048.来客
メンタルケア、という名の甘やかされ待遇を受けて、翌日の夕方に俺とアリッサは学園の寮に戻ってきた。いや、意外と平気だったんだよなあ。アリッサのことは頼りにしてるし、わざわざ近衛隊宿舎の側にまで行って兄上とか出てきやすいように仕掛けたしさ。
「……ナルハ様」
「あら」
自室の前まで来たところで、声をかけられた。こんなところにいるのは学園関係者に限るわけで、だから特に警戒してはいなかったんだけど。
「……あ、あの……」
ランディアが、しかもめっちゃ凹んだ感じで俺の部屋の前にいるのはとっても違和感バリバリなんである。一緒にくっついてきてるポルカは、ほんの少しそのランディアを気遣う表情。
「ど、どうなさいましたの? ランディア様」
「あの……どうやら母が、愚かしいことを考えていたようで……」
「え」
漏れてきた声も、消え入りそうなという表現がピッタリした感じの小さい声。というか、これって、もしかしてあのエセ貴族共絡みか。さすがに廊下で続ける話じゃないな、と考えて俺は、ランディアの手を取った。
「ちょ、ちょっと中へおいでませ。アリッサ、お茶の準備を。ポルカ様、同席をお願いします」
「はっ」
「はーい」
ひとまず、部屋の中で落ち着いて話を聞く必要はありそうだ。
で、アリッサに淹れてもらったお茶を飲んでもらい、一息ついてランディアが話してくれたのは……やっぱりエセ貴族絡みの話であった。
「ナルハ様が襲われた、というお話は伺っております……近衛隊から使いの方がおいでになりまして、その旨をお話しいただきました」
「……え、ええ。アリッサがいてくださいましたし、すぐに兄上やダニエル様がおいでくださいましたので」
「それはよかった、です……」
あーうん、だから俺は今平気な顔をしてここにいるわけなんだけど。何でランディアのほうが顔色悪いのさ、と考えて、近衛隊から使いが来たという点に気がついた。
あのエセ貴族ども、カロンド本家からもだけどシャナキュラスからも指示受けてんだよな。つまり、そういうことか?
「それで、ランディア様のお母様がそのことと、関係が」
「愚か者共に金を渡し、ナルハ様を襲わせたのが母だったようなのです。ちょうど別邸に滞在しておりましたので、身柄を近衛隊に拘束されました。使いの方は、それを私に伝えに来てくださったんです」
なるほど、やっぱりそうか。
ということは多分、フィーデルのところにも行ってるんだろうな。カロンドを名乗ってる以上、あいつにとっては実家の話だし。
まあ一応、ランディアにもざっと伝えておくか。
「わたくしどもは、彼らに指示をしたのはカロンド本家と伺っております。ただ、シャナキュラスの側からも指示を受けていたとも」
「まあ!」
話を聞いて、ランディアが目を丸くした。え、やっぱりショックなんだよなあと思ったのだけれど。
「お母様……よりにもよって、カロンド本家と同じことを考えておられたなんて!」
あ、怒るのそっちかよ。
まあ、カロンド本家……というかあのアマンダさんの姉妹だっけ、の正夫人と自分とこの母親が同じこと考えてたのがショック、なのは何となく分かる。同類かよお前らって感じで。
だけど、ランディアにとっては自分の母親がそういう人だというのを今更理解できたのか、俺に向かって深々と頭を下げてきた。
「ほんっとうに、申し訳ありませんでした! わた、わたくしはっ、きちんとダニエル様に振り向いていただいて、ほしかっただけなのに!」
「……どうぞ」
ぽたぽたとテーブルの上に涙がこぼれてきたところで、ポルカがするりとハンカチを手渡す。
ランディアは悪くねーよ。親の欲目に巻き込まれただけじゃねえか、くそっ。
「お母様には、わたくしの気持ちなんてちっとも通じていなかったのですね! 悲しいですっ……」
何というかこの子、めっちゃかわいいよなあ。いや、ダニエルは渡さないけどさ。
けれど、母親に気持ちが通じてなくて結果あんなことになって、ものすごく凹んでいるランディアはさすがにほっとけなかったから。
「わたしはなんともなかったのですし、ランディア様があのような愚かしいことをお考えにならない方だというのはよく存じ上げております。大丈夫、ですよ」
そっと回り込んで、肩を抱いた。背中をぽんぽん叩いてやって、少しは落ち着いてくれるといいんだけど。
……ところでポルカ。あんた何でよし、とか言う感じで拳握ってんだ?




