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27話 気持ち

「よかったー! ルーナ無事だったんですね!」


 フェンリィが薄っすら涙を浮かべて抱きついてきた。


「な、なによ急に。離れなさいよ!」


 アタシは照れ臭くなって引き剥がす。


「リクト様のおかげで助かったんですよ。感謝してくださいね」

「そんなのいいよ別に。怪我もないみたいでよかった」


 あ、そうか。

 アタシはまた何もできずに助けられたんだ。

 こんなんじゃ兄さまを助けられない。

 アタシがもっと強くならないと。


「別に頼んでないでしょ。アタシだって一撃で倒せるんだから。邪魔しないでよ」


 言っちゃった。

 ホントは感謝してる。

 でもこれ以上弱い気持ちになっちゃダメだ。

 虚勢を張らないとアタシが崩れる。

 弱い私に戻っちゃう。


「もうこの子はめんどくさいですね。ほら、一緒に行きますよ」


 アタシの手をフェンリィが掴んだ。


「やめて!」


 その手を払う。


「アタシは馴れ合うつもりなんてないの! これはアタシが一人でやらないと意味ないの!」


 怒鳴った。

 きっとアタシは酷い顔をしている。

 けどもう後戻りはできない。


「私はルーナの力に……」


「ほっといてよ! アンタは抜け出せたんだからアタシなんてほっといて人生楽しみなさいよ! どうして戻ってくるの? 優越感に浸ってるだけでホントはアタシのこと笑ってるんでしょ!」


「ち、違うよ……」


「何が違うのよ。ほら、何も言えないじゃない。アンタなんて友達でも何でもないわ!」


 アタシは剣を拾って奥に進もうと歩き出した。

 全部やっつけてあいつらにアタシを認めさせる。

 兄さまがそうしてくれたように一人で助ける。

 そう決めたんだ。


 だからごめんフェンリィ。もう構わないで。

 それに今言ったこと、半分は嘘だけど半分は本心なの。

 アタシは人を信用できなくなったみたい。友達すらも。


 だって、唯一信じてた兄さまにも裏切られたんだよ。

 魔王軍の呪いのせいでああなっちゃったって思ってるけど、ホントにアタシのことを嫌いになったのかもしれない。実は最初から味方のふりしてただけかもしれない。そうだったらどうしよう。考えないようにしてたけどすごく怖い。もう裏切られたくない。何も信じれないよ。だからアタシは一人で……。


「待てよ」


 アタシの足が止まった。

 腕を掴まれて前に進めなくなった。


「一人で何が出来るんだよ」


 男が言ってきた。

 一番言われたくない言葉。一番わかってる言葉。

 それを聞き、アタシの怒りは爆発する。


「ふざけんな! そんなことわかってんだよ! お前なんかに言われなくったって生まれた時からずっとずっとなんにもできないって思い知らされてんだよ! お前はいいよな。そんなに強いし何でも持ってるんだろ? アタシにはなんにもないんだよ! それでもアタシは前に進むしかないんだ!」


 こんなに大声を出したのは初めてだ。

 男の腕を振り払う。だがすぐに掴まれた。


「触んな!」


 必死にもがき、足を蹴って腕に噛みつく。

 それでもアタシの腕を放してくれない。


「ってえな。暴れんじゃねえ!」


 両腕を拘束された。

 

 やばい、殴られる。

 何度も味わったこの恐怖。

 これだけはどうしても慣れない。


 殴ってくる人の表情を見ると怖さが増す。

 肉体だけでなく心も痛くなる。


 アタシは殴られる準備をして目を瞑った。

 こうすればただ痛いだけ。

 また我慢すればいい。


「こっちを見ろ!」


 でも殴られなかった。


「お前さっきからずっとどこ見てんだよ!」


 代わりに怒鳴られた。

 アタシは何度も怒鳴られたことがある。

 そのたびに全身をかき回されるような不快感に襲われた。

 でもこの声にはあったかさがある。

 全然怖くない。むしろ……。


「……っ。見てるだろ! 何わけわかんないこと言ってんだよ! 早く放せ!」


 アタシはまた叫ぶ。


「いいや何も見えてねえ。もう一回よく見て同じこと言ってみろよ」


 アタシの怒鳴り声とは対照的な優しく静かな声が耳を抜ける。

 すると男はアタシの顔を両側から手で挟むようにしてフェンリィの方に向けた。


「ルーナ……」


 アタシはフェンリィが泣いてるところをあまり見たことが無い。

 アタシの前ではいつも笑っていて、喧嘩する時もあったかい目をしている。

 なのに、今はすごく辛そう。

 なんでアンタがそんな顔してるの?


「お前のためにこんな顔してくれるやつが友達じゃないのか? お前はこれを見てもそう思うのか?」


 胸が苦しい。

 どうして。

 怒鳴られてるわけじゃないのに。

 どうしてこんなに痛いの。


「いいか、よく聞け」


 アタシの顔を元の位置に戻すと額にゴツンと当ててきた。

 もうこの人の顔しか視界にはない。


「お前の気持ちがわかるとかそんな綺麗事を言うつもりはない。俺たちを信用できないというなら信用しなくてもいい。俺たちが勝手にお前の手伝いをする。お前が俺たちを利用すればいい」


 頭が真っ白になった。

 何を言っているのかわからない。

 信用しなくていいとか利用すればいいとか意味が分からない。

 どうして自分からわざわざそんなことを言うんだろう。

 わかんないよ。

 こんなに真っすぐ見られたことないもん。


「なんでそんなことするの? アンタにも酷いことたくさん言ってフェンリィも傷つけたのに……。なにを企んでるの? 血のつながりもない赤の他人でしょ。昨日会ったばかりの追放された無能にここまでする意味は何?」


「意味なんてものはない。ただ俺は一人で泣いて閉じこもってるお前を助けたいだけだ」


 じっとアタシの目を見て言った。

 するとフェンリィも、


「そうですよ。血は繋がってないけどルーナは私の友達であり妹です。何回突き放されても連れ戻します。私はルーナを愛してます!」


 わかんないの。

 どうしてこんな気持ちになるんだろう。

 どこも痛くないのに涙が流れるの。


「あっ」


 弱い声が出た。

 フェンリィの匂いがする。

 落ち着く。安心する。あったかい。

 懐かしいぬくもりを感じる。

 いつまでもこうしていたい。

 あ、そうか。これが……。


「ごめんフェンリィ。アタシも大好き」


 抱きしめられたのはいつぶりだろう。

 胸がいっぱいになって心が軽い。

 苦しいのが全部なくなっちゃった。

 でも、


「でもやっぱりアタシは一人でやらなきゃ。これはアタシの問題だか──」

「そんな下らんプライドは捨てちまえよ」


 アタシの声はかき消された。

 またこの男だ。

 どうして気に障ることばかり言ってくるのか。

 せっかく頑張ろうって思えたのに。


「下らんってなによ! こっちは真剣に悩んでるのに!」


 アタシはまた叫んだ。


「なんで一人にこだわる。兄さまが一人で助けてくれたからか? でもお前は兄さまみたいに強くない。自分でわかってるから怒るんだろ?」


 なのにこの男は怒りすらも包み込むようにアタシの心に話しかけた。


「だ、だから、そんなことはわかってて。わかってて……」


「さっきから言ってるだろ。俺たちを利用しろって。俺がお前を兄さまより強くしてやる。だからその後はお前が自分で救え」


「……え? アタシが救えるの?」


「そうだ。それに一人にこだわってるみたいだが俺もフェンリィも一度追放された身だ。無能が一人から三人に増えたところで変わらんだろ」


 なんだろう。

 兄さまよりキツイ言葉だしムカつくのに兄さまと同じぐらい説得力がある。

 信頼もできる。

 多分これを逃したらもうチャンスはない。上手くいくかはわからない。

 でもアタシ一人でどうあがいたって無理。絶対兄さまを救えない。

 この手を掴んだら、元の兄さまに戻ってくれるのかな。


「さ、行きますよルーナ!」


 フェンリィに手を差し伸べられた。

 その手を握る。

 でもまだ立ち上がれない。


「俺のことは嫌いで構わん。仲間だと思わなくてもいい。手を組んでやるぐらいの気持ちでいてくれ」


 嫌い、か。

 嫌いってなんなんだろう。

 兄さまとフェンリィ以外はみんな嫌い。

 じゃあこの男は?

 こんなにアタシのことを見てくれた。

 嫌いなわけない。

 でも兄さまやフェンリィに感じるのとは違う。


「さっきまでの威勢はどうしたルーナ。ビビって立てなくなったか?」


 この人の声を聞き、見つめられると変な気分になる。

 けど全然嫌な気はしない。


「なわけないでしょ。気安く呼ぶんじゃないわよばかリクト」


 アタシはその手を強引に引っ張り立ち上がった。

 なんだかきつく締まっていたものが緩むみたい。


「あ、ルーナが笑った!」

「わ、笑ってないわよ!」

「ふふっ、私も嬉しいです。じゃあ行きますよ!」


 フェンリィは森の奥へと進んでいった。

 遅れて後を追うとリクトが隣に並んだ。


「あんまり無理しなくていいぞ。そんなに気を張ってると疲れるだろ」

「え?」

「フェンリィは気づいてるかわかんないけどお前話してる時いつも苦しそうだ」


 そんなこと初めて言われた。

 ホントにアタシのこと見てくれてるんだ。

 てかなんで急に優しくするのよ。

 調子狂うじゃない。

 いや、最初からずっと優しかったか。


「別にこれが普通よ。なに、そんなにアタシのことずっと見てるの? もしかしてアタシのこと……す、好きなわけ?」

「俺はロリコンじゃねえ」


 この男、真顔で言ってきやがった。


「あっそ、アタシもそういうところが嫌い」

「あ、今は何か無理してる感じ無いな」


 ほんとだ。

 アタシも全然苦しくない。

 なんでかな。

 一人じゃなくなったからかな。


「ねえ、アタシが私になっても助けてくれるの?」

「よくわからんが見捨てたりしねえよ」

「そっか」

「なんだよ急に」

「んーん。ありがと!」


 兄さまを助けるまで私はゆっくり休んでて。

 もしアタシがダメになって私になってもリクトが助けてくれる。

 そう思うと気持ちがすごく楽になる。


 笑うのってこんなに気持ちよかったんだな。

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