務に行ったそうだ。


 今回は緊急任務のためパーティの人数に関わらず受注可能。

 おまけに報酬が結構いいときた。

 不謹慎だが金を使いきってしまったのでありがたい。


 俺たちはルーナたちが向かったと思われる場所を特定し、任務を受けつつルーナを探すという方針で動き出した。


 こうして、ルーナがモンスターに襲われる寸前のところで助けられたというわけだ。



◇◆◇◆◇◆



 時は現在。


 ルーナの心を開けたかはわからないが俺たちと共に行動してくれるみたいだ。

 今もフェンリィと楽しそうに話している。


「ところでルーナ、お前の目的はなんなんだ?」


 俺はおばちゃんに断片的な話しか聞いていない。

 フェンリィも詳しくは知らないと言っていたので聞いてみた。


「兄さまを助けるためって言ってるでしょ。あとここに来たのは大っ嫌いなあいつらを見返すためよ」

「それだけか?」

「そうよ。え、なに?」

「いやいいんだ」


 兄さまを助ける、か。

 まあ自分では気づけないよな。

 俺がしっかり見ておこう。


「それよりアンタたちの方が謎よ。アタシのために来てくれたってことは、その……感謝、してるけど、なんで奥に進むのよ」


 少しずつだが素直に話してくれるようになった。

 上手く距離を縮められたってことだろうか。


「任務がまだ残ってるからな。ルーナの戦闘練習もかねて金を稼いでおこうってわけだ」

「あっそ、まあアタシがいれば余裕よ。全部粉々にしてやるわ」

「はいはい頼りにしてるよ」


 ルーナは基本的にかなり強気に振る舞う。

 自信が無く怖がっていたフェンリィとは対照的だ。

 だからといってこの自信がいいというわけではない。

 この子の自信は自分を鼓舞するためのものだ。

 自分の弱さがわかっているため簡単に折れてしまう。

 それに、まだ一人で何とかしようという気持ちは抜け切れていない。

 上手くやらなければ。


「出ましたリクト様!」


 あれこれ考えてるうちにモンスターと遭遇した。

 両手の鎌を振り上げて威嚇してくる昆虫型のモンスターだ。


──────────────

 名称:キラーマンティス(狂)

 体力:A

 物攻:S

 物防:A

 魔攻:C

 魔防:B

 魔力:C

 俊敏:S

──────────────


「アタシがぶっ殺す!」

「ちょ、ルーナ! 危険ですよ!」


 ルーナは思い切りがいい。

 自分よりも強い相手に果敢に攻めていく。

 彼女の環境がそうさせてしまったのだろう。


 剣を振り上げて一人で突っ込んでいった。

 だがルーナの機動力はG。子供と大差ない底辺の数値だ。

 対するこの敵はS。勝負は始まる前についている。


「これでも食らえ!」


 短剣(ルーナが持つと大剣)を振るう。

 だが当たるはずもない。

 ルーナの短剣が空を切る頃には敵のカウンターがルーナを襲う。


「うわっ!」


 なんとか受け太刀して致命傷を防ぐも吹っ飛ばされて近くの木に体を打ち付けた。


「ルーナ!」


 フェンリィが慌てて駆け寄る。


「ってて。やっぱりアタシじゃ無理なのかな」


 するとルーナは弱音を吐いた。

 俺の予想ではまだ一人で突っ込んでいくと思ったが意外と諦めがいい。

 この諦めというのは悪いことではない。

 今の自分から新しい自分へ進化する覚悟の現れだ。


「無理じゃない。言ったろ俺がお前を強くするって」

「言った……けど、どうやって?」

「やりたいように動いてみろ。大丈夫、もう痛い思いはさせない」

「……わかった。アタシ、アンタを信じる」


 ルーナの顔に自信が戻った。

 いや、戻ったという表現は少し違う。

 さっきまでも堂々としていたが今は危うさのようなものが完全に消えた。


「よし、任せろ」


 俺はその小さな手を掴んで引き起こす。

 そして背中を押して送り出した。


 ルーナが敵へ一直線に突っ込む。

 この構図は最初と同じ。

 ルーナの動きは簡単に目視可能で、あまりの遅さに敵も思わず身構えるほどだ。


 敵が鋭く尖った手の鎌を振り上げた。

 それを小さな女の子の首元に目掛けて加速させる。

 あまりの速度に風を切る音が響く。


「あぶない!!!」


 フェンリィが叫んだ。

 咄嗟に駆けだして庇おうとしたので引き留める。


 ルーナは自分に襲い掛かる攻撃を見ても動じない。

 俺を完全に信用している証拠だ。

 ならば俺はその期待を裏切るわけにはいかない。


 ルーナが剣を構え、右足に重心を乗せた。

 その瞬間────


「≪反転≫」


──────────────

 名前:ルーナ

 体力:G  →  SS

 物攻:SS    SS

 物防:C     C

 魔攻:C     C

 魔防:C     C

 魔力:C     C

 俊敏:G  →  SS

──────────────


 ビュンッ!


 俺が唱えるとキラーマンティスの鎌は物凄い勢いで空を切った。

 そこにルーナの姿はない。


「どこ見てんのよ」


 ルーナは一瞬にして背後を取ったのだ。


 その声に反応し、キラーマンティスのギョロっとした大きな目がルーナを捉える。

 すると振り向きざまに攻撃しようと鎌を走らせた。


 だが、気づいたときにはもう遅い。


 俺がこいつの動きを≪反転≫させるまでもない。

 ルーナの前では全てが遅すぎるのだ。


「大丈夫、痛みも置き去りにしてあげるから」


 超越したスピードに超越したパワー。

 現世最強の火力がぶった切る。



辻疾風(つじはやて)



 剣を振ったという事実は音と()()でしか確認することができなかった。

 それほどまでに速い攻撃。


 バラバラになった十個の肉片は切られたことに気づかなかったのか、それとも虫の生態かはわからないが今も動いている。やがてそれらの命は音もなく安らかに眠った。



「試し切りにはちょうどよかったわね」


 ルーナが腰に手を当てどんなもんよ、といった感じで戻ってきた。

 表情は晴れ晴れとしている。


「すごいですルーナ! こんな強い敵やっつけちゃうなんて驚きました!」


「ま、アタシにかかれば当然よ。……って言いたいけどリクト、本当にありがとう。なんだかアタシがアタシじゃないみたいだわ。今でも信じらんない」


「俺は手助けしただけだ。実際に倒したのはルーナだし、その体を操ってるのもルーナだ。自信もっていい」


 俺はそう言ってちょうどいい位置にある赤い髪の頭を撫でる。


「そっか。アタシもやれるんだ。へへ」


 頬も赤く染めて子供みたいに笑った。

 無邪気に笑う姿がよく似合う。


「あーずるいです私も!」

「いやお前は何もしてないだろ」


 すると銀色の髪の少女はぷくっと膨れる。

 リスみたいな顔だ。


「そうよ。アタシが奪っちゃおっかな」


 そう言ってルーナが俺の腕に抱き着いてきた。

 その感触を受けてやっぱり15歳の女の子なんだなと実感。


「な! ぽっと出の小娘なんかには渡しません! 正妻は私です!」


 フェンリィもくっついてくる。

 こちらは言うまでもない。

 平常心を保て俺。


「おい二人ともやめろって」


 振り払おうとしたが両腕でガッチリしがみついてるため引き剥がせない。

 まあ二人とも楽しそうだし少しならいっか。

 俺は少しの間両手に花をもって森を歩いた。

これからセリフではない≪ ≫で囲った技名が結構出てくるのですが、「ズバッ!」とか「ジャキン!」のような擬音の代わりとして使ってます。

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[気になる点] 何故SSを反転させたらGにならないのですか?
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