19話 過去と今と未来
この世界には人間が治めている国や、妖精族が住んでいる森、それから巨人族の里などに分かれている。
もちろん俺たちが住む人間の国にもエルフや獣人族はたくさんいるが、目立った人種差別のようなものはない。みんなで協力して生活している、いわゆる多国籍国家というやつだ。
人間の国は大きく『センテガンド』『ミスウェン』『ロムリス』の三つの都市に分類される。三人の王様がそれぞれの街を治めていて、街によって特徴や雰囲気も全然違う。
俺たちが到着したのはミスウェンの街。
街のどこにいても確認できる巨大な王宮が中心にあり、それを取り囲むようにして商店街や住宅街がある。昼夜問わず活気のある街だ。
とりあえず寝床を確保するために魔石を売って資金を得る。そこそこ貯まったので美味しいご飯を食べて宿を借りた。
余った金でポーションなども買っておく。これは万が一のためだ。俺は治癒魔術を使えないからな。
フェンリィは元々この町の出身だったため、途中でいろいろ案内もしてもらった。なぜか行く先々にはカップルが多かったが気のせいだろう。
本格的に活動を始めるのは明日からということで、今日は特に何もせずのんびり過ごして休む。
宿はもちろんフェンリィとは別の部屋だ。
夜中に目が覚めることもなかったし朝起きたら布団の中で丸まってるということもなかった。
◇◆◇◆◇◆
次の日。
俺たちはさっそくギルドに向かうことにした。
ギルドに行く理由は三つ。
一つはパーティの結成。パーティを組まないと立ち入り禁止エリアや他の種族の国に行けないこともあるからだ。魔王の手がかりを探すためにも活動エリアを狭めるわけにはいかない。
二つ目は生活の安定。これもパーティを組むことに含まれるが依頼を達成し報酬を得ることが目的だ。魔石も無くなったことだし金はいくらあっても困らない。
三つ目は新しい仲間の獲得。これが一番大事だ。パーティは三人から結成することができるのだが、俺たちは今二人きり。最低でもあと一人は必要だ。これをクリアしなければ一つ目と二つ目の目標も達成できない。
俺の理想ではメンバーはあと二人欲しい。
一人は火力の高いアタッカーでもう一人は上級魔法を扱えるウィザードだ。
どちらも俺には真似できないことができるため、戦いやダンジョンの攻略が格段に楽になるだろう。戦略の幅も広がる。
前のパーティではアーノルドがアタッカー、ハウザーとルキシアが魔法を担当していた。俺の補助ありだがそこそこいいパーティだったと思う。
……いつまでも過去にとらわれていてはいけないな。
もう裏切られないためにも人柄を優先した方がいいかもしれない。
「フェンリィはどんな人がいいと思う?」
俺だけならいいが今は女の子もいる。
男を選ぶ際は慎重にいった方がいいだろう。
「……ゃです」
「ん?」
ごにょごにょ喋っていてうまく聞き取れない。
今朝は元気だったから食べすぎたのだろうか。
俺の方から寄って耳を立てる。
すると、
「……いや」
確かにそう言うと腕にしがみついてきた。
いつものように────ではない。
力は弱く、壊れてしまいそうなほど脆い。
震える手で俺の服を握っている。
その表情は最初に見た時と同じものだった。
明らかに様子がおかしい。
「どうした? 具合悪い?」
「……やっぱり怖いです」
消え入りそうな声だった。
明かりが消えたみたいに光を失っている。
そうか、今から行くところはフェンリィの心に傷を負わせた元凶であり、忘れ去りたいほどのトラウマなんだ。
歩けなくなってしまうのも無理はない。
モンスターは克服できたから大丈夫だろうと思ったが浅はかだった。
一番恐ろしいのは人間の狂気だ。
「ごめんフェンリィ。今日は帰ってお出かけでもしよっか。ギルドはまた今度俺が行ってくるよ」
無理強いはできない。
心は繊細だ。壊れてしまえば元に戻すのは難しい。
場合によっては一生消えない傷にもなりうる。
それは、俺の能力みたいに簡単にひっくり返せるようなものではない。
この子は一見強いように見える。俺もそう思った。
でもそれは強くあろうとしていただけだ。
この子は普通の女の子で普通のフェンリィだ。
いつもニコニコ笑えるわけではない。
辛い時の方が多いだろう。頼れる人もいないだろう。
ならせめて俺の前でだけは無理をしてほしくない。
「こういう時は甘えたっていいんだよ」
俺はフェンリィをおんぶして帰ろうと思い、背中に乗るように促す。
だが、
「ごめんなさいリクト様。やっぱり歩きます。自分の足で進みます」
俺に縋ろうとはしなかった。
振り向くとそこにあったのは淀みの残る綺麗な瞳。
まだ頭と心の整理がついていないのだろう。
今も体は震えている。
それでも前に進もうと踏み出した。
言葉にして伝えてくれた。
本当に強い。同時に心配にもなる。
なら、俺は俺に出来ることをするだけだ。
「が──」
頑張れ。そう言いかけてやめた。
フェンリィは今までも一人で頑張ってきただろう。
一人で抱えきれなくなったからこうなってしまったんだ。
なら逆の言葉の方がいい。
「大丈夫。俺が支えてやる」
そう言って俺は小さな肩を叩く。
「はい! 頼りにしてます!」
するといつも以上に元気よく返事をした。
フェンリィの顔にはすっかり笑顔が戻っている。
二人並んでギルドへと向かった。





