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第1回 トランプ大会!

番外編です。

「あああああああ! また私の負けです! こんなのつまらないです!」


 突然、フェンリィが手札に持っていたトランプを宙に投げた。

 バラまかれたカードはひらひら舞って、フェンリィの頭に直撃する。


「フェンリィ、負けたからって自棄になるのはよくないぞ」

「だって! さっきから一回も勝ってないんですよ! みんな強すぎです! 私が気持ちよく勝てるように接待プレイしたっていいじゃないですか!」


 そんなことを言い出すフェンリィに、ルーナとメメはため息を吐いた。


「アンタ、自分がどれだけ無様なこと言ってるかわかってる?」

「リィちゃん、負け惜しみはよくないよ」


 フェンリィは正論で殴られると、とうとう部屋の隅っこで膝を抱えてしまった。


 一体何が起きているのか。

 こうなってしまった原因は数分前に遡る。


 今日は寝る前に俺の部屋に集まってトランプ大会をすることになった。

 みんなパジャマを着ていて、フェンリィは白、ルーナは赤、メメは黄をメインカラーとしたゆるふわな恰好だ。


 お菓子を食べながら楽しくゲームをしようということになり、みんながルールを知っているトランプで対決することになった。


 最初にやったのは神経衰弱だ。

 ちなみにフェンリィが提案した。


「私は天才ですからね! 軽く遊んであげますよ!」


 大口を叩くフェンリィだったが、この場にいる誰もがコイツに負ける方が難しいと思っただろう。魔王軍との大戦時は俺の≪反転≫能力によりフェンリィの知能を向上させていたが、今はもうそんなことは出来ないのだ。フェンリィは自分の事を天才などと呼称しているが、勘違いも甚だしい。この前は九九を間違って覚えていることが発覚し、大恥をかいていたくらいだ。


 結果3戦やってフェンリィは全敗。

 逆に全勝したのはメメだった。


 メメはユニークスキル≪永続の記憶(エターナルメモリ)≫を持っているため、一度見たものを完全に記憶することが出来るのだ。この中で清楚担当の心優しいメメは、適度に間違えつつ接戦を演じ、勝ちを拾っていった。最初からこの勝負は、フェンリィに勝てるはずなかったのだ。


「ならババ抜きで勝負です! 私、運だけは誰にも負けません!」


 ということなので、次戦はババ抜きで対決した。

 確かにババ抜きなら均等に勝つ可能性があるだろう。

 そう思っていたのだが、流石フェンリィというべきか。

 彼女はすぐ表情に出てしまうため、ポーカーフェイスを必要とするこの競技において無類の弱さを発揮した。


 もう一回! もう一回! と、涙目になりながら何度も果敢に挑むフェンリィ。途中から紙袋を頭にかぶってみたり、常に変顔をし続けると言う暴挙に出たがダメだった。


 結局、フェンリィは全敗。

 逆にババ抜きで白星を重ねたのはルーナだった。

 ルーナはその可愛らしいお人形さんみたいな見た目からは想像できないほど握力が強いため、取られたくないカードを抜かれようとすると絶対に取らせてくれないのだ。ずるかもしれないが、それも実力という事で見逃された。


 フェンリィが10連敗を喫したところでついに限界を超え、カードを投げてしまって今に至る。


 こんなに負けが続いて同情してやりたくもなるが、勝負だから仕方ない。

 俺とルーナはもちろん、心優しいメメまでも、どんどん失意に落ちていくフェンリィを面白がった。これが、フェン虐というものなのかもしれない。


「みんなが意地悪します。私をボコボコにしてそんなに楽しいですか」

「アンタが始めた勝負なんだけどね」

「ごめんね、リィちゃん、手加減した方が良かったよね。お菓子食べて機嫌直そ?」


 心優しいメメがフェンリィの近くにクッキーを持っていく。

 するとフェンリィはクッキーを奪って口に入れ、布団の中に立てこもった。

 メメが「可哀想に」と言って、よしよし背中を撫でてあげる。


「メメ、フェンリィを甘やかしちゃダメよ。ほんと子どもなんだから」

「ええ、でも。リィちゃん泣いちゃうよ?」

「むしろ面白くていいじゃない」

「ルーちゃん、リィちゃんへの当たり強いよね。ルーちゃんも子ど……なんでもないよ」


 ルーナも子どもだね、という言葉は飲み込むメメだった。

 これはいつも馴染みのある光景だ。


「おい、フェンリィ。お前でも勝てるゲームで遊ぶか?」


 俺が声をかけるとフェンリィは顔を出した。

 ぷくっと膨れており、仔犬が威嚇しているみたいだ。

 まずは機嫌を直してもらおうと思っていたら、


「そんなゲームを探す方が無理じゃない?」


 ルーナが煽る。


「むぅ、勝てますよ。まだ私本気出してないですもん!」


 噛みつくフェンリィ。

 布団をばっと投げ捨て、ルーナにどんと胸を張った。


「じゃあ勝負ね。泣きっ面を拝んであげるわ!」

「ルーナが泣き喚いても私の胸で慰めてあげます」

「さっきもそう言ってボッコボコにされたくせにね」


 俺もフェンリィが勝てるとは思えない。

 しかし、元気になったフェンリィは調子に乗った。


「もし負けたら何でも言う事聞くってのはどうですか?」

「へぇ、言ったわね! 面白いじゃない!」

「一位がビリに何でも命令できることにしましょう。負けませんよ!」


 二人のやり取りを見て、俺とメメは仲良いなと思った。

 巻き込まれる形になったが、面白そうだし俺たちも賭けに乗ることに。


 こうして、絶対に負けられない戦いが火蓋を切った。

 対戦競技はフェンリィの提案により大富豪。

 4戦やった時点での順位を参照する。

 大富豪は頭脳戦に近いと思うが、フェンリィに出来るのだろうか。

 さすがに何か作戦を立てていると思いたいが、真相やいかに。


「さあ、デュエルスタンバイです!」


 戦いは開始直後からデッドヒート。

 一進一退の攻防が続き、徐々に手札を減らしていく面々。

 中でも、最下位候補筆頭のフェンリィが場を荒らしていた。


「ちょっと、砂嵐って何よ! そんなの知らないんだけど!?」

「ろくろ首……? 救急車……? メメの記憶にそんなの無いよ!?」

「クーデターとかエンペラーとかほんとにあるのか? フェンリィ、適当なこと言ってるだろ」

「ふっふっふ、みなさんお勉強が足りませんね。私の地方では当たり前でしたよ」


 ローカルルールの猛攻により、俺たちはプレイングを乱されていく。

 どうせフェンリィには勝てるだろうと思っていたため、ちゃんとしたルールを作っていなかったのだ。後からそれは禁止だと言っても、「負け惜しみですかぁ?」と煽ってくる。勝つためなら手段を択ばないフェンリィに防戦一方だった。



 数分後。



「どうしたんですか、みなさん。相手になりませんね」


 3戦を終えた時点での順位。


 大貧民のルーナ。

 貧民の俺、リクト。

 富豪のメメ。

 大富豪のフェンリィ。


 フェンリィに恨みは無いが、フェンリィに負けるのはなんか嫌だった。


「ルーナ、今どんな気持ちですか?」

「うるさいわね、早く次やるわよ」


 啖呵を切ってしまった手前、強く言い返せないルーナ。

 フェンリィはどんどん調子を良くしていく。


「可愛いですねぇルーナ。そんな口を聞けるのは今の内ですよ。ルーナにどんなお願いをしましょうか。……そうだ、ご主人様と呼ばせるのなんていいですね。もちろんメイド服を着てもらいます」

「ぐぬぬ……」


 苦虫を嚙み潰したような顔になるルーナ。

 さぞ屈辱だろう。


「メメちゃん」

「ひっ。な、何かな?」


 フェンリィはニマニマ笑い、メメを舐めるように見る。

 煩悩まみれの怪物を前に、メメは怯えてしまった。


「メメちゃんがビリになったらお姉ちゃんと呼んでもらいます。従順で全肯定してくれる優しい妹が欲しかったんです」

「えぇぇぇ。メメ、がっかりだよ」


 ドン引きするメメ。

 深夜テンションであることを祈りたい。

 そして最後のターゲットは俺だった。


「リクト様は……淑女の口からは言えません。えへへ」


 ウインクしてくるフェンリィを見て、俺の中で警笛が鳴る。

 そしてルーナとメメも同じように考えただろう。

 コイツにだけは勝たせてはいけないと。

 俺たちは顔を見合わせ、アイコンタクトをした。

 冒険を共にしてきた仲間に言葉などいらないのだ。


「よし、やるか」

「かかってきてください」


 フェンリィが手招きをし、カードをシャッフルしてみんなに配っていく。

 俺は手札を確認し、その中で一番強いカードである『JOKER』をメメへと渡す。メメからは『7』のカードが帰って来た。


「さあ、()()()のルーナ。()()()の私にカードをください」


 完全に調子に乗っているフェンリィ。

 だが、ルーナがにやりと笑う。


「≪天変地異≫」

「ふぇ?」


 ルーナが何を言ったかすぐには理解できなかったのだろう。

 ≪天変地異≫とはローカルルールの一つで、さっきの対戦でもフェンリィが使ったルールだ。大貧民または貧民の手札が全て『10』以下であるとき、カードの交換相手と手札を全て交換できるというもの。


「ほら、さっさと全部寄こしなさいよ。まさかルール変更なんてしないわよね?」

「も、もちろんですよ。いいですとも」


 互いにカードを全交換し、ゲームスタートだ。

 手番はフェンリィから。開幕から勝負に出るらしい。


「フェンリィのターン! フェンリィは初手≪革命≫です!」


 何か言っているが、フェンリィは場に4枚の『5』を出した。

 ルーナと交換した手札は弱い数字で固められているから、≪革命≫を起こせば形勢逆転だ。

 これにより現在は『3』のカードが最強になり、『2』のカードが最弱になった。

 しかし──


「させないよ、≪革命返し≫」

「ふぇえええ!?」


 メメが『JOKER』に『4』を3枚加えて革命を返す。

 これで再び『2』のカードが最強になった。

 手札が弱いことがバレているフェンリィにターンを回さないように立ち回る俺たち。

 ようやく出せるカードがやってきて、フェンリィの手番になる。


「フェンリィのターン! ≪8切り≫からの、≪クーデター≫を使用します!」


 ≪8切り≫とは『8』を出すと場が流れ、もう一度自分のターンになるもの。これはメジャーなルールだろう。

 ≪クーデター≫というのは、『9』を3枚出すと革命を起こせるというローカルルール。もう何でもありだ。


「ふふーん。あれあれ? みなさん残りが多いですねぇ」


 残り4枚となったフェンリィは意気揚々。

 煽りにも一層ウザさがこもる。

 しかし、俺たちは笑いをこらえるのに必死だった。

 反逆の風が吹き荒れる。


「うーん。パスかな」

「俺か、じゃあ≪7渡し≫で。ほい、ルーナ」


 俺は3枚の『7』を出す。≪7渡し≫により、ルーナへ『Q』のカードを3枚渡すことに成功。


「よし、アタシね」


 ルーナの表情が変わる。

 カードゲームで切り札を出す時のようだ。


「≪砂嵐≫」


 ≪砂嵐≫とは、『3』のカードを3枚出しすればどんなカードに対しても場を流せるというもの。ここに来て、好調に思えたフェンリィの表情が歪む。


「ま、まさか……!」

「あはは! 御明察!」


 ルーナが力強く目を見開き、3枚のカードをオープンする。


「≪Qボンバー≫。番号はそうね、10と8と6だったかしら」


 ≪Qボンバー≫は、指定した番号を持っているプレイヤーがそのカードを捨てるというもの。ルーナはフェンリィの手札を知っている。そして、フェンリィは残り4枚。

 指定されたカードを3枚捨て、残り1枚だ。


「どうしたの、フェンリィったら慌てちゃって。残り1枚なんだから喜びなさいよ」

「な、な、なあああああああ……!」


 フェンリィが持っているカードは『3』だ。

 今は革命中のため、『3』のカードが最強である。

 しかし、大富豪には≪禁止あがり≫というものが存在する。

 一番強いカードで上がってはいけない。つまり、『3』で上がることは出来ないのだ。加えて≪都落ち≫というものもある。≪都落ち≫は、ゲーム開始時に大富豪だった者が二位以下で終わると自動的に大貧民になるというもの。


 どうあがいてもフェンリィは最下位。

 チェックメイトだ。


「ず、ずるです! こんなのずるいです! うわああああああああああん! もう一回! 次は絶対負けません! 今のは本気の半分くらいしか本気出してません!」


 フェンリィがトランプを投げた。

 ひらひら舞って、頭に落ちる。


「往生際が悪いわよ、フェンリィ」

「引導を渡してあげる、リィちゃん」

「ごめんな、フェンリィ。許してくれ」


 集中砲火を食らい、敗北が決定したフェンリィ。

 断末魔のような叫びも虚しく、無情にも俺たちは遊戯(ゲーム)を続けた。


 4戦が終わり、結果はルーナが大富豪。

 大貧民になったフェンリィは、しゅんと大人しくなってしまった。



***



「さあ、好きにしてくださいよ」


 開き直ったフェンリィはルーナにそう言った。

 勝ったルーナが負けたフェンリィに命令できるのだ。

 しかし。


「いいわよ、そんなの。十分楽しかったから」

「ふぇ?」


 罰ゲームは無しにしてあげるらしい。

 優しいな。


「そうだね、意地悪し過ぎちゃったかも」

「いいんですか?」


 フェンリィに微笑むルーナとメメ。

 試合が終われば敵も味方も関係ない。

 みんな仲良しが一番だ。


 ルーナは腕を組みながらほんのり頬を染め、


「どうしても命令してほしいなら、また一緒に遊びなさい」

「ルーナ!」


 フェンリィに抱き着かれたルーナが苦しそうに藻掻く。


「あ、ちょっと辞めなさいよバカ。恥ずかしいでしょ」

「えへへ~、ルーナはやっぱり私の事が大好きなんですねぇ。ツンデレさんです」


 こうして、今日も平和な一日が終わるのだった。

久しぶりにフェンリィたちの話を書きましたが楽しかったです。

実は≪反転≫のスキルは大富豪をやっている最中に思いついたものだったりします。


【告知】

なんと、単行本第1巻が11月10日に発売します!!!

最高の出来に仕上がってますのでどうぞよろしくお願いいたします。


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コミックス発売中!!!


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