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21話 ギルドでの騒動②

「何カッコつけてんだよ! 俺たちに喧嘩売ってただで済むと思うなよ。ぶっ殺してやる!」


 燃え盛る瞳を俺に向け、三人の男が殴り掛かってきた。迷いのない一撃には殺意がこもり、確実に俺を潰しにかかっている。そこに手加減は一切ない。全てが百パーセントの攻撃だ。


 頭に血が上った大振りのパンチは簡単に回避可能。

 だが俺はあえてそうしない。

 体だけでなく精神にもダメージを与えるためだ。


「≪反転≫」


 ピタリ。


 拳が俺に触れた瞬間、威力が死んだ。

 ハエが止まったような感触しかない。


「どうした? そんなものか?」

「こ、こいつどうなってやがる!?」

「ハッタリに違いねえ! 攻めろ!」


 男たちはムキになって殴る。

 だが俺には効果ない。

 するとさらにイラついて殴ってくる。

 それでもやっぱり俺にダメージは無い。


「ど、どうなってやがる!?」

「なんかのスキルだろ。構うな、いずれ崩れる」

「そうだな。長く楽しめていいじゃ──」


 ボコッ!


 ダメージがないとはいえ殴られ続けるのは癪だ。

 顔面にカウンターをお見舞いする。


「ペッ! 軽いな。そんなんじゃオレは倒せねえぞ」


 俺の素手での攻撃力は人並み程度。

 大男相手には確かに軽いのかもしれない。

 それはそうだろう。俺の能力は人間ではなく強力なモンスターをアリのように殺すための能力だ。人間相手に特化した能力ではない。


 だが、それでいい。


「威勢はどうした?」

「あ……ぁが……っ!」


 俺は立ち向かってくる度に正確に顔面を殴る。

 何度も何度も殴る。

 三人の攻撃を受け止め、順番に殴るまでが1セット。

 これをざっと20回繰り返す。


 外野の見物人は「もっとやれ!」と檄を飛ばしている。

 誰がやられるかは関係ないのだろう。


「……ま、だまだ」


 力が弱いということは何回殴っても簡単には死なないということだ。

 その分だけコイツらが苦しむ時間も長くなる。

 回数を重ねるごとに肉体にも精神にもダメージは加算されていく。

 俺は気絶させないように力を加減しながら殴った。


「二度と外歩けないツラにしてやろうか?」

「も、もうやめてくれよ! 悪かった、勘弁してくれ!」


 まだ多少綺麗な顔の奴が足にしがみついてきた。

 そろそろ辞めておいてやるか。俺もいたぶるのは趣味じゃない。


「邪魔だ。お前はあとで遊んでやる」

「ぐああああ!」


 あばらにつま先をねじ込む。

 すると唾を吐き散らかして膝をついた。

 よし、もう十分……


「死ねええええええええ!!!」


 まだ懲りないらしい。

 後ろから物凄い殺気を感じた。

 振り返ると最初に気絶させた男が剣を振り上げていた。俺の威力では長時間眠らせることはできなかったようだ。それにまだ歯向かう元気があるらしい。ならば、


「≪反転≫」


 今度は剣速を落とす。

 止まった剣を側面から殴り、叩き折った。


「おい。剣を抜くってことは覚悟できてるんだよな?」

「ば、バケモンだ……」


 聞くと、そいつは尻もちをついて後ずさりを始めた。

 俺はゆっくりと一歩ずつ詰め寄る。


「ゲームしようぜ」

「ゲ、ゲームですか?」


「そうだ、俺が今から目瞑って剣投げるからどれだけギリギリで躱せるかゲームしようぜ。三回投げて一回も当たらなかったら俺の勝ち。もし当たっちまったらお前の勝ちな。負けた方は関節を一個無くそうか」


「無くす!? ふふ、増やすんじゃなくて?」

「バカか。それじゃいつかは治っちまうだろ? だったら切り落として無くした方がいい」


 俺は目を開けたまま刃先の折れた剣で狙いを定める。

 もちろんハッタリだ。ただ、それを悟られないように全力で恐怖を植え付ける。


「始めるか。大丈夫、殺しはしないから。ちょっと痛いかもしれないけど俺ポーション持ってるからさ」

「ひ、ひいいいいいいいいいい!!!」


 フェンリィたちが受けた痛みはこんなものじゃない。

 だからこの程度の地獄は見せてやろう。

 手始めに手のひら目掛けて振り下ろすフリをした、その時──



 キーン。




「やりすぎじゃないかな?」


 乱入が入った。

 顔を上げると、俺の刃を果物ナイフで止めた男が立っていた。


「こいつらがしたことに比べれば大したことない。邪魔しないでもらえるか?」

「それはあの子のため? それとも自分のため?」


 赤髪の爽やかな男が指差す方にはフェンリィがいた。

 フェンリィは泣き崩れている。

 こんなに泣いているところを見るのは初めてだ。

 少し、やり過ぎてしまったらしい。フェンリィを気遣う余裕がなくなっていた。


「……冷静さを欠いてました。止めてくれてありがとうございます」

「どういたしまして」


 気づけば全員泡を吹いて気絶していた。

 これ以上やっていたらコイツらと同じだった。

 それはフェンリィも望んでいない。


「ふぅー」


 一度深呼吸して落ち着かせる。


「ところであなたは?」

「僕はアストレシア家長男のルーイ。一応この町を取り締まる警護団体の団長を務めてるんだ。今はギルドで乱闘が起きてるって知らせが来て止めに来たんだ」


 アストレシア家。この町の王族か。


「コイツらがあの女の子に暴行を加えてたんですよ。それを俺は止めた感じです」


 この一件はこの人に任せた方がいいだろう。

 いい人そうだし信頼できそうな感じがする。


「女の子? 僕が聞いたのは君たちが暴れてるってことだね」

「どっちでもいいです。あの子を手当てしてあげてください」

「どこにいるんだい? 僕には見えないけど」

「え? いやだからあの赤い髪の女の子ですよ」


 俺はボロボロになっている少女の方を指して教える。


「うん、けが人はこの男の人たちだけだね。これならほっといても大丈夫かな。処罰とかは特にないから君もほどほどにね」


 そう言ってルーイは立ち去ろうとした。

 明らかにコイツの視界には少女が映っている。

 俺だけに見えているということもないはずだ。


「は? さっきから何言って──」

「ルイ兄さま!」


 少女が叫んだ。

 倒れそうな体を必死に支えてこちらに歩いてくる。


「待ってください。一度私のお話を聞いて……」

「チッ。誰だよお前。気安く話しかけんじゃねえよ」


 俺はルーイの声を聞き、その形相を見て驚いた。

 さっきまでの爽やかな印象はどこにもない。

 まごうことなき嫌悪そのものだ。


「何か気に障ることしましたでしょうか。教えてください。どうして兄さまは……」


 バゴン!


「おえっ……!」

「もうっ、遅いですよルーイ様。あら、またネズミがでたんですね。何回駆除しても湧いてくるなんて、いっそ殺処分してしまいましょうか」


 腰までかかる赤髪ロングの女性が少女を蹴り飛ばして入ってきた。

 少女は床に転がり苦しんでいる。


「そんなことに時間を使うのはもったいない。ゴミを燃やすと環境に悪いしな」

「さすがルーイ様。ステキっ」

「……まって、ください。どうして私を追放したんですか? 兄さまだけはいつも優しかったのに……今だってほんとは私を助けに来てくれたんじゃないんですか?」


 少女はルーイにしがみつく。

 置いてかないでと訴える子どものようだ。


「うるさいな、別に助けたわけじゃない。これ以上アストレシア家の恥をさらさないためだ。僕はお前のことなんてこれっぽっちも想ってない。目障りなんだよ。消え失せろ」


 そう言ってルーイは少女を突き飛ばした。

 少女は尻もちをついて倒れる。


「ぐすっ、ぅう……兄さまのバカ! もう知らない! 絶対許してあげないんだから!」


 少女は泣きながらギルドを出て行った。

 ルーイも他の連中も顔色一つ変わらない。

 俺の周りだけ空気が重くなったような気がした。



「ルーイさん。事情はわかりませんがあんまりじゃないですか?」


 他人の家に口出しするのはよくないかもしれないが放っておけない。このルーイという男はなぜかあの少女に対してだけ冷たい気がする。


 いや、気がするではない。この人だけではなくあの男たちもギルド内の人もまるで人として扱っていなかった。絶対におかしい。


「君はこの国出身の人じゃないのかな? 今日は見逃してあげるけど気を付けてね。この国はアストレシア家の言うことが絶対だ。次僕に口答えしたら許さないから」


 俺の顔を覗き込んでそう言った。

 口調は柔らかい。だが瞳の奥には邪悪さがある。


「じゃあ僕は帰ります。みなさんもあまり羽目を外しすぎないようにしてくださいね」


 ルーイがギルド内の人だかりに言うと、全員入った時と同じように持ち場へ戻っていった。


「それじゃ、君もこの町でゆっくりしていってね」


 それだけ残すと、ルーイも女性と共に去っていった。

 俺とフェンリィだけがこの場に残る。


「……リクト様」

「ごめんフェンリィ。今日は帰ろっか」


 フェンリィの手を引いて俺たちもギルドを後にした。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっとシリアス気味ですね、早めに2章は終わった方が良いかもです。シリアスタグが付いてないので気を付けたほうが良いかもしれません、好みの問題ですが。
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