コミカライズ決定記念
この度第10回ネット小説大賞にてコミックシナリオ賞を受賞させていただきました。
今回は番外編です。
時系列は本編の最終回後ですが、あまり繋がりは無いと思ってください。
魔王討伐から月日は流れ、とある日の出来事。
すっかり平和になって暇を持て余した俺は、天気もいいし外で昼寝でもしてみようかなと思い至った。
何も考えずに青い空をぼんやり眺めながらそよ風に当たり、気づいたら寝落ちして夕方になっていた……なんてほのぼのした体験をしてみたい。
──というわけで城の中庭に行ってみたが、先客がいた。
見知った少女。木陰でベンチに座り、優雅に読書をたしなんでいる。
風が戯れるように銀髪を揺らしている絵は素直に可愛いと思ってしまった。
「フェンリィ、何してるんだ?」
「あ、リクト様!」
その少女、フェンリィは俺の姿を確認するとはにかんだ。隣空いてますよとベンチを叩いて促してくる。
「今は本を読んでいたところです!」
肩が触れるぐらいの距離に腰を下ろすと、フェンリィはにこーっと笑って本の表紙を見せてきた。よく分からないがタイトルの長い作品だ。
「へー、頭でも打ったの?」
「ふぇえ!? 今日も元気いっぱいですよ? なんでそんなこと言うんですか」
「だってそんな姿初めて見たからさ。珍しいな」
この子にそんな集中力があるとは思えない。
花より団子。家で読書より外で遊ぶタイプの子だ。
俺が真顔で尋ねるとぷくーっと頬を膨らませた。
「失礼しちゃいますね。私だって本ぐらい読みますよ」
「ふーん、どれどれ」
絵本かな? 漫画かな? と思って中を見てみると字がずらーっと羅列されていた。なんと活字である。
「え、どうしちゃったんだ本当に。変な物でも食べちゃったか?」
「むぅ、私は食いしん坊キャラでもアホキャラでもないですよ」
本人に自覚は無いらしい。
「最近はライトなノベルもあるんです。読みやすくて楽しいですよ。ファンタジーとか学園ものとかいろいろありますが、最近は異世界恋愛全盛期みたいです。とても面白くて私もハマってますが、一方で追放物はランキングから追放されかけてます」
「何の話かよくわからないけどそうなんだ? 俺も何か読んでみようかな」
よく見たらベンチには本が数冊積まれていた。
「おすすめとかある?」
「んー、これなんてどうです? 今度漫画になるみたいですよ」
「へー、後で読んでみよっかな」
「ぜひ読んで下さい。ルーナとメメちゃんにも貸したので今度みんなで語りましょう!」
最近は余暇の時間もあるしいいかもしれない。
読むのが楽しみだなと思っていると、フェンリィが何か閃いたようにパッと明るくなった。
「そうだ、私たちも漫画化しましょう!」
「何を言ってるんだ? とうとうおかしくなっちまったか」
この子は少々頭のネジが緩んでいるが、今回はいつにも増して突拍子も無いことを言い出した。ちょっと何言ってるかわからない。
「私も漫画にしてもらいたいんです。いつなってもいいように妄想しておきましょう!」
俺が何を言っても無駄なようだ。
暇だしフェンリィの遊びに付き合ってあげよう。
「わかったよ。漫画ってことは絵になるのか」
「はいそうです! 私が絵になって全国のみなさんに見られちゃうってことです。あんな姿やこんな姿も……やんっ」
体をくねくねさせて頬を赤くするフェンリィ。
……なるほど、こういう様子も絵になるわけか。
俺が感心していると、フェンリィはまた変なことを思いついたようだ。
「私の動きも全部絵にしてもらえるって事ですよね?」
「ん? そうなんじゃない?」
「ということはですよ……今すっぽんぽんになったら漫画でもすっぽんぽんになっちゃうってことですか!」
「ちょ、お前何しようとしてんの!?」
「えーいっ!」
フェンリィは気が狂ったのか服を脱ぎ始めた。意味が分からない。俺はそんな奇行に目を背けるも、やっぱり気になって見てしまった。
「ふっふっふ、大丈夫ですよ。ちゃんと下には水着を着てます。流石に私も乙女なので不特定多数の殿方に素肌を晒すのは躊躇らってしまいます。というか多分規制が入りますね。……あれあれ、リクト様ったらお顔がまっかっかですよ? 何が見れると思ったんです? ん?」
「……うるさいな」
この腹立つ顔を全国の皆様にお見せしたい。
ちょっと可愛いとは思うけど……。
「リクト様ったら拗ねちゃって可愛いです。何か言う事ありませんか?」
「はいはい、似合ってるよ。可愛いんじゃないの」
フェンリィが着ているのはオフショルダーの白い水着。ビキニより生地が多い分、隠しきれていないデコルテとおへそに一層エロスを感じるそのデザインは悔しいがとても似合っていた。
凹凸の激しいフェンリィが着ると破壊力は抜群。上はこぼれてしまうのではないかと思うし、下はあの紐を引っ張ったら全部見えてしまうではないかという変態な思考が生まれるほどだ。
……なるほど、こういう絵はカラーにしたら映えそうだ。漫画って凄い!
「もぉ、素直じゃないですね。……んしょっと」
フェンリィは服を着直す。
今の尺は必要だったんだろうか。
あとなんで水着を着てたんだろう。
……まあいいか。
フェンリィとわちゃわちゃしているとまたまた見知った少女の姿が。
「あ、騒がしいと思ったらやっぱりフェンリィね」
「二人とも遠くまで聞こえてたよ」
手を振りながらやって来たのは赤髪ツインテールの低身長少女と、金髪碧眼のエルフの少女。共に戦った大切な仲間──ルーナとメメである。
ルーナは赤、メメは薄緑のワンピース型ドレスを着ていてお人形さんみたいだった。ちなみにフェンリィは白。みんなよく似合っている。
「ルーナ! メメちゃん!」
フェンリィは二人に飛びつくと、ぎゅーっと抱きしめて百合百合する。はち切れそうな胸に顔を埋められた二人は抵抗を試みるも、フェンリィががっちりホールドして逃がさない。
「ちょっ、変なとこ触んないでよ!」
「リィちゃん……苦しいよぉ」
……なるほど、画面に美少女三人がいると華やかだな。
店舗特典のイラストとかあったら俺じゃなくて三人の集合絵とかになりそうだ。
フェンリィはルーナとメメの温もりを堪能するとようやく落ち着きを取り戻してくれた。ベンチを動かして四人で向かい合って座り、ルーナとメメが持ってきてくれたクッキーでピクニック気分。
仲良く合唱まで始めた。
「「「ぴっくぴっくピクルス♪ にっくにっくお肉♪ ぴっくぴっく! にっくにっく! ピックニック♪」」」
みんな楽しそうでなによりだ。もしも万が一ボイスコミックとかになったらこの子たちの声も収録するわけか……なんかもう想像もつかない領域だ!
「んんん! このクッキー凄く美味しいです!」
「よかった。メメが焼いたんだよ」
「流石メメちゃん! ルーナとは大違いです!」
「どういう意味よ。てかアンタ食べすぎ!」
フェンリィが五枚一気に頬張ってバリバリ食べていた。少女がクッキーを食べるだけのシーンもかなりいい絵になると思う。
「えへへ、二人も一緒に漫画ごっこしましょう!」
「何言ってんのアンタ。頭でも打ったの?」
「クッキーに何か入ってたかな?」
フェンリィの提案に、ルーナとメメは心配そうな顔をする。フェンリィの顔は、漫画でよく見る『ガーン』のトーンが貼ってありそうな顔になっていた。
「ぐすんっ、リクト様。二人が意地悪します」
「俺もフェンリィみたいな子がヒロインで大丈夫か不安だよ」
「うわあああああああああん! みんな酷いですぅ!」
……なるほど、こういうオーバーな喚き方も漫画でよく見るな。フェンリィは表情がコロコロ変わるし顔芸とかさせたら面白そうだ。ゆくゆくはスタンプ化してもらって……なんて妄想もはかどるぞ。
***
フェンリィをなだめ、ここからはルーナとメメも交えて漫画について考えてみた。
「なるほどね、この小説が漫画になるから自分も漫画になりたいって思ったわけね」
ルーナはフェンリィが読んでいた本に目を向けて言う。
「はい! そしたらルーナの可愛さがみなさんにも分かってもらえますよ!」
「かわっ……、別に私はそんなに胸も大きくないし……背も小っちゃいし……」
ルーナは手にした本で自分の胸を隠してしまった。
しょんぼりするルーナに、フェンリィは真剣な表情で、
「大丈夫です。ロリっ子にも需要がありますよ」
「アンタぶちのめされたいの?」
ルーナは自分のツインテールを両手で掴むと、鞭のようにぶんぶん振り回してフェンリィに攻撃した。
……なるほど、こういうじゃれ合いも和みそうだ。
「ふんっ、いいもん! 私の方がフェンリィより戦闘シーンは映えそうだもん!」
「わ、私だって敵をミンチにしてますよ!」
「私は大鎌振り回してジャキンジャキン!ってやったりズババババーン!ってやったりできるし!」
なんとなくイメージは伝わった。
……なるほど、戦闘シーンを漫画で見ると凄そうだ。
二人とも戦闘前と戦闘中のギャップもあるし、見開きでとどめを刺すシーンがあったら迫力満点だろう。
妄想を膨らませて楽しそうな雰囲気だったが、ふとルーナが呟く。
「でも漫画にするのって大変よね」
手にした本をペラペラめくる。
「この小説なんて日本語が支離滅裂だしたまにキャラの名前とか言葉の使い方間違えてるし、誤字脱字はあるし描写不十分で意味不明な箇所あるし、なんか設定もふわってしてるし、それを漫画家さんに読んでもらって漫画にしてもらうって超大変じゃない?」
「「確かに!」」
俺もフェンリィも全力で同意した。
漫画家様、編集者様には感謝しかない。
「ま、それでもこうして妄想するだけでも夢があるわよね。メメもそう思わなぃ……ってどうしたの!?」
「ぐすんっ、……うぅ…………」
さっきから全然喋ってないなと思ったらメメが涙目になっていた。チャームポイントであるパッチリしたお目目を潤ませてしくしくしている。
「メメ、フェンリィに何かされたのか?」
「してませんよ! メメちゃん、どうして泣いてるんですか?」
「……ぅぇぇぇん」
両手で顔を隠してしまった。
よく分からないがルーナとフェンリィが全力で慰める。
「大丈夫よ、メメは凄い魔法たくさん使えるじゃん。……それに、む、胸もあるし……どこか痛いの?」
「メメちゃんはすっごい美少女のエルフさんですよ! 料理できるしお淑やかだし人気出るに決まってます!」
俺から見ても二人のセリフにお世辞は無い。
メメもポテンシャルは十分だと思うが一向に顔が晴れず、辛うじて小さな口をもごもごと動かした。
「うぅ……だって、メメ出てくるの遅いから……」
「「「ん?」」」
「メメの出番まで続いてるかなぁ……?」
全員に衝撃が走った。
特に隣ではルーナもナーバスになってしまった。
「そうじゃん……! 私が登場するの二番目だわ。え、私の出番あるよね?」
「……わからないよ。メメたちは最終回の背景にちょろっと映る通行人役かもしれない」
「そんなのやだ!!!!!」
ルーナとメメが抱き合って慰め合う。
……なるほど、確かに出版業界は続刊を出すのが難しいと聞く。
順調に単行本になったとしても初登場は数巻先になるだろう。
「フェンリィ、順番変わって!」
「リィちゃん、改変しようよ!」
「だだだだだ、ダメに決まってるじゃないですか! 何言ってるんですか二人とも!」
二人はフェンリィに詰め寄るとぐわんぐわん肩を揺すった。
「いいから私に譲りなさいよ!」
「やっぱり最初はエルフを登場させてファンタジー作品って知ってもらう方がいいと思うな!」
「絶対ダメですってばぁ!」
三者一歩も譲らぬ闘い。
髪の毛を引っ張り合う大乱闘に発展したあげく、全員涙目で俺を見てきた。
「えと、じゃんけんで決めたら?」
青空の下に掛け声が響き、すぐに決着。
結局順番に変動はなかった。
「……いい? フェンリィ、アンタにかかってるわよ。アンタがヘマしたら終わりだから」
「それはルーちゃんもだからね。二人ともメメも出られるように頑張ってね」
「なんだか凄く責任重大です……。でもでも! 私だってたくさんイチャラブしたいので頑張ります!」
三人ともなんとか納得してこの形に収まった。パッケージを飾るヒロインは重要に違いないが、よく考えたら一番重要なのは俺かもしれない。
……頑張ろう。
***
そんなこんなでヒートアップしているといつの間にか夕方になっていた。
「どうしてこの話になったんでしたっけ?」
「アンタが漫画になりたいとか言い出したんでしょ」
「妄想話なのによくわからない争いしてたね」
俺もなんだか疲れたがこんな日も悪くない。
一瞬の沈黙が訪れると、見計らったように三人のお腹が可愛くなった。
「そろそろご飯の時間だな。今日はパーティーするって聞いたぞ」
俺がそう言うと、三人とも恥ずかしそうに頬を染めてから今日一番の笑顔を見せた。
やっぱり、俺はこの三人の笑ってる顔を一番見たいと思う。その場面を思い浮かべて、俺も笑みがこぼれてしまった。
四人で城に戻ろうとすると、この国の記者が慌てた様子で走って来た。
「はぁ……はぁ……。みなさん、探しましたよぉ」
「俺たちをですか?」
「はい、この国の英雄であるみなさんに朗報です!」
もったいぶるように言葉を区切り、
「みなさんの活躍を漫画にしませんか?」
そんな現実離れした提案に、俺たちは顔を見合わせる。
ドッキリかと思った。夢かと思った。
そしてお互いにほっぺをつねり、喜びを爆発させた。
「やりましたああああああ!」
「バンザーイ! バンザーイ!」
「メメも! メメも出たい!」
三人ともぴょんぴょん跳ねて、奇声にも似た歓喜の声を張り上げる。さっきまで不安がっていたルーナとメメもそんなこと忘れて大騒ぎ。
俺も少し遅れて実感がわき、次第に混ざって年甲斐もなくはしゃいだ。
「あのー、お喜びの所申し訳ないのですが、一言頂いてもよろしいでしょうか」
記者が手でマイクを作って俺たちに向けてくる。
俺たちは取り決めたわけでもなく、自然と口にした。
ありったけの感謝を。
そして期待に胸を高鳴らせながら、
「「「「応援よろしくお願いします!」」」」
その声は城中に響き渡った。
一人でも多くの人に面白いと思ってもらいたい。
読んでる最中だけでも嫌なことを忘れて良い方向へと≪反転≫してもらいたい。
そのために、これからも一層努力しよう。
フェンリィ、ルーナ、メメ、それからリクト。
地平線に沈む夕日を眺める瞳には、きっとそんな想いが燃えていた。
ということで、本当にコミカライズされます!
これもひとえに皆様のおかげです。本当に感謝感謝です!
キャラクターたちがどんな容姿をしているのか、戦闘シーンは、笑顔は、泣き顔は、会話の掛け合いは──今から待ち遠しいです。
応援よろしくお願いします!





