6 春川 雪 編
春川 雪編 始め
朝起きると、不思議な感覚がした。
どこか変わったような、どこかずれているような・・・。
?
風でも引いたか・・・?
まあ、昨日、倒れたしな・・・そういうこともあるだろう。
さて、朝飯作って、弁当作るか・・・。
学食があるんだが、
むつみが、
お弁当の方がいい、こっちの方がおいしいし・・・うんたらかんたら。
長いから省略。
そう言ったことがあって、
それから、どうしてか作っている。
まったく、俺にも困ったものだ・・・。
今日は冷蔵庫に煮物を入れておいたな、
主菜はどうしようか、
等と考えつつ、
リビングに行くと、
むつみがテレビを眺めていた。
「珍しいな・・・うん?」
視界に妙なものが映っている。
好きな相手、
嫌いな相手、
好感度・・・。
うん?
一番好きな相手 ??? 好感度1000/100
一番嫌いな相手 倉敷 仁 好感度ー20/-100
「・・・・・・。」
なるほどなるほど・・・倉敷仁ってやつは可哀想なやつだな・・・あはははは・・・・。
俺の名前ってなんだっけ・・・?
「お兄ちゃん、おはよう。
朝ごはんは?」
「ん?
ああ、今日はお前が好きなフレンチトーストにしようと・・「本当!?」」
「お兄ちゃん大好き!」
と抱き着いてくる。
「準備するから大人しく学校行く準備でもして待ってろよ。」
「うん!」
ああ、そういえば・・・今週は・・・。
「悪い、忘れてた・・・。
今日、放課後、部活だったよな!
部活の時につまめるものもいるか?」
今週は、週明け1日目も部活があるんだった・・・。
「うん!
いる!
う~ん・・・今日は甘いのがいい!」
「わかったよ。ほら、さっさと準備して来い。」
「うん!」
むつみが部屋を出ていく。
「・・・・・・・・。」
・・・なあ、さっきので、俺が嫌いってことはあいつ相当な演技派だろう・・・・。
というか女優なんて目じゃねえだろ!?
さすがの俺も恐怖を覚える。
そんな奴が妹なんていやすぎる・・・。
今この時をもって、俺の警戒しなければならない人間のランキングを更新しちまう・・・。
・・・・こりゃあ、絶対フェイクだな・・・。
確信をもってそう思える。
表示が変わる。
「おっ。
好きな相手と嫌いな相手が入れ変わっている・・・。
どういうことだ・・・そもそも、この表示はいったい・・・。
・・・そういえば・・・あのアホが言っていたゲームの表示に似ている気がするが・・・。
それに・・・今の変化・・・。
ってことは・・・すべて偽・・・なのか・・・それとも・・・。」
「お兄ちゃん?」
ああ・・・そうだったな・・・。
「お、悪い悪い。
すぐ作るからな。」
「???」
今は朝、そんなことを考えている時間はない。
そんなことは学校ででも考えよう。
なんとなく考えてもわからないような気はするが・・・。
フレンチトーストの準備、
それから、付け合わせのサラダ、昨日の残りのスープを温め、
昨日の夜、煮込んでおいた2種類の煮物を詰め、
それからアスパラをベーコンで巻き、焼く。
また、この時、冷凍していたほうれん草のお浸しを解凍するのは忘れない。
今日、フレンチトーストが朝だから・・・サンドイッチが楽か?
冷蔵庫を開け、生クリームを取り出し、泡だて器でよくかき混ぜる。
そしてフルーツを食べやすいサイズに切り、
パン、生クリーム、フルーツ、生クリーム、パンの順にはさむ。
ただ、少し足りないかもしれないと思い、BLTの準備もする。
まあ、余ったら、友達にでもやるだろう・・・それかあさひか・・・。
あいつ、ちゃんと食べてるんだろうな・・・。
新しいフライパンを出し、
パンを表面が軽く焼ける程度に焼き、
そのあとに、フレンチトーストをの下準備をした食パンをフライパンの上に乗せる。
熱が取れたら、ベーコン、レタス、スライストマトを挿めばいいだろう。
近くに保冷用の容器を用意して・・・ああ、そうだデザートだ。
カットしたフルーツの余ったものを固めちまおう。
ゼラチンと砂糖があったな・・・。
そんなこんなで朝の食事が始まった。
「むつみ、今日も朝練あるんだろう。」
「うん、今日はね・・・・。」
むつみがうつむいたんだが、
すぐに何か思いついたような反応をした後、
顔を上げ、
「い、いつもどおりだよ。」
と棒読みで言った。
なあ・・・流行っているのか・・・それ?
妹を送り出した後、簡単に家の掃除を行い、
着替えが終わり、少し時間があったのでテレビを見る。
『先日の通り魔事件でしたが、
犯人が逮捕されました。
該者の名前は・・・・。』
へえ・・・やっぱり・・・。
テレビの映像でも見れる・ん・だ・な・・・・好感度ー100・・・・。
・・・被害者の名前が嫌いなやつのところに・・・・・。
・・・-100で殺されてる・・・・・これは・・・・。
・・・これは・・・。
・・・もし・・・・
・・・もし、俺がこの事件の被害者のように・・・身近なやつに思われているとしたら・・・。
日常生活すら・・・・。
・・・やばい能力を手に入れたのかもしれん・・・・。
今更ながら、そんなことを感じるのだった。
家の戸締りを確認し、
家を出るとそこには・・・
むつみ?
「おい、どうした?
朝練は?」
「今日は休みだった。」
「・・・・・・・ブチッ。」
拳骨!
「・・・・おい、俺はな。部活の予定表ってもんをな。
あさひからもらってんだよ・・・。」
「っ。」
「おい、なに今更やばいみたいな顔してんだよ。
あ?」
「だ、だって・・・。」
「どうした?何か言いたいことでもあんのか?あん?」
むつみの目に若干だが涙が溜まっていく。
・・・やばい・・・やりすぎた・・・。
・・・もしかしたら何か理由があって戻ってきたのかも・・・・。
「・・・昨日・・・・倒れたって・・・。」
・・・・・・。
ああ、そういうことか・・・。
・・・こいつはそういうやつだったな・・・。
頭に手をのせる。
むつみは怖がった反応を見せたが、
頭を撫でる。
こりゃあ俺が悪いな・・・。
「ありがとうな・・・・むつみ・・・。
今日、早起きしたのもそれでか・・・?」
「・・・う、うん。」
「で、俺を待ち構えていたのは最初から言ったら、怒るからか・・・?」
「・・・うん。」
「・・・わかった・・・。」
少し乱暴に頭を撫でる。
「・・・あさひには俺からも謝ってやる。
あいつには最近会わないからな・・・。
ちょうどいい。」
スマホを開く。
・・・うん、まあ何とかなる時間だ。
「ほれ、何ボケっとしてんだよ・・・。
ほら、行くぞ。
さっさと行かねえと遅刻しちまう、ほら。」
俺は手を差し出す。
むつみの表情が笑顔に変わる。
「うん!
えへへ・・・一緒に登校♪
一緒に登校♪
まるで恋人みたい♪」
・・・さっきのは聞こえなかったことにしよう・・・・。
・・・でもまあ・・・よかったよ・・・。
本気で怒ることにならなくて・・・・
・・・・それにしてもむつみには悪いことをしたな・・・。
あとでなんかしてやるか・・・・なにがいいか・・・・。
・・・ああそうだ!
買い物にでも付き合ってやるか!
それがいいな、一番喜ぶからな・・・。
一瞬、月夜の顔がちらつく。
確かに学校には遅れないんだが・・・日直には遅れちまうんだよな・・・。
あはははは・・・まあ、何とかなるだろう・・・・。
あとで・・・月夜にお菓子でも作ってやれば・・・・なるよな・・・。
そんなことも気づかずに、むつみは鼻歌なんか歌っている。
むつみが笑顔・・・。
まあ、こんな朝もありかな・・・?
なんて、この時の俺は考えていた。
うん・・・でも・・・・まさか、朝の段階でBLTがなくなるとは予想外だったな・・・。