表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/103

26話 闇夜の灯火

 今日も起きたらすぐに大量の雑用をこなす。

 掃除も洗濯も全部アタシが一人でやらなければならないのだ。


 最初の方は遅いしできないしで散々怒鳴られたけど最近はあまり言われない。

 もう慣れたものであまり時間もかからなくなった。


 でもやっぱり殴られるのは慣れない。

 涙は出ないけど痛いのは一緒。

 今日はどこを怪我するのだろうか。


 と思ったが何もされなかった。

 いつもアタシをボコボコにして笑ってくる人たちと目が合ったけど何もしてこなかったのだ。


 もしかしたら昨日フェンリィと一緒にいた男のおかげかもしれない。

 突き放しちゃったけど少しは感謝しよう。


 今日は苦しくない日かもしれない。

 後でフェンリィと遊ぼうかな。


「ルーナ、こっちに来なさい」


 そんな幻想は打ち壊されることになる。

 ギルドの職員に呼ばれた。

 いつも男にフラれると私に当たってくる女だ。


「なによ」


 基本的にアタシは強気な態度をとる。

 めそめそしててもこうしてても変わらない。

 なら少しでも心を強く持とうと思ったからだ。


「アストレシア家の方々が呼んでる」

「え……」


 見ると、忘れることのできない顔が三つ。

 冷たい目でアタシを上から見下ろしていた。


「ウチら急に任務行けって言われたんだよねー。マジ面倒だわ。アンタ荷物持ってくれない?」


 機嫌悪そうにそう言ったのは姉のジェフィー。

 昨日兄さまと一緒にここへ来てアタシを蹴り飛ばした女だ。

 年はアタシより五つ上で家にいる時もよくいじめられた。

 アタシを一番苦しめた張本人である。


「そ、それぐらい自分で持ちなさいよ!」

「は? お前誰に口きいてんの?」


 トラウマというのはなかなか消えてくれない。

 アタシは委縮してしまう。


「まあまあ姉さま。無能は荷物を持つことすらできないんですよ。こんなに小さい子に持たせるのも可哀想じゃないですか」


 嫌味ったらしく嘲笑してくるのは弟のディナード。

 よくアタシを練習台にして攻撃をしてきた男だ。


「だからルーイ兄さまに捨てられる。昔からそう、あなたは弱くて惨め。エミリーとは違う」


 こいつはアタシと同い年のエミリー。

 小さい頃は一緒に遊んでいたのに自分が才能に目覚めるとアタシを差別して裏切った。手は出してこないがアタシを軽蔑してるこの目が苦手。


「わかったわよ。行けばいいんでしょ」


 煽られてることはわかってる。

 でもこう言われたら引けない。


 アタシはもう昔とは違うんだ。

 こいつらを見返してやる。


 こうしてアタシは荷物持ちとして任務に同行することになった。



◇◆◇◆◇◆



 アタシは荷物を持たされ森へ入った。最後尾をとぼとぼ歩く。


「あーかったる。おい、飲み物よこせよ」


 ジェフィーに言われ、アタシは少し間を開けてから渡す。


「とっとと寄こせや無能! なんでお前がルーイ様に気に入られてたんだよ。ウチはずっとお前が大っ嫌いだった」


 強引に奪い取ると悪口を言われた。

 さっきからずっとこんな調子。


 ジェフィーはアタシが他の子にいじめられて兄さまに慰めてもらうと、必ず後で泣かせに来た。

 アタシに兄さまを取られるのが嫌だったんだろう。

 兄さまの前では猫を被っている。


「姉さま、これもルーイ兄さまから頼まれた重要な任務ですよ。狂暴化事件かもしれません。集中していきましょう」

「ディナードの言う通り。エミリーもそう思う」

「そうだった、失敗はできないな。チッ、行くぞ」


 ディナードもエミリーもまだ子供なのにしっかりしている。

 悔しいけど実力もアタシを馬鹿にするだけあって十分ある。



『ガオオオオオオ!!!』


 アタシより5倍ぐらい大きな虎に遭遇した。

 こんなに強そうなモンスターを見たのは初めてだ。


──────────────

 名称:ブレードタイガー(狂)

 体力:A

 物攻:S

 物防:A

 魔攻:B

 魔防:B

 魔力:B

 俊敏:A

──────────────


「出ましたね。こいつも狂暴化が見られます。全ステータスが一段階ずつ上がってるようです」

「エミリーなら一人で十分。でも作戦通り?」

「もちろん。そのために連れてきたんだからな」


 三人とも敵に突っ込んでいった。

 人間としては腐っていてもアストレシア家の腕は確か。

 きっと余裕で倒せてしまうだろう。


 ところが、


「じゃあなルーナ! せいぜい頑張れよ!」

「武器は一応用意してあげたんです。アストレシア家の人間なら余裕ですよね」

「エミリーは偉い子だから応援する。ファイト」


 そう言って三人は敵の横を抜けて奥へと進んでいった。


 くそ、はめやがった。

 アタシを殺すために連れてきたんだ。


 でもどうして今更。

 いや、今はそんなこと考えてる暇はない。


 モンスターは三人には目もくれずアタシを睨みつけている。


「どうしてアタシにだけ……!? あ!」


 荷物の中身を開けると奥の方に生肉が入っていた。

 このモンスターの好物だ。

 アタシはバックを投げる。

 だけどそのバックは一瞬で飲み込まれた。


『『ガルルルル』』


 さらに二体増えた。

 アタシを三体の虎が囲っている。


「く、くるなら来なさいよ! アタシだって強くなったんだから!」


 アタシは自分の背丈とそう変わらない剣を握る。


 アタシは証明するんだ。

 一人でもやれるって。兄さまを助けられるって。

 こんな相手に負かるわけにはいかない。

 あいつらを見返すためにはアタシだけで倒さないと意味がない。


「だあああああああ!!!」


 剣を振り上げて突進する。

 当たれば確実に殺せる。

 そう、当たれば…………。


──────────

 名前:ルーナ

 体力:G

 物攻:SS

 物防:C

 魔攻:C

 魔防:C

 魔力:C

 俊敏:G

──────────


 SSランクというのは人間ではありえないらしい。

 体中いじられてたくさん検査もされた。


 こんなに攻撃力だけは優れている。

 けどユニークスキルどころかスキルも何一つ使えない無能。


 魔力は多少あるけど使えない。

 練習したけど使い方がわからなかったのだ。

 防御力は今でこそ人並み程度にはあるけど元はこれもFランクとかだった。

 何回も殴られてるうちに耐性がついたらしい。

 と言ってもCランク。凡人の域を出ない。


 そんなことよりも致命的な欠点がある。

 動きが遅すぎるのだ。

 鈍くさいなんてものじゃない。

 敵に辿り着いて武器を振る頃にはアタシが死んでいる。


 体力も絶望的にないからすぐ動けなくなる。

 稽古の時も何もできずにぶたれまくった。


 これらは防御力と違って鍛えても全く伸びなかった。

 多分アタシは生まれつき体が弱い。


 出来損ないの欠陥品。

 どんなに破壊力のある兵器も使えないんじゃ意味がない。

 これがアタシが無能と言われ、アストレシア家を追放された理由。


 でもやると決めた。

 たくさん練習もした。

 やれるはずだ。

 だってアタシは、ルイ兄さまの妹なんだから!


「くらえ!!!」


 剣を振り下ろす。

 でも当たらない。

 地面だけがズシンと揺れた。


「あっ!」


 剣が手元から離れる。

 そしてモンスターに捕まってしまった。

 アタシは必死にもがく。


「離しなさいよ! あっち行って!」

『ガアアアア!』



 やばい、食べられる。



 ……あ、そうか。



 思い出した。


 この世界は弱肉強食なんだ。

 気持ちだけで強くなれるわけじゃない。

 だってアタシは弱いんだもん。

 自分は強い、やれると思い込んでただけだもん。


 弱いアタシは無様に死んで強い人の血肉になるだけ。

 でもそれは別にアタシである必要はない。

 痛めつけた方は覚えてないけど痛めつけられた方はいつまでも覚えてるでしょ。

 そういうものなんだ。


 アタシがいた価値なんてなにもない。

 アタシは誰かの引き立て役で、踏み台でしかない。

 そんなことわかってたはずなんだ。それでも……。


 あーあ、なんで()はこんなに辛い思いをして頑張ったんだろう。

 もう少しやれると思っていました。


 ごめんなさいルイ兄さま。

 私が救うだなんて笑っちゃいますよね。

 でも本気だったんですよ?

 だって、私を蹴る時の兄さまは本当に苦しそうな顔をしてたんですから。

 一度くらい私が助けたいって思ったんです。

 でもダメでした。

 私は先に行って待ってますね。


 最後にもう一度、抱きしめて欲しかったです…………。




 ズシュッッッ!!!




「え?」


「おい! 大丈夫か!?」

「ルーナ! ルーナ! しっかりしてください! 死んじゃダメです!」


 気づくとアタシは男に抱きかかえられていた。

 まだぼーっとしてるけど周囲には薄っすらとモンスターの死骸が見える。


 アタシを抱いているのは昨日アタシを助けてくれた人だ。

 名前はなんだっけ。フェンリィが連呼してたきがするけど。


「フェンリィ、この子息してるか!?」

「えええええと、あっ! 大変です! してません!」

「本当か!?」


 うるさいなぁ。

 今何が起きてんの?

 あれ? なんかこの男の人近くない?


「リ、リクト様何しようとしてるんですか!?」

「人工呼吸に決まってるだろ。非常時だ」

「ですね。私は目を瞑ってます。バッと行っちゃってください!」


 何騒いでんの?

 え、ちょっと待って。

 まさかさっきからアタシに向かってしゃべってる?


「何もたもたしてるんですか! 早くぶちゅってしてください! もう一回経験してるでしょ!」

「は!? してないし! い、いくぞ」


「ストーップ!!!」


 アタシは勢いよく顔を上げて叫ぶ。

 おでことおでこがごっつんこした。


「ルーナが生き返りました! やったー!」

「ってて。死んでないわよ!」

「フェンリィの早とちりか。まあよかった生きてて。大丈夫か?」


 そう言って男は優しい目で問いかけてきた。

 どこか懐かしい気持ちになる。

 どうやらアタシはこの二人に助けられたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コミックス発売中!!!


3巻書影
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ