17話【追放サイド】死灰復燃
俺はギルドを訪れた。
この街『センテガンド』で一番大きいギルドで、多くの冒険者が利用している。
賑やかというよりはやかましい。
昼間っから酒盛りしてる酔っ払いもざらにいる。
そんな中、俺は隅の隅の席に座り新規メンバーが来るのを待っている。
メンバー募集の掲示板の真ん中にデカデカと、
【『勝者の集い』新規メンバー募集。雑魚は要らねえ。強い奴だけ歓迎する。アーノルドのもとへ来い】
と貼っておいた。それから約5時間が経過。
誰も来ねえ。
なぜだ。
俺の名を使えば仲間になりたいという奴がウジのように湧くと思っていた。
それなのに一人も来ない。どうしてだ……。
俺が強すぎるあまり自分じゃ釣り合わねえと思ってる奴が大半なのか?
腰抜け共め。
不本意だが多少基準を下げた方がいいか?
そんなことを思っていると飲んだくれたちの会話が聞こえてきた。
「おーい聞いたか? ひっく、アーノルドの奴ら昨日『死の洞窟』に挑んでボコボコにされたらしいぞ」
「あぁ? 本当か? あいつらこの前無傷で攻略したって言ってたじゃねぇか」
「俺も聞いたぜ。ふんっ! あいつら調子に乗ってるから足元すくわれるんだ」
「噂によるとどうやら先日一人追放したらしいぞ。追放して最初の任務で失敗って完全にリーダーが無能だよな。絶対そいつのおかげじゃんっ」
「まじか! 追放されるべきは他の連中だったってわけか。追放された奴はどうしてんだ? 俺のとこに欲しいぜ」
「どうやらパーティも解消しちまったみたいだぞ。今更募集したところで誰も集まらねえだろうな! これじゃ『勝者の集い』じゃなくて『弱者の集い』だ!」
「ははっ! それ言えてる!」
ハハハハハハハハハ!!!
「くそッッッ!」
俺はテーブルに拳をぶつけた。だがその痛みは丸々自分に返ってくる。
ゴミの分際でバカにしやがって……。
なんで俺がこんな思いをしなきゃならねえんだ。
俺は勝ち組だったはずだ。
あいつを追放した日から全てが狂い始めた。
どうすればいい?
俺はどんな手を使っても目的を果たすと決めた。
そのためには多少の妥協は必要か……。
【新しいパーティーを作る。冒険者ランクは問わないが出来るだけ戦える者が欲しい。特に攻撃魔法や支援魔法を得意とする者を求む】
これなら多少集まるはずだ。俺がいれば死の洞窟レベルはまだ無理でも大抵のクエストには行けるだろう。今は質より量を優先だ。パーティ名も前のものだと集まらないから新たに作り直した。それぐらいの覚悟が俺にはある。さて、どれほど集まるものか……。
「あのーパーティーに入れて欲しいんですけどここであってますか?」
3時間ほど経ってそろそろ俺も諦めかけていた頃、一人の男が声をかけてきた。それはよく知った声で、昨日まで毎日聞いていた声だった。
「あーここであって……る。ハウザー!?」
俺の前にはかつての副リーダーであるハウザーが立っていた。
思わず声を上げるほど想定外の訪問者だ。
「え、アーノルドさん!?」
こいつも驚いている。知らずに来たのか。
「ご、ごめんなさい。間違えました」
慌ててこの場を去ろうとするハウザー。
しかしその歩みは止められる。
これまた見知った女によって。
「まだメンバー募集してますか? 私も仲間に……って、なんであんた達がいるわけ!?」
「そ、それはこっちのセリフっすよ! どうしてルキシアちゃんとアーノルドさんが!」
「私帰る。こんな最低なクズ共となんて組めないわ」
「お、オレだって嫌ですよ! この話はなかったことで」
そう言って二人とも引き返そうとした。
コイツらも俺を一度追放しようとした憎き相手。
そんな奴らこっちから願い下げだ。
だがこれ以上待っていても誰も来ないだろう。
逆に考えれば互いのことを知っているため都合がいいかもしれない。
それにコイツらは俺の目的においては使える駒だ。
「待ってくれ。一つだけ話を聞いてくれないか?」
俺は静かに言い放った。
もう日も暮れたギルドの端には俺たち以外誰もいない。
俺の声がよく通る。
「な、なによ」
「すぐ終わるんですか?」
二人とも止まってくれたので座るように促す。
コイツらも行き場を失っているのだろう。
「お前たち苦労してるんじゃないか? 今日の半日だけでも痛いほどわかったはずだ」
俺はギルドに来てから変な視線を向けられたり噂されたりした。
多少落ちぶれたとしても俺はアーノルドだ。俺のことを怖がる者が大半。
そこまで大々的に誹謗中傷を受けたわけではない。
だがコイツらはどうだ?
「お、オレは今まで散々バカにしてきただろって因縁つけられてリンチにされました。パーティに入れてくれといってもたらい回しです」
ハウザーは腕をまくり、紫色の肌を見せた。
「私もよ。女性冒険者にはハブられるしトイレに行ったらバケツを頭からぶっかけられたわ」
ルキシアもやり場のない怒りを拳に伝わらせている。
「でもしょうがないです。日頃の行いが悪くて足が着いただけです。みんなに隠れていろいろやってました」
「そうね私もよ。本当にこのパーティーはリクトのおかげで成り立っていたのね」
敗北者の顔でそう言った。
そして、
「「それじゃ」」
席を立ち、踵を返す。
このまま別れれば俺たちは二度と顔を合わせないだろう。
野良犬のようにその辺で野垂れ死ぬかもしれない。
だがこいつらが落ちぶれるにはまだ早い。
そうなるのは俺が散々使い倒した後だ。
「待て。話はこれからだ」
行ってしまいそうになる二人をなんとか引き止める。
二人はピタリと足を止めた。
「俺たちでもう一度やり直さないか?」
そして背中に向けて話しかけた。
二人はあまりに予想外のセリフだったのか一瞬驚いた表情を見せる。
「やり直すって、もう一度リクトくんに謝って戻ってきてもらうんですか?」
「無理よ。今更戻って来いって言っても、もう遅いわ……」
下を向いて諦めたように言い放つハウザーとルキシア。
全く覇気がなく昨日までとは別人だ。
俺はその表情を一瞬で変える。
「違う。俺たちをこんな目に合わせたのは誰だ? 力がありながら俺たちを騙し、陰から操っていたのは誰だ? そいつは俺たちを見捨てたんじゃないか? そいつは今俺たちのように苦しんでいるか? 違うだろ。悪いのは俺たちじゃなくてそいつだ。俺たちを勝ち組の路線から追放した張本人だ。そいつの名はなんだ?」
二人は目を見合わせると頷き合い、俺の方を向いた。
そしてゆっくりと口を開く。
「「リクト」」
俺はそれを聞き、ニヤリと口角を上げる。
「その通りだ」
「そ、そうだ! あいつが全部悪いんだ! もう魔王なんてどうだっていい! あいつの苦しむザマが見たい!」
「そうね。私にあんな恥をかかせたことまだ謝ってもらってないわ。土下座や靴舐めぐらいじゃ全然足りないわね。それに一緒にいたあの女も気に食わない。ぐちゃぐちゃにしてやりたいわ!」
二人ともいい顔をしている。
怒りと憎しみが伝わってくるほどだ。
やはりこの目的を達成するうえでは良い駒になったな。
「よし、では目的を伝えよう。まずはあいつらが今いる街から追放する。そしてその次はこの国からだ」
俺が手を前に出す。
するとその上に二人も手を重ねた。
「わかりました。アーノルドさん」
「いいわ、乗ってあげる」
ふっ、やはり俺を慕ってくるこの快感はたまらんな。
自分が満たされていくのを感じるぜ。
「ではここに新たなパーティー『追放』を結成する!」
「「おおおおおおー!!」」
掛け声と共に手を上へ掲げ、新たな門出を祝した。
◇◆◇◆◇◆
くっくっく、今後が楽しみだ。
せいぜい苦しめ。
謝ったってもう遅いからな。
後悔するがいい。
この国から追放するのはあくまで通過点にすぎん。
その後は世界から、そして最終的にはこの世から追放してやろう。
これが俺の最終目標だ。
お前が無能ということを、俺が正しいということを証明してみせる。
一章完結です。





