【04】生活サバイバル
~ここまでのあらすじ~
いくらかのお金が入った銀行預金は与えられていたものの、このままでは飢え死に必須である。
就労するために必要な行政支援を受けるべく、命がけのサバイバルを始めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『』は手紙や念話の表現に使おうかと思います。
(人の心や思いや意思が表現された文章や、電話で通話している相手の話し声、念話で送られてきた思念等。)
{}は“ナレーション”や作者の自分ツッコミなどです。
[]は“文字表記”の表現です。
(看板やお知らせ、新聞などの事務的な文章等。)
“”は名称などの表現にしようかと。
「申し訳ありませんが、こちらではそのような相談は受け付けることができないんです。」と市職員に言われ、マサシは少々イラっとしながら訪ねた。「え?じゃあどうすればよいんですか?」
市職員は辛抱強く「法律上、先ず、社会福祉事務所の方でご相談いただくことになっているんです。」と言う。
市役所でいろいろ教えてもらってから社会福祉協議会の事務所に行き、担当の福祉職員に談話コーナー(仕切り付)へ案内され、いろいろ話をすることになった。
ケースワーカーに今までの経緯を話すと、引き攣った顔をしながら「先ずは住まいですね」と言った。
就労支援であれ生活支援であれ決まった住所がある前提なので、基本的にホームレスはここのサービスを利用できない。
さらに、ケースワーカーが代わりに親に連絡とってくれたが、親元に戻る話は「拒否」された。
生活保護を受けるにしても、就労する気のある人でないと受給できないとのことなので、不安になる。
「働くかぁ、できるならそうしたいけれど、三日で挫折して引きこもったからなぁ、正直自信がないっす」
と言うと、ケースワーカーは俺の目をまっすぐに見ながらこう言った。
「いえ、佐藤さんの自信は関係ないんです。私が聞きたいのは、佐藤さんに就職して自分の力で生活して行きたいという“意思”があるかどうかなんです。大体、最初から自信のある人がここに来るわけないですから。」
まあそうだわな、自信あるならとっくに就職して働いて給料もらって自活してるわな。
俺は覚悟を決めてケースワーカーの目を見返しながら言った。
「働いて、自活したい、です。」
すると、ケースワーカーの佐々木さん(男性)はにっこり微笑みながら、さっきから膝の上に置いてもぞもぞやっていた書類の束を”ドンっ!”と相談ブースの机の上に出してきた。
「その言葉が聞きたかったんですよ!では、これから就職できるように頑張りましょう!それにはですね、この支援サービス利用契約書と誓約書に署名捺印していただくことになります。」
ということで各書類の概要の説明と、支援サービスを受ける上での法律上の規定や義務と責任の説明があり、この義務と責任関連が誓約書になる。
反社会組織の構成員ではないことや、働きたくないからニートやホームレスをやっていたわけではないことを証明するための誓約になり、この内容が事実と反していた場合は詐欺罪として処罰される。制度の悪用を防ぐためのものだ。
勿論、俺には制度の悪用をする意思もメリットもないのでサクッと署名するが、印章を持っていないので印鑑は免除された。
利用契約手続きが終わると、引きこもりになった原因を調べるために、精神科で診てもらいに行くこと、発達障害や精神障害があった場合は診断書を書いてもらって、生涯福祉支援を受けられるようにすることなどを進められた。診断書に3万て…
さらに、食費が足りない場合は『緊急食糧支援』で無償で食べ物を提供されることなどの説明がなされた後、今日はここまでにして、明日か明後日には連絡を入れるということで連絡先の確認をしてから別れた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すっかり夕暮れになっていたが、ネカフェに更け込むには早い時間だったので駅前の東友のショッピングモールで時間をつぶす。
夕飯は地下の食品売り場で弁当とペットボトルのお茶を購入して階段の踊り場に設置してあるベンチで食べる。
ベンチ一つ、太ったおっさんと大きな荷物二つと弁当に占拠されている。
5~6歳くらいの女の子を連れた母子が俺の前を通ったとき、女の子が俺を指さしながら「ママ~、あの人ベンチを独り占めしてるよ~」と言い、えらい形相になった母親に「しーっ!」と言われつつ口を塞がれながら足早に階下に引き摺って行かれていた。
わりかしメンタルダメージ高いな、これ。
翌日、単身者向け市営住宅の空室を下見に行くことになり、家賃が月3万8千の辺鄙なところにある2階建てのアパートみたいな2DKのところに決めた。
決め手になったのは「3万8千なら生活保護の家賃扶助ギリギリいっぱいの金額だから、自己負担なくて済みますね。」というケースワーカーの一言だった。市住宅課の職員さんはものすごく微妙な苦笑いをしていた。
自分の住まいを持つというのも結構大変なんだな、いい歳こいてそんなことも知らなかったとは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後、精神病院で何回かの検査を受けた後、脳発達障害と適応障害があるとして障害手帳を受給できることになり、診断書を発行してもらってから障害年金の受給手続きなどをおこなった。
自分の身の回りの世話はある程度はできるものの、家事をやったことがないこともあり、障害等級は2級となった。
それなりの金額は出るらしいが正直微妙な金額なので、どのみち、少しでも働いて収入を得ないときつい金額だ。
今まで、自分に障害があるとも思ってなかったし、引きこもりになった原因になった精神障害の治療もしたことはなかったので、「就労の意志はあっても病気のために今すぐの就労は難しい」ということで障がい者就労支援センターの利用をすすめられた。
障害福祉サービス相談支援事業所を紹介されたのは良いが、またしても利用契約手続きを行うことになる、これが地味に疲れる。
それから、(障害福祉サービスの)相談員さんの紹介で障害者就労支援事業所を何件か見学し、時給250円で工賃がもらえる自宅に一番近い所を利用することに決めた。さらに、通所用に自転車も購入、郵貯の残額がヤバイ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこの職業訓練の内容は、朝9時から午後4時までビニール袋に粗品のボールペンやチラシを封入する内職だ。
午後12時から午後1時までの昼の食事休憩以外にも適度に休みながら作業をするように言われたが、いつの間にか夢中というかムキになって作業に没頭していて、職員さんに「お昼休憩ですよ」と言われるまで気が付かなかったりする。
そんなこんな忙しい日々を送っているうちに、特別定額給付金が尽きたので、社協のケースワーカーの指示に従って生活保護の手続きをする。
障害年金が出るまでは満額、年金が出てからは年金の金額を差し引いた額の生活保護を受給することになり、そちらの受給手続きと誓約書も作成することになった。季節はすっかり冬になっていた。
※ここで表現されている役所の対応や福祉サービスの対応、手続き、障害手帳や障害年金関連の情報はあくまでも作者が理解している範囲内のもので、正確さを保証できる内容ではありません。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
お気づきになった点や誤字脱字などいろいろと教えていただけるとありがたいです。
頑張らずに頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。