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20話 ギルドでの騒動①

 ギルドの前にやってきた。


 この町にはここしかギルドが無いため必然的に大勢の人が集まる。

 建物もめちゃくちゃ大きい。


「行けるか?」

「はい、大丈夫です」


 緊張は伝わってくるが恐怖の色は消えている。


「じゃあ入るよ」


 俺が扉を開けて中に入る。

 その後ろをフードを被ったフェンリィがついてくる。


 第一関門は突破。


「離れないでね」

「ぅぅぅぅぅ」


 やっぱり中は怖いのか、フェンリィは俺の小指だけを握ってきた。

 正直ベッタリしてくるよりこっちの方がドキドキしそうになる。


 この話はどうでもいいか。今はそんな場合じゃない。


 ギルド内はざっと百人ほどだろうか。

 ガヤガヤとしていて声を張らなければ近くにいても届かない。

 昼間から酒盛りをして酔っぱらっている奴もいる。


 そんな奴らの会話が聞こえてきた。


「おい聞いたか? 最近隣町でSランクになったパーティが解散したらしいぞ」


「あ、それ俺も聞いた。一人追放したとたんに落ちぶれたんだろ? やっぱ追放なんてするもんじゃないのかね?」


「おいおい何言ってんだよ。お前らだって最近一人追放したんだろ? あの銀髪の魔法跳ね返す子。結構可愛かったなー。ウチにくれればよかったのに」


「確かに顔と体だけはよかったな。だがあいつは無能のゴミクズだ。お荷物でしかねえ。マネキンと一緒なんだよ」


「今頃食われて死んじまったんじゃないすかね。どうせ死ぬんなら一回ぐらい手出しとけばよかったな~」


 うるさいギルド内でもその会話はよく響いた。

 聞きたくなくても聞こえてくる。

 だから俺はフェンリィの耳を塞いだ。


「あいつらだな?」


 ボコボコにした後に人違いでしたじゃ済まないからな。

 一応確認すると微かに下を向いた。


「……何もしなくていいです」


 だが俺のやる気に反してフェンリィは消極的だ。

 そうか、俺は勝手に怒ってるがフェンリィからしたら変に目立って騒ぎにしたくないし顔も合わせたくないのか。早計過ぎたな。


「ごめん、じゃあ用だけ済ませて帰ろうか。今日は好きな物食べていいよ」


 美味しいものをたくさん食べて忘れる作戦だ。

 金は底をつきそうだが明日のことは明日考えればいい。

 だがそうもいかなかった。


「そういえばもう一人無能がいるよなぁ?」

「あーいるいる。王族を追放された醜い家畜がいるな」

「おーい、酒が空だぞ! 早く持ってこいやガキんちょ!」


 男たちが呼ぶと赤い髪を左右にくくった小さな女の子が酒を持って男たちの前にやってきた。

 他のスタッフとも服装が同じためおそらく従業員だろう。


 その少女の次の行動に俺は目を疑った。



 バゴン!!!



 少女は酒を男たちにぶっかけるとテーブルに小さな拳を振り下ろして粉々にした。文字通りテーブルは木端微塵になったのだ。


「テメェやりやがったな? あんだけ痛めつけてまだわからんか」

「どうやら死にてえみてえだな! 今日は関節の数増やしてやるよ」


 四人の男が立ち上がり、一人の小さな女の子に詰め寄った。

 周りの人たちはというと止める様子は全くない。日常と化しているのか態度を変えない者や面白そうに見学する者、中にはこれからどうなるか賭け事を始める者もいた。


「アンタ達が悪いんでしょ! いつもアタシのこと笑ってバカにして。アタシを誰だと思ってんのよ!」


 少女は叫んだ。


「はっ! 捨てられたくせに何言ってんだよ。見ろ、だぁれもお前をアストレシア家の人間だなんて見てねえ。いや、アストレシア家どころか普通の人間とも見られてねえんだよ!」

「そんなに凄いんなら四人ぐらいのハンデわけねえよな? 見せてみろよ王族の力ってやつをよ!」


 男たちは品のない声で挑発する。


「っ! ぶっ殺す!」


 少女は小さな体から大声を発し、拳を振り上げて四人の巨体へ突っ込んだ。

 だが戦力差は一目瞭然。結果は見るまでもない。


「がはっ!」


 少女は宙に舞って叩きつけられた。

 男たちは手始めにジャブ。そして右ストレート、左フックとサンドバックのように攻撃を始める。


「おいおい楽しませてくれよ。もう終わりか!」

「ぐあっ!」

「どうしたどうした! そろそろ骨一本いっとくか? だーいじょーぶ。また後で治してやるよ。おらっ!」


 ゴテ。


 俺の前に少女が転がってきた。

 もう元の肌が何色なのかもわからない。


 俺はあまりに自分の常識とかけ離れた光景を前に、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。まるで時間が止まったようだ。


「おい兄ちゃん、そのボールこっちにパスしてくれよ」


 その言葉を聞き、俺の時がもう一度動いた。

 この子の事情は分からない。だが絶対に間違っている。


「あ? お、おい見ろよ! あいつフェンリィじゃねえか?」

「本当だ、生きてたのか! ちょっとこっち来いよ、一緒に遊ぼうぜ」


 男たちがフェンリィに気づいた。

 すると中でも一段と体格のいい男が一歩ずつ距離を詰めてきた。


「や、やだ。来ないで……」


 フェンリィは膝から崩れ落ちる。

 一歩近づいてくるごとに絶望の色は増す。


「せっかくの再会なのにしけたツラしてんなよ。また一緒にパーティ組もうぜ。俺らあれから全然任務いけなくてよ。お前の力が必要なんだ」


「いやだ、やめて……」


 必死に後退しようとするが体は思うように動かない。

 呼吸は乱れ、白い顔は青ざめていく。


「そうそう。またあれやろうぜ。お前を投げてモンスターに食われるギリギリを攻めるやつ。あれは面白かったよな! でも漏らして退けるのは反則だろ」

「あれは笑ったよな! 思い出すだけでもうっ! ははは、腹いてえわ」

「ほら、何怯えたふりしてんだよ。お前も痛めつけてやろうか? あ?」


 ガタイの良い男がヘラヘラ笑いながらフェンリィの前に立った。

 フェンリィは耳を塞ぎ、目を瞑って縮こまる。


「なんだその態度はよ。しつけが必要みてぇだな!」


 綺麗な肌に伸びる汚い手。


「おい」


 俺はその手を掴む。


「なんだよ」


 すると俺より一回り以上デカい男が睨んできた。


「この子に触るな」


 だが俺は動じない。


「お前誰だよ、関係ないだろ」


 俺の手を強引に払い、フェンリィに向けて拳を振り上げた。

 フェンリィは崩れ落ちていて逃げることもできない。


「なあ、お前は俺たちの物だよな? 勝手に盗まれてんじゃね──」



 ボゴッッッ!



「オエッ……」


 俺は鳩尾に拳を叩き込んで意識を刈り取った。

 唾液が飛び散り、俺の足にかかる。


「あと三人か」

「な、なんだコイツ!?」

「フェンリィ、潰していいよね?」

「……ぃ、じまず」


 振り絞るようにして出された声。

 そのたった数文字に込められた感情に胸が痛む。

 俺はフェンリィと少女を抱きかかえて安全な場所に運んだ。

 二人とも凄く軽い。


「お前もシバかれてーのか?」

「そうだ、冷めるじゃねえか!」

「部外者が出しゃばってんじゃねえよ!」


 三人の男が叫びながら俺に一発入れてやろうと近づいてくる。


 ここまでのクズに出会ったのは初めてだ。

 容赦はしない。


「……部外者じゃねえよ」

「あ? 聞こえねえよ!」


 怒号が響く。

 それをかき消すように俺も叫んだ。


「っせえな、フェンリィはお前らの道具(もの)じゃねえ。俺の仲間だ!」

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