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「・・・悪い、遅れた。」
「・・・遅刻の理由を三十文字以内で述べなさい。」
・・・月夜はお怒りだった。
それも・・・相当に・・・。
こいつは怒ると、時折こう、問題文形式で聞いてくる時がある。
「・・・・妹を中学校に送っていた。あと人助け。」
「・・・減点ね。8割は埋めなさい。」
んな無茶な・・・。
「・・・妹さん風でも引いたの?
それとも、ストーカーかなにか・・・?」
・・さて・・・・
どう答えたものか・・・。
月夜はひどく嘘を嫌う。
まるでそれで何かを・・・
・・・・深入りしてはいけない・・・それだけは・・・。
あの日の光景がちらつく。
・・・いけない・・・よそう。
ここは、
「いや、ピンピンしてる。
そういやあ、あいつが最後に風邪ひいたのいつだっけ?
ストーカー?
なにそれ?」
ブチッ。
い、いかん・・・どうしたものか・・・?
「・・・ねえ、人助けって?」
「あ、ああ。
神社でな。
ハチに追われてる着物の女性がいてな・・・。」
「神社?・・・・もしかして、咲姫神社・・・?」
「ああ、なんか混乱していたから、
美由紀先輩のお姉さんに預けてきた。」
「そう・・・ん?
・・・・美由紀先輩・・・・?
・・・・・人助けのことは・・・・まあいいわ・・・。
でも・・・・私、聞いていないんだけど・・・いつあの人と会ったの・・・?」
本当にいいのか・・・・すごい形相だが・・・・。
・・・原因は美由紀先輩を知っていることの方のせいか・・・?
「あ、ああ、美由紀先輩のこと・・・?
それなら・・・昨日、雪と一緒に神社に行ったときに・・・ってどうした?」
「な、なんでもないわ。」
いや、おもいっきし、顔色が悪いだろ。
月夜視点
ま、まさか・・・あの女・・・。
しっかりするのよ、私。
この朴念仁がそんな展開になるはずないわ・・・。
「で、何しに行ってきたの?」
「あ、ああ・・・。
雪が行きたいって・・・。」
ブチッ。
こ、これは確定かしら・・・さて、あの女どうしてくれようかしら・・・。
私の仁に・・・。
「ああ、たぶんだがな、付き添いだ付き添い。」
えっ!?
どういうこと・・・。
あの女はだって・・・。
「あいつに好きな相手ができたんだってよ。」
意味がわからないわ・・・だってそれはあなたのことじゃあ・・・・。
・・・・まさか・・・。
「・・・・仁のことじゃないの・・・?」
「はは、
なんで俺なんか・・・。」
この様子・・・仁じゃない・・・でも・・・。
いや、そんなはずはないわ・・・何かを企んで・・・。
そうじゃない、そうじゃないのよ。
それは後で・・・・・。
・・・ホント・・・こいつのそばにいるとよく我を失うわ・・・。
今は、咲良美由紀のこと・・・。
そう、それよ・・・。
「で?
なんで咲良美由紀と知り合いになったのかしら?」
・・・・正直、気が気じゃないわ。
あの女は本当に警戒しなければならない相手だもの・・・。
「あ、ああ、まあそう怒るなって・・・。」
ギロッ。
「・・・えっとだな・・・。
・・・昨日、倒れてな・・・。」
私は立ち上がる。
「だ、大丈夫だったの!?」
ざわっ。
あっ。
・・・どうしよう・・・?
「わりいな、ちと怒らせちってよ。」
仁・・・・。
「なんだまたかよ。」
・・・それにしても・・・またとは何でしょうね・・・またとは・・・。
・・・・あのアホ・・・次はどうしてくれようかしら・・・。
「まあ、気にすんな。
今日は調子いいからよ・・・気を使わなくていいからな。」
「そ、そう。
ならいいけど・・・・・。
べっ、別に心配なんてしていないんだから!
さっきのは・・・たまたまよ・・・・たまたま・・・。」
・・・だって仁に何かあったら・・・
・・・看病・・・・・・ゴクリッ。
・・・・・それも・・・・・・・ありかも・・・。
「それにしても変だったんだよな・・・。」
「変?」
「ああ、理由がわからん。
倒れた理由が・・・・。
体調管理はしっかりしているんだが・・・。
・・・そういえば、看病してくれた先輩も理由を教えてはくれなかった・・・。」
何かあるのかしら・・・。
・・・・あの家は確か・・・。
うん?
・・・ちょっと待って・・・看病してくれた先輩・・・。
・・・・・そんなおいしいシチュレーションで仁と!?
あの女どんな運してるのよ!
・・・まさか、神様に仕えてるからとか?
・・・流石にずる過ぎないかしら・・・。
・・・・・私なんて・・・・私なんて・・・・。
「ああ、先輩が巫女姿と合いあまって神々しくてな・・・。」
・・・ちょっと待って・・・仁が褒めていなかった・・・?
神々しいとか・・・。
「ちょっと見惚れて・・・ってどうした月夜?」
「なんでもないわよ。倉敷くん。」
仁視点
まずい・・・。遂に、他人行儀に・・・。
目が潤んでもいる・・・・相当感情が高ぶっているんだな・・・やばい・・・。
「わ、わかった。
今度、何かつくってきてやるから・・・。」
あいつの好物を・・・・前、怒らせたときはこれでいけた・・・。
月夜視点
待ちなさい、私・・・。
仁はただ見惚れただけ・・・ただ・・・。
でも仁の目が・・・・。
少し悲しくなんてなってないわ!・・・・なってないったらないのよ!
仁が咲良美由紀を褒めていたのなんて・・・・意識していたのなんて・・・。
私なんて・・・髪が綺麗・・・意外にいいやつだな・・・くらいしか・・・・。
あれ?
意外と・・・ある?
・・・・・・。
・・・でも・・・・
・・・でもずるいものはずるいのよ・・・・。
・・・私も褒めてほしい・・・・。
・・・私を見てほしい・・・。
・・・でも・・・どうすれば・・・・私じゃあ・・・・。
咲良美由紀になんて・・・・。
・・・あの人に勝っているのは・・・付き合いが長い・く・ら・い・・・・。
・・・私の方が仁のことを知ってる・・・・。
仁は見かけだけに左右されない・・・はず・・・だって春川雪が袖にされているんだもの・・・。
・・・もしかして・・・しっかりと内面を見ているの・・・?
・・・なら・・・なら、もっと仲良くなれば・・・・。
・・・・仁と一緒に居れる時間を増やせれば・・・・。
仁に・・・・私を見てもらうことも・・・・。
・・・その先も・・・・。
・・・なら、ちょうどいいじゃない。
何か作ってきてくれるって・・・そう、これをうまく使えば少しは・・・。
仁視点
「・・・本当?信じるわよ・・・。」
「ああ、いいよ。
もし、聞かなかったら、何でもしてやるよ。」
しゅ~っ。
あ、危なかった・・・こいつ意外に毒舌だからな・・・。
少しずつ心をえぐっていくあの痛み・・・思い出すだけでも・・・ブルブル。
まったく・・・あのアホを生け贄にしなければならないところだった・・・。
うん?・・・・・そっちの方が楽じゃねえか?
「約束ね!
う~ん、じゃあ・・・・パンナコッタにチョコブラウニー。」
「うん?」
足りなくないか?
こいつはかなりの甘党で昼にはお菓子以外食っているのは見たことがない。
「本当に・・・それだけでいいのか?」
こいつにしては少なすぎる・・・。
「あとは秘密・・・あとで何か頼むから。」
「・・・・おい、忘れなくても、もう1つお願いごと・・・ってのは、なしだからな・・・。」
ギクッ。
「まさか・・・なあ。
そんな子供っぽいことは・・・。」
・・・・・・。
「ああ、忘れていたわ。
シフォンとプリンに桜餅。」
そう口早に言い、
「ちょっと失礼するわ。」
と去っていく。
まったく・・・油断も隙も・・・。
まあ、いいか・・・。
それより・・・。
俺としては、本当は実は夢なんじゃないか?
なんて思っていたんだが・・・。
・・・・・月夜にもか・・・。
一番好きな相手 ??? 好感度100/100
一番嫌いな相手 倉敷 仁 好感度-5000/-100
これは・・・。
-5000・・・桁が違い過ぎるだろう・・・。
・・・今朝のが目安だが・・・殺したいなんてもんじゃないほど・・・・・。
嫌いな相手で合ってほしくはない・・・・俺としても流石にまだ死にたくない・・・。
・・・・・・が・・・断言はできん・・・。
さっきみたいにあいつが説教するのは、俺とあのアホくらいだ・・・。
やばい、やばすぎる・・・こんな身近に地雷が・・・。
あのアホは嫌いだって言っていたから・・・危うくないか・・・。
「・・・死亡フラグ。」
誰かがとんでもないこと呟きやがった!
少し距離を置こうか・・・。
安全のために・・・。
・・・だが・・・こいつなら・・・こいつの頭なら・・・・闇討ちなんかも・・・・。
こいつは近くに置いておいた方が安全か・・・・。
・・・・桁違いに心臓に悪いが・・・。
それからの月夜の機嫌は悪くはなかった。
警戒は怠らなかったが・・・。
あの後すぐに、昨日貸したタオルを返してくれて、
・・・ただ、なんか若干肌触りが新品に近く感じたが・・・。
・・・・・・まあ、気のせいだろう・・・。
きっといい洗剤を使ったとかだろう・・・。
・・・なあ、そうだよな・・・。
そして、あのアホがやってきたりと、
まあ、いつも通りだったはずだ。